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空を夢見た少女はゲームの世界で空を飛ぶ  作者: アル
Welcome to Blue Planet Online world!
36/232

36 地上・森の中の三人

本日二話目更新です!


 アスカと別れ、ヘレンの森へ入った三人はエグゾアーマーを展開する。

 カルブは大剣を背負ったアサルトアーマー、ラゴは腰に刀を携えた武者型ストライカーアーマー、そしてメラーナは背に通信用アンテナを装備したメディックアーマーだ。


 メディックアーマーは回復魔法と支援魔法が使用できるエグゾアーマーで、味方の生存能力と継戦能力を大きく向上させることが出来る。

 代わりに攻撃魔法が使えず、重火器も装備することは出来ない。

 だが、持ち前のしぶとさで緊急時には前線を張るなど、使い手によっては化けるポテンシャルを秘めている。


 メラーナが装備するメディックアーマーはTierⅠのもので、装甲はマジック以上ソルジャー以下。

 特徴は帽子型の頭部アーマーと腰のサークレット。

 頭部アーマーはナースキャップによく似た形状で、正面にメディックを表す十字が示されている。

 腰にはサークレットのようなCの字型をしたアーマーが付いていて、戦闘時にはそこからくるぶしの辺りまでレイスカートが展開される。

 このレイスカートは光る半透明のスカートであり、布と同じように動くためランナーの動きを制限せず、それでいて防御幕としても作用するメディックアーマーを象徴する優秀な装備だ。

