27 お茶会Ⅱ
ヴァイパー2が提案してくれた、飛竜の片翼だけを狙い部位破壊するという案。
アスカは翼の部位破壊は高度を下げる意味しか無いと思っていたため、顔に疑問符を浮かべるばかり。
ヴァイパー2もそんなアスカの表情からいまいち分かっていないのを察し、より詳しい説明をしてくれた
「リコリス1も知っての通り、空を飛ぶには絶妙な揚力バランスが必要でしょ? あれだけの巨体だもの、片翼だけ損傷したらそれは困ったことになるんじゃないかしら」
「そ、それだ!」
ここまで説明されアスカはようやく意味を理解し、両手のこぶしを握り締めて叫ぶ。
ヴァイパー2の言う通り、航空機を含む空を飛ぶ全てのものには空を飛ぶために絶妙なバランスが求められている。
左右の翼どちらかが重くても軽くても、短くても長くても重量バランスや揚力バランスが狂い、真っすぐ飛行することすら出来なくなる。
戦闘機が攻撃を受け片翼を失っても帰還したり、旅客機が片方のエンジンを失っても空港へ着陸できたという話も多いが、これらはあくまでも『飛行できる』状態であり、戦闘機動などできるような状況ではない。
つまり、飛竜の片翼のみを破壊すればそれだけで大きな機動力低下が見込めるのだ。
本体にはダメージの通りにくいエルジアエであるが、翼であれば十分ダメージが出せるのは先のエキスパート飛竜討伐で確認済み。
ジリ貧で詰んだと思っていた対飛竜戦に光が差し始めたと、アスカの顔に力が宿る。
しかし、レインはいまだ浮かない表情をしていた。
「それだけだとまだ弱い……なにか、こう……あ、そうだ」
「レイン?」
「ねぇアスカ、この動画だとアレを使ってないけど、どうして?」
「アレ?」
レインが気になった『アレ』。
これをアスカがここまで飛竜戦で使わなかったのは偶然であった。
高い欺瞞能力を持つが現状では単体しか発生させられない為【ホーミングレイ】や炸裂火球弾に対し有効とは言い難く、使おうとも考えなかったのだ。
それを聞いて、意味深げに頷くレイン。
「なるほど……ならアスカ、こんな作戦はどう?」
「え、えぇっ!?」
「ほ、本気ですかレインさん!」
「あら、さすがアスカちゃんの親友ね。考えることがすごいわ」
レインが説明を聞き思いついた作戦は、アスカ他全員が驚愕するようなものだった。
しかし、それは話を聞く限りでも効果は絶大。
火力不足を補う強力な一手だ。
問題があるとすれば……。
「でも私そんな武器もってないよ?」
「そげんこつするならフライトアーマーも強化せんとバラバラになってしまうばい!」
「かといってトゥプクスアラに追加装甲を付けたら機動力で負けてしまう……難しいわね」
「あ! な、ならこんな手段はどうですか!?」
「なるほど、それならイケそうね。さすがリコリス1」
レインの作戦はエグゾアーマーに対する負荷が強く、おそらく自損ダメージが発生する。
作戦を決行するのは戦闘終盤となるため、そこまで戦闘をおこなったトゥプクスアラでは耐えきれるか疑わしい。
かといって耐えられるように追加装甲を付ければトゥプクスアラの特徴である機動力が損なわれてしまう。
この相反する難題の回答を見つけたのはアスカだ。
ここまで激戦と破天荒なプレイを繰り返してきたアスカだからこそ可能な作戦であり、それならばエイシーズ飛竜の上を取れる。
「あ、あの! それだとここが危ないと思うんですけど……!」
「あっ、確かに。メラーナもいい着眼点してるね」
「レインさんほどじゃないです。それで、ここをこうしたらいいのではないかと……」
「あら、素晴らしいアイディアじゃない、いただきよ」
「エグゾアーマーをカスタムするのはロビンでしょうに……妥協しないのね」
「本当に。これ全部やったらいくらかかるか……」
「その点は大丈夫よ。スポンサーがこのゲームきっての大金持ちだから」
「はい、おカネに糸目は付けません!」
