34 うわっ……私の命安すぎ……?
本日二話目更新です!
非そち
メラーナからのクエスト協力要請を受諾し、三人の小隊へ参加。
四人は今ヘレンの森の入り口にある、トティス村へと向かっていた。
「ねーちゃん、歩くのおせーぞ」
「私が飛んだらあなた達がついてこれないじゃない」
「それしか能がねーからじゃん。やっぱフライトアーマーって弱っち……」
「何か言った?」
「いえ、何でもないです……」
この四人の歩行速度はスカウトアーマーのメラーナが一番早く、次いでストライカーのラゴ、アサルトのカルブと続き、最後にフライトアーマーのアスカとなる。
その為アスカ以外の三人は速度を合わせるしかなく、少し進んでは止まって待ち、また進んでは待つというのを繰り返すしかない。
カルブがしびれを切らし煽ってくるが、それは怒気を飛ばすことで黙らせる。
少し前の彼ならそれにも反応し言い返してきたが、今はおとなしくなっている。
先のあまりにひどい蛮行に対し……。
「次煽ってきたらその首切り落とすからね」
とアスカに言われ、
『煽ったのはそちらです。非はそちらにあると報告します』
とアイビスに正当化され、
「これだけひどい事言ったのに、協力してくれるアスカさんに向かってこれ以上暴言はいたら絶交だからね」
とメラーナに突き付けられ、
「カルブ、僕もさすがにこれはフォローしきれないよ。レッドネームになったら一緒にプレイは無理だ」
とラゴに見捨てられ、完全に四面楚歌となったのだ。
幼馴染二人に責められたのに加え、公正な立場、かつ後ろには運営がいるアイビスの違反通報の圧力が強く、カルブも強く出られなくなったことでようやく噛みついては来なくなったのだ。
戦闘については劇的に改善された。
まず、索敵範囲が広いメラーナが敵を発見。
すぐさまカルブが突っ込んでいくが、先に接敵するのは空を飛行するアスカ。
威嚇と牽制射撃で注意を引き、ついでにいくらかHPを削る。
そこにカルブとラゴの二人が不意を突くことで楽に倒せるようになったのだ。
「アスカさんが加わっただけですごい楽になりました!」
「背後や側面からの奇襲攻撃はクリティカルになりやすいから、敵がすぐに倒せます。ねぇカルブ、掲示板には本当に弱いなんて書いてあったの? 僕、信じられないんだけど」
「うっ……ほ、本当だよ! 火力が低くて敵が倒せない、装甲も薄くてすぐにやられる、アイテムも持てない、肝心の飛べる時間も短い、最弱のアーマーだって書いてあったもん!」
悔しがり、必死に弁明するカルブだが、二人の目は冷ややかだ。
それに対しアスカはフライトアーマーの評価が上がったことに終始ご満悦。
手を腰に置き、鼻高々。体全体でドヤっていた。
その後も何度か戦闘を行い、四人はトティス村にたどり着く。
トティス村はヘレンの森の入り口にあるという話だったのだが、正確には半分森に埋まっていた。
建物も木造建築の物が多く、平屋のログハウスが大半を占めている。
ただ、形状はバリエーションがあり、オーソドックスな切妻屋根に寄棟屋根、正方形屋根に、複数のお店が連続した鋸屋根や、特徴的なものでゆくと屋根の形が非対称になっている招き屋根の住居もある。
「す、すごいねここ」
「うわぁ、なんか神秘的ですねぇ」
神秘的、というメラーナの言葉が的を射ている。
半分森に侵食、もしくは埋まっているだけあり大通り以外に土色の道がほとんどなく、住居にはツタや木が生い茂り、すごいものでは家の中から木が生えていた。
「僕も、ここまでファンタジーなのは初めて見ました。すごい村ですね……」
この見たこともないような風景の村に、ラゴも見入っていた。
カルブは今のところ黙っているが、皆と同じく村の雰囲気に圧倒されている。
そろってそのまま村の入り口で立ち尽くしていると、四人に気が付いた村人がこちらに近付き、話しかけてきてくれた。
「ようこそ、トティス村へ。君たちはランナーさんかな?」
「あ、はい、そうです。クエストでちょっと立ち寄ったんですけど」
「こんな寂れた村へ、わざわざどうも。あぁでも、最近はランナーの人が増えたね」
「あなたはこの村の住人さん?」
「うん。薬屋を営んでる、タックという者さ」
タックと名乗るのはリュックを背負った高身長の青年。
服装は村人のような服そのものだが、金髪碧眼のイケメンだ。
そして彼の特徴的な耳の形に、アスカは目をとめた。
「タックさん、その耳……」
「耳? あぁ、尖っているだろう? 僕はエルフだからね」
「エルフ!」
「エルフ?」
「!」
カルブ、メラーナ、ラゴが三者三様の反応を示す。
