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閑話 アームドビースト競争Ⅱ

1話で終わらせようと思ったら終わらなかったの巻。

競馬ネタが満載です。

特に実況。


 ナインステイツ東部に建設された競馬場。

 リアルの同地点に建造されている競馬場とそっくりに作られたターフの上を、エグゾアーマーを装備した馬とランナー達が駆けて行く。


《逃げた逃げた、ツインチャージャー! 後続と大きく差を開けて大逃げであります! 2番手にはショウグン、続けてムーンライト、2馬身開いてコマンダー、差がなくトニー、その外に居た、タービュランスはここに居た! 最内を通って……》

「ジエのヤツ、やっぱり逃げたか……!」


 馬群中段の前寄りを進むマルゼスとタービュランス。

 ジエの腕とツインチャージャーの能力から逃げは想定していたが、ここまでの大逃げとは想定外。


 今の位置は逃げ勢の真後ろ、先行としては最良だが、このポジションに着くため序盤でスパートを使わざるを得なかった。


「1000m通過、通過タイムは……やはり早いな!」


 ゲームという事もあり、タイムは視界に表示されている。

 トータルタイムのカウンターは回り続け、その隣でラップタイムが200m毎に刻まれる仕様だ。


 マルゼスを含め、これまで何度も走ってきたランナー達は既にラップタイムから全体のペースが遅いか早いかなど手に取るように分かる。

 そして今ラップタイムが示すタイムは、ツインチャージャーが大逃げしたせいもあり明らかなハイペース。


 出来ればすぐにでもツインチャージャーを追いかけたいが、無理に行くとツインチャージャーと共倒れの危険もある。

 かと言ってこのまま何もせずにいると逃げ切りを許してしまう。


 それはマルゼスだけでなく、他の騎手たちも同様。

 お互いがお互いにけん制し合い、動けずにいる最悪の状況だ。


 だが、マルゼスはにやりとほくそ笑む


「はっ、誰も行かねぇってか。なら俺が勝たせてもらうぜ。タービュランス!」

「ブルルッ!」


 動こうとしない他馬を横目に、手綱をしごいてタービュランスに合図を送る。

 マルゼスの指示にタービュランスはすぐさま反応。


 それまでの巡行ペースから速度を上げ、逃げるツインチャージャーを追いだす。


《タービュランス動いた! それにつられトニー、コマンダーも速度を上げる、後方、オウノニチリンも動く、ゾンダーボッホはまだ動かない!》


 アームドビーストの能力が拮抗していた場合、先に動いた方が有利。

 互いにけん制し合ってはいたが、実力のあるタービュランスが動いたとあっては続かざるを得ない。


 前方を走っていたショウグンとムーンライトも速度を上げるが、序盤ツインチャージャーと競った分余力がなく速度が上がらない。

 すぐさま追ってきたタービュランス他後続に抜かれ、馬群に沈んでゆく。


「くそっ、もう来やがった!」

「お前の作戦は、全部まるっとお見通しだ!」

「ネタが古いんだよ!」


 前方にいた2頭を追い抜いた勢いそのまま、第3コーナーに入り、第4コーナーでついにツインチャージャーを捉える。

 マルゼスはここぞとばかりにスパートを使用。


 序盤の無理がたたり速度が上がらないツインチャージャーを一気に抜き去る。

 ツインチャージャーも何とか粘ろうとするが、やはり速度が出ない。

 何とか付いて行こうと必死に追うが、すぐさま後続に捕まり馬群の中へと消えて行く。


《4コーナー、タービュランスがついにツインチャージャーを捉えた! ツインチャージャーの先頭はここで終わり! さらに後続も差を詰める! オウノニチリン、差がなくエピック、チルド! ゾンダーボッホも中団からスパートをかけた!》


 第4コーナーを回り、先頭で最後の直線に入るマルゼスとタービュランス。

 この競馬場の直線はおよそ300m、距離としては標準的。

 だが、第4コーナーの立ち上がりからゴールまで坂がなく、先頭で直線に入った馬がそのまま押し切る事が多い。


 だからこそ、ツインチャージャーも序盤でスパートを使うという無理をしてまでハナを主張したのだ。


 しかし、先頭で最終コーナーを回ってきたのはタービュランス。

 スパートの残り時間は少ないが、タービュランスから伝わってくる手ごたえはこのまま勝ちきれることを示唆している。


《最後の直線、先頭で入ってきたのはタービュランス! さぁ後続は届くのか!? オウノニチリン伸びが苦しい! エピック、チルドは一杯になったか! 大外からゾンダーボッホ、大外からゾンダーボッホ! ものすごい末脚! 》


 スパートの尽きたタービュランスを必死で追うマルゼス。

 後方に視線を移し、後続との距離を確認。


「この距離なら……いや、あれは!?」


 後方から迫りくるライバルたち。

 だが、スパートはほとんど残っておらず、残り100mでは届かない。

 大外、直線に賭けたゾンダーボッホもこの距離なら僅かだがこちらが残る。


 確信に近い勝利の手ごたえを得たマルゼス。


 ところが最内。

 

