23 マルチウェポン
本日一話目更新です。
「うにゃあああ! またでたぁ!」
『撃退は困難です。撤退してください』
「ちくしょー、おぼえてろよー!」
ダイクに武器を注文し、魔力草の栽培にも目処が立った翌日。
アスカは魔力草採取のために山岳の高台に来ていた。
すでに午前中の採取は終えており今は午後の分の採取をしていたのだが、八割ほどを採取し終えたところで招かれざる客を追い払うかのように茂みからオークがスポーンした。
だが、アスカからしたら『してしまった』と言った方が正しいだろう。
ダイクから武器をまだ受け取っていないため、今はまだアーマライトとロングソードしか装備していない。
その上、この二つではオークに対してダメージを与えられないことは昨日確認済みなのだ。
オークがスポーンした時点でアスカが取れる選択肢は『逃げる』しかない。
「むううぅ、二度ならず三度までも」
『無理に戦闘して死亡するよりかはマシかと』
「午前中にも邪魔されたんだよ? これじゃあ稼げないよ」
午前中の採取でも七割ほどの所でオークのスポーンにより採取を中断している。
度重なる妨害にすっかりご機嫌斜めになったアスカは眉間にしわを寄せ、頬を膨らませた。
「ダイクさんから銃貰ったら倍返ししてやる」
復讐を誓うアスカはそのまま滑空飛行でラクト村へ帰還、MPを回復させるとすぐさま空を飛んでミッドガルへ移動する。
フレンドリストを見るとすでにフランはログインしていた。
ただ、昨日はこのタイミングで会いに行っても露店市は人でごった返して会うことが出来なかった。
少し悩んだが、とりあえず行くだけ行ってみようと露店市へ向け歩き出す。
もちろん、一度ホームへ寄って午前中の回収分を取ってくるのも忘れない。
露店市は今日も賑わっていた。
よく見れば数日前より露店の数が増え、売っている物もポーションや煙幕、武器等完成品が多くなってきている。
中にはきれいなアクセサリー類もあり足を止めてしまう事もあったが、誘惑と煩悩を何とか振り払いフランが構える露店の位置までたどり着く。
「おや、アスカ。いらっしゃい」
「こんにちはフラン。今日は人が並んでないのね」
昨日と違い、今日はフランの露店に人だかりは出来ていなかった。
聞けば、今日はゲーム内がまだ夜のうちにお店を開いたらしく、朝の時間帯でMPポーションはすべて捌けていたと言う。
「じゃあ、今日の回収分を渡すね。オークに邪魔されちゃったから、また量が少ないんだけど……」
「気にしないでいいよ~。取ってきてくれるだけで大助かりなんだから」
申し訳なさそうに話すアスカに、フランは笑って答えてくれた。
今日の収穫分の買取金額は一七九四〇ジルで今までより大きく下がってしまったが、これは妨害が入ったため仕方のない事だろう。
フランに取り置きしてもらっていたMPポーションをアスカが買い取り、今日の取引はこれで終了となる。
「フラン、今日この後は何するの?」
「今日も調合だよぉ。その後はリアルのほうで用事があるから、そこまでかなぁ。アスカは?」
「私はこれからダイクさんの所で昨日頼んだ武器を貰いに行くよ」
「お、武器新調したんだぁ! 何を買ったんだい?」
「猪王の斧槍と魔石を渡して、レイライフルをお願いしたよ」
「うんうん、今のアスカは火力不足だし、良いと思う。MP不足はポーションで補えるものねぇ」
その後はしばらく雑談タイムとなった。
お互いのリアルの話や、洋服。ゲームではアイテムの使い方や銃の狙い方など技術的なこと。
アイビスはシステム的な要素はすべて答えてくれるが、技術的な事は答えてくれない。
フランはそのあたりの事もよく知っていたので、色々と教えてくれたのだ。
雑談タイムはフランのお店にお客さんが来たとこで終了する。
