20 お友達価格
本日二話目更新です。
服と靴を買い、上機嫌なアスカは足取りも軽くレンガ造りの街を進んでいく。
その行先は先ほど人だかりになっていたフランの露店。
ショップの試着で思ったよりも時間を使ったので、いまならもう人もだいぶはけているはずだ。
「……あれ? 私、何か見られてる?」
そうして歩いている時に感じた視線。
すれ違うランナー達がなにやらアスカの事を見ているのだ。
今までもずっと初期服を着ていたことやフライトアーマーを装着していたことから視線を集めることはあった。
その時の視線は横目で見るどこか冷めたものだったのだが、今集めている視線はどこか違う熱気がこもっている。
「私、何か変? どこもおかしいところないよね?」
一度立ち止まってボタンの掛け違いや髪をいじって髪型を確認してみるが特におかしいところは見当たらない。
結局熱視線を集める原因が分からず、不思議に思いながらもフランのもとへ再び歩き出す。
ちなみにこの熱視線の原因、それはアスカの足。
そう、皆アスカの生足に見とれていたのだ。
アバター製作で大きくいじらなかった部分ではあるが、それでも細くスラっとしながらもラインの整った脚線美をしている。
その美脚を見せつけるかのようなホットパンツとノースリーブのアクティブファッション。
これでは見るなと言う方が無理である。
こうしてアスカはホットパンツの名の示す通り、周りから『ホット』な視線を集めつつ街の中を歩いていった。
ランナーが開く露天市が開かれている通りに戻ってきたアスカ。
先ほど人だかりが出来ていたフランの露店にもう人だかりはなく、売上金の確認でもしているのかメニュー画面を開いて指先で操作しているところだった。
「こんにちは、フラン」
「お、アスカ! 早速来たん、だ……」
フランは声をかけられるまでアスカが近付いていることに気付かなかった様で、アスカに声を掛けられてようやく顔をあげる。
そしてそのままフリーズしてしまった。
「あれ、フラン?」
話をしている相手がいきなりフリーズする。
ここ最近よく見る光景だ。
「あ、ああ、ごめんごめん。服買ったんだねぇ」
「うん。いつまでもあのカッコなのも面白くないから。どう?」
「うんうん、すごくいいと思う。なんというかこう……垢抜けたねぇ」
スラっと伸びた足を見せつけるような形でポーズを決めるアスカ。
それを見たフランも「ホットパンツは破壊力が違うねぃ」と絶賛。
その後しばらく「スカートだとパンティーが……」とか「ホットパンツは難易度高いなぁ」やらのファッション談義が行われ、お互いたっぷりと語り合った後ようやくアスカが本題に入る。
「それでフラン、さっき人がかなり集まってたけど、MPポーション?」
「うん。アスカのおかげ。ボロ儲けだよぉ」
満面の笑顔を見せるフラン。
聞けば、掲示板やチャットを通じて広がったフランのMPポーションは大盛況。
その希少性故初めから一人当たりの個数を制限して売り始めたのだが、気が付いた時には残っていなかったという。
大盛況なのは大変結構だが、アスカには懸念事項が一つ。
「私の分は残ってる?」
「もちろん!」
フランはにこやかに笑ってインベントリからMPポーションを取り出す。
よかった、と胸をなでおろすアスカ。こちらが買う分はちゃんと取り置きしてくれていたらしい。
「約束通り品質Dを五個で良い?」
「うん、約束だからね」
品質DのMPポーションを五個。
これは昨日ログアウト寸前にフランからのチャットで打診された数だ。
アスカの魔力草を買い取ったとは言え、すべてをアスカに販売するわけにはいかない。
現状の最高品質である品質DのMPポーション五個で手を打ってほしいと打診されたのだ。
アスカはあれだけの数を卸したのだからもうちょっと分けてくれても、とも思ったが、破格の価格で買い取ってもらえたし、後には品質Aの魔力草栽培予定もある。
