閑話 レインのミニイベントⅢ
レインがコンテスト出品作品を決めて数日。
ミッドガル西、エルフたちが住むトティス村奥ヘレンの森、そのさらに奥。
大型アップデートで追加されたヘレンの森深部エリアに、レイン他3人の姿があった。
「アダンソン接近、対物ライフルスタンバイ!」
「足を狙って! 移動力を削ぐだけでいいよ!」
「私達は果物が欲しいだけ。機械蜘蛛はお呼びじゃない」
ヘレンの森深部はトティス村周辺よりも敵が強く、難易度自体が上がっている。
オーガの徘徊に加え、多数のモンスターが闊歩する文字通りの魔境と化しているのだ。
その中でもランナー達を困らせたのがイベントで猛威を振るった多脚戦車アダンソンの出現。
森という行動や武装に制限がでる状況を踏まえてか、上腹部75㎜榴弾砲は取り外されているが、下腹部の機関銃と触肢レイサーベルは従来通り。
さらに不整地に多脚という利点に加え『アダンソン』の名から来る高い機動力、金属生命体から来る強固な装甲でランナー達を苦しめる。
それは採取目的で森に入ったレインたちも例外ではない。
「アダンソンの討伐クエストなんて受けてないのに!」
「ランダムエンカウントだよ、諦めな!」
「アサルトライフルが豆鉄砲にもなっていない件について」
「採取装備で戦闘は無理だって!」
そう、今のレインたちのエグゾアーマーは戦闘用、ましてやフライトアーマーでもない。
それはこの森へ入った理由がクエストを受諾しての戦闘ではなく、ある物を求めての捜索、採取が目的だった為。
レインともう二人が採取用トランスポートアーマー、最後の一人も護衛用とは言えそこまで重装ではないソルジャーアーマー。
採取を目的とした編成ではあるが、さすがに全員非武装というわけではない。
しかし、間に合わせのアサルトライフルや虎の子の対物ライフルではアダンソンの装甲を抜く事が出来ず、非常に厳しい戦闘となっていた。
榴弾砲を装備していないとはいえ、アダンソンは強すぎるのだ。
「駄目だこりゃ、レイン、逃げるよ!」
「あ、うん」
「困った、弾がもうない」
「あそこ! 密集してる木の間!」
メンバーの一人が戦闘継続は困難と判断し、全員に後退を支持。
威嚇射撃を続けながら、アダンソンが入れない木々の間隔が狭くなっている場所へと飛び込むレインたち。
思惑通りアダンソンが木々に阻まれている間に一気に森林を駆け抜ける。
そのまましばらく走り続け湖の畔まで出ると、足を止めようやく腰を下ろした。
「危なかったねぇ……」
「こんな森なんて来るんじゃなかったぁ!」
「しょーがないじゃん、最高級果物がこの先にあるんだよ?」
「とりあえずこの状況を何とかしないと私達がアイツのおやつにされちゃう件について」
そう、彼女たちがこの森に入った理由は一つ。
レインがコンテストに出品するクッキーの材料集めだ。
旬の果物を使うレインのクッキー。
通常の果物であれば全て街で購入できるのだが、3人のうち一人が「せっかくなら最高級品を使おうよ!」と言い出したのだ。
レイン自身は市販品でも構わなかったのだが、3人が最高のクッキーをという事で盛り上がり、情報クランから高品質の果物が採取できる場所の情報を購入。
その情報を元に意気揚々と採取に赴いたのだが、結果はこのざまである。
「アダンソンが出るってのは知ってたけど、接敵するのは想定外だって」
「遭遇回避できると思っていたらこのざまだよ」
「レイン大丈夫? アダンソンとは初戦闘でしょ?」
「うん。でも動画とかでよく見てたから。いいグラフィックデザインしてるなぁって」
「レインがすごい大物な件について」
必死に逃げてきた3人に対し、レインは何処か他人事のように飄々とした雰囲気。
レインはこれまで飛行訓練がメインで、エグゾアーマーの経験値稼ぎもミッドガル近隣エリアで行っていた。
