33 仲良し三人組の失策
本日一話目更新です。
メラーナ、ラゴ、カルブの三人は同じ中学校に通う幼馴染。
学校でも三人でいることが多く、学校の外でも一緒によく遊ぶ間柄だ。
特にここ最近はVRゲームで遊ぶことが多く、人の少ない穴場のゲームショップで『Blue Planet Online』の購入権を獲得。
みんなで仲良くプレイすることになった。
そしてポイントボーナスと初期エグゾアーマー設定時。
ラゴは昔から時代劇が好きで、剣道をしていたこともあり一目散に武者アーマーを獲得。
ログイン後の初期資金も装備の刀に全投資。
カルブは格好の良さからツーハンデッドソードに飛びつき、残ったポイントで杭打機を獲得。
ただツーハンデッドソードはその大きさからアサルトアーマーでしか装備が出来ない専用品であり、エグゾアーマーの選択肢はなかった。
ログイン後の資金は杭打機の弾薬とHPポーションで消費。
メラーナはそんな二人の性格をよく理解していた。
ラゴならこの鎧武者そっくりのアーマーに飛びつくだろうし、カルブは突撃することしか頭にないだろう。
それをサポートするために、回復魔法や防御魔法の使えるメディックアーマーを選択。
初期設定が終了。
三人が合流しプレイを始めると、カルブの「銃なんか必要ない、お金にしてアイテム買おう」の一言で全員の初期装備の火器を売却。
それでもミッドガル周辺のゴブリンやウルフ程度であれば、問題なく撃退できた。
ここまではよかったのだ。ここまでは。
三人が最初に目指したのは東のガイルド山岳。
ここで現れたのが物理の天敵、ロックリザード。
ラゴとカルブは攻撃が通らず、支援特化の装備にしたメラーナにも魔法攻撃の手段がなかった。
さらにカルブがあちこち走り回った挙句、周囲のロックリザードを引き連れ二人のもとへ帰還と言うトレイン事案が発生。
戦闘開始直後こそメラーナの魔法とポーションを使用し持ちこたえたが、メラーナのMPが尽きると一気に崩壊。
結局三人仲良く死に戻り。
ならばと今度は北のライアット雪山へ。
しかし、そこで待ち受けるのはスニーゴーラとゴブリンライダー。
雪原に白い毛並みのスニーゴーラは視認が難しく、気が付くと周りを包囲されていた。
本来スニーゴーラは知能が高く、索敵範囲も広い。
こちらが先に気付けなかった場合、複数の敵とともに奇襲、待ち伏せなどを行ってくる。
メラーナ達が包囲されたことに気付いた時はまだそれなりに距離があり、火器があればまだ対処はできた。
が、その火器は最初に全て売却済み。
結局スニーゴーラのパワーとゴブリンライダーの機動力に蹂躙されたのだった。
そもそも、火器装備がある以上、敵もこちらが火器を持っている前提でプログラミングされている。
それをわざわざ装備しないというのは縛りプレイ以外の何物でもないのだ。
カルブ以外の二人もこの時点で火器の重要性に気付くが、すでに後の祭り。
初期資金はすべて使いきった上、死に戻りによりアイテムも残数が少ない。
加えてMPポーションの不足が痛かった。
魔法を使うメラーナはもとより、ラゴ、カルブの両名もスラスターでMPを消費する。
この現状を鑑み、メラーナはメディックアーマーの使用を断念。
幸い、TierⅠのエグゾアーマーであれば資金ゼロで獲得できる。
そこで少しでも奇襲を避け、かつ敵を先に発見できるスカウトアーマーを選択。
手持ち武器はメディックアーマーから引き継いだロングソード。
体制を一新し、北のライアット雪原にリベンジ。
索敵範囲が広がり、奇襲を受けることはなくなったが今度は敵を攻撃する手段がない。
挙句、敵が目の前にいるのに攻撃できないことに耐えきれなくなったカルブが勝手に突貫。
数分後敵を数多引き連れて戻ってくるというトレイン事案再びの地獄絵図。
この時メラーナが【救援信号】の存在に気付き発信。
運よく近くにいた小隊が助けてくれたのだが、今度はその小隊にカルブが噛みつき口論に発展。
挙句、GMコールされ警告を受けてしまった。
メラーナ、ラゴの両名が必死に謝り事なきを得たが、その日はそこでプレイを終了することになった。
そして今日。
メラーナはカルブに絶対突撃するなと釘をさし、クエストを受領して西のヘレンの森へ。
だが勢いだけが取柄である彼は表示される敵アイコンを見つけるといてもたってもいられず突撃。
