38 高鬼Ⅱ
本日二話目更新です。
カッコいいアスカ、その二。
まっすぐに突っ込んでくるアスカに対し、ハイオーガは飛ぶ斬撃とファイアーボールで迎撃する。
ファイアーボールは魔法陣で前兆が見える上に速度も遅い。
先ほどは被弾してしまった斬撃も、発動モーションが鉈を振ることだと知ってしまえば対処は楽。
振ってくるタイミングでバレルロールすることで難なく回避できる。
「そんな攻撃に当たるか!」
『あの斬撃は魔法攻撃『エアスラスト』です。もう一発当たれば持ちません。注意してください』
「当たらなければどうという事はない!」
『先ほど被弾しましたが?』
「初見はノーカン!」
魔法攻撃による迎撃を回避しながらアーマライトによる牽制射撃。
こちらも回避行動のため動いているのであまり命中はしないが、グレネードランチャーと合わせて絶えず打ち続けることでハイオーガの意識をアスカに集中させる。
ハイオーガが目の前まで迫った時、アスカが狙ったのはハイオーガではなく、手前の水面。
水面にグレネードランチャーを当て大きな水柱を作り、視界を遮断する。
アスカはすれ違いの攻撃はせずそのまま上昇。
置き土産にマジックグレネードを忘れない。
突っ込んでくるアスカにカウンターの一撃を入れようと鉈を構えていたハイオーガは、いきなりの視界を奪う水柱とマジックグレネードの爆発で大きくよろめく。
やはりダメージは大したことないが、動きを止めさせた。
その隙をついて再び回復したカルブとラゴが攻撃する。
今度はラゴが先陣を切り、大剣を回収したカルブがそれに続く。
ストライカーらしくラゴがダメージを稼ぎ、反撃をアサルトのカルブが大剣を使ってガードする。
少しおとなしいラゴと活発なカルブ。
はた目からは対照的な二人だが、さすがは幼馴染、コンビネーションもぴったりだ。
《アスカさん、回復かけます!》
再び上空旋回に戻ったアスカにメラーナからの通信。
アスカの体が緑の光に包まれ、残り三割ほどまで減っていたHPが八割に回復する。
「ありがとう、メラーナ」
《アスカさんのおかげで私たちまだ生きてますから、これくらいなんてことないです》
地上を見ればメラーナがこちらに笑顔で向け手を振っていた。
戦闘中に余裕ね、とアスカはクスリと笑ってしまう。
戦況はアスカ達有利に進んだ。
突撃癖のあるカルブだが、戦闘になるとなかなかのたくましさを見せ、大ぶりや致命傷になりそうな攻撃はガードしつつダメージを稼ぐ。
ラゴはそんなカルブをうまく盾として使い奮戦。
二人が対処できない状況に陥った時にアスカの航空支援が入り、ハイオーガを牽制する。
少しずつ蓄積されるダメージもHPポーションとメラーナの魔法で回復させ、前線の二人は安全圏で戦闘を継続。
そして、ついにハイオーガのHPを三割以下にする。
「よっし、あとちょい!」
「……気を付けてカルブ。何か様子が変だ」
最初に気が付いたのはラゴ。
ハイオーガの体から赤い蒸気が昇り、眼から赤い狂気の光を放ち始めたのだ。
「グオオオォォォォォ!」
「へっ、雄叫び上げようがもう俺たちの勝ちだ!」
「ガアァァ!」
赤い蒸気をまとったハイオーガが繰り出す、振り下ろしの一撃。
対象はカルブ。
躱してよけようとするが思いのほか攻撃が速く、咄嗟に頭上に大剣を掲げてのガードに切り替える。
鉈と大剣がぶつかり合う、今までに何度も繰り返されたシーン。
だが、周辺に今までよりもより重い金属音が響き、両者全力での鍔迫り合いになる。
「なんだこれ!? 今までよりも重いっ」
「カルブ!」
今まではしっかり耐えていたカルブが、今回は上から押しつぶされそうになっていた。
その状況を危険と判断したラゴはすぐさまハイオーガへ飛び掛かる。
一撃目を入れ、そのまま二撃目を入れる。
だが、同時にハイオーガの拳による反撃を食らい吹き飛ばされ、湖に落ちてしまった。
「ラゴ! くそっ!」
一対一では分が悪い。
戦う前はザコだと思っていたが、実際に戦ってみると危険極まりない相手であり、タイマン勝負できる相手ではないとカルブは理解していた。
