閑話 レインのミニイベントⅥ
レインのミニイベント最終話です。
ミッドガルの街、その商店街の一角、スイーツ店が多く並ぶ通りの一角に多くの人が集まっていた。
《お待たせしました! これより第5回スイーツコンテスト予選7部を開催いたします!》
壇上の司会役GMが高々と叫び、人々が歓声を上げる。
周囲にはコンテストの参加者の他、一緒に来たランナーやNPCなど多くの人が集まっていた。
参加人数が多い為、コンテストは予選1~20部まで別れ、各1位のみが決勝へ進出と言う形をとっている。
それでもプレイヤー人数が多い『Blue Planet Online』。
予選ひとつをとっても参加者は50人近くおり、出品数も当然かなりの数になる。
出品作も家庭の手作りレベルからプロレベルまで幅広い。
さて、この数を一体どうやって評価するのかと言うと……。
《それでは本日の審査員をご紹介いたします! まずは美食家で知られる――》
そう、昔からある伝統的な審査員方式である。
審査員の人数は10名ほど。
内5名は協賛の老舗スイーツメーカーの人物であり、アバターに身を映し審査員として参加している。
残り5名はNPCだが、各有名店の考え方を組み込んだ高性能AI。
普段はこの通りにあるスイーツ店店長を勤めている者たちだ。
《それでは採点について発表いたします》
続けて司会進行役のGMがコンテストの祭典について説明。
これは募集要項などにも明記されているが、確認のため再度口頭で告げている。
このコンテストに出品する作品にお題はなく、ジャンルフリー。
採点項目は『作品のコンセプト』『コンセプトの再現度』『完成度』『味』『オリジナリティ』の5つ。
1つあたり20点の100点方式である。
「つ、ついに始まっちゃった……」
「おおお、おちつけもちつけ……」
「コンテストに参加してるのは私たちじゃない。何故緊張する」
「うん。もっと気を楽にしていいよ?」
「な、なんでレインはそんなに落ち着いていられるのよ?」
「だって、記念参加だし……」
GMが説明を続ける壇上から少し離れたところにレイン他3人が立っていた。
この場所がレインの作品を展示する場所であり、3人はその付き添いとして参加している。
場の雰囲気に飲まれ、出品者でもないのにガチガチに緊張する2人に対し、レインはいつも通りふんわりとしていた。
これはレインが必勝で挑んだコンテストではなく、単純にゲームを楽しむためのイベントとして参加している為。
上位、1位が取れれば万々歳だが、そこまで高望みはしておらず、コンテストの参加自体を楽しんでいる。
そうこうしているうちにGMの説明が終わり、拍手と歓声が響き渡る。
どうやらコンテストがスタートしたらしく、審査員の面々が会場に散り、それぞれ採点を開始してゆく。
「ねぇみんな、時間かかりそうだから先に回っておいでよ」
「え、いいの?」
「レインを置いて?」
「うん、私はここで待ってないといけないから」
このコンテストは立食パーティも兼ねており、展示作品は作者の了承があれば試食することが可能。
これはコンテスト参加者は全員知っており、試食用に作品を複数用意していたり、立食用の別スイーツを用意していたりする。
中には時間が取れなかったのか出品作だけが置いてあり製作者の姿が見えないブースもあるが、出品作以外であれば自由に取って良いルール。
なお出品作だけはプロテクトが掛かっており、審査員でなければ手が出せない。
「じゃあ……行ってきてもいい?」
「うん。もともとそのつもりでしょ?」
「ごめん、レインの分も取ってくるから!」
「まかせろ。全種類取ってくる」
「ありがとう。でも、無理しなくていいからね」
周りのスイーツに目を奪われっぱなしの3人をコンテスト会場に放ち、レインは審査員が来るのを待つことに。
しかし、さすが出品作50近いコンテスト予選。
なかなか審査員は訪れず、隣ブースの参加者とお菓子談議などもすることしばらく。
ようやく審査員の一人がレインのもとを訪れた。
「こんにちはお嬢さん。私は審査員のアッシュだ。こちらはクッキーかね?」
「あ、はい。私はレインです。このクッキーは秋の果物をふんだんに使ったフルーツクッキーになります」
「なるほど、フルーツの水気でクッキーが湿気らないよう工夫しているね。一つ貰っても?」
