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6 大丈夫、リコリス1の飛行教室だよ 後編


 レインを含めた参加者全員がMP切れで墜落したのを見届けたアスカはファルク達がいる訓練会場へ降下を開始した。


「い、今更だけど本当によかったのかな、これ……」

『常識から逸脱した訓練であるとは思います』

「だ、だよね。だからやめた方が良いって言ったのに」

『アスカはこの訓練法について忠告を行っています。気にする事ではないでしょう』

「う~ん、そうなのかなぁ……」


 合同訓練を開催するにあたって事前に行われた打ち合わせ。

 訓練内容を決定する際ファルク達が元にしたのはアスカのこれまでのプレイ内容だ。


 アスカはこれまでフライトアーマー特化のプレイをしている為他ランナー達のそれとは大きく異なる。

 逆に言えばアスカのプレイ内容はゲーム初心者がひと月足らずでエースオブエースにまで上り詰めるほどの最上級訓練とも言えるのだ。


 ファルク達にゲームを開始してからの内容を聞かれ、アスカはあっけらかんとして答えた、が。

 その中身は『プレイを開始して24時間以内に10回以上高高度からMP切れによる墜落死』『墜落覚悟でアクロバット飛行』『墜落覚悟でフライトアーマーの限界に挑戦』『TierⅠ乙式三型でオークキングと戦闘』『TierⅡ翡翠でハイオーガと戦闘』など、明らかに頭のネジが数本抜けているとしか思えないものばかり。


 あまりの内容にファルクを含め他クラン幹部、ベテラン勢も顔を青くさせ、天を仰ぐ。

 だが、それほどの度胸と向上心、積極性がなければこの大空でエースになることなど不可能という事だ。


 さらに、この合同訓練に各クランが求めるのは終了後エース部隊にも引けをとらない技量を持つランナーの育成。

 生半可な内容では意味がない。


 助言を求めたグリュプスの飛行隊メンバー、ヴァイパー、ヘイロー両チームからの回答も『高所からの落下に耐えられないような精神じゃイベントで空戦は無理』と言う物。

 これが決め手となり合同訓練初日の内容は『精神的墜落耐性獲得』に充てられることになった。


 アスカは当初これに難色を示す。

 高所耐性がなければ飛ぶのは難しいというのは同意するが、わざわざ高高度まで昇らせてから墜落させる必要はあるのか?

 そう考えファルク達に問うも「責任はこちらで持つ」「参加者には悪いがふるいに掛けさせてもらう」「本気の訓練だと自覚してもらわないと困る」などの意見から押し切られる形となったのだ。



