3 フライトアーマー補完計画
本日一話目更新です。
時は変わり、午後。午前中の採取を終え、午後の分も済ませたアスカはフランの下を訪れていた。
フランの露店は数少ないMPポーション販売店のため、開店直後から人だかりになってしまうのだが、前もってメールで『相談したいことがあるの』とアポイントを取っていたためフランは露店を出さず待っていてくれたのだ。
「なるほど、イベントでの活躍方法ねぇ」
「うん。何かいい案、ないかな?」
二人は露店が多く連なる大通りのベンチに腰しかけ、イベントでのフライトアーマー活用法について試案する。だが。
「う~ん……ごめん、正直思い浮かばないや」
「だよねぇ。フランもイベントには参加するんでしょう?」
「もちろん! ランキング上位を狙うよ。稼いだお金の使いどころさぁ」
ニッコリと笑ってサムズアップするフラン。
アスカは詳細を知らないが、フランが品薄によって値上がりしているMPポーションを大量に捌く事で大儲けしていることは想像に難しくない。
ならばお金によるゴリ押し戦法も行けるだろう。
「フランはイベントをどんなふうに戦うの?」
「極大魔法連発!」
「ふえっ!?」
「有り余るお金で各村やランナーショップで強力な魔導石を買ったから、これで行くよ」
そう言ってフランはインベントリからビー玉に似た様々な色の球体を取り出した。
「これが魔導石なの?」
「そ。これをアーマーの魔導石スロットにはめることで、魔法が使えるんだよ。アスカも試してみる?」
「私は……無理かなぁ」
魔法攻撃は強力だが、発動にはMPを消費する。
飛行のため毎秒MPを消費し、主兵装のエルジアエでもMPを使うアスカにとってこれ以上のMP依存の攻撃方法は取れないのが現状だ。
「どうせなら、一緒に小隊組んでプレイするって言うてもあるけど」
「あ~、私空飛んでるからなぁ」
フランが想定している極大魔法連発の戦法だと、フランはあまり動かず固定砲台的な役割になる。
それに対してアスカは空を飛ぶ機動戦力であり、歩幅が合わないことは必至。
最悪、フランの魔法に巻き込まれる恐れもある。
「ごめんね。役に立てなくて」
「ううん、相談に乗ってくれてありがとう!」
「私に何か協力できることがあったら気にせず言ってね。アスカにはお世話になりっぱなしだからさぁ」
「うん、その時はよろしくね」
結局有効な手段は思い浮かばず、いつものように採取してきた魔力草とMPポーションの取引を済ませた後、その場を後にした。
「となるとあとは…やっぱりあそこか。たまにはお土産でも買っていこう」
次の場所に目星をつけたアスカは、ふふん、と意気込むと人の多い大通りへ消えていった。
―――――――――――――――――――――――
「ダイクさん、お話があります!」
「い、いきなりなんでぇ、嬢ちゃん?!」
勢いよくお店の扉を開けたアスカは、開口一番叫ぶ。
そのいきなりの登場に呆気にとられるダイク。
だが、店内にはもう一人、人の姿があった。
「あら、こんにちはアスカちゃん」
先日、北のライアット山にある鉱山で爆乳お姉さんと機関銃を体現したロビンだ。
「ロビンさんも! 丁度良かった、ロビンさんも相談に乗ってください!」
リアルは社会人で忙しいはずのロビンがここにいてくれたのはまさに僥倖。
エルジアエの事だけであれだけ熱く語り合うメカマニアの二人であれば、打開策も見つかるはずだ。
相談したいことがあると二人に詰め寄るアスカに、ダイクは「店内じゃさすがにマズい」と促し、場所を変える。
ダイクに連れられて行った先はエルジアエの試射の時にも入った二階の試射場。
そこにはテーブルとイスがあり、休憩するためのスペースが作られている。
三人がその椅子に座わったところでアスカは買ってきた菓子をインベントリから取り出すと、二人の前に差し出した。
「これ、どうぞ」
「おっ、いいのか?」
「私も食べていいのかしら?」
「はい、たくさん買ってきたので!」
無理言って相談に乗ってもらうのだしせめて差し入れくらいはしないとね、とアスカが買ったのはリアルにもあるチェーン店のドーナツ。
だが、それ故味には定評がある。
