7 【製造】スキル
本日一話目更新。
採取、生産系スキルの説明回。
飛ばしてもさして問題ありません。
ライアット山中腹にある採掘ポイントでアスカ、ロビン、メラーナ、ラゴの四人は限界まで採掘を行い、いまはここミッドガルの街に帰還していた。
目的はイベント用フルカスタム翡翠と新たな実弾銃を作るための素材である鉱石を、ダイクの店へ納品するためである。
「アスカさんの銃ってNPCショップで買ったものなんですか?」
「うん。オークキングの斧槍と、猪王の魔石をもとに作ってもらったの」
「あれと同型の銃、メラーナが欲しいというので露店市で探したんですけど、見つからなかったんです」
「そういえばハイブリッドウェポンは【製造】スキルのリストになかったわね」
「ロビンさん、スキルにリストがあるんですか?」
「アスカちゃん、知らないの?」
疑問符を顔に浮かべながら、ロビンを見るアスカ。
『Blue Planet Online』をプレイするランナーなら知っていて当たり前レベルの初期知識だが、飛ぶことにしか興味のなかったアスカはその事を知らない。
どうしようか考えるロビンに変わって、すぐさまアイビスが答えてくれた。
『アイテムやアクセサリ、特殊兵装等を生産する各種スキルは『スキル一覧』でスキル名を確認した際、製作可能となっている物の一覧がリスト表示されます。表示されるのは基本的にはスキルレベルと同じTier帯の物で、スキルレベルが上がるにつれて上位の物が追加されていきます』
「じゃあ、リストに表示されてないものは作れないの?」
『いいえ。あくまで表示されないだけですので、必要素材さえ分かっていればマニュアル作成で作ることが可能です。また、設計図を使用することでも表示がアンロックされます』
「マニュアル作成?」
「あらら、アスカちゃんはそこからなのね」
「はい! 私も分からないです!」
手を上げながら答えたのは元気いっぱいのメラーナだ。
彼女もカルブに誘われゲームを始めた為、そのあたりの生産スキルに対しての知識には乏しかったのだ。
横を歩くラゴも、ヘルプを読み漁っているので概要は知っているのだが、あくまで読んだだけであり実際に見たことはない。
「じゃあ、ちょうどいいからダイクのお店についたら見せてあげるわね」
「はい」
「おねがいしまーす!」
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ダイクの店の扉を開けると、カウンターにはいつものようにダイクが店番をしていた。
アスカとロビンは自分の家にでも入るかのように店内に入り、それに続いて少しおっかなびっくりになっているメラーナとラゴが入る。
「お、帰って来たか。ん、なんか増えてるな。そっちの二人は?」
「私の友達で、メラーナとラゴだよ」
「メラーナです」
「ラゴです。よろしくお願いします」
「おう。おめぇ達もランナーか。うちはこの通りアーマーショップだ。何か必要になったら買いに来い。オーダーメイドもやってるからよ」
「イベントも近いですし、お金が溜まったら買いに来ます!」
頭を下げ、挨拶をするメラーナとラゴ。
対してダイクはニコニコ顔であり、常連になってくれそうな新規客にご満悦だ。
「ダイク、また工場借りていい?」
「早速作るのか?」
「アスカちゃんたちに製作の様子を見せようと思って」
「ふむ。見てて面白いものなのか?」
「私たち【製作】スキル持ってないので見てみたいんです」
「なるほど?」
分かりかねる、と首を傾げるダイクを他所にロビンは平然と店の奥に入って行く。
ダイクもそれを止める様子は見せず、そんなにずかずかと入って行って大丈夫なのかと戸惑う三人もロビンに呼ばれ、店内から工場の方へ移動していった。
『Blue Planet Online』では木を伐採して木材を得る、鉱山で鉱石を採掘する、動物からミルクを搾る、果樹から果物を取るなど素材回収は全て【採取】スキルが内包している。
開発初期ではこれらは個別に【伐採】【採掘】【収穫・畜産】【収穫・果樹】など個別、細分化されていたのだが、逆に細分化しすぎた結果数が莫大になり、採取系スキルだけで複数獲得しないとろくに採取も出来ないという事態に陥ってしまったのだ。
また、高品質の物を採取しようとしたら該当する採取系スキルのレベルを上げるしかないが、細分化しすぎたスキル群はレベル上げの効率が極めて悪く、必要な複数の高品質素材の全てを自力で採取することがほぼ不可能という本末転倒な結果に陥ってしまった。
さすがにこれはまずいと開発は協議を重ね、最終的に自家生産の第一歩である『一次産業』は収穫、回収を行う【採取】、動物を育てる【飼育】、野菜、花などの植物を育てる【栽培】の三つに集約することに決定した。
