28 ボーキサイト
本日二話目の更新です。
ライアット雪山・中腹の平地に巣くうモンスター達を掃討し、ようやく採掘ポイントまでたどり着いたアスカ。
目的の採掘ポイントは平地の端、切り立った山肌の斜面にあり、薬草などの採取ポイント同様光っていて見た目で場所が分かる仕様だった。
ロビンからは先に採掘していて良いと言われているので、さっそくつるはしを取り出して採掘を開始。
最初、度重なる戦闘でインベントリが一杯になっていて、整理しないと鉱石を採取できなかったのはご愛敬。
カン、カン、カン。
こんな感じで良いのかな? と思いながらもとりあえず振り上げたつるはしを採掘ポイントへ突き立てる。
動きは素人そのものだが、ゲーム的にはそれで問題なく採掘出来るようでシステムログが鉱石の入手を報告する。
<鉄鉱石を入手しました>
<鉄鉱石を入手しました>
<くず石を入手しました>
<方鉛鉱を入手しました>
<くず石を入手しました>
<鉄鉱石を入手しました>
鉱石の採掘ポイントも六回採掘したところで光が消え、採掘が出来なくなった。
入手できたのは鉄鉱石が三つに鉛の原料である方鉛鉱が一つ。
くず石は採掘での雑草枠で、入手してそのまま廃棄。
鉱石が薬草類と同じく品質があり、採取できた鉄鉱石の品質はDが一つにEが二つ。
品質違いはインベントリを圧迫するためアスカにとってはつらいところだが、ここは我慢するしかない。
この場所ではもう採掘は出来ないが、辺りにはまだいくつか採掘ポイントが残っている。
周囲の警戒をアイビスに頼むとアスカは足取りも軽く次の採掘ポイントへ赴き、鼻歌交じりにつるはしを振るう。
そして、周囲にはリズミカルなカンカンカンと言う音が響いてゆくのだった。
「ふぅやっと着いた。アスカちゃん、採掘は順調かしら?」
「あ、ロビンさん! 鉄鉱石いっぱい取れました!」
アスカが夢中で採掘をしている中、ロビンがようやく採掘ポイントのある中腹までたどり着いた。
先ほどの射撃位置はこの場所から六〇〇mほど離れた場所だ。
だが、それは地形を無視した直線距離での話であり、実際には一度谷底へ降りるか、大きく迂回して来なければならない。
ようやくたどり着いたロビンをアスカは笑顔で出迎えた。
思った以上に鉄鉱石がよく取れたのだ。
「良かったわね~」
「ロビンさんも鉄鉱石狙いなんですか?」
「私は方鉛鉱よ。銃の弾丸に加工するの」
そう言うとロビンもツルハシを取り出し、アスカと一緒に採掘を開始。
カンカンカン。
「弾丸って、作れるんですか?」
カンカンカン。
「錬金と製造のスキルを持って、リローディングマシンを使えば作れるわ。店売りの物より高威力の物が作れるのが魅力ね。ただ、完全に作業になっちゃうから面白さがないのが難点なのよ」
カンカンカン。
「あっ、方鉛鉱が出ました」
「あら、なら、私の鉄鉱石と交換しない?」
「良いですよ。はい、どうぞ」
「ありがとう。じゃあこれ、代わりの鉄鉱石ね……ところでこの方鉛鉱、すっごく品質が良いのだけど」
「キノセイジャナイデスカネェ?」
「……なんでそこで目をそらすのかしら?」
ロビンの尋問を何とか躱して採掘を続行。
アスカが採掘した方鉛鉱はロビンが採掘した鉄鉱石とトレードすることでインベントリ枠も確保しつつ、周辺の採掘ポイント全てでの回収を終えた……のだが、
「ロビンさん大変です、ボーキサイトが出ません!」
「おかしいわねぇ……ダイクの話だとこの山で取れるという話だったのだけど。ここじゃなかったのかしら?」
お目当ての鉱石が出ずに焦るアスカに、首をかしげるロビン。
