21 戦闘力増強計画
本日一話目更新です。
「よし、じゃあどのタイプの銃にする?」
「ふえ?」
ダイクに銃の素にするハルバードを渡したらそれで終了だと思っていたアスカは想定外の問いに腑抜けた声が出てしまった。
「なんだ? 一言に銃と言ってもサブマシンガンからアサルトライフル、スナイパーライフルと種類があるだろう? 種類によって有効射程範囲も変わってくるからな。嬢ちゃんが何を持ちたいかでこいつの改造先が変わるんだよ」
なるほど、と頷き、そして考え込む。今必要な銃、必要な射程距離……。
「……全部?」
「あぁ?」
予想外の問いの仕返しをされ、今度はダイクのほうが拍子抜けした声をあげてしまう。
「全部ってお前……」
「だって、私初期装備の銃と剣しかないし……」
「そりゃそうだが、一つの銃で全部賄おうなんざ……」
そこまで言い放ったところでダイクが何かに気付いたようにはっとし、壁に立てかけてあるハルバードをじっと見つめ始めた。
「ダイクさん?」
「……何とかなるかもしれねぇ。嬢ちゃん、何か強い魔石は持ってないか?」
「魔石?」
「おうよ。そこら辺のザコが落とすのとは違う、強力な奴だ」
う〜ん、と考えた後、猪王の魔石を思い出す。
オークキングを倒したドロップで入手した魔石。
フランとアルバの話では素材として優秀だという事なので、ここで使うのも悪くないだろう。
アスカは猪王の魔石をインベントリから取り出すと、ダイクに手渡した。
「これで良いですか?」
「オークキングの物か。こいつなら完璧だ。嬢ちゃん、剣もロングソードだけだったよな?」
「はい。新しいソードも欲しいですけど、さすがにそこまでのお金は……」
「なるほどなるほど」
何かを察したのか、急にニヤニヤしだしたダイク。
アスカは意味が分からず、首をかしげるしかない。
「オーケー、大体固まった。それとな、このハルバードから銃を作ったらいくらか素材が余る。その素材はどうする? 嬢ちゃんが受け取るか、うちで買い取るか」
「買取でお願いします。それを銃のお金に回してください」
「了解だ。となると支払いは受け取りの時になるが、良いか?」
「えっと、いくらくらいになります?」
「ざっとだが一〇〇〇〇ジル前後だな。大丈夫か?」
「それくらいなら何とかなります」
大丈夫とは思っていたが、お金が足りなくて武器が買えないなどと言う状況にはならなそうだと胸をなでおろした。
受け取りはゲーム内時間で二日後、リアル二四時間後という事なので、二日後また来ますと言づけて店を出ようとしたその時。
『アスカ、フライトアーマーの開発はしなくて良いのですか?』
「あっ!」
すっかり忘れていた。オークキング戦の経験値でフライトアーマーTierⅡの開発が終わっていたのだ。
本来ならすぐにそのことに飛びついていたであろうアスカだが、魔力草のドタバタで完全に失念してしまっていた。
慌ててアイビスから設計図の作り方を教わると、踵を返すようにダイクのいるカウンターに舞い戻る。
「ダイクさん、フライトアーマーの開発もお願いできるんですよね?」
「お、なんだ嬢ちゃん、TierⅡ開発したのか」
唯一のフライトアーマー使用者が新しいアーマーを開発したからか、ダイクもうれしそうに答えた。
そしてアスカから設計図を受け取るとぱらぱらとめくり、内容を確認していく。
「ふむ、これなら作れるな」
「お金はどのくらいかかりますか?」
「素材持ち込みアリなら一〇〇〇〇ジル、ナシなら三〇〇〇〇ジルってとこだな」
「素材持ち込みですか?」
素材持ち込みとはその言葉の通り、エグゾアーマー製作に必要なものを必要数採取、持ってくることでその分販売価格から割引してくれるというものだった。
「フライトアーマーTierⅡ翡翠の必要素材はアルミと鉄だ。インゴットが理想だが、ボーキサイトと鉄鉱石でもかまわねぇ」
