39 カルブの暴走
本日一話目更新です。
あとがき追加。
「アスカさん、ありがとうございました!」
「助かりました」
「ありがとな、ねーちゃん」
「どういたしまして。どう、フライトアーマーの強さ、分ったでしょう?」
「うん。ねーちゃんカッコよかったぜ。亀みたいになってたのは笑えたけどな!」
「それは言わないで!」
ハイオーガの討伐を完了した四人は湖の畔で小休止した後撤収を開始し、トティス村へと帰還していた。
全員満身創痍ではあったが、まずアスカが単身村へと帰還することで回復し、その後来る時と同じように上空観測によりメラーナ達を誘導。
無事全員帰還することが出来たのだ。
なお、カルブが言う『亀みたいになっていた』というのは背中から地面に落っこちたアスカがメラーナのサポートなしでは起き上がれなかった時のことを比喩したもの。
アスカが背負うフライトユニットには飛行するための主翼、垂直尾翼、エンジン、プロペラが一緒くたにされている。
その為、仰向けで地面に転がると垂直尾翼と主翼が引っかかり起き上がれなくなってしまうのだ。
上半身を起こそうとするが、垂直尾翼のせいで体が浮いている為踏ん張りがきかず、横に転がろうとすれば今度は腕以上の長さをもつ主翼がつっかえて転がれない。
ならばとユニットを動かすがアスカの体が持ち上がるだけで何の意味もなさなかった。
アスカからしたらかなり焦る事案なのだが、はたから見て仰向けでもがく様はひっくり返った亀そのもの。
メラーナは助けようと必死、ラゴは苦笑い、カルブに至っては腹を抱えて大笑いしていた。
ちなみに、正しい起き上がり方は一度エグゾアーマーを解除することである。
「カルブは飛ばされてスタンしてたから、アスカお姉さんの最後の攻撃見れなかったものね。あれはすごかったよ」
「うん、ハイオーガに突撃してそのまま背中に張り付くなんて芸当、私たちには絶対無理だもん。動画撮ってあるから、あとで見せてあげるね」
「うわぁ、早くみてぇ!」
カルブはハイオーガ戦を終えてから、態度が劇的に軟化していた。
当初はゲーム内最弱だと思っていたフライトアーマーだが、実際にはピンチを助けられ、ハイオーガの隙を作り、攻撃の起点造りをしてくれていた。
さらに、被弾失速からの復活。
フライトアーマーを使っていないカルブから見ても墜落間違いなしと思えた落下だったが、アスカはそれを見事に立て直し、水面スレスレを飛行しての突撃を敢行した。
このロマン溢れるアクションはカルブの態度を改めさせるのには十分だった。
「メラーナ、動画なんてとってたの?」
「はい。戦闘は出来る限り撮るようにしてるんです。動画で見直せば反省点や改善点が見えますから」
「真面目なのね」
「うちにはきかん坊がいますから。考えなしだと毎回全滅です」
「な、なんで俺を見るんだよ」
メラーナの冷たい視線がカルブを串刺しにしていた。
「それだけ回りが苦労してるって事よ。少しは反省しなさい」
「ぐっ……ねーちゃんに言われるなら、しょうがねぇ」
「カルブ、びっくりするほど素直になったね」
「認めた相手には素直に従う……まるで犬ね」
「メラーナ、ラゴ! お前ら聞こえてんぞ!」
メラーナ達三人はランナー協会へクエスト報酬をもらいに行くという事でここで小隊解散となった。
彼女たちからはクエスト報酬も山分けしましょうと提案されたのだが、アスカはこれを固辞。
アスカからしたらフライトアーマーの強さを見せつけられたのであればそれで十分であり、報酬には毛ほどの興味もわかなかったのだ。
むしろ私に分ける資金で火器を揃えなさいと助言し、その場を後にした。
三人と別れたアスカはそのまま村の反対側の出入り口からクリフ平原へ出ると、フライトアーマーを実体化。
フライトユニットを駆動させて軽やかに空へと飛び立った。
「今日はいろいろあったねー。最初はテンションダダ下がりになるし、その後はキレそうになるし」
『キレそうどころか、明らかにキレていたと思いますが?』
「ま、結果が良ければすべて良しじゃない? 私はカルブにフライトアーマーの良さを教えられて満足、メラーナ達はクエスト達成で火器調達の目途がついて満足、みんな幸せ!」
『はい。満足してもらえたのでしたら、私も嬉しいです』
「うんうん、それが一番だよ。で、今日の戦闘なんだけど、アイビスはどう思う?」
『やはりアーマライトの火力不足が顕著だと思われます。グレネードランチャーも動きを止めるのには有効ですが、ダメージソースとしては弱いでしょう』