 内ラチ沿いギリギリを通りとんでもない末脚で迫ってくる影があった。


《最内からグレートアーサー! 3番手ゾンダーボッホを躱しタービュランスに襲い掛かる!》

「やっぱりこいつが来たか!」


 グレートアーサー、騎乗しているのはどのクランにも所属していない無名のランナー。

 だが、マルゼスは輪乗りの段階でグレートアーサーが脅威になるだろうと予測していた。


 その理由はグレートアーサーとランナーが身に着けるエグゾアーマーだ。

 彼らが装備しているエグゾアーマーはこのレースに出場しているアームドビースト達の中では一番Tierが低いものだった。

 それに対し、ここまでの戦績は他の出走馬達に劣らないどころか上位。


 つまり、エグゾアーマーの能力がワンランク低いにもかかわらず、騎手の腕で勝ちぬいて来ている、という事なのだ。

 実際、輪乗りしていても彼の騎乗フォームはバランスが良く、明らかにアマチュアのそれではない。


 それはスピードが伸びず壁になる馬が多い最内を縫うように追い出してきたという事からも頷ける。


「騎乗の腕では負けるけど、勝ちは譲らない!」

「………………」


《内グレートアーサー、外タービュランス! 2頭の追い比べになった!》


「せああぁぁぁっ!」

「…………っ!!」


《グレートアーサーが躱す! タービュランス差し返す! これは大接戦! 大接戦のゴーーーール!》


 内を抜けたグレートアーサーがタービュランスに馬体を合わせ、競り合いの形になる。

 しぶとく粘るタービュランス、さらに追うグレートアーサー。


 両者一歩も譲らぬ好勝負。


 目視ではどちらが先頭か分からぬままゴール板を駆け抜け、スタンドからは大歓声が上がる。


《着順、確定しました。1着タービュランス、2着ハナ差でグレートアーサー、3着1馬身差でゾンダーボッホ》


 判定は写真判定だが、ゲーム故すぐに決着。

 大型電光掲示板に着順と着差が表示され、再度沸き立つスタンド。


 勝利が確定したことでタービュランスは返し馬からスタンド前を走り、スタンドに手を振る。

 大歓声を浴びながら検量室へ。


 もっとも、これもゲームである為検量は不要。

 あくまでアームドビーストから降りる場所と雰囲気造りとしてここに戻ってくる手はずになっている。


「やったなマルゼス」

「畜生、美味い事やられたぜ」

「はは、伊達にクランマスターはやってないぜ」


 検量室にはランナーを始め、クランメンバー、レースを補佐してくれるNPCなどで賑わっていた。

 そこへマルゼスとタービュランスが来ると皆作業の手を止め、拍手で出迎えてくれる。


 マルゼスは笑顔で皆に答え、下馬。

 先に検量室まで戻っていたユーイチらと声を交わす。


 そして、少し離れた位置に最後まで接戦を繰り広げたグレートアーサーとランナーの姿を見つける。


「悪い、ちょっと言ってくる」

「お、勧誘かクラマス」

「抜け目ないね」

「茶化すなよ」


 祝いの言葉を掛けようと集まってきてくれた周りの人々に一声入れ、場を後にするマルゼス。

 向かったのはもちろんグレートアーサーとランナーの所だ。


「すまない、少しいいか?」

「…………?」


 グレートアーサーのランナーはヘッドアーマーを装備しており、口元しかわからない。

 それでも、何故声を掛けられたのか分からないと言う雰囲気は察することができる。


 そんな頭上に疑問符を浮かべるランナーを前に、マルゼスはニコリと笑って手を伸ばした。


「いい勝負だった。また一緒に走ろう」

「……!!」


 伸ばされた手とマルゼスの言葉を聞き、口元が明るくなるランナー。

 すぐさまマルゼスの手を取り、あつい握手を交わす。


 その後、グレートアーサーとランナーはエグゾアーマーを解除。

 競馬場の外へ出て行く。


 マルゼスは仲間達のもとに戻り、大事な相棒タービュランスの労をねぎらった。


「しかし、彼はなんだったんだろう?」

「あの騎乗スキル、ただ者じゃないぞ」

「まぁ、だいたい予想は付くけどな」


 彼の騎乗能力とセンスから考えると、リアルでの競馬関係者であることは間違いないだろう。

 リアルでは今日が競馬開催日である為、現役の競馬騎手という事はなさそうだが、その血縁者や競馬学校の騎手学科生徒である可能性も捨てきれない。

 しかし、ゲームにおいて人のリアルを探るのはマナー違反。


 マルゼスたちは詮索を止め、すぐに話題を変える。


「さて、次のレースは?」

「最終レース? たしかうちのクランから出てたな」

「よし、じゃあ応援に行かないと」

「お前馬券は買うなよ? この間も全部外したんだから」

「俺は博打をしてるんじゃない。銀行に金を預けているだけだ」

「引き出す番号を知らないだろうが!」


 メインレースが終わり人が少なくなり始める競馬場。

 それでも、最後のレースを見ようとスタンドに集まる人々は皆楽しそうに笑っていた。


たくさんのいいね、感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!

嬉しさのあまりバターンから発艦してしまいそうです!


閑話はあと少し、レインが撮影していた「アスカとエイシーズ飛竜の空戦」を見ているクランメンバーの様子まで予定しています。

執筆完了いたしました。

5/21、22の2日で1話ずつ、2話更新いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いかん、全く空を飛んでないのに盛り上がってしまう。 [一言] マルゼス昭和生まれ説……。やたら背の高い教授に「You……」て突っ込まれちゃうぞww
[一言] 作者様とはウィニングポスト談義が出来そう
[一言] 無名の彼も今後ネームド化して出番があるといいなぁー
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