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空を夢見た少女はゲームの世界で空を飛ぶ  作者: アル
Welcome to Blue Planet Online world!
3/232

3 フライトアーマーTierⅠ 乙式三型

本日三話目投稿。一話、二話未読の方は、ぜひそちらからお読みください。


「だはぁ! 死ぬかと思った!」


 ミッドガル広場の復活ポイントで復帰したアスカは膝を落としてがっくりとうなだれた。

 MP切れで高高度から落下し、きりもみ状態となったアスカは体勢を立て直せないまま地面に墜落した。


 このゲームは物理演算エンジンを搭載しているので当然落下や衝突ダメージもある。

 高高度から墜落する形になったアスカの落下ダメージは相当なもので当然即死。

 リアルでは死んでなどいないが、ゲーム内では間違いなく一回死んだのだ。


 落下ダメージは即死以上のものだが、衝突におけるランナーへの衝撃は軽減されていてマットや水面に飛び込む程度のもの。

 地面に接触したのが分かると視界が明転し、気が付いたらこの広場に復帰していた。


 フライトアーマーは解除されていて、今はログインした時と同じインナーに緑のシャツを着た格好だ。


「なるほど、墜落したらここに戻ってくるのね。でもなんでいきなりMPがゼロになっちゃったんだろ?」


 そう思ったところでアスカがまだスキルやアーマーの特徴などを全く調べていない事に気が付いた。


「とりあえず一回空を飛べたし、そのあたりを確認した方が良いよね」


 そう判断したアスカは広場でお店を開いている屋台から飲み物を購入し、手ごろなベンチに腰掛ける。


「あ、おいし。ゲームでもしっかり甘さや飲み心地があるんだ。なんだかのどが潤った感覚もあるし」


 ゲーム内通貨でオレンジジュース買い、一口飲んでみると果汁一〇〇%オレンジのような酸味と甘さが口の中に広がり、喉を潤していく。

 現実世界で飲み物を口にしているわけではないので疑似体験に近いのかもしれないが。


「で、能力は……」


 アスカはメニュー画面を開き、スキルを確認する。

 獲得しているスキルが白い文字で表示され、タップすると詳しい説明が表示された。

 今持っているスキルは初期設定時選択した三つのスキルだけだ。


【MP増加・大】 MP値を一〇〇増加する。

【MP自動回復】 MPを一分間に最大値一%分回復する。

【フライトアーマー開発経験値増加】 フライトアーマー装備時限定。フライトアーマーでの飛行時間を開発経験値に加算する。


「翼のお勧め通りに取ったけど、MP系ばっかりなのよね。何か理由があるのかな?」


 開発経験値増加はクーポンで追加されたポイントで取ったが、MP増加とMP自動回復は弟の翼のアドバイスによるものだ。

 アスカは予備知識ゼロでゲームを開始しているため、なぜその二つが必要だったのかを知らない。


「やっぱりフライトアーマーと関係が?」


 スキルページを閉じると、次はエグゾアーマーのページを開く。

 アーマーのページはステータス画面のようになっており、HP、MP値や装備もこのページで確認することが出来た。


EXOARMOR フライト


頭部  なし

胸部  乙式三型 TierⅠ

       ハードポイント1 なし

       ハードポイント2 なし

腕部  乙式三型 TierⅠ

       ハードポイント1 アーマライト TierⅠ

       ハードポイント2 なし

       ハードポイント3 なし

       ハードポイント4 なし

腰   乙式三型 TierⅠ

       ハードポイント1 ロングソード TierⅠ

       ハードポイント2 なし

       ハードポイント3 なし

脚部  乙式三型 TierⅠ

       ハードポイント1 なし

       ハードポイント2 なし

       ハードポイント3 なし

       ハードポイント4 なし

背中  乙式三型 TierⅠ

       ハードポイント1 なし

       ハードポイント2 なし

動力結晶 動力結晶 TierⅠ


アクセサリー1 なし

アクセサリー2 なし

アクセサリー3 なし

 