「じゃあフラン、また明日」
「うん、また一緒に冒険しようねぇ」
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フランの露店を後にして、ダイクのお店に向かう。
この大通りからはここ数日毎日のように通っているので、道順は完璧だ。
見慣れた街並みを眺めながら、お店の中へと入っていく。
「ダイクさん、こんにちは!」
「おっ、嬢ちゃんいらっしゃい」
「あら、お客さん?」
「あっ、こんにちは」
店内にはこの店の店主であるダイクの他、もう一人、女性が居た。
体の芯自体は細いが身長は一七〇㎝を超えるくらいはある長身のモデル体型をしていて、髪はオレンジがかった茶髪でウェーブのセミロング。
トップスはVカットで長袖のオフショルダーだが、腹部は丈が短くおへそが見えている。腰にはストールが巻いてあり、その下にはスパッツだ。
スパッツから先は当然生足なのだが、それ以上に目をやってしまうのがVカットで谷間が強調されたその豊満なバスト。
同性であるアスカからしても目が行ってしまうほどのセクシーさだったのだ。
しばし見とれてしまったアスカだったが同性と言えどさすがに失礼と思い視線を外し、ダイクに声をかける。
「えっと、ダイクさん、出来てますか?」
「おう、例の物な。できてるぜ」
そう言うとダイクはカウンターの下から一丁の銃を取り出し、上に置く。
「これがこの工房の最高傑作、マルチウェポン、エルジアエだ」
「マルチウェポン?」
アスカは言葉の意味がよくわからないままに銃を手に取るとじっくりと見定めた。
木製の銃床にグリップに二本の銃身。
その形状はまさしく上下二段式ライフルだ。
ただ一つ、アスカの記憶と違うのはその銃身が黒ではなく純白であること。
さっそくメニューからその性能を表示させると、アスカの目がらんらんと輝いていった。
[武器]エルジアエ TierⅢ
種別:マルチウェポン
兵装1:レイライフル
火力:860
兵装2:レイアサルトライフル
火力:153
兵装3:レイサーベル
火力:980
状況に応じて使用モードを単発火力のライフル、連射可能なアサルトライフル、ライフルの銃口から発生させるレイサーベルに変更できるマルチウェポン。
レイライフルモード:1発でMP10を消費。
アサルトライフルモード:5発毎にMP10を消費。
レイサーベルモード:発動時MPを10消費。以後毎分MPを5消費する。
「わ、わ、わ! なにこれ! ダイクさん、すごいよこれ!」
「そうだろう。さっきも言ったが、このダイクアーマー工房の最高傑作よ」
大はしゃぎするアスカ。その様子を見るダイクは何とも満足そうにしている。
「その銃、そんなにすごいの?」
「えっ?」
声をかけてきたのは先ほどの豊満なバストを持つ女性だった。
「あ、はい、すごいです。一つでいろんなことが出来る銃なんて初めて見ました」
「一つで複数……だから『マルチウェポン』なのね」
「おうよ。嬢ちゃんがいろんな種類の銃が欲しいって言ったんでな。素材的にもそういくつも銃を作れねぇ。なら一つの武器で複数の役割を持たせれば良いって寸法よ」
「簡単に言うわね……ねぇ、その銃、ちょっと見せてくれない?」
「いいですよ」
アスカから受け取った銃を女性はいろいろな角度から見定める。
銃身の精密さやトリガーの引き代、時には銃を構えて照準を付ける。
その表情からは先ほどの笑みは消え、真剣そのものだ。
「あの……」
「あら、ごめんなさい」
真剣な表情を崩した女性は「ありがとうね」と言いながらアスカに銃を返す。
受け取りながら不思議そうに見つめてくるアスカの心の内を読んだのか、女性は自己紹介をしてくれた。
「私はロビン。あなたのお名前は?」
