19 空の支配者Ⅰ
ブースターを使用し、音速一歩手前の速度で目標である飛竜へ向け急行する9つのフライトアーマー。
広大なナインステイツのマップと言えど、ブースターも使用したフライトアーマーであれば僅かな時間で飛竜のアイコンを視界に表示することが出来た。
「見えた、飛竜まであと5000、高度6000!」
《我がグリュプス飛行隊を遮るものなし。いくぜリコリス1》
《レイピア隊、ヘイロー隊散開。作戦通りよ》
《レイピア隊了解。ブースターパージ》
《コピー。ヘイロー隊ブレイク》
「ブースター最終加速、行きます!」
ブースターに残った魔力をすべて使いさらに増速するアスカとヴァイパーチーム。
TierⅣではまだ機体剛性及び主翼形状が十分ではなく、音速を突破できない。
音の壁を前に主翼がバタバタと暴れ出す寸前を見極め、ブースターをパージ。
正面の飛竜へ向け一気に突き進む。
《こちらレイピア4。飛竜はまだこちらを認識していません。ファーストアタックいけます》
「リコリス1了解。行くよアイビス、ターゲットロック!」
『ミサイル、ロックオン完了』
「いっけえぇぇ!」
アスカの主翼下に懸架された2発のミサイル。
命中精度、火力とも十分とはいかないが、そこは数で勝負。
四角の敵アイコンにロックを示すひし形が重なり、完了を示す赤表示へと変わると同時に2発を同時発射。
ロケットモーターに火が入り、綺麗な筋煙を空中に残しつつ飛竜へ向け加速してゆく。
「キシャアアアァァァ!」
『ミサイル全弾命中』
「まだまだいくよ!」
アスカが構えるのはイベントでも使用した7.62mm汎用機関銃。
ここまでの戦闘でピエリス、エルジアエの両銃がほぼ効かない事を考慮し用意した実弾火器だ。
大型で重量もある機関銃だが、TierⅣトゥプクスアラならばTierⅡ飛雲よりも扱いは楽。
さすがにエルジアエほどというわけにはいかないが、今までよりも扱いやすくなった汎用機関銃の銃口を飛竜へ向け、トリガーを引く。
「よし、少しは効いてる!」
『飛竜、こちらをターゲット。向かってきます』
「回避を優先、追撃は皆に任せよう!」
いきなりの不意打ちを食らった飛竜。
当然怒り狂いその矛先をこちらへと向ける。
ミサイルと汎用機関銃の被弾によりHPは減っているが難易度エキスパートの飛竜からすれば微々たる量。
大きな翼をひるがえし、正面にアスカを捉えると汎用機関銃の銃弾も無視して加速する。
アスカは牽制がてら汎用機関銃を連射するが、飛行機動は回避を優先。
飛竜の能力はまだ未知数だが、ここまでのミニイベントボスたちを鑑みるにタイマンで勝負出来るとは到底思えない。
なにより、背後には信頼がおける沢山の味方達が居るのだ。
「飛竜急速接近、交錯するので追撃お願いします!」
《ラジャー、無理するなよ!》
《レイピアリーダーより各機、さっそくのチャンスだ。隊長の俺に恥をかかせるなよ》
後続に援護要請を出し、さらに飛竜と接近。
飛竜もアスカに急急接近してきたことで、全体像がようやく把握できた。
「うわ、でっかい!」
『ミニイベントボス飛竜。討伐イベント唯一の飛行型モンスターです。高い機動性から繰り出される攻撃に注意してください』
「注意って言ったって、これ大きすぎじゃない! どうやって飛んでるのよ!?」
アスカがここまで対峙してきた飛行モンスターは赤とんぼやギンヤンマなど、人と同じかやや大きい程度。
だが、飛竜は人が乗れるほどに巨大だった。
他のミニイベントボス同様、胴体は見るからに強靭そうな鱗に覆われており、首、先端にとげの付いた尻尾共に長く、全長は目算でも20m相当。
強大な胴体を支えるため、脚部は太くがっしりとした逆関節。
二本足の指先にはエグゾアーマーの装甲でさえ引き裂けそうなほどに鋭い爪が日の光に照らされ、怪しく輝いている。
そして飛竜の飛竜たる所以。
前足が進化したのであろう翼は伸びた指こそ鱗に覆われているが大部分は飛膜となっており、羽ばたくたびに風切り音が聞こえてきそうなほど。
全幅に至っては胴体よりも長く、30m近くあるだろう。
