24 一晩でやってくれました
思ったより簡単に出来たらしい。
レインがアスカに問うた「ミサイルの推進力は魔力ではないのか?」と言う物。
正直な話、アスカは知らない。
現実世界同様ロケットモーターを使用しているのは知っているが、推進力を生み出す燃料が魔力なのか火薬なのか、はたまた特殊化合物なのかまでは考えた事もないのだ。
たまらず同席してきた他クランメンバーに助けを求めるように視線を向けるも、皆顔と手を横に振り「知らない」をジェスチャーで訴える。
こうなると頼れる者は一人しかいない。
「えぇっと……アイビス、お願い!」
『はい。魔導ミサイルの推進剤はレインの推測通り魔力を使用しています』
「やっぱり! という事はミサイルが噴射しているのは魔導エネルギーなのね?」
『その通りです』
「なるほどなるほど、じゃあ【ホーミングレイ】が追尾するのは魔導反応?」
アスカが助けを求めたアイビスの回答に、満足そうにうなずくレイン。
さらに続くレインの問いは、同席していたクランメンバーが答えてくれた。
「あ、それなら私知ってるよ! 魔法に誘導性能があるやつは全部相手の魔導反応を追尾するの!」
彼女はマジックアーマーをメインに使用しているらしく、魔法の追尾についての知識を持っていたのだ。
彼女によると、追尾性能をもつ魔法はすべて魔導追尾式。
ミサイルには敵の魔導を追尾するパッシブ方式とイベントで多用された地対空ミサイルに代表されるレーダー照準によるセミアクティブ方式があるが、魔法攻撃に関しては基本的に魔導追尾型との事。
このことから飛竜の【ホーミングレイ】もエグゾアーマーから放出される魔導反応を察知、追尾しているタイプと想定される。
「やっぱり。それならアレが使えるんじゃない、アスカ」
「え、アレって?」
「ほら、アスカと一緒に行った航空祭で展示されてた、ミサイルを避けるための装置」
「航空祭……ミサイルを避けるための……あっ、フレアだ! フレアディスペンサー!」
レインの言葉をヒントに回答にたどり着いたアスカが大声を上げ、勢いよく椅子から立ち上がる。
アスカが叫んだフレアというのは、現実世界に存在する赤外線誘導ミサイルに対する防御装置だ。
誘導ミサイルが感知する赤外線を放つデコイを散布し、赤外線センサーを欺瞞、誤認させ本体からの誘導を逸らす能力を持つ。
これだけ見るとアスカの持つ魔法【デコイ】と似ているが【デコイ】が視覚と反応で欺瞞するのに対し、フレアは反応のみで誤魔化すという違いがある。
また【デコイ】であれば出現させられる欺瞞体は1つだけだが、フレアであれば複数投射することも可能。
1発あたりのダメージよりも量で襲い掛かってくる【ホーミングレイ】にはまさにうってつけの兵装となる。
唯一の問題は……。
「フレアってゲームの世界にあったかな……」
「ん~照明弾があるし、何とかなるんじゃないかな?」
そう、フレアがこの世界に存在しているかという点だ。
アスカが今までプレイしてきた限り、フレアと言う兵装は見た事がない。
攻撃魔法回避に有効に思えるが、現状では誘導魔法を放ってくる敵がほとんどおらず、魔導追尾ミサイルに関してはここ最近出回り始めたものなのだ。
これでは装備したところで使い道がない。
「となると、やっぱり作ってもらうしかないよね」
「いつものお店に行ってみる?」
「うん、そうするよ! ありがとうレイン!」
善は急げ。
飛竜攻略の糸口を見つけたアスカはレインたちに礼を告げ、喫茶店を後にする。
行先はもちろん、行きつけとなっているダイクのショップだ。
ポータルまで走り、ミッドガルへ転移。
いつもの大通りを足早に進み裏道へ入ると、目的のショップのドアを勢いよく開けた。
「ダイクさん、こんにちは!」
「おっ、嬢ちゃんいらっしゃい」
「ダイクさん、フレアディスペンサーありますか!?」
「は? フレアディスペンサーだぁ?」
と同時にカウンターにいるダイクへ詰め寄り、フレアディスペンサーがあるかを問う。
しかし、ダイクの反応は芳しいものではなく、初めて聞く単語にアタフタしている様子だ。