「アスカです」
「アスカちゃん、よろしくね。私、ゲーム内で製造をやってるから、ついつい真剣になっちゃったわ」
「わりぃな嬢ちゃん。ロビンはアーマーや武装のことになると目の色が変わるんだよ」
「む、ダイクにだけは言われたくない言葉だわ」
ダイクの言葉はよほど不本意らしく、目に見えて不貞腐れるロビン。
アスカはロビンの言う「製造」の意味が今ひとつ理解できなかったのだが、そこはアイビスが解説してくれた。
『Blue Planet Onlineでは戦闘スタイルに直結するものは装備するアーマーであり「生産職」というものがありません。しかし、スキルにおいて薬を生産する【調合】、アイテムを生産する【錬金】、服を生産する【裁縫】、食料を生産する【料理】等があります。ロビンの言う【製造】はエグゾアーマー・兵装生産のスキルです』
「だから、アスカちゃんの持つ貴重な銃がすっごく気になっちゃったのよ」
その説明にアスカはようやく納得した。
「それにしてもよくこんな銃作れたわね。一体何を素材に使ったの?」
「素材はそこの嬢ちゃんの持ち込みだ。それ以上のことは言えねぇな」
「あら、つれないわ」
「大事な顧客の情報をバラす商売人はいねぇな」
「ごもっとも」
「あ、あの……」
二人が何やら話し込む中、わずかなスキを見つけてアスカが会話に割って入る。
趣味の合う二人の会話は延々と続く。ならば多少強引でも切るしかないのだ。
「ダイクさん、この銃どうやって使えばいいんですか?」
「おっと済まない。この店は二階が試射場になってる。そっちで説明しよう」
「アスカちゃん、私もついて行っていい?」
「良いですよ」
三人は一度店の外に出ると店舗の外階段を上り屋根付きの試射場へ入る。そこは射撃練習場の他、剣を試し切りするための藁束なども置いてあった。
この試射場はアーマーの装着制限が解除されているらしく、ダイクからそこでアーマーを装着するよう頼まれる。
メニュー画面からアーマー装着を選択すると、足元に魔法陣が出現し、アーマーが装着されてゆく。
他愛のないアーマー装着風景だが、ロビンだけは少し驚いたような表情をしていた。
「フライトアーマー……なるほど、だからマルチウェポンが必要だったのね」
「おうよ。フライトアーマーは武器積載量がすくねぇからな。ある意味苦肉の策だ」
二人がまた何やら生産者の話をしているが、内容に興味のないアスカは次はどうしたらいいのかダイクに視線で問う。
「そしたらエルジアエを構えてくれ」
アスカは頷くと射撃練習場にある複数のレーンの一つに入り構える。標的は一〇〇mほど先にある丸い的だ。
「エルジアエはトリガー上部のセレクターレバーで単発・連射・サーベルにモードを切り替える。試しに一番上の単発で撃ってみてくれ」
トリガーに人差指をかけた右手の上部、ちょうど親指の辺りにセレクターレバーはあった。
アスカはそれを親指で一番上に押し上げ、的に狙いを定める。
「撃ちます」
トリガーを引くと「チュン」と言う音とともに上の銃口から白色の光線が一発放たれ、的を破壊。
射撃時の反動はアーマライトよりも軽く、体や銃口がぶれたりすることもないほど少ないものだった。
「おぉ~」
「もう何発か撃ってみるといい。ただし、単発は一発撃つと一秒のチャージタイムが必要だ」
エルジアエからは「チュイーン」と言う何かが溜まっていくような音が聞こえている。
これがダイクの言うチャージなのだろう。
アスカはその音が消えると上から降りてきた新しい的に向けもう一度試射。それを何度か繰り返す。
「上出来だ。次は連射。レバーは真ん中だ」
アスカは再び頷き、セレクターを真ん中の連射に合わせ、トリガーを引く。
すると今度は下の銃口から「チュチュチュチュチュン」と連射で光線が放たれる。
