27 お姉さんと機関銃
本日一話目。
「ロビンさん、聞こえますか?」
≪こちらロビン、感度良好よ!≫
アスカは今雪山の山肌を縫うように飛行している。
先ほどロビンから作戦の概要を教えてもらった後、実行する前にテストをすることにしたのだ。
内容は通信機能のチェックとアスカの観測による遠距離狙撃、そして機関銃の動作チェック。
なお、小隊を組んでいると通信機能の前にボイスチャットが成立してしまうため、今は一旦小隊を解消。
お互いソロプレイヤー同士の通信と言う形にしている。
ピピッ。
何かの電子音がいきなり聞こえ、はっとしたアスカだが、その音は敵モンスターを発見したセンサー・ポッドからの音だった。
見れば、視界の先には敵モンスターを表すアイコンが三つ。
名称もしっかり表示されている。
「ゴブリンが二、スニーゴーラが一です。見えますか?」
≪オーケーオーケー、私の位置からは六〇〇mってとこね。しっかり見えるわ≫
アイコンで表示されてはいるが、スコープやカメラを持っていないアスカからは敵モンスター達を視認するには至らない。
しかし、ロビンは狙撃用のスコープを装備しており、敵モンスターが問題なく見える。
その位置は射撃姿勢を取った位置から対面の山肌であり、遮蔽物は皆無。
≪射撃、行くわよ≫
ロビンのその言葉を切っ掛けに、轟音が周りに響く。
アスカの持つアサルトライフル、アーマライトより連射は速くないが、それよりも明らかに威力があると分かる音を響かせ、射撃地点から六〇〇m離れた敵モンスター達へ銃弾の雨を浴びせる。
認識範囲外から一方的に射撃を受けたモンスター達はなすすべなくその姿を光の粒子に変えて行く。
ゴブリンは僅か数発。
スニーゴーラもいくらか耐えはしたが、結果は同じ。
「うわぁ、えっぐい……」
≪モンスターの殲滅を確認。お疲れ様、アスカちゃん≫
若干引き気味のアスカに対して、ロビンの声は軽快そのものだった。
索敵を終えて戻ってきたアスカをロビンは笑顔で迎え、自分が作った装備や武器を思う存分褒め称えていた。
そんなロビンをアスカは乾いた笑いで流すしかなかったが、その有効性は認めるものだ。
この方法なら前線がいない二人小隊でも巣くったモンスター達を相手に出来る。
「ちょっとえげつないやり方ではあるけど、ゲームの世界だし、良いよね」
その後再度ロビンと小隊を組みなおし、ロビンは機関銃の残弾を、アスカはMPポーションをいくつか使って回復してから目的地の採取ポイントへと向かう。
道中もいくらかの接敵はあったが、アスカのエルジアエとロビンのライフルの前にもれなく光の粒子に変換されていった。
そうこうしてたどり着いたのは山の峰。
辺りには大小さまざまな岩が転がり、辺り一面は雪で覆われている。
ここがポイントなのかな? と首をかしげるアスカに、ロビンはにっこり微笑んだ後、とある方向を指さした。
その方向は山の頂ではなく、真横。峰の下の方。
未だピンとこないアスカはロビンの指さすまま峰の横に視線を移し、そして理解した。
峰の横、正確には峰の対面、隣の山の山肌。
その中腹付近に人為的に段々で整地されたいかにも採掘現場らしき場所があったのだ。
うちの一段が大きめの平地となっており、多数のモンスター達の姿が確認出来る。
「ロビンさん、あそこが?」
「そう、目的の採掘ポイントがある場所よ」
目を凝らしてモンスター達を見ようとするが、距離があるため種別は分からない。
だが、何かが動く姿は確認出来、それがかなりの数いるのだという事も推測できる。
まさにモンスターの巣窟。
あまりの光景にアスカがむむむ、と眉間にしわを寄せるその横で、ロビンが何やらごそごそと動いていた。
上面が平らで、ロビンの腰ほどの高さがある岩を見つけると背負っていた機関銃を取り出す。
そして銃身についていたバイポッドを岩の上に据えて機関銃を安定させると、額に付けていたスコープを下ろし射撃体勢を取る。
「……うん、良いわね」
「ここから撃つんですか?」
