11 捜索
「それじゃあ、何から始める?」
「まずはミニイベントボスを見つけるところからですね」
「あ、徘徊してるんだっけ。……この広いマップを?」
クエストを受諾し、開拓村の外れまで来たアスカ一行。
周囲では同じくミニイベントボス討伐クエストを受諾したランナー達が颯爽と探索に繰り出している。
ナインステイツはこの広大フィールドがなダンジョンそのものであり、ミニイベントボスはポップ後自由気ままに動き回る性質だ。
問題はその位置がマップに表示されない為、ランナー自らが動き回り捜索、発見する必要がある。
徒歩で捜索となると気が滅入りそうになるが、そこはエグゾアーマー。
ただ歩くだけでもそこそこの速度が出るのに加え、脚部に装輪やホバーのカスタマイズやさらに速度の出るアームドビーストという手もある。
極めて広いマップだが、見つけること自体はそう難しくはないのだ。
さらに、メンバーにアスカがいるとなると話はさらに簡単なものになる。
「ま、見つけるだけなら問題ないか」
「索敵はねーちゃんの十八番だもんな!」
先のイベント、味方の攻撃を支援する事で得られるアシストポイントランキングにおいて2位にトリプルスコアという成績をたたき出したアスカなのだ。
空からの捜索、索敵において右に出る者はいない。
「とはいえ捜索範囲が広いから、まずはポラリスだね。アイビス、ポラリスに索敵装備でお願い」
『了解しました』
「じゃあ、まずは私が飛んで索敵するから、メラーナ達は地上で待っててね」
「いえ、今回は私達もお手伝いします!」
「えっ?」
「僕たちもアスカお姉さんに任せてばかりじゃいられませんので」
「しっかり練習してきたんだぜ!」
そう言ってメラーナ達はエグゾアーマー装着可能エリアまで進み魔法陣を出現させる。
満面の笑み、ドヤ顔まで交えてメラーナ達が装着したエグゾアーマーを見て、アスカは驚きを隠すことが出来なかった。
アスカをいつまでも地上から見上げるのは嫌だと、こっそり死にの物狂いで彼女たちが練習していたそれは……。
「フライトアーマー!」
「はい、バッチリ練習してきました!」
「戦闘は無理ですけど、索敵位なら僕たちも出来ます」
「もうねーちゃんばっかに良いかっこはさせないぜ!」
もはやフライトアーマーの代表とも言えるTierⅡ翡翠だったのだ。
それもアスカをお手本に脚や肩に増槽を身に着け、主翼下に観測ポッドを装備するという偵察仕様。
「すごいよ! いつの間に!?」
「アスカさんを驚かせようと思って練習してたんです!」
「ねーちゃんすげぇよ、これで空戦とかやってんだもん」
「僕たちも何回死んだか分からなくなりました」
大事なフレンドであるメラーナ達が空を飛べるようになったと大はしゃぎのアスカ。
喜びを隠そうともしないアスカの反応にメラーナ達も満足顔だ。
元々はカルブが「俺もねーちゃんみたいにかっこよく飛びたい!」と言い出したのがきっかけだったが、そこは心折設計フライトアーマー。
他のランナー達同様転倒、激突、落下、墜落を幾度も繰り返し、ようやく滑空を含めた飛行が様になって来たところだった。
さすがに空戦は無理だが、空を飛んで索敵、偵察するのには問題ないと、こうして偵察装備を用意。
メラーナ達もアスカに頼ってばかりではなく、共にありたいと頑張っていたのだ。
そう言った経緯を照れくさそうに話すメラーナ達。
もちろん、アスカは嬉しくて笑顔満点だ。
「ふふっ、皆で探せばミニイベントボスもすぐ見つかるね!」
「はい、任せてください!」
「見つけたら小隊通信で連絡を」
「お前ら、俺が行くまで抜け駆けするなよ!」
メラーナ達も飛べるようになったとはいえ、アスカの飛行技術には遠く及ばない。
相談した結果、アスカが全エリアの半分、メラーナ達3人がもう半分を探索することで決定。
小隊メンバーという事でアスカ所有の品質AのMPポーションも3人に分け与え、飛行可能時間を大幅に向上。
見つけたら手を出さず、まずは皆に連絡、集合するという事も決め、颯爽と離陸を開始。
「お~、皆見事な離陸だ! 頑張って練習したんだね」
『皆アスカと同じ空を飛びたいと頑張ったのでしょう』
「うん、なんだか嬉しくなっちゃう」
カルブ達との最初の邂逅からは想像もできない光景に、ついつい感極まってしまう。
が、すぐに首を振り、そんなことしている場合ではないと離陸を開始。