当然多数のウルフをトレインして帰還し、小隊を窮地へと追いやった。
全滅必至となった状況からメラーナが藁にもすがる思いで救援信号を発信。
その信号をアスカが受信し救援に駆け付けたというのが今の状況である。
―――――――――――――――――――――――
「あ~それで火器が……」
「はい。このままだと先に進めません……」
ここまでの経緯を申し訳なく、悲しそうに話すメラーナ。
その後ろにいるラゴもうつむき加減だ。唯一、カルブだけは元気いっぱい。
「キャラクターリメイクは?」
「それも考えたんですけど……」
「僕たち、最初の特典ポイント上限まで使ってるんです。出来ることなら逃したくなくて……」
二人はどこまでも申し訳なさそうだった。
ラゴの武者装備は全額の一三〇〇pts、メラーナも回復、支援魔法、スキルなどですべてのポイントを使っている。
リメイクをした場合、初期生産クーポンの三〇〇ptsは戻ってこない。
「あの馬鹿が原因なんでしょ? 彼にリメイクさせたら?」
「カルブも大剣に八〇〇pts、バンカーに五〇〇pts使ってます。なにより、あの性格なので絶対にやらないかと」
「う~ん、あの性格だものねぇ」
三人はそろってカルブを見る。
「なんだよ。みんなで俺を見て。て、照れるじゃねぇか」
その表情はどこまでも明るく、かつ何も考えていない顔。
三人は深いため息をつく。
「このクエストさえクリアできれば、成功報酬と素材売却で銃を買えると思うんです。だから……おねがいします!」
「アスカお姉さん、お願いします!」
「う~ん……」
三人が縛りプレイ状態になり、ひっ迫しているのは自業自得だ。
キャラクターリメイクしたがらないのも有用なスキルや装備を手放したくないだけのわがままであり、助ける理由にはならない。
そも、アスカは信号を受けた上で救援に入ったもかかわらず暴言を浴びせかけられたのだ。
GMコールをされても文句が言えない。
「メラーナ、そんな奴の協力なんかいらないぞ。最弱の激弱アーマーなんて、足手まといだ!」
――ブチッ。
どうしようか悩んでいるときに再び浴びせかけられた暴言。
アスカの中で何かが切れた。
止まらないカルブの悪態を謝罪しようとしたメラーナ、ラゴの両名が止める間もなく。
アスカはカルブに詰め寄るとエルジアエのレイサーベルを発生させ、その切っ先を突きつけた。
「あんたねぇ……さっきから聞いてりゃ何度も何度も何度も何度も……いい加減にしなさいよ!?」
「な、なに怒ってんだよ、本当の事だろ!」
『警告。貴方の先ほどの発言は記録しています。救援信号を行い、救援に入ったランナーに対しての暴言、侮辱行為はBlue Planet Online利用規約、第一〇章三項、一〇項に違反。第一四章、二項に抵触しています。すぐに被害ランナーに謝罪してください。当違反、抵触行為は処罰対象となります』
「な、だ、誰だ!?」
レイサーベルを突き付けられても反省の色が全く見えない。
そのまま串刺しにしてやろうかと思ったが、アイビスの言葉で踏み止まり、サーベルを下ろす。
「私の支援AIアイビスよ。なに、アイビス。私違反行為されたの?」
『はい。救援信号を受けた上で助けに入ったランナーに対しての侮辱行為はマナー違反であり、規約違反です。謝罪が行われない場合は通報します』
「お、俺は救援信号なんて出してないぞ!」
『救援信号は小隊から発信されました。この場合、小隊員全員が発信に合意したものと判断します。信号を発信し、救援を貰った上で「出していない」という発言は受け付けられません』
「だ、そうよ。ちなみに罰則って言うのはどういうものがあるの?」
『数日間のレッドネーム、アカウント停止措置。それでも反省が見られない場合、アカウント削除もあり得ます』
「ぐっ……」
レッドネームは重大なマナー違反行為や万引きなどの犯罪行為においてペナルティーとして課されるものであり、違反者が一目でわかるのはもちろん、街でのHP、MP自動回復がなくなる。
さらにNPCの好感度がゼロになり、ショップでの売買不可、もしくは超高価格。
レッドネーム解除後も好感度ゼロからスタートするため、まともに買い物できるようになるまで時間がかかる。
アカウント停止は言わずもがな。