目を凝らせば見える位置とは言え、未だセンサー・ポッドの範囲外であることから三〇〇m以上は離れている。
先ほどのテストの時も六〇〇mは離れた地点から攻撃していたが、こちらはそもそもの数が違う。
「アスカちゃんのサポートがあれば問題ないわ。スナイパーの名前は伊達じゃないんだから」
「分かりました。では、いきます」
ウインクしながら答えたロビンにアスカも笑顔で答えた。
フライトユニットに火を入れ助走の後、峰から飛び降り飛行に入る。
アスカ達がいたのは峰の上部であり、モンスター達が巣くっている山肌の採掘現場よりも位置が高い。
辺りを一望できる高所はこちらが抑え、射線を遮る遮蔽物はなく、モンスター達には遠距離攻撃用の装備を持たない。
「これならこっちがやられることはなさそうだね」
『敵、こちらの索敵範囲内に入ります』
ピピピッ。
センサーポッドの放つ音が敵モンスターの検知を告げる。
最初は一つだけだったアイコンだが、平地を見渡せる位置に来る頃にはその数を大きく増やしていた。
「やっぱり結構な数!」
アスカの視界に表示されたモンスターの数は二〇以上。その中にはロビンの話にあったゴーレムも含まれる。
「ロビンさん、見えますか? ゴーレム二、スニーゴーラ五、ゴブリン一七です」
≪思ったより数が多いわね≫
「撤退しますか?」
≪これくらいなら問題ないわ。射撃、いくわよ≫
さすがにこの数はきついかと思ったアスカだったが、ロビンはその意思に反して楽観的だった。
そして……。
再び轟音があたりに響き、銃弾がモンスターの群れに降り注ぐ。
『Blue Planet Online』の弾丸はすべて曳光弾のように光るため、銃撃の軌跡が上空にいるアスカにもはっきりとわかる。
スナイパーアーマーを装着したロビンの狙いは正確無比のものであり、的確にモンスター達を捉え、排除していった。
それは銃弾のいくつかが地面や岩に当たり土埃を巻き上げ火花を散らそうとも止まることがない。
最初に銃撃されたのはゴブリン達。次にスニーゴーラ。
彼らも攻撃されていることは認識したが、狙撃手がどこにいるのか分からず右往左往している。
ロビンがいるのはモンスター達の認識範囲の外であり、発見され接近される恐れはない。
「ゲギャギャギャ!」
「む、気付かれた?」
上空を旋回飛行していたアスカだが、銃撃手を血眼になって探しているゴブリンの一匹に気付かれたらしく、こちらを指さして何か叫んでいる。
するとスニーゴーラやゴーレムがこちらを向き、アスカを落とそうと攻撃を始めた。
だが、スニーゴーラが繰り出してくるのはただの投石。
元から命中率など皆無であり、がら空きの側面に機関銃の集中砲火を浴び消滅。
対してゴーレムはこちらを向き手を広げてきた。
アスカが何をするのかと目を凝らして見ていると、かざした手の正面に見覚えのある黄色に光り輝く幾何学模様が浮かび上がってきたのだ。
その幾何学模様はフランが行っていた攻撃魔法、あの時出現していた魔法陣と酷似している。
「ゴーレムって攻撃魔法使えるの!?」
アスカは慌てて滑空による旋回飛行を中止し、フライトユニットを駆動させて回避運動を取る。
同時にゴーレムの手の前に描かれた魔法陣が一層輝き、魔法を発動させる。
現れたのは大量の大小さまざまな大きさの石。
そしてそれが一斉に勢いよく放たれた。
だが、その石はまっすぐには飛ばず円錐状に拡散してゆく。
その形はまさに……。
「ショットガン?」
『ストーンゴーレムの攻撃魔法、ストーンブラストです』
空中に広範囲にわたりばらまかれた石。
だが、上空数百mを飛行するアスカへ命中させるだけの精度と集弾性はなく、咄嗟の回避運動でも十分に対処できるものだった。
それでも、ストーンゴーレムたちからすると空中へ攻撃できる唯一の手段であるためか、ストーンブラストを立て続けにはなってくる。
「ショットガンじゃこの距離はあたらないよ!」
元来、ショットガンの有効射程距離は短い。
