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30 ACESⅡ


 仕留めたはずの相手が真後ろから突如現れるというありえない状況に混乱する飛竜。

 だが、当のアスカはこの状況を読んでいたかのように迷いのない動きで飛竜へ向け吶喊する。


 そう、飛竜が仕留めたのはアスカではなく【デコイ】。

 それも通常のAIではなく、アイビス操作の【デコイ】だったのだ。

 アイビス操作の【デコイ】は対人では禁止されているが、MOB相手には問題ない。


 この仕様と今まで【デコイ】を使ってこなかった偶然を合わせ、決着の差し迫ったこの瞬間、飛竜の真上を取るワンチャンスを得るために使用したのである。

 

 姿が見えない雲の中で【デコイ】発動後、ピエリスとエルジアエを渡し、雲の上まで上昇。

 そこでアスカはエグゾアーマーを一度解除、落下中に彩光を選択し再度装着した。


 もちろんこの彩光も通常の物ではなく、トゥプクスアラ同様対飛竜用にカスタマイズされている。

 だが、そのカスタム具合はトゥプクスアラの比ではない。


 大小2つのブースターがセットになった一体型ブースターを左右主翼上部に一機ずつ装着、左右腰部にも大型ブースターをそれぞれ装備。

 フライトユニットに姿勢制御スラスターを追加し、脚部にも小型ブースターを取り付けている。


 ただでさえ速度重視の彩光にこれでもかと追加されたブースター。

 ロビンによる剛性強化の甲斐もあり、最高速度は音速を超える。

 しかし、もともと亜音速での飛行を前提としている機体をブースターと改造により強引に音速突破させている為、挙動は極めて不安定。


 アスカをもってしてもフライトユニットに増設されたスラスターに脚部に追加されたブースターによる姿勢制御を駆使して、まっすぐ飛ばすのが精一杯という極端な性能に仕上がった。


 そして、速度のみを追求した彩光に装備されている武器はたったひとつ。

 アスカが飛竜へ刃先を向けている、刀身2メートルを超える大太刀である。


 この大太刀こそアスカ達がミニイベントボス討伐を繰り返し素材を集め制作した対飛竜用決戦兵器。


 アスカは左腕部に装備した手甲のような小型シールドで身を守り、飛竜へ向け突撃する。

 その機動はすれ違いざまに切るなどと言う生易しいものではなく、翼を広げる飛竜本体との激突コース。


 そう、この特別仕様の彩光は、大太刀を構えた己の体を弾丸として使用する、文字通りの特攻兵器なのである。


 フライトユニットのメインエンジンに加え、全てのブースターを最大出力で噴射し、機体周辺にベイパーコーンを発生させながら飛竜へと迫るアスカ。

 飛竜は直前までデコイアスカに意識がいっていた事、背面直上という完全死角から突然現れたアスカに対応が後手に回った。


 この千載一遇のチャンスを、アスカは逃さない。


「これで、終わりだああぁぁぁ!」

「ギシャアアァァァァ!」


 音速を超える速度そのまま、アスカは飛竜へ激突。

 構えていた大太刀で串刺しにし、刃が背中から胸にかけ見事に貫通した。


 【デコイ】を使用し飛竜を欺き、背後から音速の一撃をたたき込むというレイン発案の特攻作戦を成功させたアスカ。

 飛竜に特大ダメージを与えることに成功したが、当然アスカもただでは済まない。


『飛竜残りHP6%。フライトアーマー激突ダメージ甚大。左腕部大破、シールド耐久7%。右腕部過負荷、動作不良を起こしています。HP残り63%。警告、急激に高度が落ちています。地表まであと4000m』

「仕留めきれなかった……!」

「ギャギャ! グギャギャギャギャ!」

「このっ、暴れるなっ!」


 音速越えの体当たり攻撃。

 やられた側の被害は甚大だが、物理演算が組み込まれている『Blue Planet Online』では繰り出した側もただでは済まない。


 大太刀を構えていた腕部は衝撃と負荷により動作不良を起こし、直接飛竜と接触したシールドはひしゃげ、シールドを取り付けていた左腕部は衝撃により大破。

 火花をバチバチと散らし機能不全を思わせている。


 彩光も体当たり攻撃を前提としている為、耐久、剛性と純正の物よりは大幅に強化されている上、アスカには激突、衝突ダメージを軽減する【墜落耐性】のスキルもある。

 それでも音速からの激突ダメージはすさまじく、残りHPは6割にまで減少。


 アスカが持てる限り全ての力を込めて繰り出した必殺の一撃。

 この作戦の立案者はレインであり、これならば3割以下になった飛竜のHPを一突きで削り切れると踏んでいた。


 だが、飛竜は生きていた。

 アスカの大太刀が背面から胸部へ貫通しているにもかかわらず。

 わずかなHPを残し耐えきり、背中に張り付いているアスカを引きはがそうと暴れ出す。


「落ちろ、落ちろ、落ちろぉぉっ!」

「ギシャアアァァァァ!!」

『警告、地表まで残り2000mです』

 