HP 360/360

MP 198/198

物理攻撃力 441

魔法攻撃力   0

対物理防御  48

対魔法防御  58

機動性   768

安定性    92

移動速度   47



 Blue Planet Onlineにはプレイヤー、つまりランナー側にレベルの概念がなく、HPは各部位のアーマーの総合耐久値、MPは動力結晶の数値となる。

 各パラメーターもアーマー基準で、ハードポイントには銃や剣と言った武器の他、シールドやスラスターを装備することが可能になっている。


 また、同じアーマー系統なら腕にTierⅠ、胸部TierⅢ、両足TierⅡなどTierが違っていても装備できるが、胸にフライト系、両腕にストライカー系と言った別系統のアーマーを同時に装備することはできない仕様だ。


「うわぁ、なんか空きハードポイントがいっぱい……初期装備だからかな?」


 アスカはページトップの『EXOARMOR フライト』の部分をタップ。

 画面が開発ツリーに切り替わり、フライトアーマーの発展が一様に表示される。

 ゲームスタート時のアーマーであるTierⅠは乙式三型のみであるが、TierⅡからは種類が増え名前も『翡翠』や『C-75』など名称になり、TierⅢ以降はその数をさらに増やして行く。


「へぇ~ものすごいいっぱいあるんだ。これは戦闘用、こっちは輸送用かな?」


 同じフライトアーマーでも戦闘用、移動用、輸送用とそれぞれ分かれていく。

 それぞれに長所と短所があり、プレイスタイルやスキル、敵に合わせて組み合わせを変えることでゲームの自由性を大きく向上させている。


 もちろん、それはフライトアーマーに限った話ではなく、すべてのアーマーで言えることだ。


 一通りツリーを見終わったアスカはアーマーのステータス画面に戻ってきた。

 EXOARMORでツリーを見られるなら、装備も個別に見られると思ったからだ。


 試しに胸部の乙式三型をタップすると思った通り、能力と解説が表示された。


胸部 

乙式三型 TierⅠ 

HP 130

MP 0

物理攻撃力   0

魔法攻撃力   0

対物理防御  15

対魔法防御  21

機動性   179

安定性    21

 ハードポイント1 なし

 ハードポイント2 なし

 ハードポイント3 なし

 ハードポイント4 なし


 TierⅠのフライトアーマー胸部装甲。軽量、空力に優れ空中での安定性を高めるために設計された試作アーマー。戦闘には向いていない。



「やっぱりみれた! ふむふむ、細かく設定されてるんだね……でも飛行したときにMPが減るのはこの装備せいじゃないっぽい……やっぱり背中の装備かな?」


 胸部装備の表示を閉じ、今度は背中の装備をタップ。


背面

乙式三型 TierⅠ

HP 30

MP 0

物理攻撃力   0

魔法攻撃力   0

対物理防御   3

対魔法防御   9

機動性   263

安定性    39

 ハードポイント1 なし

 ハードポイント2 なし


固定兵装・フライトユニット

 レシプロエンジン 


 航空用レシプロエンジンユニット。稼働させるとプロペラが回転し、飛行することが出来る。速度域に応じてエンジン角度を変えることができ、機動性が極めて高いが、耐久力は低い。稼働時MPを毎秒一消費する。



 解説を読むと、手で目を覆い愕然とした。


「こ、こいつのせいかぁぁ~~~毎秒一……今のMPが198だから、飛行可能時間は三分ちょっと……」


 他のアーマーではジャンプはできても空を飛行することはできない。

 ゲームの中で唯一空を飛び、上空から一方的に地上を狙う事が出来るフライトアーマーは、一歩間違うととんでもないバランスブレイカーになってしまう恐れがあった。


 そこで開発が考えたのがMP消費。


 飛行時MPを消費させることで魔法攻撃による攻撃を抑制させ、『飛ぶためには軽くないといけない』という設定を作り重武装を制限。

 装甲とHPは当然紙耐久。さらに飛行に特化した造りのフライトアーマーは地上は苦手として歩行速度は全アーマー最低、と、デメリットをこれでもかと詰め込んだのだ。


 そのため、フライトアーマーはHP、MP燃費、装甲、火力、所持アイテム量、武装積載量、歩行速度、そのすべてで全エグゾアーマーワースト一位というワースト七冠を達成している。


 このあまりにひどい性能故、フライトアーマーは正規版リリース前に行われたβテストのテスター達から『欠陥品』認定を食らっている。

 空を数分間飛行するための代償はあまりにも大きく、このツリーを育てるくらいならトランスポートアーマーや生産スキルを育てた方が何倍もマシ、という散々な評価を受けたのだ。