その代わり、いくつかは専用のアイテムを持っていかないと回収や育成ができない設定にされている。
鉱石ならツルハシ、ミルクなら搾り器、果物などの採取にはハサミ、動物の育成にはブラシや飼料、植物にはジョウロで水を与える等が代表例だ。
こうして採取された素材を加工、生産する『二次産業』に該当するスキルも初期案では細分化され大量に用意されていたため、【採取】同様【生産】と言うスキルに統合しようかと言う話も出た。
だが、これはさすがに分割しないと今度はゲームとして成り立たないという事になり、大きく六つに集約されることになる。
それが薬を生産する【調合】、アイテムを生産する【錬金】、衣類を生産する【裁縫】、食料を生産する【料理】、アクセサリ・アンティークを生産する【細工】、アーマー・武器を生産する【製造】。
これら六つが生産スキルであり、何かを『造る』場合は必ずどれかのスキルに該当するようになっている。
ダイクの店の裏方、工場の中で働くNPC達の横を抜け、ロビンたちは奥にある小部屋へ入る。
もともとは一人用の部屋なのだろうその部屋に四人も入ると身動きも取りづらいが、すぐ済むという事なので我慢。
「じゃあ、始めるわね」
ロビンはそう言うとキャスター付きの作業台へ向かい、インベントリからインゴットを取り出すと作業台の上に置いた。
「ロビンさん、それは?」
「ただのアイアンインゴットよ。NPCショップでも売っている、製造練習用の素材ね。これをこうして……」
台の上のインゴットにロビンが手をかざす。
するとかざした手が光り出し、続けてインゴットも光を放つ。
その光はだんだんと強くなり、インゴットの外観が分からなくなる。
光が収まった時にはインゴットの姿は消えてなくなり、代わりに一丁のハンドガンが机の上に鎮座していた。
「はい。おしまい」
「え、え?」
あまりに突然過ぎて訳が分からずポカンとする三人。
その様子見て、してやったりといった感じで笑みをこぼすロビン。
どうやら計画的だったようだ。
「今のは【製造】のオート作成なのよ」
「オート作成?」
「そう。アイビスちゃん、お願いね」
『はい。各種生産系スキルは、必要素材を準備し、これから生産を始める際、三つの手法から選択します』
「三つ?」
『はい。オート、セミオート、マニュアル、この三つです』
「それって、どう違うんですか?」
『オートは今ロビンが行ったように、素材を前にし、手をかざすだけで完成品が出現します。ただし、エグゾアーマー一式や素材数が多い装備の場合は完成までに時間が必要です。完成までの間、ランナーはその場を離れても問題ありません。セミオートは複雑な部分は完成品として出現、その他大まかな部分をランナーで製作します。マニュアルはすべての部品をランナーで組み立てる、こだわり派のための手法です』
「へぇー!」
「ふふ、じゃあセミオート、見せてあげるわね」
ロビンのその提案に歓喜にわくアスカとメラーナ。
やり方などをヘルプで読んで知っているラゴも、初めて見る【製造】スキルを前にじつに興味深そうな顔をしていた。
再びアイアンインゴットを作業台の上に置き、手をかざすロビン。
すると先ほどのオート製作時と同じく手とインゴットが光り出す。
その様子はオート時とほぼ同じ。
唯一の違いと言えば光が淡い黄色だったことくらいだろう。
淡い黄色の光が収まるとそこにはハンドガンではなく、四角い箱が置かれていた。
「ロビンさん、これは?」
「ふふ、開けたらわかるわ」
良い笑顔で笑いながらロビンは出現した箱のふたを開ける。
中にはバラバラにされたハンドガンの部品が入っていたのだが、各部品は成形した時そのままのように枠組みに保持され、繋がっていた。
形状はあまり知識のないアスカでも知っている物に酷似している。
「これって……プラモデル?」
「そうよ。セミオートは一言でいえばプラモデルなの」
「へぇ! おもしろーい! 私、組み立てても良いですか?」
「いいわよ~」
ロビンからハンドガンキットを譲渡してもらい、メラーナは組み立てを始める。
「【製造】スキルなくても大丈夫なんだね」
『【製造】スキルで行うのは素材を部品化するまでで、組み立ては他のランナーでも行えます』
「じゃあ、【製造】スキルの意味って? 部品化するだけ?」
『スキルレベルに応じて部品化出来る兵装の種類が増えます。特にエグゾアーマーは該当Tierと同じ数値までスキルレベルを上げていないと、素材が揃っていても部品化できません』
「ずっとオートで組み立てられるんじゃないの?」
「オート製作は楽だけど経験値の入りが悪いのよ。セミオートで組めるようにならないと、レベルⅢ以上は無理ね」
このハンドガンキットはスキルレベルⅠ、チュートリアルレベルの物で、接着剤不要。