その為、地上を移動しての森林探索はおろか、4人での小隊行動も初めてなのだ。
見るものすべてが真新しく興味を引く物ばかり。
レイン自身の何事も一歩引いて見定める性格も相まって、どこか上の空の様な表情になっている。
「たぶんあいつ初期位置に戻るだろうから、どうにかしないと目的地にたどり着けないよ?」
「エグゾアーマー変えればなんとかなるかな?」
「無理。ここ最近はフライトアーマーに注力してたから、アダンソンをどうにかできるエグゾアーマーも装備もない」
そんなレインを他所にこれからどうしようか意見を出し合う3人。
しかし、グリュプス飛行隊選抜試験の情報を得てからはフライトアーマーに注力したプレイをしてきたため、地上戦闘用エグゾアーマーの開発は大きく遅れている。
メニューガレージには他のエグゾアーマーも用意してはあるが、ヘレンの森深部の推奨Tierには及ばず、対アダンソン装備もない。
それでもせっかくのコンテスト出品作。
どうせなら最高の素材を使わせたい。
あわよくばコンテスト品の試食にありつきたい、という乙女の欲望に勝てず、往生際悪く議論を繰り返す。
「だーめだ、どう考えてもアイツに勝てるビジョンが浮かばない!」
「諦めたらそこで試合終了」
「ねぇ、レインはどう思う?」
「えっ、私?」
結局3人では良案が浮かばず、天を仰いで倒れ込む。
そんな中、一人が議論を聞いてはいるが一声も上げずにいたレインに気付き、声をかけた。
「えっと……私が意見してもいいの?」
「もちろん!」
「私達チームなんだから、どんどん言って」
「むしろ私達じゃ八方ふさがり」
実のところここまでの話を聞いていて、レインにも思うところはあった。
しかし、やはり控え気味な性格が影響し口出ししないでいたのだ。
私が声を上げて雰囲気を壊したくないという思いから来るものであるが、あちらから声を出してと言ってくれれば、否やはない。
「じゃあえっと……先にみんなが持ってきてるエグゾアーマーを教えて?」
「エグゾアーマーを?」
「良いけど、そんなに強力な物じゃないよ?」
「それでもトランポートアーマーよりまし」
いきなりエグゾアーマーを教えてと言われ訝しむ3人だが、別に見せたところで困る物でもなし。
さっそく3人はメニュー画面を開き、レインへ提示する。
レインは全員のエグゾアーマーを確認し、2つ3つ質問をすると、意味深げに頷いた。
「あの、レインさん……?」
「うん、これなら何とかなるかも」
「え、マジで!?」
「この装備で何とか出来るのか」
「撃破は無理だけど、突破するだけなら、たぶん……」
「よしやろう、すぐやろう、今すぐやろう!」
レインの「何とかなる」という言葉を聞いて目を輝かせる3人。
続くレイン立案の作戦に度肝を抜かれるが、そこは蠱毒の空を生き抜いたトップランナー。
すぐさま覚悟を決め、準備に取り掛かるのだった。
―――――――――――――――――――――――
《アダンソン発見。やっぱり最初の位置に戻ってるね》
《目的地への迂回ルートがなかったのが運の尽き》
「みんな配置に付いた? 準備が出来たらレインの指示に合わせて動くよ」
《了解》
《ラジャー。レイン、よろしくね》
「は、はい!」
アダンソンとの遭遇位置まで戻ってきたレインたち。
情報にあった場所への道を塞ぐアダンソンに対し、レインたちは準備万端。
気付かれないよう散開し、配置につく。
アダンソンの正面にレインを含む二人、左右に一人づつの布陣。
「では……お願いします!」
「イエスマム! 仕掛けるよ【バレットブースト】!」
最初に仕掛けたのは正面にいるレインたち。
ソルジャーアーマー装備のレインがアサルトライフル。
もう一人はマジックアーマーを装備し、ファイアーボールを連射する【バレットブースト】を使いアダンソンへの攻撃を開始する。
