32 言いがかり
本日二話目!
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ありがとうございます、皆様のおかげです!
アスカが狙ったのはこちらに側面を向けていた一匹。
距離がある上に静止する事の出来ないフライトアーマーの狙撃は必中とはいかない。
ならば少しでも面積の大きい側面を向けている敵を狙ったのだ。
エルジアエから放たれた光線はウォーウルフの側面を見事に捉える。
奇襲となった一撃はウォーウルフを大きく削るが、倒すまでには至らない。
しかし被弾の衝撃からノックバックをおこし、同時にこちらを睨みつけてくる。
それは他のウルフたちも同じで、皆アスカを敵として認識。
「そうそう、こっちだよ!」
エルジアエのチャージが終わると同時にトリガーを引きエルジアエを撃ち込む。
狙いは先ほどと同じウォーウルフだが、距離もあるため二発目、三発目は躱してくる。
『敵モンスター群、エルジアエ連射モードの射程内』
「よし、うりゃりゃりゃりゃ!」
エルジアエのセレクターレバーを連射モードに切り替え、狙いもつけずに連射する。
当然そんな撃ち方では一発も当たらないが、これは威嚇射撃だ。
ランナーを包囲するウルフ達へ手当たり次第に乱射し、ヘイトをこちらへ向けさせる。
「ガゥガゥ!」
「ウオオォーーーーーン!」
威嚇効果は抜群。
ウルフ達は包囲していたランナーへの興味を失い、空から強襲してくるアスカへ敵意を剥き出しにする。
アスカは降下する勢いそのままに突貫。
ウォーウルフとの距離はさらに縮まり、エルジアエを連射モードからレイサーベルへ切り替え刀身を発生させる。
ウォーウルフも迎え撃つ構え。
こちらへ突っ込んでくるアスカへ飛び掛かろうと腰を落とし、力を貯める。
「うおりゃあ!」
「ガアァァ!」
アスカの辻斬り対ウォーウルフの飛び掛かり。
ウォーウルフは腕を伸ばし爪で攻撃を繰り出すが、エルジアエの刀身が先にその体を捉える。
降下の勢いで最高速度に達していたフライトアーマーによる辻斬りは残っていたHPを全て奪い取り、弾き飛ばされたウォーウルフは錐揉みしながら消滅。
アスカはそのまま一団から離脱して行くが、ウルフ達はアスカを追って走り出す。
《あ、あの、助けてくれるんですか!?》
センサーユニットから聞こえてきたのは女の子の声。
見れば、ウルフに包囲されていたランナー達が唖然とした表情でアスカの方を見つめていて、その中のアンテナを背負った子が耳元を抑えていた。
おそらくあの子が身に付けているのがスカウトアーマーで、救援信号を発信したのだろう。
「うん、救援信号を貰ったから助けに来たよ! 今のうちに後退して!」
《は、はい!》
アスカはウルフ達を十分引き付けてから旋回。
横目で見たウルフ達はこちらへ一目散に走ってきており、ウォーウルフ、グラスランドウルフ共に一塊になっている。
それを確認すると装備をエルジアエからアーマライトに持ち替え、集団の真ん中へ向け照準を定めるとグレネードを打ち込んだ。
「より取り見取りっ」
フライトアーマーを高速飛行形態から巡行形態へと移行させ、ウルフ達へ向けグレネードを連射する。
機動力は高いウルフだが、防御力やHPは多くない。
小型のグラスランドウルフは至近弾でも四割ほどのHPを失い、直撃ならばそれだけで瀕死だ。
ウォーウルフは上位種だけあり削れるHPは多くないが、それでもオークやロックリザードよりはダメージの通りがはるかに良い。
グレネードの連射で足が完全に止まったウルフ達へアーマライトを連射。
これで残りHPが少なかったグラスランドウルフ五匹を討伐。
残りはウォーウルフ三体。
「よし、あとはエルジアエで……ってあれ?」
主兵装をエルジアエに持ち替えたところでこちらに近付いてくる二つのアイコンが見えた。
ランナーを示す青いアイコンは、先ほどウルフに包囲されていたランナー達だ。
HPも六割ほどに回復しており、スラスターを使って一気に突っ込んでくる。
「後退してって言ったんだけど……まぁ、いいや!」
アスカは二人に近いウォーウルフへ向け射撃。
ウルフは横へ飛んで躱すが、そこはこちらへ向け進んでくる二人の真正面。
