24 北へ
本日二話目の更新です。
アイビスの説明で分かりにくかった部分を修正。
「ダイクさん、お代を……」
新しい武器エルジアエの製作代金を支払おうとダイクに話しかけるが、当の本人は未だロビンと熱心に話し込んでおりアスカの声に気付かない。
一度「はぁ」とため息をついた後、今度は息を吸い込み声を大きくして……。
「ダイクさん!」
「あ? おぉ、わりぃな嬢ちゃん。話し込んじまった。で、なんだい?」
「代金をお支払いしたいのですが」
「そうだったな。んじゃま、店に戻るとするか」
何とか話を中断させ、一階の店舗部分に戻る。
「代金は昨日の通り一〇〇〇〇ジルカッキリだ」
『アスカ。アーマライトとグレネードの弾薬もお願いします』
「エルジアエがあるからもうそっちは要らないんじゃない?」
『いいえ。魔法兵装はMPが尽きると何もできません。信頼性という意味でやはり実弾兵器は必要です』
「なるほど。じゃあ、アーマライトの弾薬を二〇〇、グレネードを二〇お願いします」
「おう。弾薬類は合わせて四〇〇〇ジルだ」
「あら、今のは支援AIかしら?」
声のした方を見ると目の前に二つの山……ではなくロビンがいた。
どうやら彼女も二人と一緒に店舗のほうに戻ってきていたようだ。
「はい。アイビスって言います。私初心者なんでいろいろとサポートしてもらってるんです」
「そう。アスカちゃんのサポートって色々大変そうね」
『はい。とても』
「アイビス!?」
「アイビスちゃん、苦労してるのね……」
『それはもういろいろと』
「や、やめてよアイビス!」
アイビスまさかの裏切りである。
が、裏切りのアイビスを責めるべきか、AIすら困惑する行動を繰り返すアスカが相手なら仕方ないと納得するかは判断が難しいところだろう。
そんなやり取りをしつつも購入の終わったエルジアエ、弾薬類をインベントリに仕舞いこむ。
「よし。ダイクさん、ありがとうございました」
「いやいや、こっちこそ面白い仕事だったぜ。翡翠の製作も順調だからよ。そのうち取りに来な」
「分かりました!」
「あら、TierⅡを作ってるの?」
「はい。この間開発が終わったので後払いで作ってもらってます」
「ダイクが後払いにしてくれるなんて珍しいわね。銃の件と言い、なぁに、あなたこんなちっちゃい娘が好みなの?」
「……そうなんですか?」
突如湧いたダイクのロリコン疑惑。
二人の冷たい視線がダイクに刺さる。
言われてみればアスカに対するダイクの態度はかなり甘いものだ。
第三者から見れば好意を持っていると思われても仕方のないほどに。
「ばっ、何言ってんだ! 俺ぁフライトアーマー使いの嬢ちゃんが心配なだけだ!」
そう言ってダイクは腕を組んでそっぽを向いてしまった。
明らか様なその態度はツンデレそのものなのだが、ゴツイ禿げ頭のおっさんのツンデレなど誰が得するのか。
もちろんダイクはアスカに好意を寄せているのではなく、本人の言う通り心配し、気にかけているだけ。
当然二人も分かった上でからかっている。
「ンなことより嬢ちゃん、鉱石は取りに行くのか?」
「はい、この後探しに行こうと思ってます」
鉱石。それは翡翠を作るための素材だ。
全額ジルでもアーマーは購入できるが、鉱石があればその分値引きされる。
また鉱石が採取できるのはまだ行った事がないエリアで、エルジアエの実戦投入もしてみたい。
「じゃあツルハシを買っていきな。これがなきゃあ鉱石を採取できねぇ」
「ツルハシ……」
たしかに鉱石を採取するなら必要だろう。
フライトアーマーのインベントリ数は少ないが、必須アイテムな以上持っていくしかない。
ダイクの助言通りツルハシを購入し、それもインベントリに仕舞う。
「アスカちゃん、ライアット山に行くの?」
「ライアット山?」
『鉱石の採掘ポイントがある場所です。ここから北の雪原を超えた先にあり、麓には拠点となるジーナ村があります』
「よかったら一緒に行かない? 私も鉱石が欲しいから丁度行こうと思ってたのよ」
「いいんですか?」
