2 勝敗予想
本日2話更新。
本話は2話目になります。
「それで、どうしてこんな状況になっているのですか?」
「飛行隊の前でやるっつっちまったからな」
「まぁ、掲示板に書き込まれたらこうなるよね」
ヴァイパーチーム対リコリス1の一報を聞いて飛んできたのは、クラングリュプスのクラマスであるファルク。
が、すでにバゼル港はイベント初日の様な混雑具合を見せていた。
「ホットドックにピザ、冷たい飲み物もあるよー!」
「さぁ張った張った、リコリス1対ヴァイパーチーム! イベント最終日アームドビースト競争の負けを取り戻すチャンスだ!」
「ポテトチップスにポップコーン!」
「スコーンに紅茶、クッキーにケーキはいかがー?」
そしてどこからともなく商会クランが現れ、気が付けば屋台が軒を連ねてお祭り状態となっていた。
「う~ん、アスカと一緒に行った航空祭がこんな感じだったな」
「航空祭じゃ展示飛行は見れても空戦は見れないものね」
「いいなぁ、私行った事ないの」
呆気にとられるファルクの横では、レインが飛行隊の女性メンバーと談笑。
アルバやキスカも駆けつけているが、もはや打つ手なしと完全に諦めていた。
「……空戦テストには緘口令を敷くべきだったか?」
「そんな事したってすぐにバレるわよ。フライトアーマーは目立つから」
「遅かれ早かれこうなっていたでしょう。仕方ありませんね」
ファルクはため息をつきながらアルバ、キスカらと移動。
レインたちは屋台を見て回るらしく、屋台が出ている通りへと進んでいく。
レインと一緒にいる飛行隊メンバーも試験テストを受けるが、順番が回ってくるにはまだだいぶ時間がある。
ゲーム故お互いの年齢は分からないが、同じ女の子同士。
普段は色々と気になり飲み食いできない屋台のジャンクフードを思う存分堪能。
会話に花を咲かせながら屋台巡りをしていると、そのうちの一つに見知った顔があるのに気が付いた。
「あれ、フランさん?」
「おやぁ? キミはアスカのご友人レインじゃないかぁ! いらっしゃい、ぜひ買っていってよぉ!」
そう、屋台の主はアスカのフレンドで、以前クランについての話を聞いたフランだった。
彼女の出す店も他のお店同様、食べ物を売る屋台だ。
お好み焼きに焼きそばと言った鉄板ものがメインで、ついでとばかりにたこ焼きのラインナップ。
まさに屋台の上位人気のみを集めた鉄板メニューだ。
「うわぁ、ソースがいい香りだね」
「ゲームだからってあまく見ちゃいけないよぉ、こだわりの特選素材を用いた極上の一品さぁ」
「私、お好み焼きください!」
「じゃあ私は焼きそば!」
「そしたら……私はたこ焼きで」
「ほいさっさ! 毎度あり!」
飛行隊メンバーが鉄板で焼かれたソースの香ばしい匂いに惹かれ、たまらず購入。
レインも続きたこ焼きを購入する。
購入品はそのまま手で持つのも一度インベントリにしまうのも自由。
食べ歩きも場所を見つけて屋台パーティも可能なのだ。
レインたちはソースの香りを満喫すべく、インベントリには仕舞わずに直接手で受け取る。
「で、レインはどっちが勝つと思うかにゃあ?」
「えっ?」
「リコリス1とヴァイパーチームの模擬戦。聞いた限りじゃやっぱり二人で仕掛けるヴァイパーチームの方が有利としている人が多いねぃ」
たこ焼きを受け取り、ソースの香りを堪能していた時にフランから問われた結果予想。
ある程度空戦を知っている者であれば、空においては二人で戦うことができるヴァイパーチームが圧倒的に有利とわかる。
相手は倒されることが前提のMOBではなく、勝ちに来ている人間なのだ。
そんなアスカ不利とされる予想に、レインはクスリと笑いながら答える。
「ふふっ、普通はそう考えるよね。でも、私はアスカが勝つと思うな」
「ほう! 友達贔屓とかじゃなくてかなぁ?」
「もちろん」
「して、その理由は?」
「だって、アスカだもん」
「にゃはは、これは一本取られたのさぁ」
レインの理由になっていないにも関わらず、圧倒的説得力を持つ回答にフランは呆れながらも笑っていた。
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「うわぁ、すげぇ人だな」
「いつの間にかお祭り騒ぎになっちゃってるね」
「アスカお姉さんとヴァイパーチームの模擬戦だもの、こうもなるさ」
「うわー、ウチもフライトアーマーの訓練しとくんやった!」