「下に降りたらレインに謝らなきゃ」


 気重になりながらも降下を続け、目の前に会場が見えてきた。

 すると。


「あれ、なんか人だかりになってる?」


 おそらくは墜落した参加者達がミッドガルでリスポーンして戻ってきたのだと思われるが、どうも様子がおかしい。

 参加者がいるはずの待機場所ではなく、訓練を開催した各クランの幹部がいる主催者席付近に集まっているのだ。


『おそらく、訓練内容に納得できない参加者達が詰めかけているのでしょう』

「やっぱこうなるか……」


 溜息を吐きながらも近くに着陸。

 エグゾアーマーを解除して騒ぎになっている主催者席へと向かう。


 そこでは案の定、いきなり墜落させられたことに憤怒する参加者達がファルクら各クラン幹部にはげしく詰め寄っていた。


「なんだよこの訓練! いきなり墜落させるなんてどういう事だ!」

「こんなの訓練じゃない、拷問だ!」

「私達をエースにしてくれるんじゃないんですか!?」

「訓練内容になにかご不満でも?」

「不満しかないだろうこんなもの!」


 完全に頭に血が上ってしまっている参加者達に対応するファルクらクラン幹部。

 もっとも、彼らからしてもこの騒ぎは想定内。


「皆さんの言いたいことは分かりました。ではこの訓練について再度説明しないといけませんね」


 ファルクは参加者達に怒号を言いたいだけ言わせ、少し落ち着くのを待ってから彼らに説明するべく、そばにいたヴァイパー1、アルディドへと視線を向ける。

 アイコンタクトを受け取ったアルディドは一度小さく頷くと満を持して参加者達の前へ出ると、説明を開始した。


「あんたら、リコリス1を目指してるんだろう?」

「そうだ!」

「当り前じゃないか!」

「目指してなかったら飛行訓練なんかに参加していません!」


 アルディドの問いに、強い視線でもって答える参加者達。

 だが、次に続く言葉で目に迷いが生じる。


「じゃあ墜落しろ。リコリス1がたどった道だ。事前に告知した訓練内容に記載してあっただろ?」

「え……は?」

「ど、どういうことですか?」

「丁度そこに本人がいるから聞いてみようじゃないか。いいか、リコリス1?」

「ひゃえっ!? な、なんでしょう?」


 いきなり声を掛けられ驚き身構えてしまうが、アスカの答えにくい質問が来るのではないかという予想に反し、アルディドの問いは至極簡単なものだった。


「プレイ開始して最初の一週間で何回墜落した?」

「最初? う~ん、しっかりと覚えてはいないけど……30は超えてるはず」

「さ……」

「嘘でしょう……」

「ひえっ……」


 飄々と答えたとんでもない数字に参加者一同ドン引きである。

 