アスカが見つけた作戦を根幹に、他の皆が欠点となるポイントを補うアイディアを出し合い、確実性を上げてゆく。
本来であれば予算の都合、メカニックの技術などで妥協せざるを得ないポイントも出てくるのだが、ことアスカとロビンに関しては一切の妥協無し。
素材、予算共に青天井のスペシャルカスタム大前提である。
「決まりね。エグゾアーマーの強化と武器の開発は私に任せて頂戴」
「うちらも! 素材集め手伝うけん!」
「私もお手伝いします!」
「それでも足りなければ私が仕入れてあげるのさぁ!」
「なら、私はエイシーズ飛竜の徘徊ルートを調べてくるわ」
「じゃあ、私は狙撃のコツを伝授してあげる」
「みんな……ありがとうございます!」
「マスター、人気者なの!」
こうして皆の協力の下、アスカがエイシーズ飛竜討伐へ向け本格的に動き出したのであった。
―――――――――――――――――――――――
そうして皆とエイシーズ飛竜討伐作戦を立ててから数日。
アスカはメラーナ、ホロ達と共に殻竜討伐に赴いていた。
「銃撃いくよ!」
《了解だぜねーちゃん!》
《リコリス1、角の付け根、しっかり狙って》
《リコリス1の攻撃が命中したら仕掛けるばい!》
《おう!》
《まかせんしゃい!》
今までは地上支援としてヘリコプター仕様のカマンを使用していたが、今身に着けているのはトゥプクスアラ。
手持ちの銃もピエリスとエルジアエではなく、バレットM82対物ライフルだ。
これはこの戦闘が飛竜戦の訓練を兼ねているため。
トゥプクスアラも腕部に剛性と射撃精度を向上させるカスタマイズを施し、頭部には照準器と望遠を内蔵したヘルメットを装備している。
もちろんアスカ専属メカニックロビンによるお手製である。
「第一射!」
エンジン出力を調整し、水平飛行。
機体と姿勢を安定させ、両手で対物ライフルをしっかりと支える。
ヴァイパー1とヴァイパー2が話していた通り、空中での狙撃は足元が固定できず、バイポッドなども使用出来ない為精密射撃が極めて難しい。
アドバイスを求めた両名とキスカからは「慣れるしかない」というありがたい返答をもらっており、対物ライフルの弾道と弾速を体に教え込むべくこうして何度も実戦で試しているのだ。
通信から聞こえてきたキスカの指示通り、殻竜のトサカに生えた角の付け根を狙い、トリガーを引く。
「グオオオォォォォォ!」
『第一射、命中』
《ヒューッ、さすが金弾やんね、良いダメージやん!》
「第二射、いくよ!」
《援護します! 【フォースバインド】ッ!》
《すごっ! 角が弾け飛んだ!?》
射撃の轟音と共に放たれた弾丸は見事な軌跡を描き、狙い通り殻竜の角の付け根に命中。
使用しているのが本番同様金弾という事もあり、通常時に比べHPを多く削る。
続く第二射。
防御姿勢を取ろうとする殻竜を足止めするべく、メラーナが拘束魔法【フォースバインド】を発動。
さすがに大型モンスターである殻竜の全身を拘束することはできないが、脚の一本に巻き付かせ、動きを阻害する。
そこへ突き刺さるアスカの高貫通弾。
第一射目で損傷していた部分に見事命中させ、角をへし折ることに成功した。
「よし、第三射! ……さすがに駄目か!」
《アスカお姉さん、あとはこっちでやります!》
《お前ら、ねーちゃんに遅れんなよ!》
《愚問ばい! 手柄は渡さんけんね!》
《チェストォーーー!》
続けて第三射を放つが、これはさすがに躱されてしまう。
しかし、そこへ襲い掛かるのはラゴにカルブ、ホロと彼女らが所属するクランメンバー達。
彼らもすでに幾度となくミニイベントボスとの戦闘はこなしており、初期の様な危なっかしさは見る影もない。
その後もアスカは上空を旋回しつつ狙撃、地上のホロ達は狙撃の合間を見て近接攻撃を繰り返し、難なくこれを撃破した。
<殻竜を倒しました>