バゼル港のポータルから現れたのは、アスカのフレンドであるカルブ、メラーナ、ラゴ。
そして先のイベントでは体の倍以上はあろうかという大鎚をエグゾアーマーの機械腕で振り回し活躍した、銀髪に灰色の瞳を持つ小柄な少女ホロ。
彼女たちも掲示板でアスカとヴァイパーチームの模擬戦の話を聞き、これは見なければとバゼル港にはせ参じたのだ。
そんな彼女たちに続けて現れる一団。
「あっ、屋台が出てる!」
「完全にお祭りですね~」
「ホロ、おまんがゆっちょったんはここでよかと?」
「あんPVの人ん空戦が直接見れっど、たのしみやなぁ」
例にもれず不揃いの種族アバターに統一感のない服装だが言動などからメラーナとホロの知り合いだと理解できる。
標準語で話し、メラーナ達に寄っていくのは彼女たちが所属するクラン2983のメンバー。
「リアルの友達とクランを作る」と言っていた通り同じ学校の同級生で作ったクランである。
そして、身バレなど気にしないと言わんばかりに訛りまくった会話をするのがホロが所属するクランナインステイツのメンバー達だ。
先のイベントの舞台となった『ナインステイツ』と同じクラン名が示す通り、九州出身者が集められたクランである。
どちらも人数はそれほど多くなく、小規模のクランである。
その為、メラーナ達とホロが仲介となり、お互いの数の少なさを補うスタンスを取っているのだ。
今回も掲示板でアスカの模擬戦の話を聞きつけ、こうして両クランで時間のある者を集めて観戦に訪れている。
「皆よく見とかないかんばい! リコリス1の空戦はそう見れるもんじゃなかけん」
「いっつも飛んどるんじゃなかとか?」
「最近は空高く昇るようになったけん、地上からじゃ見えんとよ」
アップデートの少し前から、アスカが墜落死に戻りしているのは知れ渡っている。
だが、再度離陸してゆくアスカはブースターをも使用して一気に高高度まで上昇してしまうため他のフライトアーマーでは追いつけず、地上からも雲などに隠れて何をしているのかよくわからない状況が続いているのだ。
そこへ振って湧いた模擬戦の話。
皆が興味を持たない訳がないのである。
「お前らフライトアーマー使いたいって言ってたし、参考になるんじゃね?」
「カルブ、レベルが違い過ぎると参考にならないんだよ」
「それでも模擬戦は見たいよ。俺PVでしか見たことないもん」
「私も! 自由に空を飛ぶ姿、憧れちゃう!」
「PVやと簡単そうばってん、あがん難しかなんて思わんやったばい」
「そうやなあ、ようあげん飛ぶっじゃ」
PVでアスカとフライトアーマーの事を知った新規勢。
だが、プレイ開始後意気揚々とフライトアーマーを使用しようとした所、劣悪な操作性による手荒い歓迎を受けたのだ。
何度も飛ぼうとするが滑走すらままならず、レイン同様転倒、激突、墜落を繰り返した。
その為、彼らもすでにこのゲームにおいてフライトアーマーを自由自在に扱えるのがどういうことなのか身をもって理解している。
「そういやラゴたちはイベントでリコリス1やヴァイパーチームと一緒だったんだろ?」
「あ、そっか! ねぇねぇ、どっちが勝つと思う?」
「おぉ、そげんいうたらホロもやろ! どっちが勝つん?」
リコリス1もヴァイパーチームという名も、PVや掲示板を見た者なら誰もが知る名前になっている。
そんな両者が模擬戦とは言え戦うのだ。
どちらが勝つのか、気にならない者はいない。
「う~ん、どうだろ?」
「アスカお姉さんでも二対一は不利だよね」
「でも、ねーちゃんブービー飛行隊の四匹相手してたぜ?」
「ヴァイパーチームもつよかばってん、リコリス1には敵わんち思うばい!」
お互いに顔を見合わせ、首を傾げながらそう話すメラーナ達。
ヴァイパーチームの腕は確かだが、あのネームドエネミーブービー率いる飛行隊相手に一歩も引かなかったアスカならば、二対一でも十分勝負に持ち込めると予想。
その話を真剣な顔で聞いていたクランメンバー達。
アスカ、リコリス1が勝つのではという予想を聞き、顔を綻ばせる。
「よっしゃ、リコリス1だな、賭けるぞ!」
「ゲーム開始してすぐでお金がないんだ、ここで一発当ててやる!」
「おめら分かっちょっじゃろうな?」
「分かっど。九州男児なら全額一点賭けばい」
「クランの運営資金、ここで稼ぐちゃ」
「ちょ、ちょっとあなた達!?」