「リコリス1だけじゃない。俺もヴァイパー2、ヘイローチームも飛行隊メンバーも幾度となく墜落している」

「で、でもだからと言ってわざと墜落する必要はないでしょう!」

「そうです! 何も高高度から始めなくても、低い高度から少しづつ練習すれば……!」


 皆が墜落と共に腕を上げていると聞いても、納得できない参加者達。

 確かに、低高度での練習でも技量は上がってゆくだろう。

 だが、それでは習熟までかなりの時間が必要になる上、高高度に慣れるという事ではない。


 なにより、高高度での墜落訓練には重要な意味があるのだ。

 その事に気付かない参加者達にアルディドは一度ため息をつき、再度視線を参加者達に向け、言い放つ。


「なぁ、撃墜されるときってどんな時だ?」

「は?」

「いきなりなんですか?」

「話をすげ替えないでください!」

「別に変えちゃいないさ。どういう時だ?」

「そりゃあ……敵から攻撃をもらった時でしょう?」


 責め立てていたアルディドからいきかり質問をされ動揺する参加者達。

 そんな中どこからかポツリと放たれた回答に、アルディドは首を縦に振る。


「そうだ。攻撃を受け、いきなり操縦不能になり真っ逆さまに墜落する。その時パニックにならずにいられるか?」

「うっ……」

「そ……それは」


 墜落耐性訓練最大の目的は攻撃等を受け錐揉み落下になった際、パニックを起こさないようにする事だ。

 実際、先日のクラングリュプス飛行隊選抜試験でも墜落時の恐怖から棄権する者が少なからず存在した。

 それだけ墜落耐性、慣れの獲得は重要なのだ。


「緊急時パニックにならず冷静でいられれば、スピンから立て直し復帰することも可能だ」

「で、でも……!」

「こればかりは何度も墜落して慣れるしか方法がない。大空を飛ぶ以上墜落は切り離せないからな」

「ぐ……」


 ここまで説明されれば参加者達も墜落耐性の必要性は理解する。

 だが、理解するのと実際に行うというのは別の話。


「クソッ、やってられるか! 俺は降りるぞ!」

「わざわざ投身自殺するような訓練なんてできません!」

「俺も……無理だ!」


 先ほどまでの威勢は何処へやら。

 少なくない人数が顔を真っ青にさせ、訓練辞退を告げ去って行く。


 アルディド他各クラン幹部は声をかけることなく、一人、また一人と去って行く参加者達を見送るのみ。

 アスカもこればかりは何も言う事が出来ず、見守る事しかできなかった。


 ……そして。


「……残った皆はこのまま参加で良いんだな?」

「……はい」

「怖いけど……エースに、リコリス1の様になるためなら!」

「僕も……やります!」


 全体の六割ほどの参加者がその場に残り、訓練続行を志願する。

 皆恐怖から俯き加減だが、中には顔色一つ変えずピンピンしている者も何名かいた。


 聞けば、なんと彼らは先のクラングリュプス飛行隊選抜試験不合格者だという。

 『蠱毒の空』とまで言われた選抜試験受験者達にとって、墜落など何を今さら。

 リコリス1の教導の下、フライトアーマーの練度を上げ各々のクランで活躍すべくこうして訓練に参加しているのだと言う。


「だ、そうだ。リコリス1」

「えっと……皆さん無理しないでくださいね?」

「はい、この恐怖に打ち勝ってみせます!」

「リコリス1に追いつくには並大抵の訓練じゃ無理なことくらい、最初から分かってたんです」

「まぁ、墜落に慣れなきゃフライトアーマーなんか使えないし」

「これくらいで折れた連中なんか気にせずいきましょう!」


 この恐怖を乗り越えた先にエースの称号があると奮起する参加者達。

 それはアスカの横で震えるレインも同様だった。


「ごめんねレイン、大丈夫?」

「うん。怖いのは怖いけど、アルディドさんのいう事も理解できるの。体一つで空を飛ぶんだから、早いうちに墜落慣れしとくのは大事だと思う」

「レイン……うん、分かった」


 高高度からの落下を想像し、震えながらも目はしっかりと据わっており、アスカへ強い眼差しを向けてくる。

 アスカもレインの強い意志を理解し、頷くと参加者達の前へと躍り出た。


「皆さんの決意、受け取りました! 訓練を再開します!」


 全体通信で高々と叫び、エグゾアーマーを装備する。

 頼りがいのある力強い表情に触発され、参加者達も続けてエグゾアーマーを装備してゆく。


「無理強いはしません。覚悟の決まった方から私に続いて飛び立ってください!」


 アスカは参加者全員の装着を見届ける前にエンジンスタート、大空へと舞い上がる。

 それを見ていた参加者達もリコリス1に続けと次々に離陸してゆく。


《これはゲームこれはゲームこれはゲーム……》

《いくら綺麗でもこれはグラフィックなんだ、死にはしない……!》

《大丈夫だぞお前ら。墜落なんて何回か繰り返してれば慣れる》

《墜落の恐怖から逃げて選抜試験に落ちた俺が通りますよっと》

《訓練から逃げて空を見上げる後悔なんて御免よ!》

《逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ……!》


 皆思い思いの決意を胸に、MPが尽きるまで上昇を続け、先ほど同様、MPが尽きた者から墜落してゆく。


《ああああああああ!》

《はっはぁ! この景色、最高だぜえぇぇ!》

《くぁwせdrftgyふじこlp;@:「」!》

《皆負けるな! 僕ももうすぐ……うわああぁぁぁ!》


 ある者は錐揉みで。

 ある者は一直線に。

 ある者は一瞬だけ滑空し、バランスを崩して落下。

 猛者になるとバランスを取りスカイダイビングの体勢を取って降下。もちろんパラシュートなどない為そのまま地面に激突。


 そんな狂気の沙汰としか思えない自殺行為を10回以上繰り返し、全員の目が完全に何か悟った物になった所で合同飛行訓練初日を終えたのであった。


日間ランキング入り記念として明日は掲示板2話と運営回の3話更新致します。

是非お楽しみに!


たくさんのいいね、感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりエンタープライズから発艦してしまいそうです!


更新再開を記念し、茜はる狼様にPVコミックを描いていただきました!

強敵相手にワクワクするアスカの表情をお楽しみください!

https://twitter.com/fio_alnado/status/1496327705599840256

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― 新着の感想 ―
[一言] >> 墜落の恐怖から(略) ヲイwww >> 逃げちゃ駄目だ 飛びながらの射撃訓練では「目標をセンターに入れてスイッチ」と言うんですね分かりm(狙撃音) >> 全員の目が完全に何か悟…
[気になる点] 実際、撃墜はともかく燃料切れによる墜落って途中で立て直して動力無しで滑空して墜落回避ってこのゲームではできるんですかね? 現実ではかの有名な旅客機が燃料切れのまま飛んで無事、不時着まで…
[一言] 墜落耐性獲得が墜落10回でしたっけ。 まあ最低限の効果でも無いよりはマシって事で、精神面での墜落訓練と合わせてさっさと獲得するに越したことは無いw
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