レシプロの翡翠とは違う重いターボプロップの作動音を響かせながら大空へと舞い上がる。
他3人がそれぞれ東と南へ別れて行く中、アスカは加速しながら西へ向かう。
開拓村、ホクトベイがある場所は福岡県で言えば北西に位置している。
その為アスカが担当している東側の探索範囲がとてつもなく広く、逆に西と南はそれほど広くはないのだ。
「よし、アイビス、センサーブレードアクティブ! ネズミ一匹逃さないでね!」
『了解しました』
地上に対し広範囲の索敵が出来るロビン特注センサーブレードを起動。
すぐさまレーダーに敵性反応が表示されてゆく。
「たくさん居るね。アイビス、どう見分けたら良い?」
『ミニイベントボスは通常エネミーより強い反応が出ます。エネミーネームもすぐに表示されるので、見落とすことはないと思われます』
「了解。ならしばらくはこのまま飛んでいればいいんだね!」
ここからは敵を見つけるまでアスカ得意のエコ飛行。
十分に速度を得たところでエンジンストップ。
滑空飛行に移行し、高度と速度が落ちたところで再度エンジンスタート。
失った高度と速度を取り戻す。
現実世界では再始動失敗、リスタートまでの時間がかかるなど安全面の理由から絶対に行われない事だが、ゲームの世界では問題にならない。
一連の動きを体で覚えているアスカはこのめんどくさいプロセスを気にすることなく、ナインステイツの大空を満喫する。
「ふむふむ、イベントの時はここが境界だったけど、問題なく進めるね!」
『境界は拡大し、どこまでも続いているように見えますが、マップ限界の壁は存在します。注意してください』
「おっけー、アイビス!」
最初は海岸線に沿って飛行。
最東端の海岸にたどり着いたところで旋回、ホクトベイへ舵を取る。
そしてホクトベイ上空までたどり着いたところで再度Uターン。
イベントでも行った広範囲索敵の為のジグザグ飛行だ。
これを何度か繰り返し、東側半分の偵察を完了。
しかし、ミニイベントボスの反応はなく、アスカはただただ遊覧飛行を楽しむのみ。
あまりに平和すぎあくびをしつつ偵察を続けていると、小隊通信のコールが鳴動した。
「もしもし、ラゴ?」
《アスカお姉さん、見つけました、ミニイベントボスです》
「おぉ、やったね!」
《メラーナとカルブもこっちに向かってます。アスカお姉さんもこっちにお願いします》
「分かった、超特急で行くよ!」
それは待ちに待ったミニイベントボス発見の報だった。
マップを見るとラゴが担当していた南西の平地に敵アイコンが出現している。
おそらくこれがミニイベントボスなのだろう。
ボスの位置を確認したアスカは索敵を終了。
ポラリスのエンジンを始動させ急上昇させる。
そこでエグゾアーマーを解除。
アスカの足元に魔法陣が出現し、フライトアーマーポラリスが透過率を上げ消えて行く。
それに伴い揚力も消失。
アスカはスカイダイビングの体勢で大地へ向け落下を開始する。
『エグゾアーマー、解除完了』
「よし、エグゾアーマー彩光、装着!」
パラシュート無しのスカイダイビングにも顔色一つ変えず、冷静に対処するアスカ。
ポラリスの解除シークエンスが終了すると同時に、新たなエグゾアーマーの装着を叫ぶ。
先ほどと同じように足元に魔法陣が出現。
エグゾアーマーのシルエットが現れ、実体化してゆく。
アスカが選択したのは現状で最高速度が出るフライトアーマーTierⅣ彩光だ。
実体化して行くのを確認したアスカは姿勢をスカイダイビングから頭を下に向ける急降下姿勢へ。
これにより降下速度が一気に上がってしまうが、実体化してゆく彩光の主翼が急降下の風を受け揚力が発生。
同時にターボジェットエンジンも作動させ、さらに速度を稼ぐ。
速度も揚力も十分に稼いだところでピッチアップ。
進路をミニイベントボスがいる南東の海岸線へ向け、ポラリスとは比較にならない速度で急行する。
「ラゴの位置は……あそこか。カルブもメラーナももうついてるね」
彩光の速度であれば、マップ東端から西端にいたラゴの位置までは10分足らずで到着できた。
視界にはラゴを示すアイコンが表示され、傍にはメラーナ、カルブの名前も確認できる。
ラゴも皆が着陸できるよう開けた場所で待ってくれていたため、アスカも皆がいる場所の近くに着陸。
タキシングでそのまま三人の傍へと駈け寄る。
「おまたせ! 皆早いね!」