「よかけん! リコリス1に全賭けすれば数か月分の活動資金になるばい!」
「ねーちゃんが負けた時の事は考えねーのかよ!」
「そん時はそん時に考えればいいっちゃん」
現実世界であれば20歳以下は賭博禁止だが、リアルマネーの動かないゲームの世界であれば問題はない。
ゲームセンターのメダルゲームよろしく賭けを行う事が出来るのだ。
ブックメーカーを行うのは主に商会クランや情報クランなど資金力がある者たち。
クランごとにあちらこちらにクランメンバーが赴き、露店で投票券を販売している。
2983とナインステイツのクランメンバーは手分けしてアスカの方に高いオッズを付けているブックメーカーから投票券を購入。
呆れるメラーナ達を他所に、模擬戦の開始を今か今かと待ちわびていた。
もちろん、その手には屋台で買ったジャンクフードが握られていたとこは言うまでもないだろう。
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バゼル港東の外れ。
そこにクラングリュプス所属の飛行隊メンバーが集まっていた。
彼らはこれから行われる模擬戦の参加者であり、港にいる本部付けメンバーの離陸指示を待っている。
そんな中、神妙な面持ちで緊張感を漂わせるのはこれからリコリス1と模擬戦を行うヴァイパーチームと、支援を断られたヘイローチームだ。
「それで、どう戦うの?」
「リコリス1相手に小細工は通用しない。真っ向勝負で数的有利を生かす」
「まぁ、そうなるわな」
「僕と兄さん、ヴァイパーチームの四人がかりなら確実だろうけど、二人だと分からないね」
イベント時、地上から空を見上げるだけだったランナー達はヴァイパーチーム有利と見ていた。
イベントでネームドエネミー率いる四匹の蜻蛉相手に戦ったリコリス1だが、所詮はAI操作のMOB。
勝つことに全力で思考を巡らせる事の出来る人間相手には数的不利は覆せないと読んだのだ。
だが、ヴァイパー、ヘイローチームの面々に余裕はない。
「エグゾアーマーは同じTierⅣトゥプクスアラ。だが機体熟練度が桁違いだ」
「リコリス1がトゥプクスアラを開発したのはイベント後、私達と大差ないはずなのだけど……」
「えらい差がついたな」
「さっきの峡谷での飛行は凄すぎるよ」
そう、彼らは見ているのだ。
先ほどガイルド峡谷でリコリス1の飛行を。
コールサイン持ちの彼らであっても真似できない高度と速度で一目散に峡谷を飛びぬけたリコリス1。
こちらも全力で飛んだのにもかかわらず、圧倒的な差をこれでもかと見せつけられたのだ。
使用しているエグゾアーマーが同じな以上、その差は純粋にプレイヤースキル、機体熟練度の差だろう。
それを考慮すれば、二対一という数的有利は彼らにもたらされた唯一の勝機と言える。
「セオリー通り片方にリコリス1が食いついたらもう片方が彼女の背後に付く」
「分かってるわ。でもリコリス1はイベントでブービー飛行隊相手に背後をとられ続けていたし、背後に付いたからって安心したら駄目よ」
「交戦距離にも気を付けろよ。リコリス1の武器は遠・中・近・格、全てに対応しているからな」
「こうして改めて考えると下手なボスよりよっぽど強敵に思えてくるね、兄さん」
「ほんと、味方で良かったぜ」
「これでエグゾアーマーを赤く染めてたら赤い悪魔とか言われるわね」
イベントでは何度も共に飛んだが、模擬戦とはいえ直接戦うのは初めてだ。
期待と不安が入り交じる中、ついにその時が訪れる。
《ヴァイパーチーム、時間です。離陸を開始してください》
「……よっしゃ、一丁やってやるか!」
「フライトアーマーで飛び続ける術を教えてくれた恩を返さなきゃね」
「ヴァイパーチーム、グッドラック」
「頑張ってね!」
ヴァイパー1とヴァイパー2はヘイローチームの送り言葉にサムズアップで答え、エグゾアーマーを装着。
天高い秋空へ向け編隊を組みながら離陸していった。
更新再開からたくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
嬉しさのあまりレキシントンから発艦してしまいそうです!
更新再開を記念し、茜はる狼様にPVコミックを描いていただきました!
強敵相手にワクワクするアスカの表情をお楽しみください!
https://twitter.com/fio_alnado/status/1496327705599840256