ランナー二人はいきなり現れたウルフの背中へ向け一人は刀、もう一人は人一人分はあろうかと言う大きな大剣で躊躇なく攻撃。
背面からの奇襲攻撃はクリティカルとなり、ウォーウルフを撃退。
ウルフの消滅を確認した二人は二手に分かれ、残ったウォーウルフへ向かって走り出す。
刀を装備している方は納刀し、抜刀術。
大剣の方は剣を肩に担いで振り下ろしの一撃。
どちらも背面からの奇襲攻撃で、HPを一気に削る。
僅かに残ったHPもアスカの追撃により砕け散り、光の粒子になって消滅した。
<モンスターの群れを倒しました>
<684Expを獲得>
<毛皮を入手しました>
<魔石・小を入手しました>
「よし、これでもう大丈夫だね」
上空旋回していたアスカだが、下を見れば二人がアスカの事を見上げ、もう一人のさっきの女の子もこっちに近付いてきているのが見えた。
さすがにこのまま立ち去るのも悪いかな? と二人の近くに着陸。
二人はアスカと同じか、やや年下と言った感じの男の子で、少し強張った表情をしていた。
「君たち、危なかったね。大じょ……」
「おいお前! なに俺たちの得物横取りしてるんだよ!」
「……は?」
気さくに話しかけようとした瞬間、被せる様に大剣を背負った男の子が声を荒らげて言い放った、とんでもない言いがかり。
一瞬何を言われたのか理解できず、固まるアスカ。
「お前が割り込んでくるから、俺たちの経験値少なくなっちゃったじゃないか!」
「私は救援信号を受信したから助けたんだけど」
「俺はそんなものだしてない!」
「え? ……は、はぁ!?」
救援要請を受信し、周囲を包囲されている絶体絶命の状況から救出したのにもかかわらず、この言われようはあまりにも理不尽だ。
「ちょ、ちょっと、カルブ!?」
「俺知ってるんだ! フライトアーマーは弱っちいから、人の得物を横取りしないと経験値稼げないんだろ!」
「この……好き勝手言って!」
横にいた刀を持っていた子が大剣の子を止めようとするが、聞く耳を持たずに言い放つ。
さすがのアスカもこれ以上の侮辱は許容できない。
売られた喧嘩くらい買ってやる。
そう一歩足を踏み出したところで……。
「バカーッ!」
「げふっ!」
暴言を吐きまくっていた男性ランナーが後ろから蹴り飛ばされ、地面に倒れこんだ。
「あんた、駆け付けて救援してくれた恩人に何してるのよ!」
「恩人? こいつは俺たちの得物を横取りしたんだぞ!?」
「まって、カルブ。メラーナ、救援信号を出したの?」
「そうよ、ラゴ! カルブがウルフ集めてきて囲まれちゃうんだもの。あのままじゃ全員死んでたわ!」
「俺は救援信号だしてくれなんて頼んでない! ウルフだって俺が全部倒せたんだ!」
「だまらっしゃい!」
「ぐげっ!」
口の減らないカルブと呼ばれた少年を脳天への鉄拳制裁により黙らせたのは、メラーナと呼ばれた女の子。
なお、ゲーム内において鉄拳制裁によるダメージや痛みはないが、ノックバックは発生する。
衝撃でうずくまったカルブを他所に、メラーナはアスカのもとに歩み寄ると、深々と頭を下げた。
「あの、助けてくれてありがとうございました! カルブがひどいこと言っちゃって、本当にごめんなさい!」
許してくれますか? とメラーナが頭をあげ、上目遣いでアスカの様子を窺う。
そしてその顔を見ると、ひっ、と声をあげるとともに青ざめ、すぐさま後ろにいた二人のもとに駈け寄り、頭を両手で抑え地面に伏せさせる。
メラーナ本人も頭を下げ、三人そろって土下座の姿勢だ。
それもそのはず、アスカは腕を組んで仁王立ちで立ち尽くし、眉間にしわを、額には青筋を浮かべ、その顔は鬼や般若にも劣らない威圧感を放っていた。
それは全身で持って怒りを表す、まぎれもないおこ。激おこであった。
「本当に、ほんっとうにごめんなさい! ほら、あなたたちも謝って!」
「助けてもらってありがとうございました! あと、僕の友人が失礼なことを言ってごめんなさい!」
「な、なんで俺が謝らなきゃ……」
「「カルブ!」」
「っ……ご、ごめん、なさい……」
カルブ以外の二人は心から謝っている様子が見て取れた。
「ま、謝ってくれるならいいけど……」
約一名は反省の色が見えないが、これ以上こじらせる必要はない。