 飛竜の残りHPはたったの6%。

 アスカは何とか大太刀で削り切ろうと力を籠めるが、損傷の激しい腕部ではそれもかなわず、大太刀を放さないようにするのが精一杯。


 飛竜もこれを知ってか知らずか、首を振り、体をひねり、翼をバタつかせ、尻尾を叩き付けようと執拗に暴れ回る。

 だが、アスカが張り付いているのが完全に死角となる背面であるため、牙も翼も尻尾も届かない。


 なにより、アスカは激突した後もメインエンジンと全ブースターを最大出力で吹き続けているのだ。

 空の支配者たる飛竜も損傷した翼ではこれだけの推進力には勝てず、後ろから来る強烈な力に押され体勢を立て直せない。

 さらに正面から来る風圧でまともに身動きもできず、なすすべなく地表へ向け高速で降下する。


『飛竜、残りHP5%』

「もう少し、もう少しいぃぃぃ!」

「ギャオオオオオォォォォォ!」

「うわああぁぁぁぁぁ!」

「キシャアアァァァァ!」

『シールド耐久0、脱落。警告、地表まで残り1000m』


 飛竜の必死の抵抗を受けついにシールドの耐久が底を突き、左腕とシールドを取り付けていた金具が破損。

 シールドはそのまま空中へと放り出され、雲多き秋空の中へと消えて行く。


 それでもアスカは大太刀を放さず、抉り込み飛竜の耐久を削る。


 最大出力のブースターの噴射音にかき乱され、自分かアイビスか飛竜の声かもわからぬまま真っ逆さまに墜ちて行くアスカと飛竜。

 墜落を防ごうと方向転換を行うと飛竜を逃す恐れがあるのだ。

 火器を搭載していない彩光では、飛竜との距離が開いた瞬間敗北が確定する。


 そのため、墜落覚悟でもこのままエンジンとブースターを最大出力で吹かし、飛竜の動きを抑えたままとどめを刺すしかないのだ。

 が、そのタイムリミットも近い。


『警告、地表まで残り800m。墜落の危険があります。高度を上げてください』

「それ……でもぉっ!」


 目の前にあったはずの雲ははるか遠く、白くモヤのかかっていた山岳の大地は今や目の前。

 このままでは飛竜もろとも地表に激突。

 墜落死は避けられない。


『飛竜、残りHP4%』

「こうなったら……!」


 苦難の表情を浮かべるアスカも、墜落まであと数秒というところで覚悟を決める。


「アイビス、主翼と腰のブースターを最大推力のままパージ! 飛竜を押し出して!」

『了解。補助ブースター、パージします』

「グギャアアァァァ!」

 