「嬢ちゃん、フレアディスペンサーってなんだ?」
「魔導感知、追尾のミサイルや魔法攻撃を逸らすための欺瞞装置なんですけど……」
「聞いた事ねぇなぁ……」
「……そうですか」
ダイクで知らないという事は、おそらく存在していないのだろう。
魔法に【デコイ】、兵装にスモークディスチャージャーなどがあることから期待はしていたのだが、当てが外れてしまった。
そうなると1から作るしかないが、あいにくアスカにその技術はない。
「あぁ~こんな時ロビンさんが居てくれたら……」
「あら、私をお呼びかしら?」
「えっ!?」
がっくりと項垂れ、工学に強いロビンの名をつぶやいた時。
なんと真後ろからロビンの声がしたのだ。
慌てて振り返ると、そこには当然のようにロビンが立っているではないか。
いつものオフショルダーにカーディガンとコートを着込み、冬らしい服装をしており、優しくアスカへ微笑んでくれている。
「ロビンさん、何時の間に!?」
「ちょうどお店に駆け込むアスカちゃんが見えたものだから。そんなに慌ててどうしたの?」
「実は……」
突然現れたロビンに驚きはしたが、ここで会えたのはまさに幸運。
アスカは事情を説明し、フレアディスペンサーを作れないかとロビンに頼み込む。
「なるほど、それでフレアディスペンサーが必要なのね」
「はい……お願いできますか?」
「ふふっ、アスカちゃん、私を誰だと思っているのかしら?」
「えっ?」
「作ってあげるわ、フレアディスペンサー!」
「あ、ありがとうございます!」
「気にしないで。そう難しいものではないし。それと、いくつか聞きたいのだけど」
「はい」
アスカに頼られたことがよほど嬉しいのか、ロビンはアスカの注文を二つ返事で了承。
コートを脱ぎショップ奥の作業場へと進んでゆく。
そこで何かを思い出したように振り返ると、アスカにいくつかの質問をした。
「飛竜が放ってくる【ホーミングレイ】だっけ? 何本くらいなのかしら?」
「えっ、えぇっと……ア、アイビス?」
『おおよそ20本前後です』
「了解よ。ならフレアは少数ではなく大量に放出するタイプがいいわね」
「ロビン。そのフレアとやら、話を聞く限りじゃ照明弾を改造すればいいのか?」
「そうね。店にある照明弾をいくつかおねがいするわ。それをカスタムするか、元にして新規開発しましょう」
「おねがいします!」
通常フレアには2~4個ほどを打ち出すものと数十個を一斉に発射するタイプの2つがある。
リアルでは戦闘機の型式や製造メーカーなどにより違いがあるが、飛竜の【ホーミングレイ】に対抗するにはそれを上回る数のフレアを打ち出す必要があるため、フレアを大量放出する型の方が相性が良い。
射出機であるディスペンサーは複雑な構造をしていないが、フレア自体は新規開発しなければならない為少し時間がかかる。
そこで後日、完成し次第引き取りという事になった……のだが。
『toアスカ フレア出来たからショップまでお願い』
「だから仕事が早いですってロビンさん!」
なんと翌日には完成したというメールが届き、アスカは急ぎダイクのショップへ駆け込む羽目になったのであった。
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《ヘイロー1より各機、状況知らせ》
《ヘイロー2スタンバイ、いつでも行けるよ、兄さん》
《ヘイロー3スタンバイ》
「リコリス1、コンプリート」
《よし、今日はリコリス1もいるんだ、確実に成功させるぞ》
アスカがフレアを受領したさらに翌日。
ナインステイツ上空にアスカ他ヘイロー小隊の姿があった。
目的はアスカがエイシーズを発見して以後、試行錯誤を繰り返している飛竜を地上で討伐する方法。
最近ようやくその目途が立ち、アスカは昨日受け取ったフレアのテストも兼ね、こうして参加させてもらっているのだ。
《僕たち3人は対物ライフルだけど、リコリス1はそれで大丈夫なの?》
「うん、これのテストもしたくて。無理そうなら汎用機関銃に変えるから」
《対物ライフルだと小回りが利かねぇからな》