連射はトリガーを引いている間絶えず行われ、連射速度はアーマライトと同水準。
射撃の反動も単発で撃った時と同じでかなり少ないが、その代わりに一発の威力が低く、一撃では的を破壊できず三、四発当たった時点で破壊した。
「おおぉ~」
「どうだ、反動も少ないから狙いやすいだろう?」
「はい、すっごく良いです」
「精度もなかなか。さすがダイクね」
「当たり前だろ。じゃあ最後はサーベルだな。それはこっちの試し切りのほうでやろう」
ダイクに促され試射場から試し切りの藁束の前に移動する。藁束はテレビでよく見る形。
これ自体は使い捨てで、ストックもたくさんあるのでどれだけ切っても問題ないという事だ。
「サーベルはセレクターの一番下。一度トリガーを引くと刀身が発生し、もう一度引くと消える。やってみな」
アスカは軽く構えてセレクターをソードにセットし、トリガーを引く。すると『ヴン』と言う音とともに上の銃口から光の剣が発生した。
刀身の長さが一mほど。エルジアエ自体も持ち手となるトリガー部分から銃口まで一m近くの長さがあるため、そのリーチは二mにもなる。
発生した刀身は長さに対して重量を感じず、銃本体の重さしか感じない。
これは魔法属性のため刀身には重量が存在しない為で、試しに何度か素振りもしてみるが、ふらつくこともなく意のままに扱える。
そして、もう一度トリガーを引くと刀身が消え、銃に戻る。
「うむ、動作は問題ねぇな」
「じゃあ、次は切り込みますね」
模型の前に中腰で構え、トリガーを引いて刀身を発生させると、目の前の模型を一刀で切り捨てる。
そこでアスカはふと違和感を覚えた。
「あれ?」
「どうした? 嬢ちゃん」
「あの、なんか、こう……」
アスカは今感じた違和感をダイクに伝えようとするも、うまく説明できずしどろもどろになってしまう。
ダイクもアスカの感じた違和感を何とか探ろうと首をひねって考え込むが、隣にいたロビンは何かに気が付いたようだった。
「アスカちゃん、それって剣みたいに振ろうとしなかった?」
「はい」
「なるほどね。原因はそれよ」
「どういうことですか?」
「それ、名前こそレイサーベルだけど、銃剣なのよ」
ロビンが言うには、銃口から刀身が発生するこの状態は両手で柄を持つ剣ではなく、グリップと銃床の離れた場所をもつ銃剣。
実際、アスカは右手でトリガー周辺のグリップ部を、左手で銃身下部の銃床を持っている。
「銃剣の攻撃方法は基本突きなのだけど、レイサーベルでこれだけの長さがあるなら、どちらかと言うと槍や薙刀ね」
「つまり、銃剣じゃなくて槍や薙刀だと思って使えばいいんですか?」
「そうね。あと、アスカちゃん右利きでしょう? 持ち方を逆にしたらやりやすいかもしれないわ。試してみて」
アスカは頷き、再度模型の前へ。
今度は左手でグリップ、右手で銃床をもつ。
エルジアエを中腰に構えレイサーベルを発生させると、違和感を覚えて止まってしまった動きで切りかかる。
すると今度は止まることなく二連撃を繰り出せた。
「すごい、ロビンさんの言ったとおりです」
「なるほどなぁ」
「ダイク、あなたが感心したら駄目でしょう。でもこれ、狙撃じみた単発、アサルトライフルの連射、銃剣薙刀って初心者には扱い難しすぎるんじゃない?」
「一つの銃に全部つぎこみゃこうもなる。おれぁ嬢ちゃんのオーダーに全力で取り組んだまでよ」
がははと笑うダイクを呆れた顔で見るロビン。
そのまま銃の使い勝手についての熱い議論がスタートする。
いや、してしまった。
なぜなら、その光景をアスカはただ一人ポツンと見ているしかなかったのだから。
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