2 イベント概要Ⅱ
本日二話目。
イベント全容が今明かされる。
……つまり説明回です。申し訳ない。
あとがきに解説を追加。
「おはよう、アイビス」
『おはようございます、アスカ』
いつものようにホームへログインしたアスカ。
日課となった魔力草への水やりを行いながら、さっそくアイビスにイベントの事を聞いてみる。
「アイビス、なんかイベントがあるんだって?」
『アスカ、情報が早いですね。その通りです』
「何時からやるの?」
『今から二週間後です。期間は一週間。お盆の時期に合わせて行われます』
毎年数多のゲームが販売され、ネットゲームでは多種多様なイベントが開催される。
そしてイベントが集中するのが年末年始、GW、お盆休み、秋のシルバーウィーク、そしてクリスマス。
この期間は学校、一般企業共に休みとなる事が多く、各ネットゲームではアクティブ率が上がり、売り上げのチャンスとなる。
当然、正式稼働して間もない『Blue Planet Online』も例外ではなく、その時期に合わせてのイベント開催となる。
「どういうイベントなの?」
『大型レイドイベントです。『オペレーション・スキップショット』南のバゼル港より南下した位置に新たな島を発見。ナインステイツと呼称します。そして新たな土地、資源確保のため上陸に適した湾、ホクトベイに上陸し、開催期間中の一週間以内にエリア一帯を確保することを主眼とした上陸作戦です』
「な、なんだかものすごいスケールのイベントだね」
『はい。私からしても少々やりすぎと思える程の規模です』
「アイビスから見てもそうなの?」
『ブロックがかかっているので詳細はお伝え出来ませんが、このイベントに許可を出すなんて頭のねじが飛んでいるとしか思えません』
「と、当然モンスターも出るんでしょう?」
『はい。ナインステイツはモンスター達の楽園とされているため、強烈な抵抗が予想されます』
聞けば聞くほどヤバい匂いしかしてこない。
アイビスは支援AIであり、運営側と考えていい。
そのアイビスが『やりすぎ』『頭のねじが飛んでいる』と豪語するのだ。
警戒するには十分すぎる要因だろう。
イベント報酬や貢献度の事など、より詳しい話をするには今いる狭いホームではいささか窮屈。
魔力草への水やりも終えたので、この話は一旦ここで打ち切りミッドガルへ移動する。
ポータルのある広場の近く、手ごろなカフェのオープンテラスに腰掛けるとボーイにアイスコーヒーを注文。
アイビスとの話を再開する。
「イベントなんだけど、ランキングと報酬があるの?」
『はい。このイベントにどのくらい貢献したかをポイントで表記、ランキング形式で公開します。この貢献ポイントはイベント終了後、報酬リストのアイテムと引き換えることが可能です。また貢献ポイントランキング上位者には特別報酬としてプレミアムランナーチケットとジルが貰えます』
「なるほどなるほど。報酬はどういうのがあるのかな?」
『大量にあります。回復アイテム、素材、武器、追加兵装、プレミアムアーマー、魔導石、スキルブック、アンティーク等々』
「そんなに……じゃあ、その中にフライトアーマーでつかえるやつも……」
『当然あります』
「なるほど、それなら私も頑張らないと!」
イベントに興味はないが、貰える報酬で飛行がさらに楽しめるのならば話は別。
ここにきて参加意欲がふつふつと湧いてくる。
これだけ報酬が多いのならばフライトアーマーで使えるものも一つや二つではないはずだ。
必然的にたくさんポイントを稼がなければならない。
「アイビス、貢献ポイントってどんなのがあるの?」
『大きく分けて四つとそれらを合算した総合獲得ポイントです』
四つの貢献ポイントについてアイビスは詳しく説明してくれた。
一つは、敵を撃破することで得られるキルポイント。
一つは、敵にダメージを与える事で得られるアタックポイント。
一つは、味方の攻撃を支援することで得られるアシストポイント。
一つは、味方の簡易拠点を作り、兵站を賄う事で得られるサプライポイント。
そして、この四つのポイントを全て足し合わせた総合獲得ポイントの五つからなると言う。
「キルポイントとアタックポイントは分かるけど、アシストポイントとサプライポイント?」
『アシストポイントは味方からは見えない位置にいる敵を観測、発見した敵を味方が攻撃すること、また敵をスタンやスリープなどの状態異常にさせることで得られます』
「なるほど。まさに味方の攻撃支援な訳だね。サプライポイントは?」
『サプライポイントは各種回復アイテム、弾薬、食料を運び、味方へ補給。ダメージの回復、支援魔法の使用。また、土嚢による防壁の建造などで得られます』
「……アイテムの運搬に補給、土嚢による防壁?」
アイビスの説明に妙な引っ掛かりを覚えたアスカ。