細かい銃弾が円錐に広がるその特性は近距離において絶大な威力を誇るが、遠距離になると弾が拡散しすぎ、命中しても致命傷にはならない。
事実、上空を飛行するアスカには小さな礫一つすらあたらない。
≪アスカちゃん、岩の後ろに何匹か隠れちゃったの。ターゲットマーク出すからお願いできる?≫
「今ちょっとゴーレムにタゲられちゃって」
≪オーケー、それはこっちで対処するわ≫
アスカへ向けストーンブラストを放っていたゴーレムの側面にロビンの機関銃が襲い掛かる。
いかに頑丈なストーンゴーレムと言えども側面からの銃撃を無視することは出来ず、銃撃を受けている方向へ向け防御態勢を取る。
「今のうちに……ターゲットマーク……あれか!」
ゴーレムからターゲットが外れたアスカが地表を見渡すと、ロビンが指定した敵が『TGT』と赤文字で表示されていた。
それはロビンの銃撃から逃れるように大きな岩の後ろに隠れたスニーゴーラと数匹のゴブリン。
『敵が固まっています。グレネードの使用を提案』
「オッケー、グレネードだね!」
手持ちの武器をエルジアエからアーマライトに持ち替え、グレネードを発射。
一射目は右に逸れ、被害なし、二射目は爆風の範囲内の至近弾、三射目に固まっていたモンスター達の中央に直撃。
上空からの爆撃にたまらず岩陰から出てきた所をロビンが捉え、殲滅完了。
これで残っているのはストーンゴーレム二体のみ。
すでにロビンがストーンゴーレムに向け射撃。
対するゴーレムも銃撃へ向けて防御態勢。
防御の上からではダメージが少ないが、銃弾は大きな火花を散らしながらゴーレムの腕に銃痕を作って行く。
≪さすがに固いわね≫
『ストーンゴーレムへ背後からの攻撃を提案。単発のエルジアエで対処してください』
「了解、アイビス!」
再び手持ちの銃を持ち換え、攻撃を受けているストーンゴーレムの背後に回る。
「動いてる相手には難しいけど、ゴーレムになら!」
がら空きの背中にしっかりと狙いをつけ、トリガーを引く。
甲高い『チュン』と言う音と共に放たれた光線は綺麗な軌跡を描き、狙い通りストーンゴーレムの背中を捉える。
魔法防御が高いストーンゴーレムらしく、ダメージは決して多くはない。
だが、背後から威力の高いその一撃は姿勢を崩し、こちらに注意を向けるには十二分。
大きくのけぞったストーンゴーレムはアスカへ向け反撃しようと体を翻し、攻撃魔法を放とうとしてくる。
しかし、それはロビンに背中を向ける事であり、その隙をロビンは逃さない。
がら空きの背面に汎用機関銃の集中砲火が降り注ぐ。
防御姿勢の腕部と違い、装甲の薄い背面への銃撃は火花を散らすことなくストーンゴーレムの体を深くえぐり取り、半分以上残っていたHPを一気に削る。
再度体を翻して防御しようとするストーンゴーレムだが、時すでに遅し。
防御態勢に入る前にHPはゼロになり、他のモンスター達同様光の粒子になって消滅していった。
これで残り一体。
だが、その一体も先程同様、挟み込んだうえでアスカが注意を引き、ロビンに背面を見せたところで機関銃で削り切る戦法で難なく撃退。
『周囲に敵影なし。お疲れさまでした』
「ふぅ~、何とかなったぁ」
≪お疲れ様、アスカちゃん。私すぐそっちに行くから先に採掘してて≫
「わかりました。それではまた後で!」
ロビンと通信を終えたアスカは、高度を下げ採掘ポイントの近くに着陸する。
いくらか開けた採掘現場の平地ではあるが、ここまでの山道同様草木はなく、大小さまざまな石や岩が転がっていて極めて歩きにくい。
この場所に人気がない理由は先ほど撃退したモンスターの群れの他、この極めて悪い足場にも要因があった。
前衛職がこのごつごつした地面に足を取られ、バランスを崩したところをゴーレムなどに痛打されるケースが多かったからだ。
アスカもそんな悪い足場の中をバランスを崩しながらも歩き、なんとか採掘ポイントまでたどり着くのだった。
感想、評価、ブックマークなどいただけましたら作者が嬉しさのあまり利尻空港から飛び立ちます。