それならここでごねるよりかは、円満な関係を維持した方がいろいろと力になってくれるはず。
そう結論付けたアスカは品質DのMPポーション五個で手を打ったのだ。
「一個辺りいくらになるの?」
「ふふふ、聞いて驚け! なんと、販売価格一つ一〇〇〇ジルの所を半額の五〇〇ジルで売っちゃうよ!」
「半額!」
五本の指を広げてアスカに突き出すフラン。
そしてアスカも『半額』の言葉に思わず反応してしまう。
いつの世も人は大幅割引に弱いのだ。
昨日の品質D魔力草は一つ三〇〇ジルでフランに卸しているが、アスカは採取しただけで元手はゼロ。実質二〇〇ジルで買う事と同義になる。
販売価格の一〇〇〇ジルから考えると驚愕の八割り引き。
「フランすごい! フランちゃん最高!」
「ふははは! もっと敬え! 崇め奉れぃ!」
感激のあまりフランに抱きつくアスカに、ドヤ顔を決めまくるフラン。
はたから見ると何とも百合百合しい光景だ。
数には不満だが、特別価格には大満足のアスカはその場でフランとの売買を成立させる。
そしてインベントリに入ったMPポーションを確認。
[アイテム]MPポーション 品質D
魔力を含んだ薬草をすり潰し、成分を抽出したMP回復薬
MPを100回復する
現在のアスカのMP最高値は四七八で飛行時間に換算すると七分と五八秒。貰った五つのMPポーションをすべて使えば一五分一八秒。アスカでなくとも笑みがこぼれる数字だろう。
次は採取してきた魔力草の納品。
「今日取れたのはこれだけだよ」
アスカはインベントリ画面からトレードを開くと、今日採取してきた魔力草をすべて詰め込む。
「ありがとう、助かるよぉ~。あ、でもちょっと少ない?」
フランは昨日自分が採取した分とアスカが採取した分の合計数を知っている。
それからすると今アスカが提示した数は二割ほど少ない。
「途中でオークに妨害されちゃって。私の装備じゃ歯が立たなかったの」
「あ~オークかぁ、それは仕方ないねぇ」
フランは数をもう一度確認すると目の前に表示されたウィンドウを操作し、アスカとのトレードを成立させる。
このトレードで得た収入は二〇三四〇ジル。昨日と同レベルの大金だ。
「アスカ、今日はこれからどうするの?」
「武器を買おうと思って。オークくらいは倒せるようになりたいし」
「アスカ、オークって結構強敵なんだよ?」
「そうなの?」
オークは鎧を着こんでいるため魔法、物理防御力共に高い。
特に対物理防御力は非常に高く、初期装備物理属性の銃や剣では歯が立たない。
その為レイ装備か魔法攻撃で立ち向かう事になるのだが、あのスーパーアーマー付きの突撃が厄介で、機動力の低い後衛のマジックやレイライフル装備のスナイパーを轢き殺すのだ。
レイサーベルを使った接近戦もハルバードの間合いの中に飛び込めるだけの度胸と攻撃をかいくぐるランナースキルが必要になる。
挙句、ハルバードを振れない至近距離まで飛び込むと今度は殴る、蹴る、タックルなどの格闘攻撃を仕掛けてくるのだ。
この重戦車の様な能力をもったオークはβ時代多くのランナーを轢き殺し、両断し、殴り殺し、ランナー達の屍で山を築き上げたという。
プレイヤースキルが未熟なランナーを屠ってゆく姿についた二つ名が初心者キラー。
弱点は遠距離魔法攻撃を持っていないこと、突進以外では動きが遅いこと、そして基本的に一体でポップすること。
対処策は正面戦闘をしない、一体に対し二~三人であたり、近接攻撃は常に死角から。
同格装備のタイマンで勝てたら一人前。
それがBlue Planet Onlineにおけるオークなのだ。
「という訳であれに勝つのは結構大変だよ?」
「そうだったんだ。オークキングには勝てたからただのオークは余裕だと思ってたんだけど……」
