閑話 ライブビューイングⅠ
アスカvs飛竜……を中継するレイン……から送られてくる映像を見るクランメンバー達のおはなし。
全2話構成。
例にもれず読み飛ばしても問題ありません。
クラングリュプス本部洋館。
近隣のクラン本部の建物の中でもひと際豪華な洋館の一室に、クランマスターのファルク、アルバ、キスカ、アルディド他大勢の姿があった。
「リコリス1はもう飛竜を捉えたのか?」
「まだよ。焦らないで」
「レインのカメラとの接続は大丈夫だよな?」
「あの飛竜相手に一発ぶちかましてくれよ、リコリス1」
「ヤバイ、私すっごいドキドキしてきた……!」
集まっているのはグリュプス首脳陣以外では飛行隊がほぼフルメンバー。
アスカのフレンドであるメラーナ、カルブ、ラゴ、ホロとそのクランメンバー数名。
そしてアスカのエグゾアーマーをカスタムしたロビンだ。
彼女たちはアスカが対エイシーズ飛竜最後の決戦へ飛び立っていったのを見送った後、本部洋館へ移動。
アスカと飛竜との戦いの結末を見届けるべく、レインの中継が映し出される壁際のウインドウを食い入るように見つめていた。
「この時間なら飛竜は間違いなく寝てるはず。あとはアスカが先に見つけられるかどうか」
「レーダーはウチの奴じゃなくてこのグラマーな姉ちゃんが作ったんだろ? 大丈夫なのか?」
今の所アスカはまだ飛竜とは接敵しておらず、センサー、レーダーを使用し索敵中。
見ているだけでも緊張してしまいそうな状況の中、声を上げたのがホークだ。
彼はここまで他のクランメンバーとミニイベントに出続けていたため、アスカを取り巻く環境に疎い。
その為、信頼できるクランの製造品ではなく、個人ランナー製作のエグゾアーマーと装備に難色を示した。
のだが。
「あだっ、なにすんだよキスカ!」
「あんたこそ何言ってるのよ。この人を誰だと思ってるの?」
「そうだぜ。このでっけーねーちゃんはねーちゃんの……」
「わ、カルブストップ、ストップ!」
すぐにキスカに頭を叩かれる。
続けてカルブが余計な事を言いそうになるが、ラゴが慌てて止めに入った。
ロビンが飛雲や今回の対飛竜戦のエグゾアーマーを用意したことは秘密になっているのだ。
理由はもちろん無駄なトラブルを避けるため。
アスカが有名になるのと並行し、彼女が身に着けるエグゾアーマーや使用する武器に対する関心も高まっている。
故に、アスカのエグゾアーマーの製造、改造を担っているロビンの名が広がると余計な騒動になる恐れが高い。
その為、彼女がアスカの専属メカニックであることを知るのはクラン首脳陣とアスカのフレンドにのみ限定されていた。
「ロビンの事だから性能の心配はしてないけど」
「あら。あれだけの希少素材を使えたら誰だって似たような性能の物は用意出来るわよ」
「えっと、普通は無理だと思います……」
失言を発してしまったホークがカルブやアルバら男性陣に連行され、残ったキスカ、ロビン、メラーナで会話を続ける。
中継ではいまだアスカが飛竜を探しているため、話題は必然アスカが使用するエグゾアーマーに関する事。
「長距離射撃用の緩衝装置に機動力強化のスラスター? すごいわね」
「緩衝装置はスナイパーアーマーの物を応用したし、スラスターも既存の追加パーツを付けただけ。それほどじゃないわ」
「アスカさん、長距離射撃は大丈夫なんでしょうか? かなり練習はしてましたけど」
この戦闘のキモは何といっても初撃の成否だ。
事前の打ち合わせでは寝ている飛竜相手に、長距離射撃で先手を取るという作戦を立てている。
オート射撃では弱点部位への狙い撃ちが出来ない為、アスカのマニュアル射撃によるヘッドショットが必須。
失敗すれば苦戦は必至だ。
「そうね……飛竜が寝ていて静止状態、練習したアスカの腕、エグゾアーマーの射撃管制、安定飛行技術。全部合わせて6割ほどじゃない?」
「アスカさんをしてもそのレベルなんですね……」
「いや、フライトアーマー長距離狙撃で6割はとんでもないぞ」
「アルディドさん?」
「同じことを私達がやっても4割ほどじゃないかしら」
「あらヴァイパー2」
3人で話をしていたところに近付いてきたのはアルディドとヴァイパー2の2人。