このトティス村の住人の七割ほどがエルフだという。
なんでも、森の中に聖樹があり、代々それを守り敬う一族がこの場所に村を作ったそうだ。
開村時はまだ森から離れていたのだが、年々森が大きくなり気がついたら飲み込まれてしまっていたという、何ともスケールの大きな話だった。
「この大通り沿いにお店は集中してるし、反対側に抜ければそのまま森の中へ入れる。中央には広場があって、ポータルもそこだよ」
「なるほど、ありがとうございます」
「何もない村だけど、ゆっくりしていってくれ」
そう言うとタックは村の中へ歩いて行った。
よくよく見れば、彼の頭の上には緑のアイコンが浮かんでいる。
どうやら彼はNPCのようだ。
「アイビス、この村はエルフが多いの?」
『はい。最初にランナーが選択できる種別は、すべてこの世界に生きる人々です。エルフは自然を愛し、森の恵みを受け生活しています。トティス村は彼らが採取、精製した薬、果物などが特産になります』
なるほどね、とアスカが頷いていると、すぐ横にメラーナがいるのに気が付いた。
どうやら、今のアイビスとの会話を立ち聞きしていたようだ。
「どうしたの? メラーナ」
「アスカさん、アイビスさんってAIなんですよね? どこで手に入れたんですか?」
「えっ」
どうやら、メラーナはアイビス、つまり【支援AI】スキルの入手方法を知らなかったようだ。
「メラーナ、アイビスが欲しいの?」
「はい。私みたいな初心者にいろいろ教えてくれて、助けてくれそうなので。……難しいですか?」
「いや、難しくはないんだけど、でも、う〜ん……」
メラーナは首をかしげているが、正直教えていいのか悩む。
なにしろ、アスカはゲームを開始してプレイ二四時間以内に一〇回死亡というとんでもない条件のもとアイビスを入手しているのだ。
わざわざ入手のために死んで来いなどとはさすがに言えない。
『メラーナ。【支援AI】のスキルは、スキルショップで購入できますよ』
「えぇっ!?」
「アスカさんが驚くんですか!?」
アイビスの一言に驚くメラーナだが、それ以上にアスカが驚いていた。
アイビスが話す、衝撃の真実。
【支援AI】のスキルはすべての町と村で販売されていて、しかも一〇〇ジルというとんでもない安さなのだという。
当然メラーナは大喜びだが、アスカはどこか納得できない。
「わ、私の命一〇回分がわずか一〇〇ジル……」
「アスカさん、どうしたんですか?」
「いや、まさかそんなに簡単で、しかも安いなんて思わなくって」
「お姉さん、どうやってスキル取ったんですか?」
「……回死亡」
「えっ?」
「墜落で一〇回死亡」
「うわぁ……」
三人そろってドン引きであった。
「ま、まぁ、私の事は置いておいて、なんで【支援AI】のこと知らなかったの? 公式ページにも載ってるって話だったけど」
「それは……」
メラーナとラゴは横目でカルブを見る。
するとカルブはばつが悪そうに視線を三人から逸らす。
……まさか。
「カルブ、あなた……」
「や、だ、だって掲示板や攻略サイトに【支援AI】は不要って書いてあったんだよ! 誰でも分かることを説明するだけの不要スキルだって」
カルブは掲示板やサイトの情報を確認もせずに鵜呑みにし、プレイ開始前【支援AI】は取らなくていいと告げていた。
メラーナ、ラゴの二人はそれを信じ、取得も購入もしなかったのだが、結果は御覧の通り。
詰む寸前まで追い込まれてしまった。
確かに、掲示板と攻略サイトのどちらにも【支援AI】のスキルは不要、と記載されている。
だが、それは数多のVRMMOをプレイしてきた強者達の話であり、ゲーム初心者のカルブ達にこそ必要なスキルだったのだ。
もし、彼らのうちの誰かが【支援AI】を取得していたら、初手で火器全売却はしていなかっただろう。
一〇〇ジルならここまでの戦闘で得たドロップ品を売却すれば購入できる。
四人は一度中央広場のポータルまで行き、メラーナ達はスキルショップへ向かう事にし、アスカは住民クエスト消化のためそこで分かれることになった。
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「ん〜っと、ここだね」
メラーナ達と別れたアスカは、ナビアイコンを頼りに荷物の届け先であるマギお婆ちゃんの元へと向かった。
そして、アイコンが指し示したのがこの店、ルーン薬草店。
薬草店とはあるが、軒先に薬草等は置いておらず、見た目は他の家同様ログハウスで、全体の七割ほどがツタで覆われていた。
