25 スナイパーアーマー
本日一話目更新です。
「ロビンさん、モンスターです!」
アスカは両手の銃を前に構え、エンカウントしたことをロビンに告げる。
敵もこちらが認識したと分かると様子をうかがうのをやめて突撃を開始。
敵はゴブリンライダーが二、ゴブリンが三。
数はいるが統率が全く取れておらず、騎狼により速度が速いゴブリンライダー達が突出する。
アスカが迎え撃とうと銃を構えた、瞬間。
甲高い銃声があたりに響き、ゴブリンライダーの一匹が光の粒子になって消滅する。
慌てて銃声がした方を見るとロビンが先ほどまで背負っていたライフルを構えており、銃口からは硝煙が昇っていた。
「もう一匹のライダーはお願いね」
ロビンはボルトアクションで次弾を装填。そのまま足の遅いゴブリンに照準を定める。
「分かりました!」
アスカは飛行はせず、仁王立ちになり突撃してくるゴブリンライダーへ銃口を向ける。
エルジアエは連射モード。
アーマライトとエルジアエの集中砲火で弾幕を形成し、向かってくるゴブリンライダーをハチの巣にすべく二つの銃のトリガーを同時に引く。
だが。
「うわわ!」
両腕を突き出し、手だけで支えていた二つの銃は射撃の反動で大きく暴れてしまった。
特にアーマライトの暴れがひどく照準が全く定まらない。
想定外の暴れっぷりにアスカは慌てて射撃を中止。
当然そんな射撃ではゴブリンライダーを捉えることは出来ず、ライダーはそのまま突っ込んでくる。
「アスカちゃん! エルジアエを両手で持って射撃!」
「はい!」
ロビンの咄嗟のアドバイスに従い、アーマライトを投げ捨てると左手に持ったエルジアエを両手で持ちそのまま射撃。
今度は銃身が暴れることはなく確実にゴブリンライダーを捉え、光の粒子に変える。
アスカが「ふぅ」と息を吐くと横からロビンが「お疲れ様」と声をかけてくれた。
見ればゴブリンの姿はすでになく、周辺にいるのはロビンとアスカの二人だけだった。
「危なかったわね」
「ごめんなさい。まさかあんなことになるなんて……」
「いいのよ。私もあんなに暴れるなんて知らなかったわ」
「二丁持ちは駄目かぁ」
「他のアーマーだと出来るのだけど……」
「そうなんですか?」
「二丁持ちはアサルトやソルジャーではありふれた戦法よ? 構えて連射しながら突撃する感じで」
「じゃあ、やっぱりフライトアーマーだから?」
「おそらく。マスクデータでエグゾアーマーごとに剛性と反動制御があるらしいから、関係してるとしたらそこかしら」
「むむぅ……」
がっくりと肩を落とし項垂れるアスカ。
二丁持ちで敵をハチの巣にしてやろうと言う目論見はこの時点で打ち砕かれてしまった。
こうなると二丁持ちの利点があまりなく、投げ捨てたアーマライトはそのまま置いて行こうかとも思ったのだが「実弾装備は使い道があるから持っていった方が良いわ」と言うロビンのアドバイスに従い、とりあえず腰のハードポイントに取り付けて持ってゆくことにした。
その後数回街道上でエンカウントするも、出てくるのは相変わらずゴブリンライダーやウルフなど。
武器を新調したアスカと火器を満載したロビンからは危険度は低く、エルジアエ運用テストにはうってつけの相手だ。
連射モードはアサルトライフルと同じ感覚で使える為、すぐに慣れたのだが、初めて使う単発モードの命中率が悪い。
弾幕を張れればよく、狙いが甘くても問題がなかった連射と違い単発はしっかりと狙いを付けなければ当たらない。
特に動き回るウルフへの偏差射撃が極めて難しく、命中したのはごくわずか。
ロビンとアイビスのアドバイスで自動で照準を付けてくれるエイムアシストと言う機能も使ってみたのだが、これは指定した敵を常に中央に捉えるアシスト機能のため偏差射撃が出来ず、役に立たなかった。
「偏差は慣れだから、使って練習するしかないわね」
「むむぅ……」
次に現れたのは雪原から雪山にかけて現れるというスニーゴーラ。
身長は二m、全身白毛で大型のゴリラのような風貌はあの有名なUMA、イエティを彷彿とさせる。
スニーゴーラは一匹だがゴブリン五匹を連れており、接近されると数とパワーで押し切られる危険な布陣だ。
幸い、こちらが先に気付いたのでまだ距離がある。
ならばスナイパーアーマーの射撃能力の高さの見せ所だろう。
「上空から注意を引きます」
「お願いするわ」
木の陰に隠れ、ライフルの残弾を確認するロビンにアスカがフォローを買って出る。
このまま木の陰からの狙撃でも一方的に倒せそうだが、安全にいくなら空からかく乱した方が良い。
何よりそろそろアスカの飛行欲求が限界なのだ。
――歩くのは疲れた。そろそろ空が飛びたい!