 なお、この防御幕の発生にはMPを消費しない。

 手に持っているのは錫杖。

 これはメラーナがポイントボーナスで取得したものであり、攻撃能力はほぼないが回復魔法の威力向上、支援魔法の継続時間延長が付いている装備だ。


「やっぱメラーナはスカウトよりそっちの方が似合うな」

「カルブがもっとしっかりしてくれてればメディックのまま行けるんだけどね」

「ぐっ、ま、まぁみてろって」

「それは良いとしてさ。どうする? ここのまま奥へ入る?」


 森の入り口であるこの場所はまだ明るいが、ここから先は鬱蒼とした森林が広がり、視界が悪い。

 三人がどうしようかと二の足を踏んでいると、上空からエンジン音が聞こえてきた。

 その音は三人の頭上を越え、さらに森の奥の方へと進んでゆく。

 するとメラーナのレーダーに敵の位置情報が表示され、他二名にも敵アイコンとして視界に表示される。


 アスカが上空で索敵を開始し、共有された情報が表示されたのだ。


《メラーナ、敵の位置情報見えてる?》

「はい、すごいです。私からは見えないのに全部わかっちゃいます」

《上空待機してるから、何かあったらすぐに支援要請だしてね》

「はい、わかりました」

「……いまのアスカお姉さんか。やっぱり空を飛べるって有利だね」

「なんでもいいじゃん。敵の位置が分かったんならさっさと行こうぜ」


 ずかずかと森の中に入っていくカルブを追うようにして二人も森へ入る。


『湖の場所を表示しますか?』

「うん、お願いパッセル」


 パッセルの提案を承諾するとナビアイコンとそこまでの距離が表示された。

 ただし、これが表示されているのはメラーナだけであり、他二名には見えていない。


「カルブ、まって。こっちだわ」

「えっ、分かるのか?」

「ナビ表示してもらったから」


 カルブを制し、前に出る。

 そのまま進路上にいる敵はよけ、縫うようにして湖へ向かって進んでゆく。


 時折敵の位置情報が見えなくなるが、それもまたすぐに表示される。

 アスカが上空を旋回飛行し、索敵してくれているのだろう。


「……最初はエンジン音が聞こえたのに今はあまり聞こえないね」

「そういえば……でも、敵の位置情報が更新されるし、レーダーにも味方表示されてるわよ?」


 すでに三人は森の奥へ入り、周りからは虫や鳥の鳴き声、風に揺れて葉っぱが擦れあう自然音にあふれていた。

 しかし、その合間を縫って聞こえてくるはずのアスカのエンジン音が聞こえてこない。


 実際にはMP節約のためにエンジンを止めて滑空飛行を行っているだけなのだが、そんなこととは露知らず首をかしげるメラーナとラゴの二人。


「意外と役に立つな、あのねーちゃん」

「カルブ、またそんなこと言って」

「最弱アーマーなんだし、当然じゃね?」

「カルブはどうしてフライトアーマーが最弱だと思うんだ?」

「掲示板と攻略サイトにそう書いてあった」

「……その認識は改めた方が良いよ」

「どうして?」

「あの人と僕たちで戦闘したら、絶対に勝てない」

「そうね。アスカさんは空から攻撃できるけど、私たちには攻撃できる手段がないわ」

「地上に降りてきた所を仕留めればいいだけじゃん」

「もう二〇分近く森の中進んでるけど、アスカお姉さんからMP切れたって通信ないよね?」

「……言われてみればそうね」

「こっそり帰ってるだけじゃねーの?」

「それだとメラーナのレーダーからアスカお姉さんの反応がなくなって、表示された敵が消えるはずだよ。ヘルプに味方に索敵して表示された敵反応は一定時間経過で消えるって書いてあったから」


 Blue Planet Onlineにはゲーム内で戦闘訓練が行えるチュートリアルや、メニュー画面の片隅にシステムを説明するヘルプの項目がある。

 だが、それらは読み終わるまでに時間がかかる上、項目も多岐にわたる。

 その為、熟読する事は少なく体感で覚えていく事が圧倒的に多い。


 膨大な量のヘルプを読んだというラゴを、カルブは珍獣でも見るかのような眼で見つめていた。

 体を動かすのが好きで、面白くない説明書を読むだけで頭痛がしてくる彼は、最初の一ページ目の半分も読まないで投げ捨てたのだ。


「ラゴ、あの長ったらしいヘルプ読んだのか?」

「うん。ちょっと死に過ぎたからなにか載ってないかと思って。で、そこから推測するとアスカお姉さんはMPを重点的に上げてるけど、その数値以上に飛行できる技術を持ってるってことになる」

「まさか、チート?」

「支援AIのスキルを持ってたから、それはないと思う。パッセルもそうだけど、支援AIってある意味運営に監視されてるようなものだから、違反行為はその場で忠告されるか、通報されるはずだよ」

『その通りです。アスカはゲームシステムに則り、正当なプレイをしています』


 支援AIは初心者ランナーをサポートすると同時に、マナーを教えたり、違反行為を未然に止める等の他、悪質ランナーからの妨害から守るなどの監視行為も行っている。

 彼らの前ではチートなどは不可能であり、チートはプログラム自体をブロックし、違反行為を繰り返すランナーには支援AI自らがGMに通報を行う。

 逆に言えば、支援AIがいる中で行われているプレイはすべてグリーンである。


 たとえそれがどんなに人外じみた行為だったとしても。


「じゃあ、アスカさんはチートなんか使わないでフライトアーマーを使いこなし、かつMPの数値以上に飛行することが出来て、さらに無音飛行ができるって事?」

「そうなるよね。現状」

「そういえば、少し前にフライトアーマーで墜落しまくってる緑髪のランナーがいるって掲示板に……ほら、ここ」


 不愉快そうにここまでの話を聞いていたカルブが何か思い出したようにメニューを開き、そこから掲示板を表示。

 二人に見せてくる。

 その場所は最新のものではなく、スレッドのナンバーからしてゲームが解放されてすぐの頃の物だった。


「なになに、『飛び立っていってすぐに墜落、でも街から出てきてまた飛んでいった』『何かが墜落したような穴が出来てた』『緑の髪の長いポニーテール』……アスカさんっぽいわね」