「うん、やっぱりそこだよね。やっぱりダイクさんの所かな?」
『それが無難かと』
「乙式三型の改造もあるし、明日もダイクさんのお店に行かないとだね」
『今日は向かわないのですか?』
「今日はこのままフリーフライトだよ。まだ翡翠も十分に試してないものね」
『了解しました』
「よーし、いくよ、フルスロットル!」
アスカはフライトユニットを全開にして加速、そのまま空高く昇って行った。
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トティス村のランナー協会。
その入り口にラゴとカルブの二人が立っていた。
ミッドガルの街ならともかく、支所扱いである各村のランナー協会の内部はお世辞にも広いとは言えない。
その為クエスト報告をメラーナ一人で行い、ラゴとカルブは外で彼女の帰りを待っていたのだ。
「クエスト報酬どんなのだったっけ?」
「報酬一五〇〇〇ジルにハイオーガの素材多数だね。今のところ製造できるアーマーもないから、何かしら火器をそろえないと」
「火器かー、必要ないと思ったんだけどな」
「その判断のせいで私たち大変な目にあったのよ。反省しなさい」
二人の会話に入ってきたのは達成報告を終わらせ、報酬を受け取り戻ってきたメラーナ。
二人の話はランナー協会から丁度出てきたメラーナにも聞こえていたようで、そのまま釘を刺されてしまった。
「ちぇっ。悪かったよ。ネットの攻略と掲示板信用しすぎた」
「分かればよろしい。それで、このクエスト報酬の使い道なんだけど」
「山分けするの?」
「いいえ。素材は全部売却して、全資金で私とカルブの火器を買いましょう」
「えっ、ラゴの火器はどうするんだ?」
『ラゴはストライカーアーマーです。基本三名で小隊プレイされるという事ですので、接近特化型のストライカーには火器を搭載せず近距離専門で問題ないと思われます』
「で、ラゴの浮いた分私とカルブの火器をそろえようってわけ。反論は認めません!」
「横暴じゃね!?」
「そうなった原因を自分の胸に手を当ててよく考えなさい!」
メラーナの迫力と説得力の前にカルブ、あえなく撃沈。
もともと低かった彼の信用度だったが、此度の騒動を受け、彼の発言力は小隊内最下位。ストップ安。
尻に敷かれ続ける人生のスタート地点であった。
武器屋に移動する三人だが、ここでも選択権はパッセルにアドバイスを受けたメラーナの物であり、カルブは口を出すことすら許されない。
しかし、ここではあまり良い物がなく、素材を売却した後ポータルを使いミッドガルの街へ移動。
目指したのはNPCショップではなく、ランナーが開く露店市だ。
パッセル曰く、
『ゲームが正式稼働して七日が経過しています。ランナーメイドの武器もだいぶ出回ってきていますので、そちらで探すのも良いと思われます』
とのことである。
事実、ミッドガル大通りで開かれているランナーの露店市はかなりの賑わいを見せており、そのあちらこちらで客引きや値引き交渉等の声で騒がしいほどだった。
特に人だかりが多かったのは品不足であるMPポーションを販売しているお店であり、店主であろうネコミミを付けた可愛らしいランナーが慌ただしく切れ目ない客をさばいている。
三人はどこからあんなに大量のMPポーションの素材を用意したのか首をかしげるが、いくら考えてもその答えは導き出せずその場を後にした。
他にも露店は服からアーマーパーツに回復アイテム、武器と多種多様。
こうなると男の子は武器に吸い寄せられ、女の子は洋服に吸い寄せられてしまうのは仕方のない事だろう。
合間合間でパッセルから注意を受け、余計なものを買わずに済んだことだけは不幸中の幸いか。
本来の目的をようやく思い出した三人は沢山ある露店の中からよさそうな武器屋を探し、店主に声をかける。
「いらっしゃい。何かお探しかな?」
「えっと、レイライフルで、単発も連射も出来て、レイサーベルにもなる銃ってありませんか?」
「……は?」
素っ頓狂な顔をし、メラーナが何を言っているのか理解していない様子の店主。
「メラーナ、それってアスカお姉さんの使ってた奴?」
「うん。私が持つのはあれが一番いいと思うんだ。あれだと後方支援もできるし、接近戦もできるでしょ」
「確かに。なぁおっちゃん。ないか? 全部できる銃?」
「い、いや、君たち何言ってるんだ? そんな武器存在しないだろ?」
「「「え?」」」