「ライアット山は険しい雪山だから一人だとちょっとキツイの。アスカちゃんがどんなふうにフライトアーマーを操ってるのかにも興味あるし、ね?」
「ロビンは何度もライアット山に行ってるからな。教えてもらうには丁度いいだろう」
「私、足手まといにならないですか?」
アスカの脳裏にはロックリザードやオークとの戦闘が思い出されていた。
どちらも主兵装のアーマライトが通じず、戦力にはなっていなかった。
今は新装備のエルジアエがあるとはいえ、まだ実戦で使っていない為その能力は分からない。
「大丈夫。とっておきの秘策があるから」
アスカの顔から不安な気持ちを読み取ったのか、ロビンは暖かな笑みで答えてくれた。
「えと、じゃあその……お願いします」
「決まりね」
二人ともアイテム整理があるため、一度ホームに戻り準備してから北の門で待ち合わせることになった。
アスカもホームに戻ると押し入れに所持金を一〇〇〇ジルだけ残して仕舞い込み、代わりに備蓄していたMPポーションを取り出した。
一人ならまだしも、今回はロビンと一緒に行くのだ。足手まといになるわけにはいかない。
『アスカ、インベントリのアイテムスタックについてよろしいでしょうか?』
「アイテムスタック?」
『インベントリには同一種のアイテムを一定数スタックできますが、回復アイテムの上限は一〇個まで。また再使用には一〇秒かかります』
「そうなの? でも薬草や弾薬はいっぱいスタック出来るよ?」
『薬草や魔力草は厳密に言うと「素材」扱いで九九個までスタックできます。弾薬類はライフル等の銃の弾薬なら九九九個まで。グレネード弾等の擲弾なら九九個が上限です。また、種別が同じでも品質が違う場合は別枠でスタックされます』
「と言うと?」
『回復アイテムのスタック上限は一〇ですが、同じ品質のアイテムを別枠に再度スタックすることが可能です。品質DのMPポーションを二〇所持した場合、インベントリ枠を二つ使用し、残り空き枠は八となります』
「えっと、つまり同品質のアイテムは一〇以上持てるけど、一枠の上限は一〇個までって事?」
『概ね、その通りです』
「オッケー、了解だよ」
アイビスがなぜこのタイミングでこの話をしたかと言えば、アスカの品質DのMPポーションのインベントリ所持数が一〇になった為。
アイビスたち支援AIは聞かれた時以外では条件がそろった時にアドバイスを行うようにプログラムされている。
最初に全てを話しても恐ろしく長くなる上、覚えてもらえない可能性のほうが高い。
むしろ嫌気がさしてしまう人のほうが多いだろう。
故に、条件の揃った今インベントリの話をしたのだ。
そんなことを夢にも思わないアスカ。
気を引き締めなおし、ドアからミッドガル広場のポータルへ転移していくのだった。
「ロビンさん! 待ちましたか?」
「いいえ、今来た所よ。アスカちゃん、準備は良い?」
「はい、ばっちりです!」
ミッドガル北の門。
目的地は鉱脈のあるライアット山だが、その前にまず麓のジーナ村を目指す。
基本的に目の前に伸びる街道を行くだけだが、その道中にはノース雪原が待ち構える。
「雪原と言っても、雪解けしてるから雪もあまり残ってないのよ」
「雪解けしてるんですか?」
『Blue Planet Onlineでは四季が存在します。現在の季節は春になりますので、雪原は雪解けしていきます』
「なるほど、よくできてるんだね」
『四季の周期はゲーム内時間二か月。現実時間だと一か月で次の季節に切り替わります』
「へぇ~」
「風景も夏には入道雲だったり、秋には紅葉も見れるらしいわ。楽しみね」
「入道雲!」
そこでアスカの目が爛々と輝いた。
どうやら夏の入道雲の中を飛行するイメージが湧いてきてしまったのだろう。
「アスカちゃんは本当に空が好きなのね」
「はい! 私、空を飛ぶためにこのゲームを始めたので!」
「ゲームを楽しめることは良い事よね」
「はい!」
二人は北門から城壁の外へと出る。
ミッドガル周辺のこの辺りに雪はなく、一面の平原が広がっている。