気が逸って飲み物を買い忘れてしまったのだが、それくらいは許してもらえるだろう。
ダイクがお茶を用意し、二人がドーナツに手を伸ばしたところでアスカが本題に乗り出した。
イベントまであと二週間、ゲーム内換算で二八日。
その間にイベントで成績を残すための策を見出さなければならない。
時々アイビスに補足を入れてもらいながら、アスカは真剣な顔で二人に事情を話す。
「なるほど。街が慌ただしくなってきたと思ったら、そんな作戦があったのか」
「たしかに、攻撃火力、という点ではフライトアーマーはつらいわね。かと言ってトランスポーターみたいに大量の物資を運べるわけではないし」
「はい。なにか良い手段はないでしょうか?」
「あるな」
「えぇ。あるわね」
「ほ、本当ですか!?」
二人にグイっと詰め寄るアスカ。
どれだけ考えても出てこなかった打開策が、この二人はあるという。
「どうしたらいいんですか!?」
「「フライトアーマーを作ればいい」」
「……は?」
アスカ、硬直。
「ど、どういうことですか?」
「ふむ、おれぁ説明するのが苦手だ。ロビン、任せた」
ダイクはアスカへの説明を早々に放棄、三個目のドーナツへ手を伸ばす。
ロビンはそんなダイクの様を仕方ないわね、と流すとお茶を一口飲み、真剣な顔つきでアスカを見た。
「……順を追って説明するわね」
「……お願いします」
アスカの喉がゴクリ、と鳴る。
「まず、イベントで使えるのはエグゾアーマー三つに対して、アスカちゃんは一つしかもってないわ」
「ひとつ? あの、TierⅠの乙式三型がありますけど……」
「あれは所詮初期装備。イベントでは使えないわ。計算できるのはTierⅡの翡翠からね」
「なるほど……」
「だから、まず翡翠をもう一個作るの」
「今あるのじゃダメなんですか?」
『残念ながら、同じエグゾアーマーを複数登録する場合は同じエグゾアーマーをもう一式そろえる必要があります』
「そうなの?」
「一つしかないエグゾアーマーを三つも登録出来たらプレミアムアーマー一つ持ってればよくなっちゃうから。仕方ないわ」
「そうなんだ……あ、武器は?」
『武器、追加兵装は問題ありません。一つあるものを共有して使用できます』
「それに、新しく作る翡翠はただの翡翠じゃないわよ」
「え、どういうことですか?」
「ふふっ。イベント用にフルカスタマイズした、特別仕様よ」
「おぉー!」
カスタマイズ、特別仕様という言葉に思わず身を乗り出し、目を輝かせる。
「どんな形に仕上げるんですか!?」
「エンジン出力を向上させ、エグゾアーマー各部位にMPタンクを内蔵して飛行時間を延ばし、レーダーを搭載してアシストポイント獲得に的を絞った戦闘偵察仕様にするわ」
「へっ!?」
アスカの話を聞いて、ダイクとロビンがたどり着いたのがこの戦法だ。
いくら火器を積み込んだとしても、所詮はフライトアーマー。
アサルトやストライカーの火力には到底及ばない。
かと言って物資輸送は元々インベントリの少ないフライトアーマーではたかが知れている上、受け渡す際には着陸しなければならず、非常に危険。
獲得ポイントをアシストに絞るのは消去法ではあるが、むしろこれが一番フライトアーマーと相性がいいのだ。
「アスカちゃん、私とこの間ライアット山で索敵してもらったでしょう?」
「はい。私飛んでるだけでしたけど」
「それをイベントマップで再現すればいいのよ。あの位置だと、私からは敵は一匹も見えなくて、全部アスカちゃんの観測で見つけた物を私が撃っただけ」
「で、でもその時のセンサー……なんというか、その、範囲が……」
「ふふふ。言ったでしょう、アスカちゃん」
「え?」
「あれは『試作』品」
ロビンの口角が妖しく上がって行く。
「作るのよ。本気の、センサーをね」
美人が放つ妖しさ満点の笑みに、頬が引きつる感覚を覚えるアスカ。
それくらいに不気味で本気の笑みだった。
「それでもエグゾアーマーが二つ。まだ一つ足りないでしょう?」
「はい。それも翡翠を?」
「いいえ。そこにはレイバードを入れるわ」
「ティ、TierⅢのレイバードを?」
「イベントまではまだ時間があるし、それまでに開発して三つ目に組み込むのよ」
「他にもできることがあるぜ」