膠着状態から抜け出すため、鍔迫り合いになっていたハイオーガの鉈を大剣を傾けることで流し、返す刀でハイオーガの腹へ一撃を入れる。
「どうだっ」
手ごたえ十分の一撃。
してやったりのドヤ顔でハイオーガを見る。
だが、立ち尽くすハイオーガの姿を見た瞬間、顔から血の気が引き、背中に冷や汗がドッと溢れ出す。
しっかりと入った胴への横薙ぎ。
だが、ハイオーガはそれに対してのアクションを一切見せず、依然体から赤い蒸気を発したまま腰を低く落とし、鉈を『両手で』振りかぶっていたのだ。
その狂気溢れる眼が見定めるのは眼前にいる敵対者。
カルブは咄嗟に大剣をガードに回すが、繰り出されるのはハイオーガの本気の一撃。
野球でもするかのような豪快なスイングで繰り出された一撃は、湖に今までで一番大きな衝撃と音を響かせると共にカルブをガードごと森の中へ消し飛ばす。
「カルブ!」
湖にメラーナの声が響く。
ラゴ、カルブ両名とも体力ゲージで確認する限りまだ生きている。
吹き飛ばされたことで間合いが開き、追撃を受けなかったことが幸いした形だ。
だが、そのHPは瀕死に近い上にスタン状態に陥っており復活しきれていない。
グフゥ、と赤い息を吐いたハイオーガはギロリとメラーナを睨みつける。
「パ、パッセル、あの赤い蒸気、何?」
『ハイオーガのHPが一定以下になると発動する、【バーサーカー】です』
バーサーカー。
対象のHPが三割以下になると発動。
全ての攻撃に対しノックバックを起こさなくなる『ハイパーアーマー』となり、物理攻撃力と魔法攻撃力、敏捷が上昇する、強力なスキル。
代償として防御力が物理、魔法ともに大きく減少する。
「それ、先に教えてよぉ!」
『初戦闘モンスターに関しては能力値や戦闘技能に関する情報を事前に開示できません。マスタープロテクトがかかっています』
「ど、どう言う事!?」
『一回見ないと教えられません。ゲームですので』
「バカァ! っきゃあ!」
この危機的状況に涙目になるメラーナにハイオーガのファイアーボールが降り注ぐ。
攻撃能力を持たないメラーナは必死に躱し、自身にマジックバリアを使い耐えしのぐしかない。
だが、バーサーカー状態のハイオーガは魔法の連射速度も上がっているようで、降り注ぐ火の玉に切れ目がない。
至近弾を受け次第に苦しくなってゆく。
「これ以上は無理ぃ! アスカさぁぁぁん!」
《今助けるよ、メラーナ!》
アスカはメラーナが一方的に攻撃されるのをただ見ていたわけではない。
ラゴが飛ばされた時点で異常に気付き、注意を引き、足を止めさせるべく攻撃を行っていた。
だが、ハイオーガは止まらなかった。
アーマライトのグレネード、エルジアエの連射に単発。
すべて試したがこちらを見向きもしなかったのだ。
カルブ達の攻撃とアスカの射撃でハイオーガの残りHPは二割ほどまで減っている。
だが、このままではアスカが射撃で倒す前にメラーナがやられてしまう。
「射撃が駄目ならっ」
アスカはエルジアエを持ち直し、セレクターレバーをレイサーベルにセット。
銃口から赤い刀身を出現させ、上空旋回からロー・ヨーヨーを使って速度を稼ぎながらハイオーガの背面に向け突撃を開始する。
「止まれ、デカ物!」
充分に稼いだ勢いそのまま、アスカは眼前に迫るハイオーガへ向け刀身が維持されたままのエルジアエを『投げつけた』。
「ガアアァァァァ!」
少しでも早くハイオーガの攻撃を止めさせたかったその投擲はハイオーガの背中へ深々と突き刺さる。
バーサーカー状態故、ノックバックは発生しないが、目論見通りハイオーガはメラーナへの魔法攻撃を中断し、背後から攻撃してきた不届き者を視界に収めようと身をひるがえす。
その赤い瞳に映ったのは、猛烈な勢いで突っ込んでくるアスカの姿。
コースはハイオーガに対してすれ違うものではなく、体当たりでもするかのような衝突コース。
「どりゃああぁぁぁぁ!」
「ブルアアァァァァァ!」
