4 ご本人の登場です
本日二話目更新です。
『アスカ、メラーナからメッセージが届いています』
「メラーナから?」
ダイクのお店から出たとき、アイビスからメッセージ受信の報告を受けた。
送り主は先日一緒にハイオーガと戦ったメラーナ。
『toアスカ
お話ししたいことがあります。
今すぐお会いしたいのですが、どこにいますか?
fromメラーナ』
「今すぐ? ロビンさん、ライアット山のジーナ村でちょっと用事があるんですけど、寄り道しても良いですか?」
「寄り道? 良いわよ」
今いるミッドガルで会ってもいいが、どうせならジーナ村の方が都合がいい。
メラーナへジーナ村で会おうと返信し、ロビンと二人でポータルから移動する。
ライアット山麓のジーナ村は鉱山探索、採取の起点となることもあり、以前来た時もかなりのランナーが居たが、今回はさらに人が増えていた。
原因はイベント告知だ。
サービス開始一週間とは言え、戦力となるエグゾアーマーを三つも持っているランナーの数は少ない。
その為皆エグゾアーマー開発、素材確保のため自然とライアット山に集まってきたのだ。
人でにぎわう広場の一角、少し人の少ないエリアでロビンと待っているとポータルからメラーナとラゴが移動してきた。
だが、カルブの姿がない。
おや? と首を傾げるアスカをメラーナが見つけ、ラゴと一緒に駈け寄って来る。
「アスカさん!」
「やほー、メラーナ。カルブがいないみたいだけど?」
「それが、その……」
歯切れ悪く顔を見合わせるメラーナとラゴ。
そして意を決したかのように……。
「「ごめんなさい!」」
「え、えぇっ」
いきなり二人が頭を下げ、アスカに謝罪した。
だが当のアスカは何のことに対する謝罪か分からず、困惑するのみ。
とりあえず顔を上げさせて、事情を説明してもらう。
「実は……」
「カルブが……」
「カルブがどうしたの?」
なおもうつむき加減で歯切れの悪い二人。
曰く、カルブは昨日別れた後、公式掲示板に書き込みを行ったそうだ。
内容は『フライトアーマーは弱くない、強いぞ』という物だったのだが、掲示板では当然笑い飛ばされ、相手にされない。
むしろ煽られ、馬鹿にされる形となり、カルブの性格も相まって売り言葉に買い言葉。
ちょっとした炎上状態になったという。『そんなに言うなら証拠を出せ、証拠を!』という書き込みに対し、カルブが行ったのは昨日のハイオーガとの戦闘動画の投稿。
しかし、すでに炎上している掲示板においては『捏造動画乙www』『フライトアーマーがこんなに長時間飛べるわけねーじゃんチートかよ』と全く相手にされなかった。
さらに『あ、この緑髪、フライトアーマーのあの娘か』『あの娘? じゃあこれ本物か?』『もし仮にこれが本物として、投稿の許可貰ってるのか?』とその炎上具合はさらに加速。
最終的にカルブは挑発行為、本人に許可を得ていない動画の投稿などのマナー違反で通報され、動画、及び炎上コメントの削除、そしてカルブ本人にはアカウント停止五日間という処分が下されたという。
「あの馬鹿……」
「昨日の掲示板……あぁ、ここね。だいぶ削除されてるけど、いくつかは残ってるわ。アスカちゃん有名人ねぇ」
「ロビンさん、楽しそうにしないでください……」
カルブのそんな愚行に頭を抱えて呆れるアスカに対し、ロビンは完全にお祭りモード。
他人の騒動は蜜の味。
にこにこである。
「私がカルブに動画渡しちゃったせいでアスカさんにすっごい迷惑かけて……本当にごめんなさい!」
「僕からも謝ります。昨日手伝ってもらった恩を仇で返してしまうなんて……」
アカウント停止措置でログイン出来ないカルブに代わり、必死になって謝るメラーナとラゴ。
「いいよいいよ。二人もそうだけど、カルブにも悪気があったわけじゃないからね」