ゲームの世界の住人であるダイクが二人に嘘をつくとは思えないが、実際問題としてこの場所ではボーキサイトが出なかった。
もしかしたら坑道の中で採れるのかも、とロビンが掲示板や攻略サイトを探してくれた。
「坑道の中や、この場所でも採れた報告は上がってるわね」
「でも私たちは採れてないですよ?」
「ドロップ率がかなり低いらしいわ」
「そ、そんなぁ……」
ここまできてそれはないですよぉ、と天を仰ぐアスカ。
「ゲームだもの。こういう事もあるわ」
気を落とすアスカを慰めるロビンだったのだが、アスカの視線は上を向いたまま何かを凝視していて、その声が届いた様子がない。
「どうしたの?」
「ロビンさん、上です。あれ採掘ポイントですよね」
アスカが指さした上方の山肌。
そこには段付きに整地された僅かな足場があり、奥には採掘ポイントらしき光が見えていた。
「そうみたいね。でも、なんであんなところに? あんなに高い場所じゃあ誰も採掘できな……」
採掘出来ないじゃない。そう言おうとしたところで視線を上から横に向ける。
そこには目を爛々と輝かせているアスカの姿。
「私、ちょっと行ってきます!」
アスカはロビンの視線にも気付かぬまま、そう言い残して上にある採掘ポイントまで飛行していった。
残されたのはその場にただポツンと立ち尽くすロビンのみ。
「あの場所、どう考えてもフライトアーマー専用よね。他のアーマーだと工夫しないと絶対に行けない場所だし」
先ほどボーキサイトの採掘について色々調べたとき、アスカには話さなかった情報が一つある。
それは他のランナー達にとってボーキサイトはくず石同様外れ枠である、という事。
実は現段階においてボーキサイト、つまりアルミニウムの需要はそれほど多くない。
アルミニウムは軽く、腐食にも強いのだが、半面強度が低く熱に弱い。
この特性はエグゾアーマーの装甲としては致命的であり、エグゾアーマー本体や盾、剣の素材としては使われないのだ。
もともとのドロップ率が低いため、売ればそこそこの値段が付くだけくず石よりマシ、と言うのが他のランナー達の評価だった。
「でも、アスカちゃん……フライトアーマーからしたら一番重要な素材なのよね」
独り言のようにつぶやくロビン。周囲には上に登ったアスカがつるはしを振るう音がいつまでも響いていた。
その後しばらくカンカンカンと言う甲高い音が響いた後、ピタリとその音が鳴り止んだ。
そして上からアスカがひょこっと顔を出す。
「ロビンさん、出ました! ボーキサイト!」
「よかったわね! 周りにもまだあるかもしれないから、調べてみて」
「はい!」
アスカは元気よく返事をした後、周囲を飛行。
いくつかの採掘ポイントを発見し、ニコニコ顔でロビンのもとに帰ってきた。
「その様子だとたくさん採れたみたいね」
「はい、大漁です!」
上方の採掘ポイントはフライトアーマー専用、その見立てを肯定するかのようにアスカは大量のボーキサイトを採掘してきた。
これならアーマーの開発費用を大きく割引してもらえるだろう。
とはいえ、採掘出来たすべてがボーキサイトだった訳ではない。
余った方鉛鉱はロビンと交換してもらい、品質の悪い方鉛鉱も「捨てるくらいなら交換しましょう」と言う言葉に甘え、質の悪い方鉛鉱三個と鉄鉱石一個のレートで交換してもらった。
このポイントでの採掘をすべて終えた二人は下山を開始。
途中、坑道のほうがどうなっているのかを少し見た後、ジーナ村で教えてもらえるという坑道への通常ルートでさしたる問題もなく帰り着いた。
ゲーム内時間では夕方の前だが、リアル時間では夜もだいぶ遅い。