「昨日勝てたのは奇跡に近いよぉ。もう一度戦っても勝てるかどうか」
むむむ、と顔をしかめるアスカ。魔力草の安定確保のためにはあそこでポップするオークを倒せるようにならないといけない。
それも一対一で。
そんなアスカをなだめるようにフランは「はい」と言って何かのボールを差し出してきた。
「魔力草の採取はアスカに任せるしかないから、せめてもの餞別だよぉ」
「これは?」
「魔法属性の手榴弾、マジックグレネード。致命傷にはならないけど、足止めやかく乱には使えると思うよぉ」
「へぇ、これグレネードなんだ。ありがとうフラン、使わせてもらうね」
フランから計五つのマジックグレネードを貰い、インベントリに仕舞いこむ。
フランはこのまましばらく露店を続けて、その後はMPポーションを作るという事なので今日はこれでお別れだ。
また明日ね、と軽くあいさつを交わした後NPCのダイクが営むアーマーショップへ向かった。
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大通りにあり、目立つ看板を掲げているショップに入ると、ダイクが笑いながら迎えてくれた。
連日のように来てくれるアスカを常連さんとして歓迎してくれているようだ。
今日はどうしたんだ? と聞いてくるダイクにアスカは事情を説明。
今の装備ではオークを相手に出来ない。それに対抗できる何かいい武器はないか、と。
「なるほどな。嬢ちゃんの装備じゃオークに攻撃が通じないのも仕方ねぇ。奴を倒すにはレイ装備だ」
「何かいいのはある?」
「レイ装備、つまるとこ魔法属性の武器なら一通り揃ってるぜ。サブマシンガン、ライフル、ソード。レイランチャーなんて言うのもあるな」
「レイランチャー?」
「魔法属性のバズーカだ。ちょっと待ってろ」
一度店の奥に戻っていったダイク大きな筒状の火器を持って戻ってきた。その形状はまさに無反動砲そのものだ。
[武器]ラロッカ TierⅡ
種別:レイランチャー
火力:1030
火力に特化したビームランチャー。
1発毎に50MPを消費する。クールタイム10秒。
「わぁ、すごい火力!」
「だがちょっと癖が強くてな」
アスカがまず目を付けたのが火力だ。
一〇三〇と言う火力数値はオークキングが使っていた猪王の斧槍一五三〇に次ぐ高い数値。
何よりすごいのはその数値をTierⅡで実現している事。だが、その火力と引き換えに燃費が劣悪でありクールタイムもあるのだという。
「アイビス、この武器持って飛行できる?」
『飛行は可能ですが、重量過多になります』
「むぅ……」
火力と見た目が気に入ったアスカだが、重量過多ではどうしようもない。
その後しばらくダイクとあれこれ話し込んだところでアイビスが話しかけてきた。
『アスカ、猪王の斧槍を店主に。斧槍から銃火器を製作できるはずです』
「あ、そっか!」
アスカははっと思い出すとインベントリから斧槍を取り出し、カウンターテーブルに立てかけた。
「ダイクさん、これを銃に出来ませんか?」
「こいつは?」
「オークキングが持っていたハルバードです」
「オークキングの……ちょっと見せてくれ」
カウンターから店内に移動し、斧槍を手に取ったダイクの目の色が変わってゆく。
「これはすごいな。レイブレードまで備えてるのか……嬢ちゃん、このままで使わないのか?」
「私には重すぎて使えないの。だから、これを分解してその素材から銃を作ってほしいんだ」
「なるほど。こいつからならかなり高性能な武器が作れる。魔法属性の銃で良いんだな」
「はい。それでお願いします」
アスカは目に力を籠め、ダイクの問いに答えるのであった。
レイランチャー。
ガ〇ダムF9〇のアレ
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