アスカと小隊を組んでいるヘイロー小隊のメインウェポンが対物ライフルなのに対し、アスカは左右に銃を持った2丁持ちのスタイル。
ロビンにアップデートを依頼していた愛銃、エルジアエとピエリスだ。
飛竜を討伐したことでようやくすべてのミニイベントボスの素材が手に入り、ロビンに納品。
エイシーズ飛竜に挑みながらも、ロビンから聞いていたアップデートに必要な素材をドロップするミニイベントボス討伐クエストをクランの仲間達と行い必要数を集め、エルジアエ、ピエリスと共に預けていた。
そして昨日のフレアディスペンサー受領時にアップデートの終った両銃も一緒に受け取っていたのだ。
つまり、今回の戦闘はアップデートの終ったエルジアエ、ピエリス、新規開発のフレアディスペンサーのテストを兼ねている。
《毎回良い線まで行くんだが、最後のひと押しが足りねぇんだ》
《空は僕たち4人しかいないけど、作戦通りいくよ!》
「はい!」
今回の戦闘の目的はフライトアーマーを使用出来ないランナー達の為に、エキスパート飛竜を地上に引きずり下ろし、地上メンバー達と討伐する事。
つまり、大半が地上戦力であり上空には1小隊となるアスカ達4人しかいない。
《敵発見。正面です》
《オーケー、確認した。リコリス1、頼む!》
「了解。リコリス1、エンゲージ!」
索敵装備を身に着けていたヘイロー3が飛竜の影を見つけ、アスカ達に共有。
これによりアスカの視界にも飛竜のアイコンが表示された。
アスカ以外の3人は遠距離武器である対物ライフルを装備している為、近接戦闘は不向き。
それに対しアスカが持つのは個人防御火器ピエリスに単連斬切り替え式マルチウェポンエルジアエ。
中、近距離戦は得意とするところ。
ヘイロー小隊の3人が上左右に散開する中、アスカは両銃を構え加速。
飛竜との距離を一気に詰める。
「まずはエルジアエから! いくよ!」
エルジアエを単発モードにセットし、構えるアスカ。
アップデートに際し、ピエリスの外見には大きな変化はない。
エルジアエも上下二段の白い銃身に木製ストックというところまでは同じだが、トリガーの前にマガジンのようなものが新設されている。
リアルであれば複数の銃身を持つ銃にマガジンがあるというのはあり得ない話だが、ここはゲームの世界。
中に入っているのは銃弾ではなく魔力。
そう、これはクラングリュプスが正式採用しようとしているマジックパックなのだ。
以前は使用者であるアスカから弾に変換するMPを貰っていたが、アップデートに際しこれを改良。
MPを消費しないマジックパック方式への変更をロビンに依頼していた。
『エルジアエ、チャージ完了』
「よし、うりゃあ!」
エルジアエから聞きなれたチャージ音が響き、正面にいる飛竜へ向け撃ち放つ。
チュン、という甲高い射撃音と共に光弾が放たれ、飛竜に直撃。
ダメージを与える。
「ん~やっぱりダメージが少ないね」
『ミニイベントボスにレイ攻撃は効きにくいようです』
「それでも以前よりは全然ダメージ出てるし、問題なし! このまま接近するよ!」
ミニイベントボスにレイ攻撃が利きにくいというのはすでに周知の事実。
検証班によれば、現実に存在していれば自重で動く事すらできないはずの巨体を動かすため、魔力による肉体強化を行っており全身を魔力が巡っていると推測。
その魔力が体からわずかに漏れ、バリアのようになっているのではないかと結論付けている。
もっとも、実際に戦うアスカにはそんなことは関係ない。
『ターゲットロックオン』
「ミサイル撃て! エルジアエ連射モード!」
《ヘイロー2、ヘイロー3、リコリス1に当てるなよ!》
《兄さんこそ! 攻撃目標忘れないでよ!》
《ヘイロー3、エンゲージ》
「キシャアアァァァァァ!」
後方を頼りになる僚機に任せ、新しくなった武器が試せると、アスカは勢いよく飛竜へ向け吶喊して行くのであった。
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嬉しさのあまりオリスカニーから発艦してしまいそうです!