空気を読まずに入り込んできたのはダイク。
彼はすでに自分の分のドーナツを食べつくし、お茶も空。
完全に手持ち無沙汰になっていた。
「空からハンドグレネードをバラけばいい。空を飛べるってぇのはそれだけで有利だ。効果は折り紙付きだぜ」
「あとは武装も更新しないといけないわね。イベントじゃあTierⅠのアーマライトなんて豆鉄砲よ」
「だな。遠・中距離はエルジアエがある。するってぇと必要なのは近距離か。それも取り回しがきく奴だな」
「追加でグレネードランチャーを着けられるタイプじゃないと。アスカちゃん、グレネードもよく使うから。その上である程度の射程も必要よ? フライトアーマーなんだし」
「連射能力も必要だ。少なくともアサルトライフルと同等か、それ以上の物じゃねぇと更新する意味がねぇ」
「連射を上げ過ぎると集弾性がおろそかになるわよ?」
「ふむ、となると……」
「それなら……」
「…………」
すでに二人は熱い討論の中。話の中心にいたはずのアスカは知らないうちに弾かれ、横にいるだけの置物と化していた。
「「で、アスカ(嬢)ちゃんはどう思う?」」
「ひゃえっ!?」
いきなり二人からハモりながら話を振られ、挙動不審になってしまった。
というか途中から話を聞いていなかったので、何を聞かれたのかが分からない。
『近距離火器の種類です。色々考慮した結果、サブマシンガンが良いのではないかという提案です』
「あ、あぁ、なるほど。ん~……」
アスカは腕を組んで考え込む。
確かに、今まで接近戦になった時エルジアエやアーマライトでは取り回しが悪いと感じたことはある。
エルジアエならレイサーベルにすればまだ対処できるが、アーマライトではそれも無理だ。
現状アーマライトは実弾が良い時とグレネードの発射装置としての役割しかなく、エルジアエとの差別化の為にもサブマシンガンはいい案に思えてくる。
しかし……。
「サブマシンガンって、たしか火力弱かったですよね?」
「そうね。同格のアサルトライフルよりは単発火力は下がるわ」
サブマシンガンの最大の長所は連射力だ。
しかし、使用している弾丸はハンドガンと同じものであり、一発当たりの火力が低く、貫通力も下がってしまう。
オークキングやハイオーガクラスとの戦闘を考えると、ボスクラスには通用しないのはキツイ。
「どうした嬢ちゃん、難しい顔して。言いたいことがあったら言ってみろ」
「ダイクさん、あの、アサルトライフルよりは射程が落ちるけど、火力はあんまり変わらなくて、連射力もある、そんなサブマシンガンってありませんか?」
「あぁ!? 嬢ちゃん、エルジアエの時もそうだが、ちょっと無茶が過ぎるぜ?」
「……あるわ」
「へっ?」
「アサルトライフルよりは射程が落ちるけど、火力はあんまり変わらなくて、連射力もある銃。あるわ」
「マジか? そんなアサルトライフルだかサブマシンガンだか分らんもん……あ、あれか!」
ダメもとで言ってみた条件だが、二人には思い当たる節があるようだ。
しかし、本当にそんな銃があるのだろうか?
不安そうに見つめるアスカをよそ目に、視線を合わせ頷きあうロビンとダイク。
そして、ロビンが「よし」という声とともに椅子から立ち上がった。
「これでイベントまでに必要なものが分かったわね。行くわよ、アスカちゃん」
「へ? あ、え? ど、どこに?」
状況が理解できないアスカに、ロビンは笑って返す。
「決まってるじゃない。素材集め。まずはライアット山で採掘ね」
「えぇっ、またあれを!?」
「あら、素材も全部ジルで賄う? 一〇〇〇万超えるわよ?」
「行きましょうロビンさんっ、ボーキサイトが私を待ってます!」
ロビンから突き付けられた法外な値段。
当然そんな巨額の持ち合わせはなく、素材集めを行い支払える金額まで値段を落とさなければここまでの議論はすべて絵に描いた餅だ。
すべてを察したアスカは勢いよく椅子から立ち上がると、ロビンの手を引いて店から飛び出していく。
残されたダイクは笑いながら手を振りながら、そんな二人を見送ったのだった。
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