11 素材集めと薬草畑
本日一話目更新です。
ロビンから素材集めのメールをもらって二日。
ゲーム内の季節が夏になり、青草が生え、一面緑の絨毯が敷き詰められたガイルド山岳の峡谷をアスカは縫うように飛行していた。
目的はここに生息するロックリザードのドロップ素材、岩蜥蜴の眼だ。
ロビンから頼まれた素材にはアルミや銅の他このようなモンスターからのドロップ品が多数混じっており、アスカはその獲得のため奔走しているのだ。
『ロックリザード捕捉。前方三〇〇m、数三』
「あそこかっ! うりゃりゃりゃりゃ!」
山岳の間を飛行しながら、合間合間に見えるロックリザードをエルジアエで撃破して行く、通り魔的戦法。
物理攻撃にはめっぽう強いロックリザードだが、魔法攻撃は大の苦手でありTierⅢレイライフル・エルジアエは効果抜群。
すれ違いざまの対地射撃で難なく撃破して行く。
<魔石・小×二、岩蜥蜴の革を入手しました>
「残念、はずれ!……今ので何匹目だっけ?」
『今ので三一匹目です』
「もうそんなになるんだ。それでまだ三つでしょう? 必要な五個には遠いなぁ……」
『受注したロックリザード三〇匹討伐クエストを達成しています。一度報告に戻られては?』
「そうだね。ちょっと疲れてきたし、もどろっか」
アスカはふぅ、と息を吐くと構えていたエルジアエを下ろし、フライトユニットのエンジンを始動。
姿勢を攻撃から巡行にし、速度を付け、そこからピッチアップによる180度ループ、続けて180度ロールを行った。
空中で縦のUターンを行うインメルマンターンと呼ばれる、進行方向を変えるとともに高度を稼ぐ機動飛行だ。
渓谷の上空へと抜け、アスカが向けた進路の先は山岳の麓、ラクト村。
「三一匹で三つってことは、ドロップ率一〇%くらいかな?」
『【強運】の効果もありますので、もうちょっと低いかと』
「あ、それもあったね! 目立たないから忘れてた。ロビンさんから言われてる希少素材は後なんだっけ?」
『岩蜥蜴の眼の他には、カラド鉱石四個、ノイドセナ鉱石五個です』
「むぅ、結構採掘したけど、厄介なのが残ってるね。どうやって集めたものか……」
『これらの希少鉱石はまだ需要も少ないです。そのうち露店で出回るかもしれません』
アイビスとそんな話をしているうちにラクト村へ到着。
その足でランナー協会へ向かい、クエスト達成の報告を入れる。
クエストの受注はクエストボードで選択するだけだが、報告はカウンターで行う。
規模の小さい支点扱いのこのラクト村のランナー協会では達成報告用の窓口は三つ。
それぞれできれいなお姉さんが対応してくれた。
今回のロックリザード三〇匹の討伐クエストの報酬はジルとエグゾアーマー開発経験値、そしていくつかの素材だ。
「やった! 素材報酬の中に岩蜥蜴の眼がある!」
『おめでとうございます。これであと1個ですね』
このクエスト達成時の素材報酬はクエストごとに設定された報酬の中から複数がランダムで選ばれる。
その為、今回のようにレア素材が混じることもあれば、全てゴミ素材という事もある。
報酬自体はクエスト画面から確認できるので、あとは運と試行回数の勝負。
実はここでも【強運】が良い仕事をしているのだが、他のスキルに比べて効果が分かりにくい【強運】のおかげだとアスカが気が付く事はなかった。
【強運】は草葉の陰で泣いているに違いない。
足取りも軽くランナー協会から出てきたアスカが向かったのはラクト村で農業を営むNPCのカイの畑だ。
カイの畑は村はずれの山の斜面に沿って作られた農業地区にある。
その地区では野菜などの他、果物もたくさん栽培されていて、山の斜面を見事な緑で覆っていた。
見事な景観はスイスのラヴォー地区のようであり、海外旅行をしているかのような気分にさせてくれる。
農業地区はかなりの面積であり、数回来ただけでは目的の場所が分からない。
アスカはいつものようにアイビスにナビアイコンを表示してもらい、目的のカイの畑までたどり着く。
「カイさーん、こんにちはー」
「……あぁ」
カイは丁度畑仕事をしていたようで、人の背丈ほどはあろうかと言う植物に囲まれていた。
帰って来た返事と反応は前回同様そっけないが、アスカはそれを気にせず話を続けた。