その姿は少し離れた位置にいる攻撃部隊からもはっきりと確認できた。
《噂には聞いてたけど、マジででけぇな》
《想像以上だぞこれは……というかこの姿、どう見てもワイバーンだ》
《他のボスは恐竜モチーフだったけど、これは完全に怪物ね》
《姿も動きもディテールがヤバい。他の連中より出来栄えがワンランクかツーランクは上だぞこれ》
《運営にこだわってるやつがいるんだろうな》
開発運営は討伐ミニイベント開催に当たり、ボスを恐竜ベースで制作していた。
轟竜ならTレックス、殻竜ならトリケラトプスなどが代表格だが、この飛竜だけは事情が違う。
運営開発のエースがたった一人で作り上げたそれは、オーダーであったはずのプテラノドンから遠くかけ離れ、ファンタジーで人気の高い『ワイバーン』そのものとなった。
動く翼と言うクリエイター泣かせの部位を持ちながらも、羽ばたき飛行する姿はあたかもそこにワイバーンが生命として存在しているような威圧感を放ち、見開かれた目からは爬虫類を思わせる蛇眼の瞳が妖しい光を放つ。
数多のゲームをプレイしてきた者たちが一目見れば分かるほど細部までこだわり抜いて作られており、この戦闘が簡単に終わらない事を直感させる。
『飛竜、攻撃、来ます』
「させるかぁっ!」
アスカと飛竜の距離が近接の距離まで迫ると、飛竜は上体を起こし両足を前に突き出す。
このモーションからアスカはすぐに飛竜が足の爪による攻撃を仕掛けてくる物だと直感。
汎用機関銃による攻撃を中断し急回避機動を行う。
飛竜の爪がたった今までいた場所を通過。
回避に成功したアスカはそのまま飛竜の横を通過し、距離を取る。
《リコリス1、射線上から離脱》
《いまだ、撃て!》
《ミサイルを食らえっ!》
飛竜が後ろに回ったアスカを再度正面に捉えようと旋回機動を取ろうとしたところで、後方の部隊が飛竜へ向け攻撃を開始。
複数のミサイルが一斉に発射され、アスカを追おうとした飛竜の背面に突き刺さる。
「ギャオオオオオオォォォ!」
《へっ、やっこさん怒り狂ってるな!》
《全機、反撃に注意しろ。まだ飛竜の攻撃パターンは全部わかってないぞ》
《注意、飛竜の口に魔力反応!》
《ブレイク、ブレイク!》
背後からの攻撃にさらに怒りを強めた飛竜は再度振り返り、攻撃を行ってきた小隊と対峙。
すると飛竜の口内がオレンジ色の光を放ち始めたのだ。
この動きにグリュプス飛行隊はすぐさま反応。
攻撃を中止、3機すべてが別方向へ向け回避機動を取る。
《飛竜が火球を撃ち出した! 魔法攻撃だ!》
《速度が遅い! これなら……うわっ!?》
《当たってないのに爆発した!?》
《炸裂弾!? ダメージレポート!》
《被害なし! 誰もいないところで弾けたわ!》
《なるほど、時限信管式か!》
空戦、かつ多対一がメインとなるため、飛竜にも当然遠距離範囲攻撃が用意されている。
その一つが炸裂火球弾。
弾速は遅いが、一定距離飛翔してから自動で炸裂する時限式の攻撃魔法である。
フライトアーマーであれば一撃必殺となるであろう炸裂火球弾だが、グリュプス飛行隊の面々には脅威ではない。
誘導性能もなく弾速も遅い火球弾など彼らからすれば見てから回避余裕。
射撃方向も飛竜の顔の向きにさえ気を付けていれば予測も簡単とあり、すぐさま反撃の体制を整える。
《お前ら、無茶するんじゃねぇぞ!》
《ヴァイパー1、援護するわ、取り付いて!》
《任せろ!》
飛行隊を執拗に狙う飛竜が放つ火球弾を潜り抜け、ヴァイパー1、ヴァイパー2が飛竜に接近。
近接戦闘を仕掛ける。
《コイツがどの程度効くのか試さないとな!》
《貴方の相手は私達よ!》
レイ火器が利かず、小口径も弾かれてしまう可能性が高い飛竜に対し接近戦を仕掛けるとあり、ヴァイパーチームの二人も装備を整えてきている。
主翼下に護身用代わりのミサイル2門は共通だが、ヴァイパー2がアスカと同じ汎用機関銃を2丁持ちしているのに対し、ヴァイパー1が持つのはなんと槍。
それもアームドビースト使いであるマルゼスがイベントで使っていた物と同じく円錐状であり、突く事に特化している。