「アスカお姉さんさっきゲーム初めてすぐに一〇回墜落で死んだって言ってたし、間違いないと思う。フライトアーマー専用スレにも載ってる」

「えっ、あ、本当だ。『自由自在に空を飛行する緑髪ランナー』『飛べないはずの高高度で高難易度の機動飛行』」

「もしかしてあのねーちゃん、有名人?」

「それもとびっきりの凄腕?」


 三人は冷や汗を浮かべた顔でお互いを見合わせ、同時に全員で上を見上げる。

 もっとも、見えるのは木の葉ばかりで、上空にいるはずのアスカは視認できなかったが。


《メラーナ、聞こえる?》

「うぇっ、ひゃ、ひゃいっ!」

《どうしたの? 大丈夫?》


 噂をすれば影。

 アスカの事を話していたところにいきなり本人から通信が入り、不意を突かれたメラーナは思わず変な声が出てしまった。

 

「あ、はい、大丈夫です。どうかしましたか?」

《MPがそろそろ危ないから、一回村に戻るね》

「分かりました。私たちはここで待ってますね」

《お願い。すぐに戻るよ》


 通信はそこで終了し、レーダーに映るアスカのアイコンも村の方へと向かってゆく。

 だが、やはりエンジン音はせず、ただ鳥の鳴き声が響くのみ。


「アスカさん、MP回復してくるって」

「戻ってくるまでは待機だね。下手に動くとエンカウントするし」

「ちょっとぐらいいじゃん。俺退屈だよ」


 メラーナ、ラゴの二人は近くの木の根をベンチ代わりにして腰を下ろし、カルブは背中の大剣を構え豪快に素振りを始める。

 だが、しばらくすると何を思ったのか急に背中に剣を仕舞い、そのまま森の奥へ向かって走り出そうとするではないか。


 それを見ていた二人は今回ばかりはやらせないと羽交い絞めにしてカルブを止める。

 その顔は必死そのものだ。


「バカ! ここまで来てアスカさんの協力を無駄にする気!?」

「カルブ、ここは抑えて。暴れたいならハイオーガ相手にしよう!」

「じっとなんかしてらんねぇよ! うぐぐ、はなせえぇ」


 ここでカルブに暴走され、また大量のモンスターを引き連れて帰ってこられると作戦が破綻する。


 次回もアスカの支援が得られる保証はなく、むしろ愛想をつかされ拒否される可能性のほうが高いだろう。

 それ故二人は全力でカルブを止める。

 今ここで彼が突っ走った時点で三人のBlue Planet Onlineが終了するのだから。


 必死に諭され止められるカルブだが、明らかに不服そうにしていた。

 アイビスが立てたこの作戦。

 慎重にいけば敵と戦闘になることはないが、動いて遊びまわりたいカルブのようなランナーにはフラストレーションが溜まってゆく一方だった。


 しぶしぶ二人に従いおとなしくなったところでアスカが復帰。

 敵から見つからないように湖までたどり着く、スニーキングミッションが再開された。





 途中何度か敵に見つかりそうになりながらも、三人はようやく目的地の湖までたどり着く。


 森の中のぽっかりと開いた空間にその湖はあった。

 湖の大きさはかなりの物であり、対岸の木々がかなり遠くに見えている。

 メラーナ達が今いる森の切れ目から湖の縁まではわずかに平地があり、水際の周りは水深が深くない事と合わさって見通しが良く動きやすい。


 水源が近くにあるのか、水はかなりの透明度を誇っており、湖奥に行けば行くほど鮮やかなサファイアブルーの色をしていた。

 本来ならこの見事な風景と湖に見とれてしまうところだが、メラーナ達三人にそんな余裕は無くただ一点を注視している。


 三人の視線の先。

 水際にいくつか置いてある岩の上に、そのモンスターは居た。


 岩の上に腰掛け、こちらに緑色の背中を向けた茶褐色の頭髪。

 腰には鉈のような武器を携え、わずかに見える腕と足には、木どころか岩までも砕いてしまいそうなほどに鍛えられた筋肉が見えている。


 これこそが、彼らが受けた討伐クエスト対象モンスター、ハイオーガ。


「……見つけた。こいつが」

「へっ、こっちに背を向けてるんだ。このまま突っ込んで決めてやる」

「待って、今アスカさんに連絡するから」