「カイさん、私、この辺りに畑を持とうと思うんですけど、何処かいい場所知りませんか?」
「……何?」
『畑』という単語を聞いた瞬間、カイが明確に反応した。
「……なぜ畑を?」
「薬草畑を作りたくって」
「……薬草?」
「正確には魔力草です。リーネさんから魔力草は涼しい場所を好むって聞いたので」
「リーネから? そうか、なるほど……」
そう言ってカイは腕を組み何かしら考え込む。
「……畑はすぐに買うのか?」
「いえ、リーネさんに薬草の採種をしてもらった後です。今日はどんな場所が良いのか下見を」
「そうか。なら下見はしなくていいぞ。俺が良い場所を確保しておく。予算は?」
「えっと、そういうのもまだ全然……」
「買うなら中規模の三〇〇〇ジルか大規模の五〇〇〇ジルだ。小規模は小さすぎて花畑にしかならん」
「その金額なら、大規模が買えそうです」
「分かった。明日以降この村の協会で畑を買う話をしてくれ。話を通しておこう。で、用事はそれだけか?」
「え? あ、はい」
「なら、もう行ってくれ。こう見えて忙しいんでな」
「あの、ありがとうございます」
「礼はいい。君には世話になった」
お辞儀をしてお礼をするアスカをカイは手をかざして止めた。
その顔は僅かに緩み、微笑んでいるように見える。
そのまま背を向け畑仕事に戻ったカイ。
アスカはもう一度、今度は無言で頭を下げ、その場を後にした。
「もっと不愛想な人かと思ってたんだけど、意外と親切なんだね」
住人クエストを達成したため友好度が上昇していると言うのもあるが、それでも畑の場所を確保してくれるというのは破格だ。
ジーナ村のケビンが言っていた『カイさんはああ見えて意外と表情豊か』と言うのもあながち間違いではないのだろう。
その後はラクト村でトマトやナスなどの夏野菜がたっぷり入った野菜パスタを食べ、再度ロックリザード討伐のクエストを受注しての素材集め。
そこでようやく五つ目の岩蜥蜴の眼を確保したのだった。
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翌日の午前中。
「アイビス、みてみて! 魔力草育ったよ!」
『おめでとうございます、アスカ』
「最初一株だけだったのが、今はこんなにもっさり生い茂って……泣けてきちゃうよ」
今だ初期状態のホームの中で、アスカは一人感傷に浸っていた。
彼女の目の前にあるのはこれでもかと言うほどモリモリと生い茂り、生際はおろか土台となる土すらも見えないほどに育った一〇株の魔力草。
品質はすべてAであり、売却すればそれだけでひと財産。
殺してでも奪い取られかねない貴重な品だ。
「とりあえず今は回収して、アイテムBOXで保管しておかないとね。リコリスは……もう少しかな」
魔力草を回収しながら、横に置いてある植木鉢に目を移す。
そこには先端に小さなつぼみをもつ三本の茎。
三日前に植えたリコリスの球根だが、季節に関係なくスクスクと育っていた。
「こっちも楽しみだね」とはしゃぐアスカは採取した魔力草をアイテムBOXに仕舞うと、ホームのドアからミッドガルへ向け転移する。
ミッドガルに移動したアスカはいつものように東門から東のガイルド山岳、ラクト村への空中散歩を楽しみ、そこから日課となる魔力草の採取。
その後はラクト村のポータルからホームへ移動し、採取した魔力草をアイテムBOXへ仕舞う。
いつもならばここで午前中のプレイは終了しているのだが、今日はここから予定が入っている。
ホームドアから行先を選択し、視界が明転して行く。
次の瞬間にはもはや見慣れた三角屋根のレンガや石作りの住居が立ち並ぶジーナ村の中央広場だ。
「あ、来た来た。おーい、アスカー!」
転移してきたアスカに声をかけたのは、採取してきた魔力草の卸先、フラン。
その横にはがっちりとした体格を持つ男性の姿があった。
「フラン、お待たせ! あ、アルバも来たんだ」
「おう。なんかフランから良い素材集め場所があるって聞いてな」
「良いかどうかは分からないけど、たくさん集まるのは本当だよ」
「そうか。なら期待しておこう」
アスカの言葉に笑みをこぼす男性は、以前一緒にオークキングを討伐したアルバ。
