26 秘策
本日二話目です!
辺り一面に広がる雪原と奥にある雪山。
その境にあるのがこのジーナ村だ。
雰囲気は山岳にあったラクト村とよく似ているが、角度の付いた三角屋根のレンガや石作りの住居が多く見受けられる。
これは現実世界では雪の多く降る地域でよくみられる特徴だが、ゲームの世界でも再現しているようだ。
ラクト村と同じく大通りを主軸にして店が多く、中央には広場とポータルが設置されていた。
ロビンは何度も来ているという事なので、アスカだけポータルに触って地点登録を行う。
これで次ログインからはホームドアからこの場所まで移動できる。
「それじゃあ、少し休憩しましょうか」
ロビンに案内されたのは大通りに面したオープンテラスのついたカフェ。
なんでも、ここのパンケーキがとても美味しいとのこと。
そんなことを聞いてしまっては食べないわけにはいかない。
注文を聞きに来た店員にロビンと同じパンケーキを注文。
しばらくして運ばれてきたのは鮮やかな狐色が付いた二枚の厚みのあるパンケーキ。
上にはオーソドックスにバターとシロップがのっている。
そしてパンケーキを一口食べたアスカの目がクワッと大きく見開かれた。
「ロビンさん、これは!」
「そう、メープルシロップ。このあたりは楓の木の群生地で、メープルシロップが取れるの。美味しいでしょう?」
「はい! とっても美味しいです!」
厚みのあるパンケーキは見た目通りのふわふわ触感。
そこにバターの風味とメープルシロップの甘みと香りが加わり、アスカの口元は頬が落ちそうなほどに緩んでいた。
このお店もリアル世界での有名店の協賛で、その味は当然こだわり抜いたものだと言う。
よく見れば周りの客もランナーで、皆普段食べられない有名店の味に舌鼓を打っていた。
二人はメープルシロップパンケーキを思う存分堪能した後、カフェを出て村の雪山側出入り口へと向かう。
出入り口には、大通りをそのまま進んでゆくだけでたどり着くとのことなのでそのまま進んでゆく。
道中、銃火器の置かれた武器屋や軒先に花を置いてあるフラワーショップ、『ポーションあります』と言う張り紙を張ってある薬屋などのNPCショップに興味を引かれたが、ロビンと一緒の手前次回にしようとここは我慢。
ほどなく村の雪山側出入り口に到着。
周りには結構な数のランナーがいて山岳の時と同じように皆探索の準備をしたり、探索の成果の確認をしたりしていた。
山岳と違う点を挙げるとすれば、フライトアーマーを装着したランナーの姿がなかったという事だろう。
そんなランナー達をしり目に二人はアーマーを装着。ロビンの「行きましょうか」の言葉に頷き、雪山へと入山していった。
――ライアット山。
ゲーム内の季節は春なのだが、雪山の冠らしく山肌一面雪に覆われていた。
村から出てすぐのこの場所も山が近く標高が高いせいか、雪がかなり残っている。
一応、人が多く歩いた場所は雪が踏み固められて道のようにはなっているが、一昨日行ったガイルド山岳とは違い街道が無くごつごつした岩肌を歩いていくしかなさそうだった。
そうしてしばらく歩きにくい岩場を進んでいくと、周りにちらほら見えていたランナーの姿が急に減った。
どうも主要ルートからそれたらしく、先ほどまであった他のランナーの足跡も見かけなくなっていたのだ。
「じゃあ、目的の鉱脈について話すわね」
人気が無くなったのを見計らったかのようにロビンが口を開いた。
「目指すのはあの山の中腹にある採掘ポイント。ちょっと開けてる場所の岩肌にポイントがあるから、行ったら分かるわ」
「坑道じゃないんですか?」
「坑道だと、アスカちゃん動けないんじゃない?」
「あっ……」
言われてみればその通り。
フライトアーマーは飛行能力にステータスをすべて振っている。
坑道のように狭く、動きを制限される場所には最も苦手とする場所だ。