ニッパーなどの工具なしでもパーツがランナーから外れ、弾を打ち出すハンマー部分はすでに完成品で箱詰めされている。
メラーナは一緒についていた説明書を頼りにどんどん組み立てていった。
「というかこれ、原料アイアンインゴット、鉄ですよね? なんで手で取れるんですか?」
「アイビスちゃん」
『セミオートはどんな素材であっても製造キットはプラモデルと同じ樹脂仕様になります』
「なんで?」
『仕様です』
それはどんな理不尽も一言で片付ける魔法の言葉。
「できた!」
そうこうしているうちに組み立て終わったらしく、メラーナはくみ上げた銃を手に持って確認していた。
『メラーナ、完成の場合は完成のアイコンをタップしてください』
「これ? えいっ」
メラーナの支援AI、パッセルの指示通り、視界に浮かんでいた完成のアイコンをタップする。
すると再びハンドガンが光り出し、樹脂で出来ていた部品が金属に変化。
装備可能になった。
「おぉ~」
「メラーナ、ちょっと見せて。……やっぱりそうだ」
「どうしたの、ラゴ?」
「この銃、さっきロビンさんがオートで作ったものと比べてみて」
「え、同じじゃないの? ……あっ、攻撃力が違う!」
これがセミオートのセミ、半分の所以である。
メラーナは各パーツを手でランナーから外し、組み立てていた。
しかし、それではパーツにランナーとのつなぎ目であるゲートが残り、パーツとの間にわずかだが隙間ができてしまう。
これらが完成ボタンを押したときに反映され、わずかだがオート製作の物よりも攻撃力が低くなってしまったのだ。
逆にしっかりとゲート跡を処理し、綺麗に組めばオートで製作したものよりも攻撃力が上がる。
さらにリアル世界同様、部品の追加、延長、ギミックの搭載なども可能。
当然、完成時のステータスに大きく影響する。
「ラゴ、よく分かったね」
「僕もプラモデルは何度か組んだことあるし、ヘルプにも書いてあった」
「じゃあ最後、マニュアル製作行きましょうか」
メラーナ作のハンドガンで賑う三人に声をかけ、ロビンは三度目の製造を行う。
今まで通り作業台の上にアイアンインゴットを置き、手をかざす。
マニュアルに設定された今回はロビンの手とインゴットは赤い光を放つ。
光が収まった時に現れたのはセミオートの時同様一つの箱で、大きさも同程度。
しかし、箱を開けた瞬間、中を覗き込んだロビン以下の三人は大きく顔をしかめることになる。
「うわぁ、なんですかこれ……」
「ふえぇ、なんか部品がすごいいっぱい……」
「ロビンさん、これ、組めるんですか?」
三人のその反応も仕方のない事だろう。
マニュアルとは正真正銘、本物の事なのだ。
箱の中身は分解されたハンドガンであり、穴の開いたプレート、スプリング、ピン、ビス、など、その部品数は四〇を超える。
三人にかろうじてわかるのは大きく特徴的なフレーム、バレル、トリガー、ハンマーくらいの物であとは何が何だか分からない。
生産時にオート、セミオート、マニュアルの三種類から生産方法を選択する方式は各種『二次産業』系スキルで共通している。
オートは時短、セミオートは遊び感覚、そしてマニュアルはガチの本職仕様だ。
もちろん、これら三つの手法の違いで完成品に大きく差が出る。
【製造】スキルを例にすると、オートは誰がやっても一律で同じ。
セミオートは楽しんで作ってもらう事を主眼とし、プラモデルをベースにゲート処理、合わせ目消し、角取りなどで完成度が変化、攻撃力や精度に影響が出る。
マニュアルはリアルでもその手の仕事をしている人やプロレベルの人をターゲットにした、いわばエンドコンテンツ。
完成度の振れ幅がセミオートよりも大きく、ネジの締め付けトルク、ピンの位置、ばね定数、グリスアップ、物によってはすり合わせ加工や鏡面仕上げ等でステータスが大きく変動するのだ。
これらは銃に限らず、エグゾアーマーだろうと追加兵装だろうと同じこと。
マニュアル製作は時間をかければかけるだけ完成度が上がっていく、正真正銘の沼なのである。
この事をアイビスとロビンから説明されたアスカ達。
当然口を開けて呆けていた。
「ヘルプでは読みましたけど、こんなになってるとは思いませんでした」
「私にはマニュアルは無理です……」
「あ、あのロビンさん」
「なに、アスカちゃん」
「その、イベント用のフルカスタム翡翠って……」
「もちろん、私とダイクが作るわ。マニュアルで」
周囲に花が咲き乱れそうなほどの笑顔で答えるロビン。
その言葉と笑顔を見たアスカは額に手を当ててよろめいた。
「なにもそこまでしなくても」と。
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