「鉱石、どこで取れるのかな?」
三〇〇〇〇ジルなら払えないこともないが、せっかくなら鉱石も採取してみたい。
ソロプレイが基本のアスカには鉱石がどこにあるのかが分からないが、フランやアルバに聞けば分かるはず。
「確実に買うなら先に作っておいてやるよ」
「良いんですか?」
「設計図がもうあるし、素材も調達が難しいものじゃないからな。もちろん、素材を持ってきた場合はその分割引くぜ」
ニッコリ笑いながらサムズアップするダイク。
アーマーの必要素材と資金はTierによって異なるが、TierⅡ〜Ⅲまでは比較的集めやすい素材と安めの資金で作ることが出来る。
そのあたりまでならお金だけで手に入るのだ。
TierⅣからはポツポツとNPCが販売していない希少素材が必要になり、資金もそれに伴って増加していく。
ダイクの言う作り置きをしておいてくれるなら、余裕がある時にいつでも買いに来られ、装備して飛行することが出来る。
アスカはこの提案を二つ返事で了承し、「よろしくお願いします」と頭を下げダイクの店を後にした。
―――――――――――――――――――――――
「とりあえず、これで武器とアーマーは確保できたね!」
アスカはトコトコと大通りを歩いてゆく。
目下最大の問題であった武器については目処が付き、すっかり忘れていたフライトアーマーTierⅡ翡翠もいつでも引き取れる。
「あとは魔力草の栽培か。アイビス、どこに行けばいいかな?」
『畑の購入はランナー協会で行いますが、草花、種、栽培用アイテムなどはフラワーショップで購入できます』
「よし、じゃあまずフラワーショップに行こう」
リアルで花を育てた経験はあるがこのゲームでの育て方が同じとは限らない。
ならばまずはフラワーショップで情報を集めた方が良い。
アイビスにフラワーショップを行先表示でナビしてもらいながらミッドガルの街を歩いてゆく。
魔力草の栽培は必須だが、急務ではない。
すでに気分は観光モードであり、いままでじっくり味わっていなかったミッドガルの街並みを満喫しながら歩く。
途中、雰囲気のいいお店や軒先販売している店舗で食べ物や飲み物を買って、ちょっとした広場のベンチに腰を下ろして一休み。
そうして美味しいものを食べ、真上まで昇った日の暖かさを全身で受けていると眠くなってくるのは仕方のないことだろう。
アスカはうつらうつらと船をこぎ出し最後にはベンチに寝そべり、寝入ってしまった。
すやすやと眠ってしまいあやうく強制ログアウトになるところだったが、気を利かせたアイビスが寸前で起こしてくれた。
アイビスにお礼を言うと残っていた飲み物を飲み切り、再び街の中を歩き出す。
そこから少し歩いたところで大通りから横道へと入って行く。
フラワーショップに行先表示をしているため迷う事はないのだが、いままでの大通りと違って人が少なく感じる。
そのことをアイビスに聞いてみると……。
『こちらの通りは菜園、園芸、裁縫、手芸など、主にホームで楽しむ事柄に関したお店が多いのが特徴です。稼働日数の少ない今はまだランナーの方々が少ないものと思われます』
確かに、周りのお店をよく見て見ると裁縫や手芸などの内職的なお店が多い。
さすがにゲームを開始してすぐひきこもる人は少ないだろう。
納得である。
「菜園とか裁縫は人気出るのかな?」
『園芸は完全に趣味となりますが、菜園はアスカが行おうとしている薬草などの栽培の他、菜園で作られた食材で料理をすることでバフ効果付きの料理が出来ます。裁縫は洋服の個人販売、手芸はアクセサリーを製作するなど、プレイに反映できるように調整されています』
「なるほど。園芸もきれいな庭ならスクリーンショットで人気出そうだし、面白そうだね」
『アスカも園芸をしてみますか?』
「私は空を飛んでる方が良いなぁ」