『ゴブリン相手ならアーマライトの使用を推奨』
「MPが減らないから?」
『はい。エルジアエの使用でMPも減っています。飛行可能時間に注意してください』
「グレネードは使わないで。爆煙でターゲット出来なくなっちゃうから」
「分かりました」
アスカは手持ち武器をエルジアエからアーマライトに変えて離陸を開始。
『ロビンの三時方向からアプローチを。十字攻撃になります』
「オッケー!」
アイビスから有利な攻め方を教えてもらいながら高度を取り、十分に高度を取ってからスニーゴーラ達へ向け旋回。
クロスファイアとなる位置へ向け飛行する。
『敵モンスター、射程内』
「威嚇射撃、行くよ!」
地上にいるゴブリンとスニーゴーラ達へ向け射撃を開始するアスカ。
この射撃はダメージを与えるものではなく、相手にこちらを認識させるための物。
空から一方的な射撃の効果は抜群で、思惑通り敵の注意をこちらへ引き寄せることが出来た。
「ギャオオオ!」
いきなり攻撃されたスニーゴーラ達は怒りからか、雄叫びをあげ、全員がアスカを見上げる。
アスカが注意を十二分に引き寄せたところでロビンが一番後ろにいたゴブリンを狙撃。
しかし、全員が空にいるアスカを見ているためゴブリンがやられたことに他の敵モンスター達は気が付かない。
「牽制ならアーマライトで充分だね」
『ロビンとの挟撃を提案』
「挟み撃ちだね、了解だよ、アイビス!」
射撃を続けつつ、アイビスの提案通りロビンと挟み撃ちになる形に旋回。
ロビンが隠れている木の陰を見る敵はおらず、アスカへ向け叫び声をあげるばかりだ。
何度かスニーゴーラが投石による対空攻撃をしてくるが、上空一〇〇mへ向けての投石では回避も容易だ。
何より、直前に大きな投石モーションがあるので、動きを見てからの回避で余裕で間に合う。
回避と牽制を続けているうちにロビンがゴブリンたちを始末し、残るはスニーゴーラのみ。
位置関係はロビンとアスカで挟み込む形で、今もアスカへ向け投石を続けている。
そのがら空きの背中をロビンが狙撃。
スニーゴーラは大きくのけぞるが、さすがに一撃では倒しきれない。
それまではアスカへ向け対空攻撃ばかりを行っていたスニーゴーラだったが、背中を狙撃されたことでようやく周りのゴブリンたちが全て倒されたことに気付き、今度はロビンのいる木に向かって走り出した。
「気付かれた!?」
『明確な位置までは分かっていないと思われます』
「銃撃された方へ向かって走ってるのかな? それでもあれ以上接近されるのは危ないね」
上空なら躱すのも容易い投石攻撃だが、地上で足の遅いスナイパーが狙われては危険だ。
アスカは高度を下げスニーゴーラの後を追うように接近し、がら空きの背中へ向け射撃する。
牽制には有効だったアーマライトも、足止めとなると力不足。
命中はするが、二mの体格の体格をもつスニーゴーラの足は止まらない。
突進してくるスニーゴーラへ向け、ロビンも二射目を打ち込む。
が、正面からの攻撃では止められず、二人の距離がさらに詰まって行く。
「アーマライトじゃ、駄目か……なら!」
アーマライトでの射撃を中止し、手持ちの銃をエルジアエと入れ替える。
射撃モードは単発。
スニーゴーラの体はでかく、さらに今は背中を取っている。
これなら少々狙いが甘くても当てることはそう難しくない。
チュン!