 まだ相手はこちらに気付いていない。

 そう考えたカルブは背中の大剣を構え、スラスターを起動。

 腰を低く落とし突撃の姿勢を取る。


 そして一気に飛び掛かろうとした時。

 こちらに背を向けていたハイオーガの首が回り、三人をギロリと睨みつけた。


「ばれた!」

「構わねぇ、いくぞ!」

「カルブ! もう、まだアスカさんに連絡してないのに! 【フィジックスバリア】!」


 もう待てないとばかりにカルブが突撃を開始。

 慌てたメラーナが魔法の名を叫ぶと足元に魔法陣が出現し、前に構えた錫杖が光り輝く。

 するとカルブの体が光の球体で覆われ、周囲にバリアを形成した。


 これが防御魔法【フィジックスバリア】。

 敵からの物理攻撃を大きく軽減することが出来る支援魔法だ。


 カルブはバリア形成の光を全身に纏いながらハイオーガへ向かって突貫。

 全力を解放したスラスターは唸りをあげ、両者の間合いを一気に詰める。


 対するハイオーガは未だ動かず、こちらを見ながらも背中を向けている状況だ。

 そのがら空きの背中へ向け、構えた大剣を叫びながら振り下ろす。


 殺った。

 そう確信したカルブだったが、彼は次の瞬間脇に生えていた大木へ叩きつけられていた。


 ゲーム故痛みや失神はないが、あまりの衝撃とともに計算されたダメージによりスタン状態に陥り、行動不能になる。

 何が起きたのか理解できず、地面に這いつくばるカルブ。


 視線の先にはこちらを睨みつけながらゆっくりと岩から立ち上がるハイオーガの姿。


「カルブ、大丈夫!?」

「裏拳だ」


 まだ攻撃態勢を整えていなかったラゴと支援のため後方に控えていたメラーナの二人は何が起きたのかよく見えていた。


 大剣が振り下ろされるより早く、ハイオーガの裏拳がカルブを捉えていたのだ。

 それも、ただの裏拳ではない。


 人一人分はあろうかという太い腕を、片方の腕に引っ掛けて溜めを作ることで威力を数倍にした裏拳だった。


 ハイオーガにとって一直線に突っ込んでくるカルブに溜めを作った裏拳のタイミングを合わせることなど造作もない事であり、むしろカルブがなぜまだ生きているのかと言う事の方が不可解だった。


「ぐ、くそ……」


 大剣を支えにして何とか立ち上がろうとするカルブ。


 速度という物は諸刃の剣でもある。

 勢いに乗った一撃は通常の数倍の威力になるが、カウンターを合わせられるとその威力はすべて自分に跳ね返ってくる。


 事実、カウンターの裏拳でカルブはHPの八割を喪失。

 もし重装甲のアサルトアーマーを装備していなかったら。

 もしメラーナがフィジックスバリアをかけてくれていなかったら。


 どちらかが欠けていたとしても彼は一撃で死んでいただろう。


 未だ動きの取れないカルブへ向け、ハイオーガはゆっくりと歩き出す。

 『苦しいか? 今楽にしてやる』言葉をしゃべれないMOBであるハイオーガだが、全身でもってその言葉を発し、腰に携えた鉈を手に取る。


「まずい! メラーナ、僕も行く。アスカお姉さんに支援要請を」

「分かった! ラゴ、気を付けて」


 このままではカルブがやられる。

 ラゴは居合の構えを取り、ハイオーガへ向け走り出す。


 メラーナは回復魔法を唱えつつ、空にいるはずのアスカへ向け支援要請を発信した。



ほとんどアスカが出てこない話ですが、こういった地上視点を入れやすくするためにこの物語は三人称視点を採用しています。


たくさんの感謝、評価、ブックマークほんっとうにありがとうございます!

アスカが飛びたい空はまだまだたくさんありますので、応援よろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
[一言] いい加減お仕置きが必要かと思ってたがハイオーガさんがキツい一発お見舞いしてくれたしこれで目が覚めんなら本気で怒るぞ( ;゜皿゜)ノシ しかし下から音も聞こえん飛び方されて上からナパームでも…
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