<4890の経験値を入手しました>
<殻竜の鋼殻鱗を1つ入手しました>
<殻竜の硬鋭角芯を1つ入手しました>
<殻竜の鋭角を3つ入手しました>
<殻竜の魔力片を2つ入手しました>
<魔石・大を5つ入手しました>
HPバーが砕け、光の粒子となって消滅してゆく殻竜を横目に、視界正面に現れたリザルトを確認。
「やった! 硬鋭角芯が出た!」
《リコリス1、こっちにも出たぞ!》
《私にも出たわ。これで全部そろったんじゃない?》
「バッチリだよキスカ! みんな、ありがとう!」
《よし、それじゃあ帰るばい!》
アスカ達が既に討伐済みの殻竜討伐をしていたのはエキスパート殻竜のレアドロップ殻竜の硬鋭角芯を入手するため。
これはロビンに頼まれ探していた物であり、これが対飛竜戦の切り札になる武器の素材なのだ。
レアドロップの為中々数が揃わなかったが、そこは人海戦術。
1個中隊12人で討伐し、運よくドロップした場合はアスカが市場価格に上乗せをして買い取る約束だ。
これでようやく数が揃ったと大喜びのアスカだがやることはまだまだ残っている。
皆と一度開拓村まで戻り、レアドロップを受け取ると中隊を解散し、一人ポータルでミッドガルへ移動。
すぐにダイクのショップへと移動、レアドロップを預けるとナインステイツへトンボ返り。
再度ランナー協会へと脚を進める。
すると、ランナー協会の入り口に見知った顔を見つけた。
「あっ、ヴァイパー2!」
「あら、リコリス1じゃない。素材集めは順調?」
「うん、今さっきようやく全部納品したところ! そっちはどう?」
「まだね。日中はマップを好き勝手飛び回ってるみたいで一ヵ所にとどまったりはしてないみたい」
「そっか……」
声をかけたのはヴァイパー2。
彼女はアスカが飛竜と戦闘を行う際奇襲が仕掛けられるタイミングを探すべく、時間があるときはこうして手伝ってくれているのだ。
もちろん、アスカのためだけでなく、チャンスあらば自らもエイシーズ飛竜を墜とそうとしっかりと装備を整え、戦闘も行っている。
「この間は夜に探してみたけど、飛んでたんだよね」
「私の時も飛んでたわ。アイツ眠ったりしないのかしら?」
「まだ時間はあるし、探してみるよ」
「ヘイローチーム……いえ、グリュプス飛行隊でエイシーズに挑戦できる者にも手伝ってもらいましょう」
「えっ? さすがにそこまでは……」
「いいのよ。空いた時間でやるんだし、何よりこの情報はみんなに役立つ物。喜んでやるわ」
グリュプス飛行隊のメンバーも使い飛竜の奇襲できるタイミングを見つければ、その後は皆でその時間に奇襲をかけることができる。
フライトアーマー使用者ならエイシーズ飛竜を討伐したいと考えるのは当然のことであり、皆否やはないだろう。
「じゃあ、私は皆に協力依頼してくるから、リコリス1は引き続きお願いね」
「うん、任せて!」
ヴァイパー2と別れた後は予定通りエイシーズ飛竜討伐クエストを受注してナインステイツの空へ。
ここしばらくは飛竜を見つけてもすぐに攻撃はせず、泳がせてどこかに降りたりしないか尾行するが、今の所成果はない。
むしろ、ふとしたことで飛竜に気付かれ戦闘に突入。
激しい空戦の後撃墜されるという事を繰り返した。
そんな三歩進んでは二歩下がるような日々を過ごすこと数日。
ハルの手伝いの下MPポーションの生成に勤しみ。
キスカ指導の下、射撃スキルを取得し狙撃の腕を磨き。
レインと飛竜戦の細かい動きを煮詰め。
ロビンが対飛竜用武器の開発とフライトアーマーの改装を済ませ。
ミニイベント開催期間が終了に差し迫った時。
――ついに飛竜に対し先手が取れるタイミングが判明したのであった。
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うれしさのあまりプリンストンから発艦してしまいそうです!