「すみません……」
「私が一緒に行きたいって言ったのだし、謝ることないわ。それに、元から目的の場所は坑道じゃなかったから」
平謝りするアスカだったが、ロビンは笑って返してくれた。
「そうなんですか?」
「坑道は私も苦手だから。でも、麓のポイントは良いものが出ないから中腹まで行ける戦力がほしかったの。その点、アスカちゃんはバッチリよ」
「そ、そうですか? ……へへ、がんばります」
「うんうん、女の子はしょんぼりしてるより笑ってる方が可愛いわよ」
期待されているようでちょっと嬉しくなり、顔がにやけてしまう。
ロビンはそんなアスカの頭にそっと手を添えて撫でてくれた。
その後もロビンの話が続く。
ライアット山は麓、中腹、山頂、頂上に分かれていて、今行けるのは麓と中腹の鉱山と岩肌の採鉱ポイント。
中腹はどちらも良いものが出るが、敵が強く難しいらしい。
「でも、前衛じゃない私たち二人でどうするんですか?」
「そこでこれ、秘密兵器の登場よ!」
ロビンはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの勢いでインベントリから何かを取り出し、空に突き上げる。
BGMには間違いなく青い猫型ロボットがポケットから道具を取り出したときの物が流れるであろう、そんなポーズだ。
「そ、それは……?」
「広範囲索敵用のセンサー・ポッドよ」
ロビンが取り出したセンサー・ポッド。
見た目はネックバンド型のゴツイヘッドフォンなのだが、耳に当てる部分が片側が円形になっているのに対し、片方は四角く、正面上部にはレンズ、下部には何かのカバーがついていて、後方にはロッドアンテナが取り付けられていた。
「スカウトアーマー頭部をベースにして索敵特化、他のアーマーでも装備可能にしたものよ」
「索敵?」
「早い話がレーダーね。これでアスカちゃんに上空を飛んでもらって敵の位置を捕捉。それを私が片っ端から狙撃するの」
「そんなに簡単に?」
「大丈夫よ。とりあえず、装備してみてもらっていいかしら?」
ロビンから渡されたセンサー・ポッドを受け取り、そのまま何も装備していなかった頭部に装備する。
頭部
試製センサー・ポッド TierⅠ
HP 10/10
MP 0
物理攻撃力 0
魔法攻撃力 0
対物理防御 0
対魔法防御 0
機動性 0
安定性 0
索敵範囲 300m
通信範囲 500m
ロビンが製作したセンサー・ポッド
自機を中心とした半径300mの敵を認識し、半径500mの味方と通信することが出来る。
「本当に索敵特化なんですね。防御力が皆無……」
「……試作品なのよ」
アスカの素直な感想に対し、ロビンはやや不服そうだった。
センサーなどの探知・索敵装備はスカウトアーマーには固定武装として標準装備されているが、それ以外のエグゾアーマーでは追加兵装となる。
しかし追加兵装は大型の物が多く、通信機能もない為不要とされることも多い。
ロビンが試作した全アーマー装備可能かつコンパクト、索敵と通信を備えたセンサー・ポッドは画期的と言っても良いものだったのだ。
代償として装甲を失っており、防御的な能力は皆無。
故に『試作』なのだが、アスカはそんなロビンの苦労を知る由もない。
「この『半径五〇〇mの味方と通信できる』と言うのは?」
「アイビスちゃん?」
『それはスカウトアーマー装備、もしくは通信機を装備したランナーと情報を共有、ボイスチャットを行うことが出来るという機能になります』
「ボイスチャットって誰とでもできる物じゃないんだ」
『ボイスチャットは登録してあるフレンド、小隊を組んでいる小隊メンバーに限られます』
「なるほど。情報共有はどこまで届くの?」