彼もイベントへ向け新しいエグゾアーマーを用意しているところであり、効率よく鉱石を集める手段を探していたのだ。
「午前中はまだすることあるから、早めに終わらせよう!」
アスカ先導の元向かうのは、すでに何度も訪れているライアット雪山の採掘場だ。
雪山の坑道内に入れないアスカが採掘を行えるのはロビンとともにいった中腹の採掘場しかないのだが、あそこはポップしている敵の数が多く一人では手に負えない。
そこでいつも魔力草を下ろすことで恩を売っているフランに目を付けたのだ。
フランがMPポーションを売り切った頃を見計らい露店に赴き、
「フラン、素材集め手伝って!」
「え、今から!?」
「いつも魔力草届けてあげてるでしょ。その恩を今返してもらうよ!」
「にゃにゃあぁ!?!?」
と中ば強引に連れ出し、一緒にライアット山の鉱脈のある採掘場へ。
若干苦戦したものの、アスカが注意を引いて纏まったところをフランの魔法攻撃で採掘場の敵を一掃。
二人で仲良く鉱石採取を行いようやくロビンのメモにあった希少金属であるカラド鉱石を一つ入手出来たのだ。
道中の魔力草も回収できたため、最初はしぶしぶだったフランも最後はニコニコ顔であり『また来ようね! 助っ人を呼んでおくから!』と態度が180度反転。
乗り気になっていた。
カラド鉱石やノイドセナ鉱石はゲームオリジナルの鉱石。
TierⅣアーマーや武器のいくつかで必要素材とされてはいるが、まだ需要は少ない。
そしてこの二つの鉱石はレアドロップ扱いのためなかなか採取できず、ようやく最初の一つを手に入れたのだ。
アスカはこの希少なカラド鉱石をあと四つ、ノイドセナ鉱石に至ってはあと五つ用意しなければならない。
これが二日前の話。
この時フランが言った助っ人というのがアルバの事だったようだ。
道中何事もなく目的地である採掘場にたどり着き、戦闘が開始される。
アスカが索敵し、敵が集中しているポイントへ向け開幕の合図とばかりにフランが広範囲魔法をぶっ放し、そこへアルバが突っ込んでゆく。
今回アルバはオークキング戦の時に使用したソルジャーアーマーではなくアサルトアーマーと大盾を使用し、フランの魔法攻撃が効きにくいストーンゴーレムを実弾兵器で対処。
ミリ残りした敵や孤立した敵は空のアスカがとどめを刺す。
腰を据えて殴り合うアサルトアーマーであれば採掘場の足場の悪さもあまり気にならず、弱点となるスニーゴーラといった機動戦力はフランが足止めし、アスカがとどめを刺してくれる。
そうしてさしたる被害もなく辺りの敵を一掃した一行は、満を持してその豊富な採掘ポイントから鉱石の採取を開始。
カンカンカン。
「ふはははは、笑いが止まらんなぁ!」
カンカンカン。
「そーでしょそーでしょ、ここで採掘すると坑道内に入ろうなんて気が湧かないよ」
カンカンカン。
「坑道内ってそんなに効率悪いの?」
カンカンカン。
「視界が悪くて敵に奇襲されたり、小さな採掘ポイントが点在してるから時間かかるんだ~」
カンカンカン。
「それに比べてここなら短時間で一気に集められる。こらぁたまらん」
カンカンカン。
「私は坑道内に入れないし、この場所は一人じゃ敵全滅させられないからなぁ」
カンカンカン。
「にゃ~、フライトアーマー以外を使うという選択肢は?」
カンカンカン。
「ない!」
カンカンカン。
「さすがアスカだな!」
カンカンカン。
「どやっ!」
カンカンカン。
「アスカ、それ褒めてないよぉ!」
カンカンカン。
などと言う会話を行いながら、採掘可能な場所全てで鉱石採取を行った。
なお、アスカが以前見つけたフライトアーマーでしか採掘出来ないようなポイントも、アルバのワイヤーアンカーのフックを埋め込みロープを垂らすことで昇降可能となり、三人の手で一か所残らず全て回収されたのだった。
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本日も日間ランキング一位をいただいております。本当にありがとうございます。
アスカは一体どこまで飛んでいってしまうのでしょうか?
嬉しい反面心配してしまう作者馬鹿でございます。
引き続きアスカ達の物語をよろしくお願いいたします。