以前の説明では弾薬はインベントリに最大九九九までストック出来、回復アイテムも同品質なら一〇個、別枠に同じ品質アイテムを入れればそれ以上の回復アイテムをストックできるのだ。
その事から多少の事では弾切れやアイテム不足に陥るとは考えにくい。
それなのに、アイテム類を持ち運び味方に補給することで得られるポイントが存在する。
さらに、土嚢による防壁。
多少の戦闘や閉所での戦闘ではあまり必要ないはずの物だが、これを作ることでポイントが得られるという。
つまるところ……。
「つまりこのイベントって、サプライでポイントが稼げるくらいに広範囲で、土嚢が必要なくらい敵の攻撃がやばいって事?」
『…………』
「アイビス?」
『…………』
「アイビス!?」
アイビス、黙秘権を行使。
ちなみにこの四つの貢献ポイント。
運営側にはこれにより各アーマーの役割をある程度明確化させる狙いがある。
キル、アタックポイントは前線を張るアサルト、ストライカーと後方支援のスナイパーを主眼に。
アシストは広範囲攻撃が出来るマジックと支援魔法の使えるメディック。そして索敵、通信範囲が広いスカウトを。
サプライはトランスポートとメディックを軸とし、陣地の構築と、味方の継戦能力を伸ばす狙いだ。
ソルジャーは汎用の名が指し示す通り、全ての役割を担えるが、特化した性能ではない為大量に稼げるわけではない。
そして肝心のフライトアーマーだが……。
「キル、アタック、アシスト、サプライか……。フライトアーマーならどれが稼げるかな、アイビス」
『…………』
「アイビス?」
『…………』
「アイビスってば!」
アイビス、黙秘権の行使を継続。
しかし、これに関してはアスカも思うところはある。
この一週間フライトアーマーを使い続けてきたが、どう考えても戦闘向きではないのだ。
広大なマップで火力支援を行えるほどの火器は携行できず、飛行可能時間も短く、装甲も紙。
活躍できる気がしない。
「う~ん、空を飛びながら見える敵をちょくちょく撃つしかないかな……ほかには何かルールはあるの?」
『はい。イベントマップには一日に入っていられる時間に制限が発生します』
「制限時間?」
『長時間の戦闘行為はゲームとは言え精神的に疲弊します。その為、一日六時間までという制限が設けられています』
大型レイドイベント『オペレーション・スキップショット』は上陸作戦という特性上、イベントマップにいる間は絶えず戦闘を行うことになる。
いくらこれがゲームであり死なないと分かっていても自身のすぐそばで爆発が起こり、銃弾が飛び交い、剣で切りあうなどの行為は精神的に大きく疲弊する。
その事を考慮しての制限時間なのだ。
また、イベントマップで一日にプレイできる時間を設ける『制限時間方式』は『Blue Planet Online』に限らず、どのVRゲームでも実施している。
ゲームのイベントで好成績を収めたいという者は数多いが、その成績は概ねイベントプレイ時間に直結する。
つまり、規制をかけないと寝ることもしないまま延々とプレイし続けるプレイヤーが続出するのだ。
事実、このあたりの規制が緩かったVRゲーム黎明期には、不眠不休でイベントをやり続けた結果精神的変調を来たし病院へ救急搬送される案件が大量に発生したのだ。
なお、この規制、プレイヤーからは『社会人、学生関係なくイコールコンディションで楽しめる』『一日に出来る時間が限られているから予定が立てやすい』『複数のゲームのイベントを同時並行できる』と概ね好意的な捉え方をされている。
「あ~なんかそんな話、前ニュースでやってた気がするなぁ」
『正しくは仮想現実空間遊戯装置規制法で明確に定められています。……詳細をご所望ですか?』
「いや、いいよ。絶対長いし訳わからないし……」
アイビスに制限時間の説明を受け、法律の話になり乾いた笑いを飛ばす。
法律というものは何故かカタカナ表記を嫌い、さらに分かりにくい言い回しをしていて、長い。
アスカは、氷がだいぶ解けて薄くなってきたアイスコーヒーをくいっと飲み込み、一呼吸。
ふぅ、と息を吐いた後、アイビスに続ける。
「で、他には?」
『使用エグゾアーマーに関する規定があります』
「……もしかして数種類のエグゾアーマーを使わないといけないとか!?」
『いえ、種類ではなく、イベントで使用するエグゾアーマーの登録です』
「何それ?」
聞きなれない言葉に思わず眉を顰めるアスカ。
そんなアスカにアイビスは分かりやすく説明してくれた。
曰く、イベントマップで使えるのは、マップに入る際ガレージに登録してある三つのエグゾアーマーのみ。
エグゾアーマーの種別、Tierに規制はないが、登録した三つがいわば残機的な扱いとなり撃破されたエグゾアーマーが使用不可になる。