最初は『フライトアーマーなんて弱い』と言っていたカルブが考えを改め、フライトアーマーの良さを周りに伝えようとしてくれた事はむしろ好感を持てる。
動画を撮影し、カルブに渡したのがメラーナであっても、彼女に非はなくラゴも無関係。
にもかかわらず、ここに来れないカルブの代わりにこうして謝罪してくれている二人を責めることなど出来るはずもない。
「さて、どう思う? アイビス」
『確認しました。確かに先日、公式掲示板にて騒動、通報があった様ですがすでに沈静化しています。それほど気にしなくても大丈夫かと』
「ふーん……」
さて、とアスカは考え込む。
アイビスの言う通り、すでに事態は沈静化している。
だが、フライトアーマーに対する認識は騒動前と変わっておらず、動画やカルブの必死の声も捏造と煽りとして流されてしまった。
正直、ちょっと面白くない。
「ん~アイビス、掲示板の書き込みってどうやるの?」
「「「えぇっ!?」」」
『……はい?』
三人が驚きを隠せずアスカを見る。
昨日あんなことがあったのにわざわざアスカが書き込みを行う、その理由が分からない。
『掲示板の書き込み枠に記入、投稿で書き込めますが……本気ですか?』
「ア、アスカさん!?」
「し、支援AIが動揺してる……」
「ふふっ、さすがアスカちゃんね」
「なによ、皆して。カルブの遺志を継ぐわけじゃないけど、弱いとかチート呼ばわりされるのは癪だからね」
『分かりました。では、私が代わりに書き込みを行います。書き込みたい内容を口頭で教えてください』
「アイビスそんなことできるの?」
『はい。ランナーフォロー機能の一つとして組み込まれています』
「ふえぇ~支援AIって、優秀なんですねぇ」
なおこの機能、本来は書き込みに慣れていない若年層やゲーム初心者用のサポート機能だ。
アイビスはこの機能を利用し、アスカが不用意な書き込みを行って再び炎上してしまうのを防止する。
「じゃあ、お願い、アイビス。まずは……『私が本物です』」
『…………』
「…………」
静まり返る空気。
「え、な、なに?」
「アスカちゃん。さすがにそれはないわ」
「えぇ~?」
『……書き込みました』
「アイビスさん、書き込んだんですか?『こんにちは。昨日、私の事で騒動があったようなのですが』投稿者名がアスカお姉さんになってる」
「どれどれ。あらあら、早速盛り上がってるわね」
「『本物か?』だって。あ、『どうせ偽物だろ?』って書き込みまで。ふふっ、本人なのに可笑しいですね」
本物か否かの論争はアイビス、支援AIが保証することで証明され、噂の本人出現に掲示板は大きく盛り上がりを見せた。
当然話は先日の動画の真偽を確かめる物になるが、動画は運営の騒動鎮静化対策のため消されている。
もう一度見たいというランナー達のため、アスカはメラーナから動画を送ってもらい、全員から了承を得た上でアスカの名義でアイビスが投稿する。
本人からの動画投稿に湧きたつ掲示板の住人達。
カルブが投稿した時はチートだ、捏造だと言われてしまったが、アイビスがすでにシステム上問題ないと保証しているため盛り上がりはさらに加熱。
どうやってそんなに長時間飛んでいるのか、スキル構成はどうなっているのか。
武器は? アーマーは? アスカはすべてに答えて行くが、いくつかはアイビスがブロックする。
「【強運】スキルや滑空のことは書き込まないの?」
『過度に書き込むと危険です。その二つはアスカの戦闘能力、レアアイテム獲得の理由に直結するので、書き込みません』
後に、カルブのフォローを書き込んで終了する。
これでカルブの面目も保たれるだろう。
「よし、こんなものかな」
「アスカさん、すごいです。こんなに盛り上がってる掲示板、初めて見ました!」
「『本人だけど、何か質問ある?』をガチでやってるんだもん。すごい面白かった」
「ふふ、アスカちゃんは本当にいつも面白いものを見せてくれるわねぇ。私、大満足」