アイビスのからかいを笑って躱し、目的のフラワーショップへと向かってゆく。
フラワーショップは趣味通りの一角にあり、見た感じはちょっと大きめのガーデニングショップだ。
ダークブラウンの木造建築にオープンテラス。
そのテラスと室内には所狭しと草花が飾られ、買い物に来るお客さんを出迎えてくれている。
「こんにちはー」
「はーい、只今ー」
入り口に人気がなかったため大きめの声を出したのだが、返事はすぐに帰ってきた。
そして奥からトコトコと小走りで出てきたのは赤いエプロンに三角頭巾のお姉さんだった。
「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
「えっと、ちょっとお聞きしたいことがありまして」
アスカは事の顛末をお姉さんに説明した。
お姉さんの名前は『リーネ』と言うようで、このお店の主人の奥さんなのだそうだ。
さすがフラワーショップの奥さんなだけあって、薬草の育て方についても知識も豊富。
「じゃあ、その魔力草は一株だけなのね」
「はい。どうにか数を増やしたいんですけど、経験がなくて」
「それなら、まずはプランターで育てたらいいわ」
「プランター、ですか?」
アスカとリーネの二人は隅に置いてあったレンガ色のプランターに目をやった。
「いきなり畑は大変だし、お金もかかる。ある程度の数が揃うまでプランターで練習して、その後畑を買うのが良いと思うの。お金もかからないものね」
アスカは頷く。
聞けば、プランターで育てる場合は現実世界と同じように鉢底石を敷いた後に土を入れ、そこに種を植えるだけ。
あとは日の当たる場所に置いて、ゲーム時間の一日に一回ジョウロで水を入れれば自然と育つという。
「魔力草はそんなに難しい薬草じゃないから、それだけで十分」
「種はどうやって採種したらいいのですか?」
「自分でやるには【栽培】のスキルがいるわね。スキル自体は自然と身に付くこともあるし、スキルブックからも習得可能よ。他には、私の所に持ってくれば採種してあげるわ。量に応じた手数料はかかっちゃうけどね」
ふむ、と考えこむ。確かに魔力草一株に対して畑は面積が大きすぎる。
後々は考えるとしても、今はプランターで良いだろう。
そして【栽培】スキル。
おそらく水やりや収穫、種まきなどで経験値が上がっていくと思われるが、育てる魔力草の絶対数が極めて少ない現状でスキルなしから習得までどのくらいかかるか未知数だ。
アイビスに聞いても、現状ではスキルブックからの習得がベストとの回答。
フラワーショップで販売している上、値段も五〇〇〇ジルで許容範囲内なのも好材料。
「あの、魔力草の採種とプランターでの栽培セット、スキルブックをお願いできますか?」
「はい、ありがとうございます。ここで全部やっちゃう?」
「でもここで用意しても持って帰れないんじゃあ……」
『プランターに種植えした状態でもインベントリに収納可能です』
「そうなんだね。じゃあ、お願いします」
「承りました」
リーネは笑顔で答え、さっそくプランターのセットに取り掛かる。
ショップの脇に置いてあったレンガ色で長方形のプランターを一つ取ってくると、慣れた手つきで鉢底石をいれる。
次に大量に袋分けされていた土から「品質Aの魔力草なら土はこれね」と一つを選び、プランターの中に敷き詰める。
「アスカちゃん、魔力草をいいかしら?」
「あ、はい、どうぞ」
リーネが差し出した手にインベントリから取り出した魔力草を乗せる。
「立派な魔力草ね」と一言感想を述べた後、魔力草が光り出す。
光が消えると魔力草も消えていて、残っていたのは二つの黒い種。
「これが魔力草の種なんですか?」
リーネの手の上を覗き込むようにしてアスカが問う。
「そうよ。種にも品質があるのだけど、さすがね。これも品質Aだわ」
笑って答えるリーネ。
