18 蟲毒飛行隊、出撃
ナインステイツ、開拓村にあるランナー協会。
そのクエスト受付カウンターにアスカの姿があった。
「それではミニイベントクエスト『飛竜討伐』を難易度エキスパートで承ります。よろしいでしょうか?」
「お願いします」
「はい、了解いたしました……クエスト受注が完了いたしました。飛竜討伐はかなり苦戦すると思いますが、頑張ってくださいね」
「ありがとうございます!」
クエスト受付カウンター嬢の営業スマイルに見送られ、場を後にするアスカ。
カウンターから小走りで向かった先はランナー協会の外、ヴァイパー1とヴァイパー2が居る場所だ。
「おまたせ、クエスト受注して来たよ!」
「おう、ご苦労さん」
「さぁいきましょう。皆待ってるわ」
笑顔でアスカを出迎えたヴァイパーチームの二人。
開拓村にあるランナー協会は手狭な上ミニイベント期間中は人も多い。
その為アスカとは一緒に入らず、外で彼女を待っていたのだ。
そして彼らが視線をアスカから放し向けた先。
そこにいるのは中隊アイコンが頭上に表示されている9人のランナー達だ。
「改めてよろしくお願いします、リコリス1」
「貴女と共に飛べるなんて夢みたいです!」
「えっと、よろしくお願いしますね」
グリュプス飛行師団のメンバーとは結成祝賀会で顔合わせは行っている。
が、そこは108名からなる大所帯なのだ。
たった一回会っただけで全員のランナーネームと顔を覚えられるほどアスカの記憶力は神がかってはいないため、再度自己紹介タイムとなる。
「おい、自己紹介だけで時間が無くなっちまうぞ」
「取り合えず歩きながら話しましょう。 村の外に出ないとエグゾアーマーも装備できないわ」
「あ、そうですね……」
「分かりました!」
討伐ミニイベント期間中は2、3小隊での中隊を組むことが多い為12名で歩いていてもそれほど目立つことはない。
自己紹介と雑談を交えながら移動を開始する。
「よし、挨拶はだいたい終わったな。じゃあ簡単だけど作戦を伝えるぞ」
「作戦?」
「ああ、人数が多いからな。中隊、通信で聞いているな?」
全員との挨拶が終わったところで、アルディドがアスカに近付き、声をかけてきた。
どうやら飛竜討伐に向け簡単な打ち合わせを行いたいらしい。
アルディドによると、まず捜索隊として索敵装備の3名が3方向に分かれて飛び、広範囲を索敵。
見つけ次第連絡を入れ、アスカやヴァイパーチーム率いる本隊が離陸、飛竜に攻撃を仕掛ける。
「攻撃方法はどうするの?」
「全員フライトアーマー装備だから出せる火力には限りがあるだろ? そこで役割分担だ」
「役割分担?」
フライトアーマー最大の武器はジェットエンジンが繰り出す推力と軽量ボディから来る機動力だ。
しかし、ダメージを出そうと重火器を装備すると機動力が大幅に低下、攻撃を躱すのも難しくなってしまう。
そこで3小隊のうち1小隊が囮となり飛竜に接近戦を仕掛け注意を引き、そこを重火器を装備した残りの2小隊が攻撃する作戦なのだという。
「なるほど、それならフライトアーマーでもダメージが出せそうだね」
「メンバーもそれを前提に選抜してるんだ。飛竜相手でもなんとかなるはずだぜ」
「問題は接近戦を仕掛ける囮小隊ね。これがやられると機動力のない攻撃部隊が蹂躙されるわ」
「あっ、たしかに……」
この作戦の一番のキモは接近戦を仕掛ける小隊がどれだけ生き残れるかだ。
囮小隊が飛竜の攻撃に臆し距離を空ければ攻撃部隊が標的にされる恐れがある。
かと言って接近戦を仕掛けすぎると、今度はヘイトを稼ぎすぎ攻撃が集中、躱しきれず撃墜される可能性が高くなる。
重大責任となる囮部隊だが、その役は当然……。
「囮部隊はリコリス1と俺、そしてヴァイパー2でやる」
「むしろ私たち以外では無理ね」
「望むところです!」
アスカとヴァイパーチームの役目となる。
アスカとしても皆に討伐の手伝いをお願いしている立場。
先陣に立ち一番危険な役割を担うことは当然と考えているのだ。
その後は攻撃する時の位置確認、使用火器などの細かい打ち合わせを行いつつ村の外へ。
