閑話 レインのミニイベントⅤ
全5話構成の予定でしたが、本話が長くなりすぎた為分割いたします。
申し訳ありません。
次回がレインのミニイベント最終話になります。
ヘレンの森を抜け、ようやくトティス村まで戻ってきたレインたち。
航空支援のおかげで全員無事生還したが、さすがに戦闘を完全には避けられずダメージを負い、MPに至っては全員がほぼゼロという状況だった。
「ふぅ~、何とか帰ってこれたねぇ」
「ふふふ、私達はこれでもグリュプス飛行隊。エリート」
「確かに。キツかったけど、選抜試験よりかはマシだった」
ゲーム故肉体的疲労はないが、精神的疲労は隠せず、皆肩で息をし膝を折ったり天を仰いだりしている。
それでも全員生還したことに安堵し、やり切った顔をしていた。
《よし、全員生還したな》
《やったぜ、これでお菓子がまた食べれる!》
「みなさん、ありがとうございました!」
《お菓子をよろしく!》
「はい、たくさん用意しておきますね」
《やったぜ》
《ひゃっほー!》
《レインのお菓子ってそんなに美味いのか?》
《お前らいい加減にしろ。MPポーションも残り少ない、ミッドガルに帰還するぞ》
《了解しました。ではレイン、また本部で!》
航空支援を行ってくれた小隊もレインたちの生還を見届け、ミッドガルへ向け飛んで行く。
レインたちは手を振って小隊を見送った後、移動を開始。
エグゾアーマーを解除し、村のポータルからミッドガルへ。
本部への道中でクッキーの材料を買い足し、クラングリュプス本部洋館へと戻ってきた。
4人は部隊部屋に行かず、そのまま調理場へと足を向ける。
「ただいま戻りました!」
「おや、皆さんおかえりなさい。目的の物は手に入りましたか?」
「ばっちり。これで我々はあと百年は戦える」
「いや、さすがにそれは……」
調理場のドアを開け、中に入ると作業中だったシェフたちに挨拶。
4人が取ってきた果物を調理台の上に並べ再度品定めを行う。
「ほぉ、これは見事ですね」
「みんなで頑張りました!」
「これほどの品質、街ではなかなか見かけませんよ、さすがです」
「どや」
全エグゾアーマー中トップのアイテム積載量を誇るトランポートアーマーにこれでもかと積み込んだ果物。
しかもそれが4人分という事もあり、その量は調理台から零れ落ちそうなほどになっていた。
調理台の上に置いた果物の品質は全てB。
種類も手当たり次第に収穫したため秋が旬と言われる果物ほぼすべての品種が揃っている。
「ふむ……これならクッキーだけでなくどんなスイーツにも使えそうですな」
「私が使うのはコンテストに出す分だけなので、余った分はどうぞ皆さんで使ってください」
「良いのですか?」
「はい。こんなにあっても使いきれませんから」
レインが必要なのはスイーツコンテストに使う分だけであり、この量はどう考えても多すぎる。
日々のスイーツ作りで使うにしても、毎日作るわけではないので持て余すこと必至。
それならと、毎日ここで何かしらの料理を行うシェフ達に預けた方が有効活用してくれるはずだ。
話を通し、まずはこの多すぎる果物を冷蔵庫へ片付けようかとしたが、それは他3人とシェフ達がやってくれるとの事。
そこでレインは早速お菓子作りを開始。
作るのはコンテスト用の試作品と、先ほど航空支援をしてくれた小隊への報酬とお礼を兼ねたアップルパイだ。
クッキーは口触りの良いランドグシャクッキーからバターを少なめにした歯応え抜群のクッキーまで幅広く。
焼き上がったクッキーの上にに旬の果物を載せ、ゼラチンをつかったナパージュでコーティング。
他にもドライフルーツ、生クリームを使用しバリエーションを増やす。
アップルパイは特にアレンジは加えず、オーソドックスな造りに。
しかし、そこは品質Bのリンゴ。
蜜をたっぷり含んでおり、切った時点で美味しさが伝わってくる。
