9 新スキル
本日一話目更新です。
あとがきにスキル詳細を追加。
港町、バゼル。
最初の街であるミッドガルから南下した位置にある港街で、豊富な海産物の他、設定上は他国との貿易もあるという。
港湾部は大型船も停泊できるように整備されており、その周辺には赤レンガの倉庫が立ち並ぶ。
住居も塩害対策からか石やレンガ造りの物がほとんどで、木造建築の建物は見受けられない。
貿易を行っている港町という事もあり、大通りの商店には多種多様な商品が並び、ミッドガルではあまり見かけない品物も多かった。
飲食店はやはり海産物をメインにした物が多く、刺身にお寿司の他、ブイヤベース、パエリア、アクアパッツァ、シーフードピッツァなど、国も種類も様々だ。
アスカはそんなお店が立ち並ぶメインストリートを観光気分でトコトコと歩いていた。
「お~、すごい賑わってるねぇ~。ん~、良い匂い!」
『バゼルは初期の街の中でも、食べ物に拘った作り方をしています。とても美味しいので、おすすめです』
「ふふっ、ゲームの中ならいくら食べても太らないって言うのが良いよね。今度メラーナと一緒に食べに来ようかな」
メインストリートを抜けると砂浜に沿ってオープンテラスのお店が立ち並び、テーブルにはランナー、NPC問わずたくさんのお客さんが美味しいシーフード料理に舌鼓を打っていた。
そんなオープンテラス街を抜けると、赤レンガ倉庫が立ち並ぶ港湾地区になる。
と言ってもフェンスガードや警備員が立っているわけではなく、だれでも出入り自由になっているようだ。
赤レンガ倉庫は以前横浜観光をしたときに見たものと酷似していた。
何か関係があるのかとアイビスに聞いてみると、これも管理会社からの協賛の元、正確に再現された倉庫モデルなのだという。
倉庫の周辺ではエグゾアーマーを装着したNPC達が、倉庫から人が持てないような大きさの荷物を軽々と運び荷車に乗せて行く様子が見て取れた。
荷車を引くのは馬なのだが、なんと馬もNPC達同様エグゾアーマーを身に纏っていたのだ。
「アイビス、あれは馬なの?」
『はい。馬に専用のエグゾアーマーを装備させたアームドビーストです。馬の他では狼、虎、鷹、ラプトルなどそれぞれに対応したエグゾアーマーが存在します』
「へぇ、こっちの世界だと車じゃなくてアームドビーストなんだね」
『……車は出したくなかったそうです』
「は?」
『ゲームの世界ですので、現実世界を彷彿させてしまう車等の車両を出来る限り作りたくなかったそうです。エグゾアーマーがあるので、無理に車を出さなくても荷運びの動物にエグゾアーマーを装備させたら良い、という事でアームドビーストが作られた。そうです』
「ちょ、ちょっと強引だね…」
『苦肉の策ともいいます。世界観維持のために』
なお、車両に関しては作ろうと思えばランナーメイクで作り出すことが可能だったりする。
ただし、エンジンやタイヤ、ボディーなどすべてを一から製造しないといけない為、製作コストは莫大なものとなる。
「あと、あのNPC達が身に付けてるアーマーは?」
『あれは作業補助用のアーマーになります。系統としてはアサルトに近く、筋力補助等が強く作用します』
なるほど、と頷きながらもその場を後にするアスカ。
倉庫街を抜けた先は船着き場であり、綺麗に整備された岸壁に大小さまざまな船が停泊し、荷の積み下ろし作業をしている。
作業員たちは皆先ほどと同じ作業用エグゾアーマーを身に付けていたのだが、その中に数名周りと違うエグゾアーマーを付けている人が見受けられた。
よく見れば彼らのアイコンはNPCを表す緑ではなく、ランナーを表す青。
「あれ、ランナーの人だよね? なんで荷下ろし作業してるんだろ?」
『あれもクエストの一種です』
「あんなクエストがあるんだ……」
『はい。日雇いのようなものですが、報酬の他住人の信頼度上昇、さらに好感度が上がれば良いことがあります』
「良い事?」
『秘密です。作業のお手伝いをしていけば分かりますよ』
「空を飛ぶことに関係する?」
『……あまり関係ないかと』
「なら、いいや」
アイビスの言う『良い事』は気にはなるが、空を飛ぶことと関係がないのならそれほど興味はない。
むしろ今はそれ以外の事が忙しく、荷物運びのバイトをしている余裕はない。
港湾部の観光を終えたアスカはアイビスに目的地である錬金術師クリスの営むお店へのナビアイコンを表示してもらい、その場を後にした。
アイコンの指し示すクリスのお店はメインストリート方面にあるらしく、今来た道を戻る形だ。
相変わらず漂うシーフードのいい香りの誘惑に耐えながら、目的の場所にたどり着く。
その場所はメインストリートから裏路地に一本入った所で、同じ街中なのかと思う程度には薄暗く、人気も少ない場所だった。
もし、このクエストの情報がなければこのような場所に錬金術師の営むアイテムショップがあるとは気が付かなかっただろう。