 この事は掲示板や評価ブログにも書き込まれ広く知られることとなり、空を飛びたい一心でこのゲームを始めたアスカ以外で初期アーマーをフライトにした人間はほとんどいなかった。


 そして、弟の翼は掲示板でこの事を知っていた。

 故に、MP増加とMP回復のスキルをとるようにアスカに勧めたのだ。

 空を熱望してやまない姉が、たとえゲームの世界であったとしても、少しでも長く空を楽しめるように、と。


「それでMP増加だったのか……。スキルの上昇分がないとMPは九八。一分半くらいしかないものね。うん、今度お菓子でも買ってあげよう」


 アスカは翼に感謝しつつ、残ったオレンジジュースを飲みほした。


「ま、とりあえず飛べないわけじゃないからいいや。あの空を飛ぶ感じはすごく気持ちよかったし」


 空を飛べたことに満足しているアスカはどこまでも前向きだった。

 メニュー画面にあった時計が示す現在時間は一八時ジャスト。

 夕食まではあと一時間くらいあるので、まだゲームで遊べるだけの時間はある。


「うん、まだ時間はあるね。もう一回飛ぶぞ!」


 もう一度大空に飛び立つ事にしたアスカは猛然と東門に向かって走り出し、街の外に出るとフライトアーマーを展開。フライトアーマー装備者がいることに驚く周りのプレイヤーを気にも留めず、そのまま大空へ飛び立つ。



 帰還方法は当然墜落であった。



―――――――――――――――――――――――――――――


 その日、青木家の食卓


「姉ちゃん、ゲームどうだった?」

「もう最高! ゲームがあんなに綺麗で楽しくて爽快だなんて思わなかった!」


 蒼空と翼、そして母親の奈々の三人で夕食を家族で食べながら、蒼空は弟の翼の問いに答える。

 パイロットである父親はこの日は飛んだ先での宿泊となっており今日の夕食の場にはいない。


「そっか。空を飛ぶフライトアーマーは掲示板じゃ不評だったから、姉ちゃんが楽しめないんじゃないかと思って心配してたんだ」

「そうなの? あんなに楽しいのに……」


 今日は時間の許す限り、五回も空を飛んだのだ。大パノラマを堪能し、目が回るほどのロールを行い、どこまでいけるかただただ一直線に突き進むなど、フライトアーマーで出来そうな空遊びを思う存分堪能したのだ。


 なおそのすべてでMP枯渇による墜落死に戻りをしている。


「翼もプレイしたらいいのに」

「うわー嫌味だ、せっかくスキルとか教えてあげたのに恩を仇で返してくる!」


 弟の翼は蒼空の一つ下で、今は中学三年生。

 受験を控える身であり、拘束時間の長いVRゲームに対しての禁止令が両親から継続発令中なのである。


「ごめんごめん、あのスキルは本当に助かったの。お前は最高の弟よ」

「やめろ、頭を撫でるな!」


 終始ご機嫌な蒼空は機嫌を悪くした翼の頭を撫でてなだめようとするが、思春期真っただ中の翼はこれを頑なに拒否。


「あらあら。今日は二人とも仲がいいわね」

「うん。こんないい弟を持てて私は幸せ者だ!」

「母さん、見てないで止めてよ! だから、撫でるなっての!」


 普段姉弟喧嘩が多い二人がこんなに仲良く話すのは珍しい。

 奈々はほほえましいこの光景を笑顔による沈黙をもって放置する。


「明日から夏休みだし、これからはたくさん空を飛べそう!」 

「空を飛ぶの?」

「うん、ゲームの世界だけどね。すっごく楽しいんだよ」

「いいなぁ、俺もプレイしたい……」

「翼、あなたは受験が先。合格したらプレイしていいわよ」

「ちぇっ」


 こうして蒼空のBlue Planet Online一日目が終了した。

 

感想、評価など貰えましたら作者が嬉しさのあまり成田空港から飛び立ちます。

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― 新着の感想 ―
[一言] いいなぁ…… このゲームあったら絶対自分も同じ事する自信ある……
[一言] 主人公が楽しそうだから良いけどデメリット酷すぎ。 β版で評価悪かったから何かしらの修正が有るのかな?
[一言] クソ性能でも楽しければ正義!いいですね。
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