アスカの突撃にカウンターを合わせようとするハイオーガだが、それより先にアスカの蹴りが刺さる。
この蹴りによりハイオーガのHPが削れるが、それ以上にアスカのHPが一気に削れてしまった。
元より、軽いアスカが重量級のハイオーガに体当たりしたところで威力などほとんどなく、そこにあるのは飛行速度からくる衝突ダメージ。
一見意味のない攻撃に見えるが、狙いはそこではない。
アスカの考えではこれは『蹴り』ではなく『強行着陸』なのだ。
その『着陸』先はハイオーガの背中。
フライトユニットの推進力で自身の体を強引にハイオーガに押さえつけて背中からずり落ちることを防ぎ、突き刺さったままだったエルジアエを右手で抜き放つ。
レイサーベルになっていたセレクターレバーを連射にセットし、左手にはアーマライト。
それは以前試した二丁持ちの形。
前回は銃が暴れ狙いが付けられず、一発も命中しなかったが、今立っているのはハイオーガの背中。
いくら暴れようとも外さない。
「沈めえぇぇ!」
目の前の背中にエルジアエ、アーマライト両銃の銃口を向け、トリガーを同時にひく。
銃口からマズルフラッシュが咲き乱れ、ハイオーガの背中からは被弾エフェクトが飛び散る。
「ゴアアァァァァ!」
ガリガリと削れて行くハイオーガの残りHP。
ハイオーガは何とか背中のアスカを払い落とそうとするが、フライトユニットの全推進力で張り付くアスカは落されない。
ならばと手に持った鉈でアスカを刺そうとするが、そこにメラーナの支援が入る。
「【フォースバインド】!」
メラーナの叫び声と同時にハイオーガの足元に魔法陣が発生。
そこから鞭のような紐状の物が出現し、ハイオーガに張り付き動きを阻害する。
さすがのハイパーアーマーもノーダメージで動きを阻害するだけのバインド攻撃には効果がなく、アスカを刺そうとした鉈もからめとられ動きを止めた。
「メラーナ!」
「ボス相手にはほとんど持たないです、早く!」
「僕にまかせろ! とどめぇっ!」
叫んだのはスタンから回復したラゴ。
スラスターを全開、水しぶきを上げながらハイオーガへ突撃。
勢いそのままにハイオーガの脇腹へ刺突を放つ。
深々と突き刺さったその一撃は左の腹部から右へと貫通し、ハイオーガは動きを完全に止めた。
低い声でうめき声を上げるハイオーガのHPゲージはゼロになっており、頭の方から次第に光の粒子となって消滅していった。
「た、倒したの……?」
「やった……か?」
その場にへたり込むメラーナに、呆然と立ち尽くしているラゴ。
そしてアスカは……。
「あいた!」
足場にしていたハイオーガが消滅し、同時にフライトユニットも停止させたため背中から地面に落っこちていた。
<ハイオーガを倒しました>
<1685expを獲得しました>
<高鬼の魔石を入手しました>
<剛皮を入手しました>
『ハイオーガの消滅を確認。お疲れさまでした』
「ふいー、今回もギリギリだったねぇ」
アスカは残りHP、MP共に二割を切っている。
メラーナやラゴも限界であり、もう少し戦闘が長引いていたら全滅していただろう。
「アスカさん、やりました! 私たち勝ちました!」
「きゃあっ、メラーナ、飛びつかないで!」
感極まったメラーナが寝転がっているアスカに抱きついてきた。
驚いたアスカがもがいているが、はた目からは何とも微笑ましい光景だ。
「ぬおぉぉ、ハイオーガはどこだ!? 俺がとどめを刺してやる!」
大声を上げ、森の中から出てきたのはカルブ。
ハイオーガの一撃でかなり吹き飛ばされた上に長い間スタンしていたのだ。
スタンからようやく回復し戻ってきたのだが、彼を見る仲間の目は冷ややかだった。
「あ……あれ?」
「……カルブ、もう終わったよ」
「……ログ、見てないの?」
「ええぇ……」
がっくりと項垂れるカルブ。
何とも締まらないハイオーガ戦の幕引きとなった。
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