「はい、ぜひどうぞ」
「うむ、この時期旬の果物の甘味と酸味、クッキーの程よい口溶けのバランスが最高だ」
「ありがとうございます」
最初の一人を皮切りに、次々と審査員が訪れレインのクッキーを試食してゆく。
審査員からは何故クッキーにしたのか、どのように工夫したのかなどを聞かれるが、レインはこれを一つ一つ丁寧に返答。
リアルでは内気で引きこもりがちな少女であるが、ことスイーツに関しては積極的に語ることができるようだ。
最初の一人を皮切りに次々と現れ、レインの作品を評価してゆく審査員。
そして、最後に訪れたのはリアルではグルメリポーターとして有名な人物だ。
「おぉ~、これは素晴らしいね! 宝石のようなフルーツたちが今にも零れ落ちそうだよ!」
「こちらのスイーツ盛り合わせクッキーがおすすめですよ」
「ぜひ頂くね! ……おぉ、この見事な色合い、口の中で踊る果物達。これはまさに、秋フルーツのオクトーバーフェストや!」
こうして全審査員からの品評を終えた頃に3人が帰還。
会場に展示された作品の感想を聞くとともに持ってきてくれた試食品を食べ、気になるところには直接出向き。
思う存分スイーツコンテストを堪能。
気になるところを一通り回り、再度ブースまで戻ってきた所で審査終了のアナウンスが流れたのであった。
《皆さま大変お疲れさまでした。最終結果が出ましたので早速発表していきたいと思います! まずは――》
時間が押しているのか、GMは全体アナウンスを流すとすぐに結果を発表。
突然の事に慌てふためきだす2人に、それに呆れる1人。
そんな中レインはまるで人ごとのように微笑みながら壇上のGMを見つめていた。
コンテスト初参加。
気になるレインの順位は――。
……。
…………。
………………。
「レイン、残念だったね……」
「え、何が?」
「コンテスト。もう少しだったのに」
「うん。レインのお菓子なら絶対決勝に行けたよ!」
「あれだけの最高素材を使ったレインのクッキーが6位はおかしい。不当採点」
「えっと、私としては上位入賞出来ただけでも十分なんだけど……」
コンテストからの帰り道。
どこか満足げなレインに対し、他3人は不服そうな表情をしていた。
コンテストの結果、レインは6位。
50人中6位と考えれば大健闘だが、3人にとっては不満なようだった。
3人からしてみればレインのクッキーが全作品の中で一番美味しく、1位で決勝通過間違いなしだったのだ。
だが結果は6位。
みんなで協力し収穫した高品質フルーツを使った事もあり、悔しそうな表情をしている。
「むぅ、レインは悔しくないの?」
「私? う~ん、私は満足かな。やれるだけのことはやったし、すごく楽しかったし」
「レインが無欲すぎる件について」
「おしいよぉ、もったいないよぉ、くやしいよぉ……」
「あ、あはは……」
レインは口に出さないが、レインより上位5人の作品は間違いなくその道のプロ、もしくはセミプロが作った物だった。
3人が試食から戻り、持ち帰ってくれた試食品と話を聞いてこのコンテストにプロが混じっていると推測。
審査が終わったのち、実際にブースまで足を運び目で確かめ再度試食をさせてもらったことで、それは確信に変わっていた。
しかし、レインがこのコンテスト予選7部でプロ、セミプロが作ったと確信したのは全部で7つ。
つまり、6位でもレインはプロ相手に十分勝っているのだ。
今まで完全に趣味、アマチュアでやってきたことを考えれば大金星。
レインが満足そうな表情をするのも無理はない。
「ほら、そう落ち込まないで。戻ったらみんなでアップルパイ作ろ?」
「アップルパイ?」
「マジで?」
「レインのアップルパイは危険。中毒になる」
「私たちはすでに食べちゃってるからもう遅い……」
「抗えないのさ……レインのアップルパイにはっ!」
さっきまでの悔しそうな表情は何処へやら。
3人はレインのアップルパイが食べれると大はしゃぎ。
レインも自分の作ったお菓子をそれだけ楽しみにしてくれるのはとても嬉しく、笑顔の花を咲かせるのであった。
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嬉しさのあまりモンテレーから発艦してしまいそうです!