エグゾアーマー装着可能エリアまで移動すると、飛竜捜索を担う3名がエグゾアーマーを装着した。
「ヴァイパー8、ヘイロー12、レイピア4、頼んだぞ」
「任せてください」
「3人で探せば飛竜なんてすぐ見つけてやりますよ」
「ではリコリス1、先に出ますね」
「はい、捜索お願いします!」
捜索隊が装備したのは索敵用センサーを満載したTierⅣフライトアーマー彩光。
アスカ達への挨拶もそこそこにブースターも使用し離陸すると、フィールドのどこかを飛行しているであろう飛竜を見つけるべく3方へ散ってゆく。
残りの中隊メンバーは両手を振って彼らを見送ると、次は俺達の番だとエグゾアーマーを装備する。
先日の能力試験では操作性の良い翡翠を装備していたメンバー達だったが、そこはトップクランたるグリュプス飛行師団。
全員がTierⅣトゥプクスアラを用意している。
が、エグゾアーマーこそ統一されているが、兵装は全員異なっていた。
ある者は主翼下にミサイルを搭載。
手持ちも地対空ミサイルを装備し、中距離からミサイルでダメージを稼ぐ算段のようだ。
ある者はアスカも覚えがある対物ライフル装備。
主翼下にもマシンガンを装備した実弾仕様。
レイ装備が利きにくいミニイベントボス対策だろう。
他にも追加装甲、対空レーダー、通信アンテナなど細かなカスタマイズが施されている。
そんな中、全員の垂直尾翼にエンブレムが施されているのに気付く。
「これって……ヴァイパーとヘイローのエンブレムだよね?」
「あぁ。部隊ごとに識別できるようペイントしてあるんだ」
「なるほど、じゃあこの細剣のエンブレムが……」
「はい、我々レイピアのエンブレムになります!」
ヴァイパー中隊とヘイロー中隊のエンブレムはイベント時ヴァイパー、ヘイローの両チームが付けていた物と同じ。
レイピア中隊は初見になるが、名前の通り細剣をあしらったエンブレムになっている。
ゲーム中では味方アイコン上部にコールサインを表示させることも出来るためエンブレムのペイントは雰囲気づくりという意味合いが強い。
それでも、狭き門を潜り抜け最上位の中隊に所属しているという証となる中隊エンブレムに皆誇りを持ち、プレイのモチベーションとなっているのだ。
そしてアスカが気になったのはもう一つ。
皆のエグゾアーマー胸部パーツに描かれたグリフォンのエンブレムだ。
「アルディド、このエンブレムって……」
「クラングリュプスのエンブレムマークだ」
「空にいるとなかなか見難いけど、地上なら一目で私達がグリュプス所属のランナーだって分かるわね」
「……むぅ、私そのエンブレム貰ってない」
グリュプス所属の証として胸部パーツにグリフォンのエンブレムが義務付けられている。
が、アスカはファルクら上層部からは何も聞いておらず、エンブレムデータも貰っていない。
これはアスカはクランに縛られず自由に遊んでほしいというファルクらの配慮だった。
しかし、飛行師団全員が付けている中自分だけが付けていないというのは仲間外れ感が強く、つい不貞腐れてしまう。
「あら、リコリス1もつけたいのかしら?」
「それはそうだよ! 私だけ付けてないのってなんか嫌!」
「なら俺からファルクに伝えておくぜ。すぐにデータが送られてくるはずだ」
「本当!?」
エンブレムがもらえると聞いて、大喜びするアスカ。
これで皆とおそろいだ、と満開の笑顔を咲かせる。
その後は捜索隊から飛竜発見の報があるまでその場待機となる。
それぞれ役割、撃墜された時の対処など最終的な確認の他、機動飛行やスキルなどの情報交換も併せて行う。
すると、どういう訳か周辺に人が集まってきたのだ。
それを見て中隊の仲間達はニヤ付いているが、アスカは理由が分からず、アルディドに近付き、問いかける。
「そりゃあトップエースたるクラングリュプス飛行師団がこんなところに集まってるんだ。注目されてもおかしくない」
「そうなの?」
「普段はこんな風に地上待機せずにすぐに離陸しちゃうもの。有名飛行チームがエグゾアーマーを身に着けているのに飛びもせずこんなところにいたら目に留まるわ」
「あとはリコリス1もいるしな」
「私?」
