15 フライトアーマー大破
フランが放った【サンダーボルトブレイク】。
多脚型機械生命体であるアダンソンに対し絶大な威力を誇ったとっておきではあるが、それはアダンソンの弱点が雷属性だったが故。
甚大なダメージを追いながらも轟竜はスタンすることなく、すぐさま眼前のフランに対峙する。
「グオオォォォォォォ!!!」
《仕留め損ねたぁ! 強制冷却! あとは……逃げるんだよぉ!》
「まったく、無茶ばかりして!」
轟竜の残りHPの1割ほどを削ることに成功したフラン。
しかし、近接戦闘を想定していないマジックアーマーでこの距離は極めて危険。
被弾のノックバックから復帰した轟竜は、手痛い一撃を与えたにもかかわらず排熱の煙を吹き上げながら退避するフランを逃さない。
すぐさまフランへ向け大口を開き噛み砕こうと迫ってゆく。
《わぁ、この恐竜肉食だぁ! 私は食べても美味しくないぞう!》
「フラン、進路そのまま!」
《あいあいさぁ!》
遠距離からロビンも重機関銃を見舞ってはいるが、フランの一撃で完全に血が上っているのか気にもしていない。
この状況をアスカは危険と判断。
誘導ミサイルと対物ライフルを撃ちながらフランを追う轟竜の前に出る。
さすがの轟竜もいきなり視界を遮るアスカを無視できず、ターゲットを切り替え噛み砕こうと首を伸ばす。
だが、そこはフライトアーマートッププレイヤーアスカ。
すぐさまカマンを後退させ噛み砕きの一撃を躱すと、無防備な顔面へ向けロケットランチャーと三銃身マシンガンを連射する。
「落ちろ、落ちろ、落ちろ!」
残弾無視の一斉射。
ここで決めるとばかりに翼下に残った誘導ミサイルと対物ライフルも連射する。
が、あまりに連射しすぎたせいで爆煙で視界が奪われる形となり、轟竜の動きが把握できなくなってしまった。
「ヤバい、撃ち過ぎて煙が……きゃあっ!」
さすがにこれは危険と判断。
すぐさま後退しようとしたところに、轟竜の背面が煙の中からいきなり出現、猛烈な勢いで迫ってきたのだ。
轟竜が繰り出したのは何の事はない、ただの体当たり。
本来は射程が短く空のアスカには当たるはずのない攻撃だが、フランのフォローの為高度を下げていた事、一斉射による煙で視界不良となっていた事が災いし、対処が遅れてしまった。
回避が間に合わないと察したアスカは、咄嗟に対物ライフルを盾代わりに防御。
しかし、そこは軽量であるフライトアーマーと特撮怪獣クラスの大きさを持つ轟竜。
重量差は歴然であり、背面体当たりを受けたアスカは安定飛行から一転、空へと弾き飛ばされる。
「いっ……た……!!」
『追撃、来ます』
「なんとおぉーーーっ!」
空へ飛ばされ、姿勢制御も出来ず無防備になったアスカへ襲い掛かる追撃。
轟竜の十八番、回し尻尾だ。
アイビスの警告のおかげで被弾までほんのわずかな時間を得たアスカは渾身の力でフライトユニット、カマンのローターを操作。
被弾が避けられない為、一撃死だけは免れようと不安定ながら姿勢制御を行った。
「こ、これで……きゃああぁぁぁっ!!」
『フライトユニット被弾、大破。右ローター脱落、制御不能。衝撃に備えてください』
装甲の薄いフライトアーマー。
轟竜の強烈な一撃を胴体に食らえばそれだけで一撃死は免れない。
咄嗟に行った姿勢制御の甲斐あって胴体へのダメージは抑えられたが、クッション代わりにしたフライトユニットが大破。
ハードポイントを増設した翼とフライトユニットの右半分が砕け散り、接続を失った右ローターが宙を舞う。
残りHPは2割を切っている上に、フライトユニットの半分を失った事で完全に制御不能となったアスカ。
轟竜の一撃には耐えたが、このままでは地面との激突で死亡は免れない。
「ごめん皆、私もう無理!」
《いや、まだだ》
「えっアルバ!? きゃっ!」
墜落死を覚悟したアスカだったが、通信からアルバの声が聞こえたと思うと同時に、アルバがこちらへ向けスラスターを吹かし飛んできたのだ。
一体何を? と不思議に思ったが、アルバは上手く進路上に位置すると、墜落するアスカをキャッチ。
反動でアスカもろとも落下するが、そこからスラスターを全開にし減速。
落下ダメージを負うことなく着地した。
「アルバごめん、助かった……」
「いや、礼を言うのはこっちだ。おかげで態勢を立て直せた」
「アスカさん、大丈夫ですか!? 今回復します!」
見れば、アルバ以外の近接メンバーは回復を終え、轟竜への攻撃を再開。
フランも安全位置まで離脱しており、エグゾアーマーの冷却も終了しているようだ。
「その損傷具合では戦闘は難しいが、まぁ気にするな。ここまでくれば負けはない。メラーナ、頼んだ」
「はい!」
アスカ救護の為に駆け付けたメラーナにこの場を託し、アルバも攻勢に参加する。
「アスカさん危なかったですね、もう駄目かと思いました」
「うん、私も絶対墜落すると思った。アルバに感謝だね」
轟竜との激しい戦闘は続いているが、飛行できなくなったアスカはこの時点で戦闘はほぼ終了。
他のフライトアーマーを装備することは出来るが、ピエリスとエルジアエを持ってきていない為攻撃する手段がほとんどないのだ。
むしろ、遠距離からミサイルやロケットランチャーを撃ったほうが支援になるだろう。
アスカは隙を見つつロビンが居る狙撃位置まで撤退。
目立つフライトアーマー装備で隠蔽射撃をおこなうロビンの傍へは行けない為、少し離れた位置から対物ライフルによる支援を行う。