「いやねーちゃんの方が早すぎだろ」
「私達もついさっき到着したところなんですよ?」
「さすがTierⅣトップの速度を持つ彩光ですね」
先ほどまでフライトアーマーTierⅡ翡翠で索敵を行っていた三人だが、今はもう戦闘用エグゾアーマーに変更している。
メラーナは引き続きメディックアーマーだが、新規開発したTierⅢ。
ラゴは鎧武者仕様ではなく、エグゾアーマーツリーにあるTierⅢストライカーアーマー。
カルブもイベントで使用していたアサルトアーマーツリーのTierⅢの物。
全員が順当にアップデートし、各部にそれぞれカスタマイズを施し戦闘能力を大きく向上させているのが見て取れた。
「皆準備万端だね。それで、ボスは?」
「あそこです」
「どれどれ……って、あれなの!?」
メラーナ達が身に着ける見慣れない装備も気になるが、いまはイベントボスが優先。
発見者であるラゴにその位置を教えてもらい、視線を向けた先にいたは……。
身長約6m、全身はごつごつした黒い鱗で覆われ、胴体並みに太い足で二足歩行。
尾っぽは自身の身長以上に長く、腕は逆に体に対しかなりの小ささ。
頭部も足、胴体に比べやや小さく、目の位置も分かりにくい。
そしてこのボスの最大の特徴は背中。
ごつごつとした突起物が縦三列で生えており、赤黒く光っているのだ。
その風貌は日本を代表する特撮怪獣に酷似している。
「……あれ、いろいろと大丈夫なの?」
「……たぶん」
「一応版権持ってる会社が協賛にいるので、セーフだと思います」
「すげーだろ。あれとマジでやり合えるってネットじゃ大騒ぎになったんだぜ」
確かに、映画で何度も見た巨大怪獣と実際に戦えるとあれば沸き立つのも分からないではない。
事実、カルブとラゴは居ても立ってもいられなさそうにそわそわしている。
「まぁ、倒すことには変わらないものね」
「アスカさんはエグゾアーマーどうします? 彩光のまま戦いますか?」
「ううん、皆と戦うならこっち!」
メラーナの問いに笑顔でそう答え、身に着けていた彩光を解除。
再度エグゾアーマー装着で身に着けたのは、ターボシャフトエンジンを持つ回転翼フライトアーマーカマンだ。
「うお、すげー、ヘリだ!」
「なるほど、地上支援という事ですね」
「さすがラゴ、物分かりが早いね!」
フライトアーマーの欠点の一つに『地上の味方と歩調が合わせにくい』と言う物がある。
これは主翼に風を当て揚力を発生させなければ飛行できないフライトアーマーであれば、やむを得ない事だろう。
だが、ターボシャフトエンジンを持つカマンでは話が変わるのだ。
通常のフライトアーマーとは違い、翼そのものを回転させて揚力を得るため常に前に進み続ける必要がない。
さらに前に進まず上昇下降、横移動に回転も可能。
操作難易度と癖は強いが、慣れてしまえば現実世界のヘリコプターと同じ挙動が可能になる。
そこまで出来るようになれば、現実世界同様武器を搭載、地上の味方と歩調を合わせ火力支援を行うという発想に至るのはそう難しい話ではない。
「私はこれで皆を支援するよ!」
「へへっ、ねーちゃんが後ろにいてくれるなら勝ったも同然だな!」
「カルブ先走っちゃ駄目だってば!」
「そうだよカルブ、慎重にいこう」
「んな事言ったって、前情報なんてねーんだし、突っ込むしかないじゃん!」
今にも飛び出しそうになるカルブを何とか抑えようとするも、彼のいう事も一理ある。
ミニイベントは今日が初日。
ボスの情報など公式が事前に公開したわずかな動画のみであり、詳細な能力、技は不明。
出たとこ勝負、臨機応変に対処するしかないのだ。
「……分かった、でも無茶だけはしないでよ? 死んだら戻ってくるまで時間かかるんだから!」
「分かってるって! じゃあ、行くぜ!」
メラーナの忠告に笑顔満点で答えるカルブ。
突撃許可が出たと表情を引き締め、ミニイベントボスに向かい走り出したのだった。
たくさんのいいね、感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりイントレピットから発艦してしまいそうです!
茜はる狼様にPVコミックを描いていただきました!
強敵相手にワクワクするアスカの表情をお楽しみください!
https://twitter.com/fio_alnado/status/1496327705599840256