出入り口の混雑を避け、少しだけ歩いたところで魔法陣を展開。
エグゾアーマーを装着する。
アスカはいつもの見慣れたフライトアーマーだが、左手にはおろしたてのマルチライフル、エルジアエ。
右手には使い慣れたグレネード付きアサルトライフル、アーマーライトの装備だ。
アスカの横でロビンもアーマーの装着を終えていた。
見た感じはアルバが装備していたソルジャーアーマーに近いが、全体的にはそれよりも細く、頭部には一眼カメラの様なスコープを装備している。
だが、それ以上に目が行くのが右の背に背負っている銃だ。
アスカが今までに見た中で一番ゴツくでかい銃は彼女の背中にいてなお存在感を示している。
反対の左背にはライフル銃。
木製の銃床のそれはアスカのエルジアエとよくにているが、銃身は一つのみ。
手にはアサルトライフルよりも小さい小型の銃。
形状はアルバが持っていたサブマシンガンと酷似していた。
「うわぁ、なんか物々しいエグゾアーマーですね」
「スナイパーアーマーは始めて?」
「これがスナイパーアーマーなんですか?」
「そうよ。射撃、遠距離狙撃に特化した銃火器のスペシャリスト」
「マジックアーマーとはどう違うんですか?」
『お答えしましょう』
「出たなアイビス!」
アスカの疑問はふと口に出た程度の物だったのだが、ここぞとばかりにアイビスが名乗り出る。
そのやり取りをロビンはにこやかに眺めるのみ。
『マジックアーマーとスナイパーアーマーはともに中・遠距離を得意とし、機動力が低く、装甲も薄いという共通点があります。しかし、マジックアーマーは魔法属性広範囲攻撃が行え、スナイパーアーマーは銃火器による強力な物理属性単体攻撃が行えるという違いがあります』
「得意分野が違うの?」
『はい。マジックは多数相手に多彩な攻撃魔法での面制圧が得意ですが、スナイパーは狙撃や制圧射撃、砲支援などの牽制の他、集中砲火により単体に対して効果的な物理攻撃が出来ます。他にも、スナイパー専用の銃火器の存在や、銃火器使用時集弾率の向上と言った特徴もあります』
「なるほど、それでロビンさんは三つも銃を持っているんですね」
「そういう事。あと、ちょっと試したいこともあるのだけど」
「試したいこと?」
「それは後のお楽しみ。じゃあ、行きましょう」
「あっ、ロビンさん!」
先に歩き出したロビンをアスカは慌てて追いかけ、出発した。
移動速度もそれほど速くはないスナイパーだが、それでも地面を歩くフライトよりは速い。
フランの時と同じく、何度かロビンに歩調を合わせてもらいながら街道を進んでゆく。
「そういえば街道を歩いてるとあんまりモンスターと遭遇しないね」
『街道上はエンカウント率が低く設定されています』
「交通の要所だし、そこで頻繁に接敵するのはおかしいって事らしいわよ」
『ただし、この先の雪原や雪山などの別フィールドでは設定がまた変わっています。ご注意ください』
「おっけー、気を引き締めなくちゃね」
その後は特にエンカウントすることもなく街道を進んでいった。
しばらく歩いたところで周りの風景が変わってくる。
それまで一面青々とした草原だったのだが、次第に茶色の枯れ草が混ざり始め、日当たりの悪い場所には雪が残っている。
今進んでいる街道は大きな山へ向かって伸びているのだが、目の前の山肌は所々雪で覆われていてまさに雪山と言った風貌を醸し出していた。
「あれが……」
「そう。あれが目的地のライアット山。そしてこのあたり一帯はノース雪原よ」
ここがもう雪原なんだ、ともう一度辺りを見渡す。
地面の茶色い枯れ草の間からは若々しい新芽が生えていて、それは少し前までこの辺りが雪で覆われていたことの証。
周りの木々も葉の数が少なく、ここ最近葉が生えだした感じだ。
アスカが興味深げに周辺を見渡していた、その時。
葉の少ない木々の間からこちらを睨みつける敵モンスターの姿を見つけたのだった。
感想、評価、ブックマークなど頂けますと作者が嬉しさのあまり紋別空港から飛び立ちます。