轟竜も再度範囲攻撃レクイエムを放ってくるが、距離さえとれば問題なしと被害は最小限で抑えられた。
……そして。
《よし、動きを止めたぞ!》
《ほんっとめんどくさかトカゲばい!》
《猫んお嬢、任せた!》
《おっしゃあ、これで終わりだっ【ペネトレイションレイ】!》
「グギャアアアァァァァ……!」
長時間の戦闘でリキャストの終った【ペネトレイションレイ】の一撃を叩き込むフラン。
完全にオーバーキルとなる一撃を浴びた轟竜のHPバーは見事に砕け散り、激しい地響きと共に力なく倒れ込む。
<轟竜を倒しました>
<5670の経験値を入手しました>
<轟竜【難易度エキスパート】初回討伐報酬轟雷珠を入手しました>
<轟竜の硬鱗を3つ入手しました>
<轟竜の鋭牙を4つ入手しました>
<轟竜の魔力片を入手しました>
<魔石・大を2つ入手しました>
光の粒子となって消えてゆく轟竜の体。
そしてアスカの視界には轟竜討伐報酬のログが一斉に表示された。
「うわ、こんなに報酬あるんだね」
『討伐イベントですので、専用ドロップが多く設定されています』
なおこの報酬、難易度ごとに違っており、初回討伐報酬もそれぞれ用意されている。
当然イベント期間中でしか入手できない物であり、これを用いた武器防具、エグゾアーマーなども存在する。
「ふぅ、何とかなったわね」
「お疲れさまでした、ロビンさん」
「お疲れ様アスカちゃん。ボロボロね」
「生きてただけ儲けものです!」
満身創痍のアスカを見て困り顔のロビン。
対するアスカは笑顔満点のドヤ顔だ。
「あっ、いたいた。ねーちゃん、てっしゅーするぞー!」
「ごめんよアスカ、さっきはありがとねぃ。命拾いしたさぁ」
「フランさんは無茶しすぎばい!」
「護衛もなしに突出したらああなるに決まってます。吶喊するのはカルブだけで十分ですよ」
「にゃはは、次は気を付けるよぉ」
轟竜討伐を終え、散開していた小隊、中隊のメンバーも次々に合流。
お互いのフォローの甲斐もあり、一人もかけることなく戦闘を終える事が出来た。
激戦の労を労わりながら近くに係留していたアームドビーストまで移動。
あとは開拓村まで戻り討伐終了の報告を行うだけだ。
そんなビースト達への移動の中、アスカは先ほど助けてくれたアルバへと駈け寄る。
「アルバ、さっきはありがとう」
「チームとしての出来る事をしただけだ、気にするな」
「ふふっ、そうだね」
あの場面、もしアスカがそのまま墜落死していても轟竜との戦闘は問題なく勝利できていただろう。
むしろアスカを無理に助けようとして失敗、二人とも死亡する確率も低くなかった。
ゲーマーとしては非効率極まる行為であり、ゲーム玄人であるアルバからしたら不可解とも取れるアクション。
だが、お礼を言われたアルバの表情は彼の言葉とは違い、どこか嬉しそうなものだった。
アスカもそんな不器用なアルバを見てついクスクスと笑ってしまう。
そうこうしているうちにアームドビーストの場所までもどり、移動を開始。
アスカは大破したカマンからトゥプクスアラに変更、上空と周辺警戒に当たる。
もっとも、来た時同様これといった戦闘もなく開拓村に帰還。
レンタルしていたアームドビーストを獣舎に返却し、ランナー協会でクエスト報酬を受領した。
「これでクエスト終了だな! これからどうする?」
「カルブ、さすがにそろそろログアウトしないと」
「そうよ。リアルの方はもう夕方だし、あんた宿題まだでしょう?」
「んなもん、寝る前にチャチャッとやればいいじゃん」
「にゃはは~それは全問まちがえるやつだにぃ」
「うちらはもう少しやってくるっちゃん」
「別のボスのエキスパートに挑戦じゃ」
「腕ん鳴るばい」
「ふむ……ならば俺も参加していいか?」
「もちろん! アルバさんは頼りになるけん、大歓迎ばい」
「ん~私はおいとまするよぉ。この素材から何が作れるのか調べたいからねぃ」
中隊はここで解散となり、あとは各々自由行動。
メラーナ達は時間が遅くなりつつあるという事もありゲームを終了。
アルバを含むホロ達ナインステイツの面々は轟竜以外のミニイベントボス討伐に挑むようで、早くもログインしているメンバーに声をかけ始めている。
フランは素材入手によりアンロックされた制作物を確かめるべくクラン本部に戻るとの事。
そしてアスカは……。
「アスカちゃん、このあとちょっと時間いいかしら?」
「ロビンさん? 少しくらいなら大丈夫ですよ」
メラーナ達同様ログアウトしようかと思っていたのだが、ロビンに声をかけられた。
どうやら相談したいことがあるらしい。
場所はいつものダイクのエグゾアーマーショップでとの事なので、皆とはここでお別れ。
全員に簡単な挨拶を行った後、ポータルからミッドガルへ移動したのであった。
フラグが建ったような気がしますが、そんなことはありません。
たくさんのいいね、感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりランドルフから発艦してしまいそうです!
茜はる狼様にPVコミックを描いていただきました!
強敵相手にワクワクするアスカの表情をお楽しみください!
https://twitter.com/fio_alnado/status/1496327705599840256