アスカは謝罪を受け入れ、表情を崩す。
それを見て涙目になっていたメラーナにもようやくようやく笑顔が見えた。
「あ、ありがとうございます! 私はメラーナ、こっちがラゴで、こっちがカルブです」
「私はアスカ」
メラーナは青眼、青髪のショートヘア。
白の襟付きトップスに、グレーのサスペンダーミニスカート、足には白のニーハイソックスを穿いていた。
装着していたのはやはりスカウトアーマー。
ロビンの装着していたスナイパーアーマー同様に軽装で、肩、胸部、腰、膝などの主要部分が少しだけ厚めの装甲で覆われているのみ。
背面にはアンテナの付いた大型の通信、索敵ユニットを装備し、小隊の目という役割を担っていた。
ラゴは赤眼の灰髪のロングで、うなじの辺りで髪を束ねている。
服装は紺色の胴着のようなものを着ていたのだが、装着しているアーマーがかなり特殊だった。
胸部、膝部などはアルバが装備していたソルジャーアーマーと似ているのだが、頭には兜をかぶり、肩には大袖、腰にも草摺や佩楯に酷似した装甲板がついているほか、腰には太刀と脇差の二本を携える等、どこからどう見ても武者そのものだった。
「え~っと、ラゴ君のそれは……武者?」
「あ、この鎧武者はTierⅡストライカーアーマーで、ポイントボーナスで入手しました」
「そっか、ポイントボーナスには装備品もあったものね。……で、君が」
「……なんだよ」
カルブは黒目の黒髪。
レンジャー部隊のような迷彩服を身に付け、かなりゴツイアーマーを装着していた。
全身を装甲板で覆ったようなゴテゴテしたものだが、見た目からくる威圧感と力強さはアスカが見てきた中では一番強そうなアーマーだった。
これがアサルトアーマーであり、背中には大剣を背負っている。
さらに、右腕には杭打機のようなものを装備し、ラゴの鎧武者以上の接近特化の様相を呈していた。
「何見てんだよ。あ、この剣か! へへへ、いいだろ~ポイントボーナスで手に入れたツーハンデッドソードだ! 攻撃もできるし、盾にもなる。ねーちゃんのフライトアーマーなんかよりよっぽど強いぞ」
見た事のないアーマーを観察していただけだが、どうやら剣の事を見ていると勘違いしたようだ。
そしていちいちフライトアーマーの事を引き合いに出し、小馬鹿にしてくる。
さすがのアスカもこれにはイラっと来た。
「あ~……もう私行っていい?」
とりあえず一番話が分かりそうなメラーナに向かって話しかける。
しかし、メラーナは途端に慌てた様子になり、申し訳なさそうにアスカに話し始めた。
「あ、あの、アスカさん。出来れば、私たちに協力してもらえませんか?」
「えぇ?」
「お願いします!」
頭を下げてお願いするメラーナの口から出てきたのはまさかの協力依頼。
カルブがこれだけ印象を悪くしているにもかかわらず、よくそんなことが言えたものだとむしろ感心してしまう。
「メラーナ、何言ってんだよ。フライトアーマーの姉ちゃんなんかいなくても、俺とこのツーハンデッドソードがあれば余裕だって」
「黙りなさい! アンタの無鉄砲な突撃のおかげで何回全滅したと思ってるのよ! もうお金もないんだよ!?」
そのあまりの剣幕にひえっ、と後ずさりするカルブ。
三人がどういう繋がりなのかは分からないが、彼は早くも尻に敷かれる体質が身について来てしまっているようだった。
「お願いします、アスカさん、今私たちが受けているクエストだけでいいので、協力してください!」
「僕からもお願いします」
必死にお願いするメラーナに続いて、ラゴも頭を下げてお願いしてきた。
カルブの事はもうこの際放っておくとして、これだけ熱心にお願いされては手伝う事もやぶさかではない。
しかし、その理由が分からない。
「手伝っても良いけど……なんで私なの?」
「僕たちの装備に原因があるんです……」
「?」
ラゴにそう問われ、改めて三人を見渡す。
ストライカー、アサルト、スカウト。大剣、杭打機、刀、通信機。そこでアスカはハッとした。
「あなた達、銃火器は?」
「その……持ってないんです」
「えぇ!?」
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