やや不気味な雰囲気を持つ場所ではあるが、アスカは入り口であろう扉の上に掲げてある看板とナビアイコンの示すまま、扉をガチャリと開けた。
「こんにちはー……」
「はーい」
おそるおそる開けた扉だったが、見渡すと店内は明るくこじんまりしており、壁がある四隅に設けられた棚にさまざまなアイテムが陳列されていた。
そして、奥のカウンターには店番をしている眼鏡の女性が一人。
とりあえずこの人に聞けばいいかな、とアスカはその女性が居るカウンターの前まで歩み寄った。
「ジーナ村のケビンさんからのおつかいで、クリスさんに荷物を届けに来たのですが」
「あ、クリスは私です。ジーナ村のケビンからですか? なんだろう」
丁度良く、この女性が荷物の届け先、錬金術師のクリスその人だったようだ。
灰色の瞳で、髪は金髪のおさげ。
上にはローブを羽織り、アスカの錬金術師と言うイメージ通りの人物だった。
アスカから小包と手紙を受け取ったクリスは、さっそく手紙の封を開け、中身を確認。
するとその表情がどんどん和らぎ、笑顔になって行く。
「うわぁ、リーネさんにマギお婆ちゃん、カイさんまで! もっと時間かかると思ってたのに……」
クリスが今言った名はここまでの住人クエストでかかわってきたNPC達だ。
つまり、このクエストのゴール地点は彼女で間違いないのだろう。
一通り手紙を読み終わったクリスは視線をアスカに移し、満面の笑顔で感謝を述べる。
「貴女がアスカちゃんよね? ありがとう、これで素材がようやくそろったわ!」
「素材?」
「えぇ。これは私が前からお願いしていた錬金に必要な素材なの。各地に点在してるから皆にお願いしてたんだけど、集めるのが本当に大変で……本当にありがとう! あ、これ報酬のお金ね」
そう言ってクリスはカウンターの下からお金を取り出し、アスカに手渡す。
報酬の一〇〇〇ジルがアスカの所持金に加算され、クエスト成功の文字がポップアップで表示される。
「でも、これだけ頑張ってくれたのにお金だけってのも悪いよね。そうだ、アスカちゃん、そこの棚にあるスキルブックから好きなの一つ持っていって」
「え、いいんですか?」
「うん! これだけあちこち回ってもらったんだもの。せめてものお礼だよ」
アスカは内心『キターーー!』と高ぶりながらも、顔には出さず至極遠慮しがちに受け答えをする。
「じゃ、じゃあせっかくなので……」
クリスが指さす棚の前まで進み、陳列されているスキルブックに目を通す。
【栽培】スキルの時もそうだったが、この世界のスキルブックはスクロール、巻物ではなくブック、本の形をしている。
アスカが今目を通しているスキルブックも、本棚のようにきれいに並んでおり、その種類も豊富だ。
【魔力操作】【近接戦闘】【射撃精度】【身体強化】【薬の知識】【商売上手】などなど
「いっぱいあるね」
『選択できるのは一つだけです』
「うん、慎重に選ばないとね」
一人ではかなり悩んでしまいそうな数だが、アスカにはこういう時最も頼りになる支援AI、アイビスがいる。
気になったスキル一つ一つをアイビスに確認してもらい、アスカのプレイスタイルに有効かを判断してゆく。
『【魔力操作】【近接戦闘】等は各種能力増加、上昇系であり、選択肢としては無難です。他のスキルで選ぶものがなかった場合に選ぶのが良いでしょう』
「なるほど。これは? 【薬の知識】。ポーションの回復量、上がるんじゃない?」
『【薬の知識】で上昇するのはHPポーションの回復量で、MPポーションは対象外です』
「あらら、残念。ならこれは?」
『それは……』
こうしていくつか目ぼしいスキルを見つけてはアイビスに詳細を聞くが、どれもイマイチ実用性には乏しかった。
中にはゲームの鉄板、【鑑定】スキルもあったのだが、現状アイビスが【鑑定】スキルの変わりになっている。
より詳しいステータスなどを見る時に必要な【鑑定】スキルだが、アイビスに問えば『こちらの方が出来が良いです』『アスカが選ぶとしたら、こちらです』と言うようにアスカにとっての最適解を提案してくれるのだ。
もちろん詳しいデータ、数値を教えてくれるわけではない。
だが、詳細についてあまり興味のないアスカからしたらアイビスのアドバイスだけで十分であり、必要性を感じない。
有用なスキルを見つけられず、あきらめて上昇系のスキルを取ろうと思ったその時。
一冊の本がアスカの目に留まった。
「アイビス、これは?」
『【自動水薬】のスキルブックです。設定した一定割合以下にHPやMPが下がった時、自動でポーションを使用するスキルになります』
「じゃあ、いちいちインベントリからポーションを取り出さなくていいの?」
『はい。その動作を省略するためのスキルです』
「……なるほど。じゃあこれにしよう。クリスさん、これ貰っていいですか?」
「うん、いいよ。もっていって」
「ありがとうございます!」
クリスの承諾を貰い、アスカは手に持っていた【自動水薬】のスキルブックをインベントリに収納する。
『それでよかったのですか?』