『通信範囲内にいるスカウトアーマー、及び通信機を装備してるランナー全員に届き、共有します。また、伝達された情報は受信したランナーを中継手として、さらに範囲を広げて伝達されます。これを効果的に行い、観測・中継・射撃位置と通信を繋げる事で敵の射程外から一方的に銃撃することが可能になります』
「うわぁ、結構リアルなんだね」
「私も通信機だけは装備してるから、アスカちゃんが見つけた敵を私がコイツで五〇〇m外から撃てるってわけ」
そう言ってロビンは右の背中に背負っていたゴツイ銃を取り出し、構えて見せた。
が、エグゾアーマーを装着しているとはいえ、ロビンの服装は胸元を強調するセクシーなものだ。
そんな長身セクシー美女が大型でゴツイ銃を構えている姿はアスカをもってしても違和感をぬぐえず、苦笑いを浮かべるのみだった。
そこでアスカの視線がそのゴツイ銃に止まる。
ここまでの戦闘でロビンが使っていたのはライフル銃のみだ。
サブマシンガンも持っているが、これは接近された時用らしく使う事がほぼなかった。
そんな中取り出した黒くてゴツイ銃。
ライフル銃と同じく長さはあるが、大部分が金属製で銃床と持ち手の部分のみが樹脂でできていた。
トリガーの左側面部には四角い箱もついており、一層の不気味さを漂わせる。
「ロビンさん、この銃、何の種類なんですか?」
「これ? 汎用機関銃よ」
「き、機関銃ですか!?」
「そう。アサルトライフルよりも高火力で、長射程。ただし、重くて小回りが利かないから、近・中距離戦には向かないの。基本的には支援用の武器になるわね」
にっこりと笑うロビン。
そこでアスカはすべてを悟った。
今朝、ダイクのショップでロビンが言っていた『秘策』それがこの機関銃とセンサー・ポッドの事だと。
アスカが空から観測を行い、それをロビンが地上から銃撃して叩く。
「最初からこれを計画してたんですね?」
「そうよ。ゲームの世界でも航空支援が可能かどうかの検証も兼ねているのだけどね。空が大好きなアスカちゃんならリアル世界での航空支援の重要性もよく理解してるでしょう?」
「それは、まぁ……」
現代においての航空支援の重要性は極めて高い。
偵察に始まり、監視、警戒を担うようになり、大戦が始まると味方の砲撃位置を確認する弾着観測、さらに敵に対する打撃能力を備えるようになり味方地上部隊進軍の大きな助けとなった。
それをこのゲームの中でも再現できればこれほど心強いことはないだろう。
「目的の場所なんだけど、いくらか開けた山肌にストーンゴーレムやゴブリンが巣くってるの。そういった場所ならアスカちゃんの観測にはうってつけでしょう?」
「そうですね。いまのところ対空攻撃してくる敵も少ないですし。ストーンゴーレムって強いんですか?」
「ストーンゴーレムは全身岩で形成され、防御とHPに能力値を振った敵モンスターね。物理防御も高いのだけど、それ以上に魔法防御が高いの」
「ゴーレムなのに魔法防御が高いんですか?」
アスカのイメージしたゴーレムはロビンの話した通り全身岩で人型の物。
見た目からとても固そうな風貌は極めて高い物理防御力を連想するが、どうやらこのゲームではそれ以上に魔法防御力が高いらしい。
「マジックアーマーの魔法攻撃が軒並み効かないらしいの。唯一水系統が効くらしいのだけど、それも微々たるもの。ハンマーやスピアで貫いた方がまだ効果があるそうよ」
「じゃあ、その機関銃は……」
「実弾、貫通力強化仕様よ」
再びにこりと笑うロビンだったが、その笑顔に黒い影が差しているのをアスカは見逃さなかった。
「これは大変なことになりそう……」
がっくり項垂れるアスカをよそ目に、ロビンは「さぁ、行きましょうか」と終始ご機嫌な様子で進んでいくのであった。
汎用機関銃 M60
(フライトアーマー+センサーポッド)×(スナイパーアーマー+汎用機関銃)=?
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