通常、草花なら一つの株から二〜三個の種が取れ、それぞれ品質があるという。
基本的に採種元と同じ品質なのだが、スキルの有無やレベルによって品質が変わるという。
今回は二つとも品質Aの種なので、栽培に失敗しなければ品質Aの魔力草が育つという。
「栽培に失敗ってどういうのがあるんですか?」
「育てる草や野菜によっていろいろ違うのだけど、簡単なところだと気候や日照時間、あとは水やりね」
「気候、ですか?」
アスカは首をかしげる。
日照や水は分かる。
日の当たらないところに置いておいたり、水をやり忘れれば品質が落ちても仕方がないだろう。
だが、気候が分からない。ゲーム内での体感温度は一定で、寒いも暑いも関係ないのだ。
「このミッドガルの町は標準的な気候なのだけど、魔力草は山岳の涼しい気候を好むの。それを南国の熱帯気候の土地で育てても収穫は出来ても良品質の物はできない。そんなところね」
「なるほど」
どうやら体感は出来ないが、ゲーム内で気候はしっかり存在しているようだ。
ならミッドガルだと品質Aが栽培できないのでは? そう思い聞いてみると、どうやらそこまでひどくはないとのこと。
「ミッドガルは標準的で、全滅するくらいひどいわけじゃないから大丈夫よ。少し割合が減っちゃうくらいかな」
「具体的には?」
「そうねぇ、山岳なら一〇採取して一〇〜九が品質Aなのに対して、ミッドガルだと八くらいかしら」
「結構減っちゃうんですね」
「熱帯で栽培したらそれこそゼロだから、許容範囲内じゃないかしら」
リーネは話しながらも手は止めず、プランターの土に指で穴を二つあけるとそこへ種を入れ、土をかぶせる。
最後にジョウロで水を差してセット終了だ。
「魔力草などの薬草類は育ちも速いし、特に肥料も必要ないの。ちゃんとお水さえあげていれば三日後には収穫できるわよ」
「ありがとうございます。収穫したらまた種にしてもらえますか?」
「はい、いつでも。お待ちしております」
素敵な笑顔を見せるリーネに代金を支払い、プランターとジョウロ、そしてスキルブックをインベントリに収納。
「また来ます」とあいさつを交わし、フラワーショップを後にした。
ホームに戻ったアスカはインベントリから取り出したプランターを窓のそば、日当たりのいい場所に置いた。
今日の水やりはもう済んでいるので、魔力草に関してはこれ以上特にすることはない。
ベッドに腰掛けたアスカは次に【栽培】のスキルブックを取り出す。
大きさはB5サイズのノートブックで、表紙はレザー。
表紙をめくると……。
<スキル【栽培】を獲得しますか?><YES><NO>
と記載されたウィンドウが表示された。
当然YESをタップ。
すると本が光始め、辺りを光の粒子が舞う。
<スキル【栽培Ⅰ】を獲得しました>
こうしてアスカはスキルブックから【栽培】スキルをあっさり習得。
使い終わったスキルブックだが消える事はなく、めくってみると草花や野菜などの栽培方法が記されていた。
どうやらこの本はスキル習得の他、ヘルプブックを兼ねていたようだ。
スキルブックをパラパラとめくり、一通り目を通した後は押し入れのアイテムBOXに。
おそらくもう取り出すことはないだろう。
ついでに今は必要ないMPポーションや初期服、ジル類もまとめて収納。
インベントリは空になり、手持ちのジルもゼロだ。
「よし、今日やるべきことはこれくらいかな」
『ログアウトしますか?』
「ううん。まだまだ時間があるもの。ここから先は自由に楽しまないとね!」
アスカは再びミッドガルへ移動。
そのまま町の外まで出るとエグゾアーマーを装着し、大空へと飛び立ってゆく。
無論、数度羽目を外して墜落死したことは言うまでもない。
やることが多いのはVRMMOで良くあること。
感想、評価、ブックマークなど頂けますと作者が嬉しさのあまり釧路空港から飛び立ちます。