目線を合わせ会釈で挨拶を済ませると、そのまま会話に参加した。
「フライトアーマーで狙撃は思っている以上に難しいからな」
「そうなんですか?」
「えぇ。空中だからバイポッドが使えなくて安定しないし、風の影響でグラつくのよ」
「いくら対象が静止物だからって簡単じゃないのさ」
アスカの狙撃成功率。
スナイパーアーマーであれば話にならないレベルの低さだが、フライトアーマーという事を考えると相当に高い。
これは先日アスカとのエキシビションマッチで、ロングレンジレイライフルを使用したヴァイパーチームの2人が詳しく説明してくれた。
あの時、ロングレンジレイライフルを使用したアルディドは、使用を前提としたカスタムをフライトアーマーに施していた。
それは今のアスカ同様腕部に射撃精度向上と射撃時の衝撃を緩和する緩衝装置の増設。
だが、それでも初見のアスカには命中させることが出来ず、有効な武器にはなりえなかった。
空中で様々な影響を受けながら空を飛び続けるフライトアーマーに、長距離狙撃と言う繊細さを必要とするアクションは相性が悪いのだ。
それでもアスカの狙撃成功率が高いのは、どんな影響を受けていても体を水平に保ち続けることができる飛行技術ゆえ。
飛行姿勢と射撃姿勢が完璧ならば、ロビンが作った射撃補正装置が命中率を格段に上げてくれる。
もちろん、ここまで何度も練習してきたアスカの努力も忘れてはならない。
そうして見守る事しばらく。
アスカのそれまで何かを探しているような飛行が一変。
何かを目指して一直線。
機体を水平にすると安定飛行に入りエンジンも停止させ、対物ライフルを構えたのだ。
「見つけたか!?」
「あそこ、飛竜がいる!」
「この距離を狙撃するのか……」
「まだか、まだ撃たないのか?」
「あぁもう、ハラハラする……」
その動作から、アスカが飛竜を見つけたのだとすぐに理解したクランメンバー達。
映し出される映像には、アスカが狙う飛竜の姿もはっきりと確認でき、その瞬間がついに訪れた。
「撃った!」
「弾道……いいぞ!」
「当たれ……当たれ……」
「お願い……!」
アスカの持つ対物ライフルの先端にマズルフラッシュが咲き、煌々と輝く弾丸が放たれる。
飛竜の感知距離ギリギリまで粘り微調整を行い放った弾丸は、一直線に飛竜へと飛翔。
狙い通り頭部へ直撃し、クリティカルヒットとなった。
「やった、当たった!」
「嘘だろ、この距離を当てるのか!?」
「さすがリコリス1だぜ!」
「ダメージ量エっっグい!」
「リコリス1伝説がまた一つ……」
飛竜の頭部に発生する被弾エフェクトと、エフェクト発生と同時に一気に減る飛竜のHPバー。
その一部始終を見ていたクランメンバー達から歓声が上がる。
「アスカさん、すごいです……!」
「さすがリコリス1だな。勝負どころではしっかり決めやがる」
「先手は取れた。でもまだここからよ」
「追撃……よし。3発目……は間に合わないか」
狙撃スキルの高いキスカであれば4発は撃てたタイミングであるが、さすがにそこまでは望めない。
付け焼き刃の狙撃であったが、作戦は成功。
飛竜に対し先手を取れた、このアドバンテージは大きい。
「しかし、すごいダメージだな」
「さすが高貫通弾ね。あれもロビンのお手製でしょ?」
「ええ。ガンパウダーとマジックパウダーを混合圧縮させた火薬と希少金属弾頭。ダメージは3割り増しってところね」
「すごい……でも、お高いんですよね?」
「そうね……TierⅣエグゾアーマー1機分かしら」
「ひえぇ……」
「それなら……私も何発か買おうかしら」
「アスカちゃんが素材を取ってきてくれたからこの値段よ? 全部流通に任せると2機分になるんじゃないかしら」
「それは……ちょっと考えるわね。予算組みしないと」
飛竜が攻撃を受け、空へ飛んだことでアスカは狙撃を終了。
ヘッドアーマーと対物ライフルを投げ捨て、ピエリスとエルジアエを手に空戦を開始する。
難易度上昇により思考が強化、行動パターンにとらわれない動きをする飛竜。
だが、そこは幾度となく飛竜との空戦を繰り返したアスカなのだ。
フライトアーマーの性能を最大に引き出し飛竜の動きに追従。
隙を見ては翼にダメージを入れ、機動力低下を狙う。