エルジアエから放たれた光線はスニーゴーラの左肩を捉える。
それはアーマライトでは与えられなかった確実なダメージとなった。
被弾したスニーゴーラは体勢を崩し倒れそうになるのを何とか踏みとどまり、背後から攻撃してきたアスカを肩越しにギロリと睨みつける。
「ほら、こっちだよ!」
アスカは視線に答えるかのように単発のエルジアエを二発、三発と立て続けに撃ち込む。
しかし背面から狙い打てた一射目とは違い、スニーゴーラはアスカをしっかりとターゲットとして定め射撃攻撃に対して回避行動を取ってきた。
大型だが猿型のスニーゴーラは意外と素早く、アスカの照準の甘い射撃は難なく躱される。
ならば、とアスカは射撃を止めセレクターレバーをサーベルにセット。
トリガーを引いて刀身を発生させ、スニーゴーラへ向け突撃する。
スニーゴーラはアスカに対し投石で迎撃しようと投石モーションを始める。
溜めがあり、大ぶりな投石モーションは攻撃のタイミングが手に取るように分かる。
アスカはスニーゴーラが投石を繰り出す瞬間にバレルロールを行い、投石を回避。
さらに加速し間合いを詰める。
近距離を嫌ったスニーゴーラは横へ飛んで躱そうとするが、銃身と合わせて二m近いエルジアエのリーチとフライトアーマーの機動力からは逃れられず、すれ違いざまに切りつけられそのまま地面に倒れこむ。
逃げるスニーゴーラを後追い気味で切りつけたアスカはバランスを崩すも、何とか立て直して上空へ退避。
アスカが退避したことで射線がクリアになり、残っているのは起き上がろうとしているスニーゴーラのみ。
その起き上がりを狙撃することなどスナイパーアーマーを装備しているロビンには朝飯前だ。
ターーーン、と言う乾いた銃声があたりに響く。
この一撃がトドメとなり、スニーゴーラは光の粒子になって消滅した。
<モンスターの群れを討伐しました>
<861expを獲得しました>
<魔石を3個入手しました>
<白猿の毛皮を入手しました>
システムログが戦闘終了を告げ、アスカはロビンがいる木のそばへ着陸。
駈け寄ると、手を振って出迎えてくれた。
「ロビンさん、お疲れさまでした!」
「アスカちゃんもね。噂には聞いていたけど、見事な飛行技術だったわ」
「そんなことないですよ。それを言ったら、ロビンさんの射撃の腕が凄すぎます。全弾命中だったじゃないですか」
「それはアスカちゃんが敵の注意を引き付けてくれていたからよ」
「個人的にはちゃんとできていたか不安なんですけど……」
「バッチリ。完璧だったわ。空からのフォローがあると狙撃のしやすさが段違いね。敵の意識が空へ向かって棒立ち同然だったもの。スナイパーアーマー使ってあれを外す方が難しいわ」
実際、他のエグゾアーマーとの小隊ではスナイパ―は最後尾が定位置となるのだが、いざ射撃しようとするとヘイトと射線の問題が出てくるのだ。
フレンドリーファイアはダメージこそ入らないが、ノックバックが発生するため誤射を避けなければならず前線で戦う味方の動向には注意せざるを得ない。
また、高火力のスナイパーはそれだけにヘイトが集まりやすく、敵との間に壁となる味方が居なければ一瞬でターゲットにされ敵の退路を考えぬ突撃に見舞われる。
そういった意味では射線を気にする必要がなく、上空からヘイトを稼いでくれるフライトアーマーとは相性が良い。
最も、それはお互いに相応のプレイヤースキルがあってこその話だが。
アスカとロビンはドロップ品と残弾を確認。
アーマライトの残弾は出発前に補充しているので問題ないが、MPが残り少なくなっていた。
MPポーションを使おうかとも考えたが、あともう少しでジーナ村だというので先を考えて温存し、再びジーナ村へ向け歩き出す。
その後は敵モンスターと遭遇することはなく、アスカ達は無事北のジーナ村へ到着するのだった。
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