「そのあたりはよくわかんないですけど……そういえばロビンさん、まだメラーナ達に紹介してなかったですよね」
「あ、それなら心配ないわ。アスカちゃんが書き込んでるうちに済ませたから」
「はい!」
初対面のロビンとメラーナ、ラゴの紹介をと思ったが、アスカが書き込みをしているうちに自己紹介を済ませたようで、すでに三人は仲良さそうにしていた。
メラーナとは服装の話、ラゴとは武器、エグゾアーマーの事で話が合うようだ。
「この後、メラーナ達はどうするの?」
「カルブが戻ってくるまで大きなクエストは出来ないから、素材集めたり生産をしてみようかと思ってます」
「イベントも近いし、本当は鉱石とかも集めたいんですけど、私とラゴだけだと鉱山の中まではちょっと……」
素材集め、鉱石。
その言葉を聞いたアスカの目が鋭く光る。
「鉱石集めね。ねぇ二人とも、これから一緒にライアット山に行かない?」
「えっ、アスカさんも鉱石採取に行くんですか?」
「うん、私もイベント用のアーマーと武器の素材を取りに行くの。ロビンさんも行くから、みんなで行けば余裕だよ」
アスカと一緒に鉱石採取に行けるならこれほど心強いことはないが、散々迷惑をかけているうえでそこまで世話になってもいいものか?
不安そうにするメラーラとラゴだが、笑顔で誘ってくるアスカと、「一緒に行っても問題ないわ。むしろ歓迎よ」と言うロビンの後押しもあり、同行させてもらうことを決めた。
アスカの狙いは二人も連れていくことで戦闘時間を短縮し、あわよくば彼らが採取したボーキサイトを分けてもらう事。
彼女たちが主としているメディック、ストライカーの両エグゾアーマーでボーキサイトは不要であり、採掘即廃棄。
それを譲ってもらう事で早く採取を終わらせると言う魂胆だ。
メラーナとラゴを小隊に加え、各自準備を終えてからジーナ村を出発、布陣は前衛ストライカーラゴ、中衛メディックメラーナ、後衛スナイパーロビン、遊撃フライトアスカ。
バランスもとれたこの編成で苦戦することはなく、ライアット山を進んでゆく。
ゲーム内の季節も春から夏へと変わっており、雪山とうたわれるライアット山であってもこの時期に雪はない。
さらに道中では前回きたときにはなかった薬草の採取ポイントまで発生しており、季節の移り変わりと言うのを実感させられる。
そして驚いたことに少数だが道端の採取ポイントから魔力草が採取できたのだ。
品質は高くないが、貴重な収入源となる魔力草にメラーナ、ラゴは大喜び。
アスカは以前フラワーショップのリーネが言っていた『魔力草は涼しい場所を好む』と言う言葉を思い出していた。
「雪解けして、涼しい環境になったから生えてきたのかな?」
「おそらく。この辺りは夏は涼しくて避暑に丁度良いという話だったし。そのうちここも魔力草目当ての人で溢れちゃいそうね」
ひとしきり薬草類採取を終えた一行は山肌中腹の採掘ポイントへたどり着く。
多数のゴブリン、スニーゴーラ、ストーンゴーレムが徘徊してはいたが、すでに準備は万端。
ロビンは前回同様隣の山から汎用機関銃による銃撃、モンスター達が混乱に陥ったタイミングでラゴが突入。
メラーナが続き、アスカは上空から援護。
さしたる被害もないまま辺りを一掃。
その後は全員で採掘ポイントが枯れるまで採取を行い、アスカは計画通りメラーナとラゴから不要のボーキサイトを仕入れる。
「それが目当てだったのね」とあきれるロビンをしり目に、必要量のボーキサイトを確保したのであった。
この時の掲示板、見たくない?
と言うわけで明日の更新は掲示板回です。
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まだこの物語を知らないメカ娘好きの方々に見つけてもらうためにも、応援よろしくお願いいたします!