三つのエグゾアーマーすべてで撃破されると強制的にバゼル港へ送還され、その日は制限時間内であってもイベントマップに再入場できなくなるそうだ。
また、この制限はリアル時間の午前二時に六時間の制限時間とともにリセットされるという。
「なるほど、それがペナルティになるってわけだね。死亡によるアイテムロストは?」
『ありません。また、いくつかのアイテムはイベントマップ内で支給されます』
「へぇ、支給があるんだ。どんなものがあるの?」
『HPとMPポーション、各種弾薬類です』
「MPポーション支給されるの!?」
『大丈夫ですよ、アスカ』
MPポーションと聞いてアスカの顔に焦りが出る。
目下、魔力草バブルにより儲けているため、ここで支給品が出回ると卸値が一気に値下がりする恐れがあるのだ。
大型イベントを前に何かと入用になるのは確実。貴重な収入源を失うのは痛い。
それを察したのか、アイビスがすかさず補足してくれる。
なんでも、支給MPポーションは回復量五〇の品質Gクラスのもので、一人につき一日一〇個までという制限付き。
さらに、支給品は日を持ち越して所持できるが、使用出来るのはイベントマップのみだと言う。
「そうなんだ……よかった。あ、それなら弾薬は?」
『弾薬は通常弾のみ支給され、弾数、回数に上限はありません』
「上限ないんだ! じゃあ、弾薬費は気にしなくていいんだね。アイビス、支給されるのが通常弾のみって言うのは?」
『通常弾はアスカが普段使っているNPCショップで購入している物と同じです』
なお、支給される弾薬も支給品扱いであり、イベントマップでしか使用することが出来ない。
支給されないのはランナーメイクの銃弾、及び有料ポイントを使って購入した硬芯徹甲弾、成形炸薬弾等だという。
「硬芯? 炸薬……?」
『通常より貫通力の高い銃弾だと考えてください』
またも出てきた聞きなれない単語に首をかしげるアスカ。
この有料弾、通常のものより貫通力、ダメージ効率が高く、これらを装填した銃火器は同Tierのレイ装備より火力が高くなる。
しかし、バズーカなどで一発使うならまだしも重機関銃などで使用すると文字通り金が溶ける。
故にランナーの間では使いどころが肝心の奥の手として認識されている。
これらの有料弾はゲーム内通貨ジルでも買える他、【錬金】と【製造】スキルを駆使し、かつ貴重素材を集められればランナー自らが製作することが可能だ。
もっとも、ジルでの購入にせよ自作するにせよ、素材自体が高価なため結局高くつくのだが。
ふむぅ、とアスカは考え込みながらカフェの机に突っ伏した。
アイビスからイベントの概要を聞いてはみたが、結局はかなり大がかりだという事と、今のアスカでは結果が残せそうにないという結論しか出てこなかったからだ。
「問題は山積みだね……どうしよう……」
必死になって対処策を考えるが、どうにもいい案が思い浮かばない。
『誰かに相談されてみてはいかがでしょう?』
「相談……そうだね。一人で悩んでてもしょうがないか」
よし、と立ち上がったアスカは「とりあえず、午前中の分回収しよう!」と、いつものようにガイルド山岳にある魔力草を回収するべく、東門へ向けて歩き出すのだった。
仮想現実空間遊戯装置規制法
VRゲームが普及したら作られてもおかしくないなと思い作者がでっち上げた架空の法律。
英語とカタカナ言葉が嫌いなお役所らしく、とことんまで堅苦しい言葉と言い回しでまとめられている。
硬芯徹甲弾
英語では『Armor Piercing Composite Rigid』。頭文字を取ってAPCR。
通常の徹甲弾とは違い、弾芯にタングステン合金や劣化ウラン合金などの重金属を使った弾。
発砲時に高初速が得られ、敵の装甲を貫徹するのに特化している。
ただし、通常の徹甲弾より弾芯が重いため、距離が離れれば離れるほど貫通力が低下する。
現在では航空機関砲などの大口径銃火器で使用されることが多い。
成形炸薬弾
対戦車を主眼として作られたため英語名では『High-Explosive Anti-Tank』。
これも頭文字を取ってHEATと呼ばれる。
砲弾だけではなく対戦車ミサイル、対潜水艦にも用いられる強力な弾頭。
作用を説明しようとするとそれだけで一話分使ってしまうので割愛。
みんな大好きRPG7の弾頭部分がこれ。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、そして誤字脱字報告ありがとうございます!
現在も日間ランキング2位を維持させていただいております。
これもひとえに皆様の応援のおかげです。
『Operation Skip Shot』編はまだ始まったばかり。
かなりの長丁場ですが、どうかお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。