空中ではどう考えても使いにくそうな武器だが、ヴァイパー1の表情は気合十分。
牽制射撃をヴァイパー2に任せ、エンジンを吹かして飛竜へ向け飛行する。
《この距離、取ったぞ! いけっ、ブリッツランス!》
瞬間、ヴァイパー1が切っ先を飛竜へ向け構えていた槍の鍔から先が勢いよく射出された。
射出された槍は後部から推進力としているロケットモーターが噴射炎をあげ、直進性と破壊力を高めるため高速で回転。
距離のあった飛竜との間を一瞬で埋め、胴体へと突き刺さる。
「ギャオオォォォォ!」
《よし、効果ありだ!》
《ヴァイパー1、リロードを》
「リコリス1、援護します!」
《ヘイロー隊、効力射レディ》
ヴァイパー1が対飛竜の接近戦用に用意したのがこのブリッツランス。
通常のランスよりやや短いが、鍔から先、穂の部分が射出されるという特殊機能を持っている。
これによりランスとしての接近戦の他、射出機能を利用した中距離射撃戦も可能。
欠点としてはランスとして見るとややリーチが短い事、射出後は新しい穂を装着する必要がある為リロードタイムが発生する事。
やや癖が強い武器だが、レイ攻撃耐性が高いミニイベントボス相手にフライトアーマーが中、近距離で戦闘を行うには最適の武器となる。
《ヘイロー隊、攻撃終了。リロードに入ります》
「了解。リコリス1、接近します。ヴァイパー2、援護を!」
《ヴァイパー2、了解よ》
《飛竜、火球攻撃来ます!》
《ブレイク、ブレイク! 一発貰っただけでアウトだ!》
《みんな、気合入れてよ!》
遠距離から攻撃してくるヘイロー隊、レイピア隊に対しては炸裂火球で。
中、近距離戦を仕掛けてくるアスカ、ヴァイパー1、ヴァイパー2には尻尾の叩き付けや爪による切り裂き、牙による噛み砕き等で攻撃を繰り出してくる飛竜。
だが、練度の高いアスカ達は命中弾はおろか至近弾すら貰わない。
《ほらっ、こっち向けトカゲ野郎!》
《ヴァイパー1、近づき過ぎよ》
「リコリス1、フォックス2! やっぱり硬いよコイツ!」
回避については問題ないが、予想通り火力が心もとない。
アスカ達が注意を引き付けている間に攻撃隊が次々と有効打を与えてゆくが、削れるHPゲージはごくわずかだ。
《やはり長期戦になるわね》
《想定通りだ、それにそろそろ……》
《ヴァイパー8、空域に到着》
《ヘイロー12、エンゲージ》
《噂をすれば、来たか!》
長期戦の様相を呈してきた飛竜との空戦。
そこへ現れたのは他方面へ偵察に出ていたヴァイパー8とヘイロー12の2名。
そして、彼らこそ長期戦を見越した飛竜戦のキーポイントだ。
《補給物資、持ってきました!》
《弾薬、ポーションが残り少ないものは補給を受けてくれ》
そう、彼らが装備しているのはTierⅣトゥプクスアラではなく、フライトアーマーTierⅡC-75を発展させたTierⅢパイロット。
C-75から大型化したフライトユニットに2発から4発に増設したレシプロエンジンのパワーでペイロードを大幅に増加させた輸送型フライトアーマーだ。
ヴァイパー8とヘイロー12は追加で各部にウェポンコンテナ装備。
積載量をさらに増加させ、インベントリに消耗品を満載。
長期戦を支えるサプライヤーとして戦場に駆け付けた。
《レイピアリーダーより各機、補給に入れ》
《こちらヘイロー5。ヘイロー6、ヘイロー11、聞いたな? レイピア隊が戻ってくるまで俺達でダメージを稼ぐぞ》
《ヘイロー6、了解》
《ヘイロー11、コピー》
すでにかなりの回数訓練を行ってきたグリュプス飛行隊。
補給の順番で詰まることもなく、スムーズに補給作業を終了。
アスカら接近戦を担う人員も隙を見て補給を行い、確実に飛竜のHPを削っていったのであった。
ブリッツランスの元ネタはクロス◯ーンバンガードのショットランサー。
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嬉しさのあまりベニントンから発艦してしまいそうです!