戸先に『ルーン薬草店』と書いてある札と、入り口にΛの字型で立ててあるウェルカムボードがなければ見落としかねない、そんなお店だった。
「こんにちはー」
アスカは入り口までの階段を上り、そのままドアを開ける。
「いらっしゃいませ。おや、君はさっきの」
「あ、どうも」
中にいたのは先ほど村の入り口で会ったエルフのタックであった。
「来るとは思わなかったよ。なにかご入用かな?」
「ミッドガルでフラワーショップをしてる、リーネさん達からのお届け物をもってきたのですが、マギお婆ちゃん、いらっしゃいますか?」
「マギ婆ちゃんかい? ちょっとまってて」
タックはそう言うと、店の奥に消えていった。
待っている間、アスカは店内を見て回る。
薬草店と言ってもそこまで大きなものではなく、住居であるログハウスの三割ほどを店にしている感じだ。
壁沿いと店舗中央部分に木とガラスで作られたショーケースや棚が置かれ、商品が陳列されている。
ケースの中には乾燥した薬草が入っているが、薬草店というだけあって種類が多い。
HPポーションの原料になる薬草に加え、毒消し、麻痺治しの他、ラベンダーやミント、サフラン等のハーブ類も取り扱っていた。
棚の方にはポーションが置かれていたが、興味を引かれたのは砕かれた葉が入っているガラス瓶だ。
[アイテム]カモミールの茶葉 品質D 値段500ジル
カモミールの葉を乾燥させ、茶葉にしたもの。
煮だすことでお茶になり、カモミールの香りと味を楽しむことが出来る
「へぇ、茶葉売ってるんだ」
アスカは普段緑茶派なので、ハーブティにはあまり馴染みがなく茶葉を見ることもなかったのだが、その茶葉をゲームの世界で買えるとは思わなかった。
ビンは他にも複数あり、それぞれラベンダーやローズマリーなど、葉で販売していたものを茶葉にしていた。
近くにはガラス製のおしゃれなポットやカップも置いてあり、セット購入してしまいたい欲にかられてくる。
アスカがしばらく険しい顔でポットに手を伸ばしたり戻したりしていると、店の奥の方から声が聞こえてきた。
「おまたせ。マギ婆ちゃん連れてきたよ」
アスカが振り返ると、タックの他に一人の女性が立っていた。
金髪碧眼に尖った特徴的な耳、いかにもエルフらしい特徴だが、アスカは思わず首をかしげてしまう。
マギ婆ちゃんと言われたその女性は老婆というにはあまりにも若々しかったのだ。
彼女はタックと同じく高身長だが、しっかりと自分の足で立っていて、眼にはモノクル眼鏡、白のブラウスに紺のロングスカート。
顔や裾から先の手には確かにしわが出ているが、それは老婆ではなく、年齢を重ね、知的な雰囲気を醸し出す美女の姿だった。
「初めまして。マギよ。リーネからの届け物だという事だけれど」
「あ、はい、これです。一緒に手紙もあります」
お届け物、という言葉に反応し、慌ててインベントリから小包を取り出すとマギに直接手渡した。
「ありがとう、ランナーさん。確認するわね」
アスカから小包を受け取ったマギ婆ちゃんは、カウンターの上に置くと手紙の封を開け、眼を滑らせる。
一通り手紙の内容を読み終わり、マギはクスリと笑う。
「ふふっ、リーネらしいわね。配達ありがとう。確かに受け取ったわ。はいこれ。配達料金ね」
マギ婆ちゃんから報酬の三〇〇ジルを受け取ると、ウィンドウがポップアップし、クエスト成功と表示された。
「無事に配達できてよかったです」
「これのためにわざわざここまで来てくれたの?」
「トティス村には来たことなかったので、ちょうどいい機会でした」
「でも、それでわざわざ……そうだわ、ちょっと待ってて」
マギはそう言うとカウンターの下から球根が数個入った袋をいくつか取り出し、それらをカウンターの上に並べる。
球根は大きさも形も様々なことから、それぞれ別の種類なのだろう。
「観賞用の物がほとんどなのだけど、よければ一つ持っていって」
「良いんですか?」
「えぇ。私が趣味で集めたものだけど、綺麗さは保障するわ」
ふむ、と並べられた球根に目をやる。クエスト報酬に花の球根、とあったが、おそらくはこれがそうなのだろう。
幸い、球根には種類が表示されていて、何の球根か分からないという事はない。
球根の表示はそれぞれ『チューリップ』『カサブランカ』『アネモネ』『アルストロメリア』等の様々な種類があり、目移りしてしまう。
「う〜ん……じゃあ、これをお願いします」
たくさんある球根の中からアスカが選んだのは、こぶしよりも一回り小さな『リコリス』のものだった。
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