蜜リンゴをパイ生地で包み、焼いている最中には最高に甘い香りが調理場に漂い、どこからかお腹の音まで聞こえてくるほどだ。
「よし、出来上がり」
「ヤバい、このアップルパイ、絶対ヤバい」
「飛行隊員かわいそう。これを食べたら他の物が食べられなくなる」
「悪魔よ。これは悪魔の食べ物よ。私には分かる」
「みんな何言ってるの?」
3人やシェフ達と共に飾り付けを終え、食堂へ並べる。
部隊室に行けばちょうど先ほどの小隊がいたのでお礼をすると食堂へご招待。
声掛けをしたのは小隊4人だけだったのだが、気が付けばその時部隊室にいた全員が付いて来てしまったのはご愛敬。
そして食堂に並べられたスイーツを見るや皆歓声を上げ、アップルパイはレイン直々に小隊員に渡してゆく。
「これがあいつらが言っていたレインのお菓子か」
「え、いいの? これ食べていいの?」
「なんだろう、これを食べたらもう二度と引き返せない気がする」
「同感。だがここまで来て引き返すという選択肢はない」
「いーなー、いーなー!」
「なぁレイン、俺もあのアップルパイ食べたいんだけど……え、ダメ?」
レインたちを支援しアップルパイを貰った4人に羨望の眼差しが集中する。
しかし、そこは度胸の据わりまくった飛行隊員。
4人は周りからの視線を気にすることなく、パイを口にする。
すると、その表情がみるみるうちに崩壊してゆくではないか。
「うっま、なにこれうっま!」
「嘘だろ、こんなアップルパイ食べた事ねぇよ……」
「リンゴ、まさに禁断の果実よ……神も口にするなというわけだ」
「なるほど、これは美味いな」
口に含んだ瞬間、周りにパリッと言うパイ生地が裂ける音が聞こえ、「あーあー」という感嘆の声が響く。
4人の表情からもその美味しさが伝わってくる。
すでにレインのお菓子の美味しさを知っていた2人はもとより、そんなに美味しいのかと疑問だった一人に、若干否定的だった小隊長からも「美味しい」と言う声がこぼれる。
「レイン、すまなかった。これは最高の報酬だ。ありがとう」
「い、いえ、お口に合ってよかったです……」
「ちくしょー、うらやましい……」
「ねぇレイン、アップルパイまだ残ってない? 私も食べたい……」
「こら、アップルパイは私達を助けてくれたお礼。困らせない」
「そうそう。アップルパイはないけど、スイーツコンテストに出品予定のクッキーがたくさんあるんだから!」
アップルパイを美味しそうに食べる4人に視線が集中するが、ここにはまだクッキーが大量に用意されているのだ。
すでに何名かはクッキーに手を出しており、その美味しさに舌鼓を打っている。
「なーに、あなた達食べないの?」
「そうなのか? じゃあこれ俺達が全部食べてもいいんだな?」
「おいまて、誰も食べないなんて言ってないだろう!」
「いやあぁ! 私も食べるのぉ!」
それを見るや、アップルパイに釘付けとなっていたメンバー達も次々にクッキーへと手を伸ばす。
それぞれが手に取った好みのクッキーを口に運ぶと、誰も彼もが美味しそうに頬を緩ませ、悦に浸る。
食堂全体が幸せな雰囲気に包まれ、あちらこちらから至福の声が聞こえてくる。
レインはそんなクランメンバー達を不思議そうに、しかしちょっとうれしそうに眺めているのだった。
その後、他クランメンバーからの要望に負け結局アップルパイを作る羽目になったり。
お菓子作りが好きな、または興味のあるクランメンバーと一緒にお菓子作りをしたり。
時間を見つけてスイーツコンテストの試作品を作ったり。
甘味切れのクランメンバーが禁断症状を起こしたり。
趣味のお菓子作り心行くまで堪能し、スイーツコンテスト当日を迎えたのであった。
【悲報】スイーツ中毒パンデミック発生。
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嬉しさのあまりカウペンスから発艦してしまいそうです!