それでも分からない違反者は最終的にアカウント削除となる。
レッドネームやアカウント停止等のワードは効いたようで、さすがのカルブも口ごもる。
「馬鹿カルブ! 謝れ! 今すぐアスカさんに謝れ!」
「お前、レッドネームや停止措置食らったら一緒に遊べなくなるぞ!」
顔を真っ青にして、メラーナは胸ぐらを掴み、ラゴは羽交い絞めにしてカルブを諭す。
「わ、分かった、俺が悪かったよ! ……これでいいか?」
「……これ形だけよね」
『……一応、謝罪はしています。今回は警告とし、今後同じようなことがあった場合は通報後処罰されます。注意してください」
「……けっ。ぐほっ!」
態度を改めようとしないカルブに、メラーナの右ストレートが炸裂。
ラゴに羽交い絞めされているだけに躱すこともスウェーすることもできなかった。
「本当にごめんなさいアスカさん……この馬鹿がご迷惑を……」
「いいわ。もう行っていい?」
「……はい」
メラーナはアスカから協力を得たかったが、カルブがすべてブチ壊してしまった。
ここまで不快にさせてしまった相手を引き留めることも出来ず、頷くしかない。
「……なんだよ。フライトアーマーが弱いのは本当の事じゃんか」
ボソっとつぶやいたカルブだったが、その声はもうこの場所から去ろうと三人に背を向け、飛び立とうとしていたアスカにしっかり聞こえていた。
この暴言はアスカの収まりかけていた怒りを再び燃え上がらせるのには十分。
離陸を中止し、180度反転。
再びカルブに詰め寄った。
その光景に再び青ざめるメラーナとラゴ。
詰め寄られたカルブは慌ててメラーナの後ろに隠れるが、鬼の形相のアスカはそれを気にもせずカルブの前で仁王立ち。
普段あまり怒らないアスカであるが、今回ばかりは怒りのボルテージは限界を突破、噴火する。
「あんた、フライトアーマーは弱いっていうのね?」
「け、掲示板で読んだ。皆言ってるんだぞ、フライトアーマーは最弱だって」
「……いいわ。ならフライトアーマーが最弱じゃないってところ、見せてあげようじゃない!」
「えっ?」
「メラーナ」
「は、はいっ」
「さっき言ってたクエスト、協力してあげる」
「良いんですか!?」
「この馬鹿にフライトアーマーの強さ、身をもって味合わせてやるわ!」
カルブとラゴの両名は訳が分からずぽかんとした様子だが、メラーナは協力してもらえると大はしゃぎ。
アイビスは何も言わないが、内心呆れていることは言うまでもないだろう。
――アスカは空が飛びたくて仕方がなかった。
Blue Planet Onlineを始めるまで、彼女にとって空は見上げるだけの物であり、掴みたくても掴めない、限りなく高く、果てしなく遠い理想郷。
高校受験を終えて一息ついたこともあり、毎日空を見上げてはぼーっとし、何をしようにも身が入らない、物足りない毎日。
そんなアスカを救ってくれたのがフライトアーマーだったのだ。
CMで一目ぼれした空。
実際にプレイをし、その美しさと広大さに心を奪われた。
フライトアーマーの翼はまるで自分の物であるかのように動き、自由自在に空を飛べ、髪と頬を撫でる風は現実世界と同じ。
そんな大事なフライトアーマーを馬鹿にされたのだ。
黙ってなどいられない。
アスカは勝手に救援に入り、獲物を横取りしたと言いがかりを付けられるよりも。
協力を依頼されたのに足手まといだと暴言を吐かれるよりも。
フライトアーマーが弱いと侮辱される事のほうが許せなかった。
そしてその怒りは見返し、認めさせてやるという方向へと働いた。
――すべては、最高の空を見せてくれたフライトアーマーの名誉の為に。
トレイン
多数のmob(敵モンスター)を引き連れる行為。
その様が電車ごっこをしているように見える事からトレインと呼ばれる。
場合によってはわざとトレインを起こして一網打尽にする狩りなどもあるが、他のプレイヤーがエンカウントしなくなる、mobの攻撃対象が他者に変わると巻き添えを被るなど、迷惑行為通しての側面が強い。
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まだ見ぬ全国の空好き、メカ娘好きのみなさまに届きますよう頑張って参りますので、今後ともよろしくお願いいたします!