「うん。正直、何度かポーション落としそうになってたし、いちいちインベントリから出す手間が省けるのは有難いな」
MPポーションを駆使して空を飛ぶアスカは元からポーションの使用頻度が高い。
それもいつも安定しているわけではなく、強烈なGがかかる機動飛行中にMPが切れることもあるのだ。
アイビスが枯渇する前に教えてはくれるが、自動で使用できるのであれば、それに越したことはない。
「じゃあ、私はこれで」
「うん。本当にありがとうね。あ、あと最後に、これ、あげる」
クリスがカウンターから出てきて、アスカに直接手渡したのは一つの指輪。アクセサリーだった。
「え、これは?」
「アスカちゃん、皆からの依頼すごく急いで終わらせてくれてたから、お礼だよ。そんなに大したものじゃないけど貴方には必要なものだと思って」
どういうこと? と首を傾げるアスカは、渡された指輪のステータスを確認する。
[アクセサリ]シルバーリング TierⅡ
銀に魔石の粒子を混ぜ込んだ魔銀を使い製作した指輪
最大MP+3%
「わ! こんなに良いもの、本当に良いんですか!?」
表示された性能にアスカは思わず目を見張る。
それはアスカにとっては最も重要なMP増加系のアクセサリだった。
「うん、こう言ったらなんだけど、本当に大したものじゃないから」
「ありがとうございます! 大事に使わせてもらいますね」
思わぬ報酬をもらったアスカは大喜びでさっそくこれを指にはめて装備する。
最初は少し大きめだった指輪だが、指にはめた瞬間にリサイズされ、アスカのか細い指にぴったりとフィットした。
最大578だったMPは三%増加し、595になる。
決して大きな数字ではないが、確実に上がったその数値に大満足だ。
「クリスさん、他にもMPが上がるアクセサリってありますか?」
考えてみればアスカはこれまでアクセサリを一つも装備してこなかった。
それはアクセサリの中にMPの最大値を増加させるものがあるのを知らなかった為だが、あると知ったなら話は別だ。
MP増加系のアクセサリがこれ一つだけという事もないだろうと、クリスに聞いてみる。
「ごめんなさい、MP系のアクセサリはあまり売れないから、それしかないの」
『アスカ、ミッドガルのランナー露店市なら出回っていると思われます』
「なるほど、じゃあ、行ってみないとだね。クリスさん、また来ます!」
「錬金術で困ったことがあったらいつでも来てね」
「はい!」
善は急げ。
クリスのお店を出たアスカは足早に港町バゼルの中央広場のポータルへ向かい、そこからアクセサリを求めてミッドガルへと移動して行くのだった。
スキル詳細
【魔力操作Ⅰ】 体内、及びエグゾアーマーの魔力潤滑を向上させ、魔法攻撃力を増加させる。1レベル毎0.5%の上昇。
【近接戦闘Ⅰ】 近接戦闘時にエグゾアーマーの瞬間出力を上昇させ、攻撃力を増加させる。1レベル毎0.5%の上昇。
【射撃精度Ⅰ】 エグゾアーマーの射撃補正力を向上、精度を向上させる。1レベル毎0.2%の上昇。
【身体強化Ⅰ】 エグゾアーマー各関節部の動きが強化され、体さばきが上昇する。1レベル毎0.2%の上昇。
【鑑定Ⅰ】 アイテム、兵装類の詳細が見れるようになる。1レベル毎にマスクデータ解禁。
【薬の知識】 HPポーションの回復量が上昇する。
【商売上手】 お店での購入価格が割引され、売却時には割増で売ることが出来る。NPCショップ限定。
【自動水薬】 一定以下までHP、MPが低下した場合、自動でポーションを使用する。(いわゆるオートポーション。長いので漢字にした)
【MP増加・大】 MP値を100増加する。
【MP自動回復】 MPを1分間に最大値1%分回復する。
【フライトアーマー開発経験値増加】 フライトアーマー装備時限定。フライトアーマーでの飛行時間を開発経験値に加算する。
【強運】 採取、ドロップでのレアアイテム取得率微上昇。獲得Exp微上昇。(特殊テーブル変化)
【墜落耐性Ⅰ】 墜落、落下、衝突ダメージを10%軽減。
Ⅰ=10、Ⅱ=20回の通算墜落死数。
【飛翔Ⅰ】 フライトアーマー飛行時のMP消費を5%軽減。
Ⅰ=1h、Ⅱ=10h通算連続飛行時間。
【支援AI】 プレイヤーへ様々な支援を行います。
フライトアーマー系スキルで他より補正数値が高いのは、これが製作者古田案件であるというのが表向きの理由。実際はこうでもしないとあまりの辛さに作者がとてもじゃないがこれを飛ばし続けられないという理由。(最初乙式三型や翡翠のMP消費は毎秒3でした。うん、無理)
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
本日も日間ランキング一位にさせていただき、感激に震えております。
年末年始で忙しい時期ではありますが、当小説は休まず更新していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。