「自覚ないと思うが、エグゾアーマー装備のリコリス1を地上で見れる機会なんざほとんどないからな。ギャラリー背負っちまうのも当然ってこった」
「ふーん……そんなものなのかな?」
アスカは気が付かないが、現環境ではフライトアーマー装備が9名も集まること自体異常なのである。
加えて集まっているのが注目度の高いクラングリュプスの飛行師団。
その中でもエース部隊と知られるヴァイパー、ヘイロー、レイピアからなる混成中隊にエースオブエースリコリス1。
あまりの物々しさに気にするなという方が無理な話である。
中隊員の中には注目を集めることで優越感に浸っている者もいるようだが、あいにくアスカにその感情はない。
それを察してか、中隊員数名がアスカを隠す形でギャラリーとの間へ入りガードする。
ついでに『見世物じゃないぞ』と視線で釘を刺すことも忘れない。
ギャラリーも遠巻きに見ているだけで近づいたり話しかけてくることもないのでそのまま。
談笑タイムの再開となる。
そうして話すことしばらく。
ついに捜索隊から待望の一報が入る。
《こちらレイピア4。飛竜発見。本隊の応援を要請》
「ついに来たか!」
「待ちくたびれたわね」
「レイピア4、リコリス1です。すぐに応援に向かいます!」
《レイピア4了解。皆、我らがエースをエスコートしてやってくれ》
「言われなくても!」
「俺達も待ちぼうけくらって溜まってるんだ、一丁やってやるぜ」
レイピア4の通信を受け、マップを開けば西のマップ端にレイピア4のアイコンと、ボスを示すアイコンが表示されていた。
これが飛竜のものであろうことは確実であり、レイピア4も飛竜のアイコンを追うような動きを見せている。
ようやくもたらされた飛竜発見の報告に沸き立つ一同。
アスカも皆につられて拳を握りしめていた。
「こちらヴァイパー1。ヴァイパー8、ヘイロー12、飛竜を発見した。両名は一度帰還し装備を整えてから合流してくれ」
《ヴァイパー8、コピー》
《ヘイロー12、ラジャー》
「よし、全員エンジンスタート、リコリス1に続いて離陸しろ!」
「リコリス1、行きます!」
アルディドが東と南に向かっていたヴァイパー8とヘイロー12に帰還命令を出し、全員に離陸を促す。
アスカはアルディドがすべてを言い終える前にエンジンを始動。
推力を上げつつ滑走のスタート位置へと移動、そのまま離陸を開始する。
なおフライトアーマーでの長距離移動が前提となるため、時間短縮のための補助ブースターと増槽を装備しての離陸となる。
慣れていなければブースターの爆発的な推力とかさんだ重量からバランスを崩し転倒しかねないが、ここにいるのは全員が精鋭のフライトアーマー使い。
転倒どころか足をもつれさせる者すら一人もおらず、アスカを先陣に次々に離陸してゆく。
《空へ上がったら小隊ごとに編隊を組め。終わり次第増速して一気に向かうぞ》
「ヴァイパー1、ヴァイパー2、こっちへお願いします!」
《オーケー、ポジションについたわ》
捜索隊は各小隊から一人づつ捻出している為、3人でのデルタ編隊となる。
一斉に離陸したため、最初はバラバラに飛んでいた飛行隊の面々だったが、アスカが西に向かって飛び始めるとその動きに追従。
すぐさま隊長機を頂点とした3人でのデルタ編隊を組むと、アスカの小隊を先頭にした3小隊での大きなデルタ編隊を構築した。
《よし、陣形も整えたな。リコリス1、頼む》
「了解。各員、ブースター点火、飛竜へ向け加速します!」
アスカの声に応じ、全員が離陸の際に使用したブースターを再点火。
一気に増速しつつ西へと向かう。
その動きも編隊を崩さない一糸乱れぬ見事な動き。
地上からこの動きを見上げているだけのギャラリーたちだったが、中には一連の動きに潜む練度の高さを理解する者も多かった。
そして自分の所属するクランにおける飛行隊の動きと照らし合わせ、あまりの練度の高さに唸るのみだったという。
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嬉しさのあまりハンコックから発艦してしまいそうです!