しかし、アダンソンの装甲の前にアサルトライフルは非貫通エフェクトの火花を盛大に咲かせるばかり。
【バレットブースト】もダメージにはなっているが有効打にはほど遠い。
「レイーン! やっぱり効いてないよこれ!」
「このまま注意を引きつけます!」
効果は無いと分かりながらも、注意を引くために攻撃を続けるレインたち。
アダンソンはこの攻撃に対し回避行動は取らず、姿勢を引くくし下腹部重機関銃の銃口をこちらへと向ける。
「攻撃来るよ!?」
「側面攻撃、お願いします!」
《了解っ!》
アダンソンの重機関銃が火を噴く寸前。
アダンソンの右側面に配置していた一人が対物ライフルによる攻撃を行った。
狙いは体を支えていた前肢、その関節部分。
アダンソンの弱点が関節部であることは第二陣であるレインも知るところ。
遭遇戦だった先ほどの戦闘ではお互いに動き回っており、アダンソンの脚関節部を狙うことなど到底不可能だった。
先程見せてもらった3人のエグゾアーマーにもスナイパーアーマーはなく、通常のエグゾアーマーでアダンソンの関節を狙撃するほかない。
狙撃スキルも持っていない彼女たちが確実に狙撃を成功させるには、アダンソンが静止する状況を作り出すことが必須。
ゆえに、レインともう一人がアダンソン正面に姿を現し、重機関銃は届くが跳躍するには遠いという絶妙な距離から攻撃を行ったのだ。
レインの目論見通りアダンソンは正面のレインたちへ銃撃を行おうとし、右側面に配置していたもう一人から前肢関節に直撃弾を受ける事となった。
被弾により前肢の1本が吹き飛び、バランスを崩しレインたちに照準を合わせていた重機関銃も狙いが狂い明後日の方向を銃撃する。
《やった、命中した!》
「次行きます、グレネード! もう一手、お願いします!」
「任せたぞ!」
《あぁもう、どうにでもなれだー》
被弾の衝撃から体勢を立て直し、狙撃された側へ対峙しようとするアダンソンへ向け、レインともう一人がグレネードを投擲。
アダンソンは脚部損傷が響いたのか跳躍での回避は行わず、被弾。
しかし、このグレネードの低Tier帯の間に合わせ品であり、やはりダメージは多くない。
そこへ飛び込んだのは左側面に潜んでいたもう一人だ。
エグゾアーマーは近接戦闘用のストライカーアーマー。
突撃用スラスターを最大噴射し、アダンソンとの距離を一気につめる。
《ナイフ二本で関節狙うなんて、無茶苦茶が過ぎる件について》
ストライカーアーマーらしい突進力で間合いを詰めるが、肝心の武器が見当たらない。
それもそのはず、彼女が持っているのは大剣や刀などではなくナイフなのだ。
両の手に1本ずつ持ってはいるのだが、それも4人の小隊員のうち二人がたまたま持っていた護身用のナイフ。
それもTierⅠの物であり、ストライカーアーマーがTierⅡという事も考えれば倒すことなど到底不可能である。
しかし、レインたちの狙いはアダンソンの撃破ではない。
《懐に飛び込んでぇ、どやー》
「やった……!」
「アダンソンの動きが止まりました! 一気に駆け抜けます!」
奇襲を仕掛けた小隊員はグレネードの被弾から立ち直れていないアダンソンへ接近すると、左足2本の関節部にナイフを突き刺した。
これによりアダンソンは8本のうち3本の脚が使えなくなり、機動力が著しく低下。
レインはその隙を見逃さずメンバーへ号令を出し、アダンソンの横を目的地へ向け一気に駆け抜ける。
アダンソンは追従しようとするが、やはり脚部ダメージがひどく満足に追う事が出来ない。
結果、レインたちは見事アダンソンを突破したのであった。
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うれしさのあまりプリンストンから発艦してしまいそうです!