真面目に答えてくる店主に、今度は三人が虚を突かれた方になる。
「ないんですか!?」
「ない。少なくとも俺は見たことない。製造スキルやウェポンブックにも載ってないし、ゲーム開始時のポイントボーナス武器にもない」
「そんなことねぇよ。ねーちゃんが使ってたんだもん。おっさんが作れないだけだろ?」
「んだとこのガキ!」
「わわっ、ごめんなさい! もう、カルブ」
「店主さん、今言った銃、作ることは可能ですか?」
「あぁ? そうだなぁ……ある程度の製造スキルと貴重な魔石を使って、マニュアル製造なら作れないこともないだろうけど……」
「けど?」
「完全なオーダーメイド品。一品物になるのは間違いないな」
そこで三人は顔を見合わせる。
よくよく考えれば、あの銃は確かに特殊だった。
ゲーム内で上下二段式というだけでも珍しいのに、銃身は純白。
単発、連射を使い分け、挙句サーベルにまでなる。
言われてみればそんな銃は見たことも聞いたこともないのだ。
単に単発と連射の使い分けならできる銃もあるが、それは実弾アサルトライフル系の武器であり序盤である今のレイライフルでその機能を持った武器は存在しない。
「ねぇ、アスカさんって何者なんだろう?」
「このゲームで希少なフライトアーマー使いで、ユニークウェポンの使い手?」
「なにそれ!? めっちゃかっこいい!」
「あーそこで溜まられると困るんだけど……」
「あ、ごめんなさい! じゃあ、レイライフル見せてもらっていいですか?」
「おっけ、それならあるよ。ちょっと待ってな」
店主の忠告で目的を思い出したメラーナは、店主が取り出した複数のレイライフルの中から使いやすそうなものを購入。
カルブも大剣での攻撃に邪魔にならないであろう背面格納式レイマシンガンを購入し、露店市を後にした。
「今さらだけど、アスカお姉さん凄い人だね」
「うん。飛ぶのだけでも大変なのに、あんな凄い武器まで使いこなすって、相当練習したはずだよ」
「でも弱いって評判なんだよね」
「……気に入らねぇ」
「カルブ?」
「だってよ、あんなにすごいんだぜ? 皆もうちょっと認めてくれてもいいじゃん」
「どうしたの? カルブだって最初は最弱アーマーだって罵ってたじゃない」
「だからだよ。せっかくあんなに強いのに、認めてもらえてないなんて癪じゃねぇか」
カルブの豹変に二人は一体どうしたことかと顔を見合わせる。
おそらくハイオーガとアスカの戦闘に当てられたのだろうが、それにしてもテンションが上がりすぎている。
一体いつからそんなにフライトアーマー押しになったのか?
「よし、俺ちょっと皆にねーちゃんの凄さ教えてくる!」
「え、あ、ちょっと、カルブ!?」
「メラーナ、あとで戦闘の動画送っておいてくれよ!」
「それは良いけど、どこへ行くの!?」
「まぁ、任せてろって!」
いきなり走り出したカルブはそのまま大通りで往来の多い人込みの中に消えてゆく。
「カルブ、何する気だろう?」
「アスカお姉さんの迷惑にならないことだといいけど」
「さ、さすがにカルブでもそのあたりは弁えてる……よね?」
「……たぶん」
二人は一抹の不安を覚えながらも、カルブの消えていった人の行き交う大通りをただ見ていることしかできなかった。
マルチウェポン・エルジアエ
アスカはこれをダイクに造ってもらいましたが、これは何も彼女だけのユニークウェポンと言う訳ではありません。
このゲームは製造の自由度が極めて高く、NPCショップで「こう言う武器が欲しい」と言えばある程度それに沿った武器、ないしは設計図を貰えます。もちろん、エグゾアーマーのTierやスキルレベルに沿ったものにはなりますが。
今回の場面で露店店主がマルチウェポンの事を知らなかったのは単純で『NPCに聞かなかった』と言う一点だけです。
逆を言うと、誰でもアスカの様に素材と強力な魔石を持ち込み「単発、連射、サーベルになる銃はありませんか?」と聞けば相応の物を作ってもらえます。
『Blue Planet Online』にはたった一人だけが持つ『ユニーク』は存在しません。すべての物が『造れ』ます。
違うのは『万人がそれを扱えるわけではない』という事ですね。
たくさんの感想、評価、ブックマークありがとうございます!
日間ランキングにも毎日載せていただき感謝の念に堪えません。
これからもアスカと仲間たちが楽しく遊ぶ物語をよろしくお願いします!
初見様にレビューをいただきました!
本当にありがとうございます!