「駄目。私じゃ飛竜の動き全然読めないよ」
「毎回行動パターンが違う。これ本当にゲームかよ……」
「でも、リコリス1はしっかりついて行ってる」
「俺達とは試行回数が違うもんな」
「飛竜の翼がボロボロになってくぞ」
カスタムされ飛竜と同等だったアスカの機動力。
だが、執拗な片翼狙いにより飛竜の機動力はみるみる内に低下。
両者互角だった開始直後の機敏さはもはやなく、アスカの一方的な展開になってゆく。
「やるなぁ、リコリス1」
「なぁなぁロビンさん、アスカさんのマシンガンの弾薬も高貫通弾なん?」
「えぇ。通常弾だと翼を撃ちぬけない可能性もあったから」
「……一発いくらなん?」
「TierⅡエグゾアーマー1機分」
「わぁ……」
「そ、そんな高価な弾丸をマシンガンで……ひえぇ……」
ゲームの中でフライトアーマーネームドエースとして名をはせるヴァイパーチームもアスカの動きには呆気にとられるばかり。
そんな時ホロが気になったのは、アスカが使用するPDW、ピエリスの弾薬。
対物ライフル同様実弾を使用する火器のため、こちらも高貫通弾を使用しているのではと考えたのだ。
試しにロビンに聞いてみると、その答えは案の定。
対物ライフルほどではないが、高価なことには変わりない。
むしろ連射速度などを考えればピエリスの方がよっぽど金がかかる。
カスタムしたTierⅣトゥプクスアラと言い、この戦闘のためにどれだけ金をつぎ込んだのか。
考えただけで血の気が引いてくる。
もっとも。
「ま、アスカちゃんからしたらアイツに勝つのはそれだけ価値があるという事でしょ」
「で、ですよね……」
「難易度エイシーズはエンドコンテンツだ。金をかけてまでやるかどうかは自由さ」
「ねーちゃん、かっこいい!」
アスカにとっては飛竜を倒すための必要経費である。
皆で話をしている間にもアスカは攻撃の手を緩めず、飛竜は映像からでも飛びにくそうにしているのが分かるほどに。
しかし、飛竜も黙ってはいない。
「飛竜の口に白い光が!」
「【ホーミングレイ】か!」
「一対一で使う技じゃねぇって」
「でも、リコリス1にはアレがあるわ」
飛竜が繰り出そうとしているのは誘導性能を持つ大量の光線を放つ【ホーミングレイ】。
装甲の薄いフライトアーマーには相性最悪の技。
だが、アスカは怯むことなく、飛竜と対峙する。
それを固唾を飲んで見つめるメンバー達も、躱せることを確信している表情だ。
そして放たれる、飛竜の【ホーミングレイ】。
【ホーミングレイ】の光線が放射状に大きく展開した瞬間、アスカが動いた。
「出た、フレア!」
「くそう、かっこいい!」
「開発部、頼む、早くアレを作ってくれ!」
絶妙なタイミングで展開されたフレアに飛行隊メンバー達が一気に沸き立つ。
アスカがフレアを持っている事はグリュプス飛行隊であれば周知の事実。
飛竜の【ホーミングレイ】に対し有効な事も、エキスパートとの戦闘で証明済みだ。
「フレアか……あれこの先フライトアーマーには必須の装備になるな」
「ええ。【ホーミングレイ】に有効という事はミサイルにも有効よ」
「ミサイルの天下は一瞬だったな。あれじゃあどれだけ撃ってもミサイルは当たらないだろ」
ミサイルの誘導方式は【ホーミングレイ】に代表される誘導性能を持つ魔法と同じ、魔力感知式。
つまり対【ホーミングレイ】対策だったフレアは、そのままミサイル防御装置として使用できる。
一回で大量発射できず、誘導性能も低く、直撃でしか起爆しないミサイルでは、大量に射出されるフレアをかいくぐり本体に命中させることは不可能に近い。
現実世界でも軍用航空機にはフレアディスペンサーが必須装備となっている以上、ゲーム内でも必須装備になる事は確実だ。
現状のミサイルはけん制にすら使えなくなるだろう。
飛行隊メンバーがアスカと飛竜の空戦に沸き立つ中、ヴァイパーチームやアルバ、ロビンらはアスカの装備や威力について談議を交わす。
そんな中、飛竜のHPがついに3割を切ったのであった。
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うれしさのあまりサン・ジャシントから発艦してしまいそうです!