 瞬間。

 左右主翼上部の一体型ブースターと腰のブースターの固定具が弾け飛び、エグゾアーマーからパージされた。

 通常、パージしたブースターは推力を落とし、装着者の進路を妨害しないよう明後日の方向に離脱するように設定されている。


 しかし、アスカはこの設定を解除。

 最大推力を維持させたまま前方へ押し出しださせたのだ。


 そして、外されたブースターが突き進む先にあるのは飛竜の大きな背中。


「そのまま墜ちちゃえ! 脚部ブースター最大、離脱!」

「グオオォォォ……!」


 パージされたブースターはアスカの代わりに飛竜を押し出し、山岳の岩肌へ向け降下。

 アスカはブースターが飛竜に当たるタイミングで大太刀を放し、軌道修正。


 墜落から逃れるため急上昇を行う。


 結果、飛竜はブースターの推力から逃れる事が出来ず、時速数百キロという速度のまま山腹の岩肌に墜落。

 衝撃でブースターが爆発。

 地面を大きくえぐり取り、噴煙を立ち昇らせる。


 そして、アスカは……。


『警告、地表まで100m……80m……60m……40m』

「あ、上がらないいぃぃぃっ!」


 フライトユニットの姿勢制御スラスターと脚部ブースターを使い上昇を試みるも、彩光元々の機動力が低く、上昇曲線に乗れずそのまま降下を続けてしまっていた。

 必死でエグゾアーマーを操作し、主翼や各部位からミシミシと言う限界を告げる音が聞こえる中、アスカもついにその時を迎える。


『地表まで20m……10m、8、7、6、5、衝撃に備えてください』

「きゃあああぁぁぁ!!!」


 結局上昇が間に合わず、地表あった岩に脚部が激突。

 衝撃で岩に当たった脚部パーツが木っ端みじんに吹き飛び、バランスを崩したアスカはそのまま側面から墜落。


 主翼が折れ、エグゾアーマーが弾け飛び、フライトユニットがひしゃげ。

 地面を数度バウンドし、不規則な回転のまま地面を数十メートル転がり続けた後、ようやく停止した。


『墜落ダメージ甚大、残りHP3%。フライトユニット大破、飛行不能。エグゾアーマー大破、各部動作不良を起こしています。……大丈夫ですか、アスカ』

「うにゅう、死ぬかと思った……」


 エグゾアーマーは完全に大破。

 全身のいたるところから火花が飛び、いくつかは装甲すらはげている。


 かろうじて動く右腕を使い体を起こし、仰向きに。

 そのまま大の字になりふぅ、と一息。


『強化された耐久と機体剛性、スキルのおかげで耐えきれたようです。通常の彩光では墜落死していたでしょう』

「ほんっと、ロビンさんに感謝だね……そうだ、飛竜は!?」


 死亡確定かと思われたが「こんな事もあろうかと」とロビンが剛性を極限まで上げてくれていた事。

 幾度も墜落死したことでレベルが上がっていた【墜落耐性】スキルのおかげでわずかなHPを残し耐えきっていた。


 既に満身創痍であるアスカに戦闘能力はおろか飛行能力すら残っていない。

 それでも最後の力を振り絞り体を起こすと、視線を飛竜が墜落した方向へと向ける。


 そこにあったものは……。


「……死んでる?」

『はい。墜落による落下、激突ダメージによりHP0です』


 背中に大太刀が刺さったまま、体を山間にうずめている飛竜だった。

 墜落の衝撃でブースターが爆発したため、体は黒く焼け焦げており、黒煙を上げている。


 あれほど力強く大きかった翼も力なく地に伏し、動く気配は全くない。


「勝っ……た?」

『はい、アスカの勝利です。お見事でした。』

「あっ……」


 まだ撃破したことに実感がわかず、虚ろな瞳で眺めていると、飛竜の体が光の粒子になり、空へと消えて行く。


<Congratulations!>

<飛竜を倒しました>

<6200の経験値を入手しました>

<飛竜【難易度エイシーズ】初回討伐報酬天翔魂を入手しました>

<【ホーミングレイ】の魔導石を入手しました>

<飛竜の飛膜を2つ入手しました>

<飛竜の硬角を1つ入手しました>

<飛竜の躍鱗を4つ入手しました>

<飛竜の魔力片を7入手しました>

<魔石・大を2つ入手しました>


 それと同時に視界に表示される、飛竜討伐を告げるログ。

 これによりアスカにもようやく勝利の実感がわいてきた。


「んんー、やったぁ!」


 動かしにくいはずの左手も動かし、両手を天高く上げ、そのまま後ろへ倒れ込む。

 今回も限界ギリギリの戦闘であり、緊張から解放されたアスカに歓喜する余力はない。

 嬉しさ半分疲労半分、再び大の字になって空を見る。


《……スカ、アスカ! 無事なの?》

「あれ、レイン?」


 勝利の余韻に浸りつつ、風と空を楽しんでいると聞こえてきたのはレインの声だ。

 アスカはその声に反応し、倒れ込んでいた体をさっと起こすと共に応答。


 どうやらレインは戦闘が終わったにもかかわらず全く動かないアスカを心配して迎えに来てくれたようだ。


《アスカ、見てたよ。おめでとう!》

「レインの立てた作戦のおかげだよ」

《ううん、私は立案しただけ。やり遂げるアスカがすごいの》

「いやいや、そんなことないって!」


 しばらくお互いを称え合っていると、遠くの空から聞きなれたレシプロエンジンの音が聞こえてきた。

 視線を音のする方に向ければ、雲の合間からこちらへ向かってくるフライトアーマーの姿が見える。


 アイコンに表示されたランナーネームはもちろんレインだ。

 その姿に安心したのか、アスカもつい笑顔になる。


「ふふっ。おーい、おーい、おーい!」


 両翼を振りこちらへ合図を送ってくるレイン。

 アスカもこれに大きく両手を振って答え、いつまでもレインに声をかけ続けたのであった。


本話にてミニイベント編の本編が終了です。

明日は掲示板回。


用語解説

ベイパーコーン

機体の周辺に発生する円錐形の雲。

よく音速の壁と間違えられるが、音速に達していなくても発生する。

ソニックブームもまた別のものである。


たくさんのいいね、感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりタラワから発艦してしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 【ホーミングレイの魔導石】 ヤベェモノ手に入れちゃった………
[一言] まさかの衝角戦法 サンライズ立ちのアスカちゃんと言うのも似合いそうでいいなあ
[気になる点] ふと思ったのが、アスカって飛ぶは好きだけど跳ぶはダメなのかな? 某巨人みたいな立体機動もそれはそれで好きそうな気がするんだけど。 それが許容範囲なら、ワイヤーアンカーなんかを利用してあ…
感想一覧
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