だが、ネットゲームではこれからが熱い時間であり、周囲の人の数は村を出たときよりも多かった。
その大多数は採掘に向かうようでライアット雪山に向かって進んでゆく中をアスカとロビンの二人は逆走する形でポータルまでたどり着く。
リアルでのロビンは社会人で、明日は仕事。
今日これでログアウトするという。
「ありがとうね、アスカちゃん。すっごく助かったわ」
「そんなことないです。鉄鉱石も交換してもらえましたし、すっごく楽しかったです」
「ふふふ、また一緒に遊びましょうね」
「はい、ぜひ!」
ロビンが手を振りながらログアウトしていくのを同じく手を振りながら見送った。
そこでアスカがはっと目を見開く。
「あっ、センサー・ポッド返してない!」
街に入ると自動的にアーマーは解除される。
そのせいもあってロビンから借りたセンサー・ポッドを返しそびれてしまった。
プレイヤー間レンタルと言うものはなく、このセンサー・ポッドもロビンから譲渡されたものとして扱われる。
その為、センサー・ポッドは未だアスカが装備している状態だ。
返そうにも当の本人はログアウトしてしまっている。
メールは送信できるが、それはゲーム内の話であって次回ログインしてくるまで気付いてもらえない。
「とりあえずメールしておいて、明日ロビンさんがログインしてきたら返そう」
メールの送信方法をアイビスに聞き、借りっぱなしの旨を記載して送信。
あとは明日の返信を待つしかない。
「じゃあ、私たちも帰ろうか、アイビス」
『この場所でログアウトしないのですか?』
「ミッドガルまで飛んで帰ろう。今日はもうちょっと飛びたい気分だし」
『了解しました。アスカは本当に空が好きなのですね』
「うん。もっともっと飛びたいよ」
ジーナ村を後にしたアスカはエグゾアーマーを身に纏い離陸。
大空へと吸い込まれてゆく。
アスカはこのゲームの空にとても満足していた。
空の深い青さと雲の白さは現実世界の物とも相違なく、人工物の少ない大地はどこまでも自然豊かな緑や雪景色が続く。
それはアスカの今までの欲求不満を満たして余りあるほどだった。
<累計飛行時間が一〇時間を超えました。スキル【飛翔Ⅰ】が【飛翔Ⅱ】にレベルアップしました>
システムアナウンスが【飛翔】のレベルアップを告げたのは、そんな帰りの飛行中の事。
「おぉ~、やっぱり飛行時間だったか」
飛翔Ⅰを取得した時点でレベルアップの条件は飛行時間だというアタリは付けていたが、それが実証された形だ。
もっとも、それが何時間毎なのかは推測する事しかできないが。
【飛翔Ⅱ】 パッシブスキル。飛行時のMP消費を10%軽減。
飛翔Ⅰは五%の軽減だったのでその倍は軽減されるようになった。
だが、MPバーを見ると今までと同じく毎秒一消費されている。
小数点切り上げか、はたまた四捨五入なのか。どちらにせよ今のところ体感できるほどの効果はない。
「う~ん、やっぱり微妙?」
『まだレベルⅡですので』
「スキルレベルっていくつであるんだっけ?」
『レベルⅩまであります』
「そんなにあるんだ! じゃあ、まだまだレベルが低いんだね。もっとレベルが上がったら体感できるかな?」
『プレイスタイルやアーマーによって変わりますが、大きな助けになるはずです』
「そうだといいなぁ。次はいくつだろう? 二〇時間? ねぇ、アイビス?」
『お答えできません』
「ですよねー」
まるで姉妹のように微笑ましいやり取りを交わす二人。
そのやり取りを聞くものは誰もおらず、二人の声はこの広く青い空に吸い込まれていった。
感想、評価、ブックマークなどいただけましたら作者が嬉しさのあまり青森空港から飛び立ちます。




