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1 蠱毒飛行隊能力試験

お待たせいたしました、更新再開です!

本日2話更新。

本話は1話目になります


 ミッドガルの洋館でクラングリュプス結成祝賀会が行われてから数日後。

 深部エリアが解放された東のガイルド山岳。


 ラクト村周辺でさえ険しかった山岳の深部は完全に岩肌剥き出しになり、渓谷を超えもはや峡谷といった様相を呈していた。

 足の踏み場さえも考えてしまう断崖絶壁の谷が続くガイルド峡谷。


 そんなガイルド峡谷が織りなす絶壁の谷を、あろうことかフライトアーマーで飛行する集団があった。


《なんて谷だ、俺達を殺しに来てる!》

《一人墜ちたわ!》

《岩肌とキスしやがった!》

《そこのお前、高度が高すぎるぞ、落とせ!》

《あの地獄の空を突破したんだ、峡谷ごときで墜ちるかよ!》


 彼らは皆『蠱毒の空』と呼ばれるクラングリュプスへの参加試験となったバトルロイヤルを勝ち抜いたエリート中のエリートたち。

 そんな彼らであってもこの峡谷を一定の高度以下で飛行するのは並大抵の事ではない。


 それは彼らだけでなく、先陣を切る4つの影、ヴァイパーチームとヘイローチームも同じだった


《ぐっ、この峡谷めっちゃきつい!》

《ヴァイパー1、泣き事言わない》

《ついて来てるか蟲毒隊。翼の先まで神経を通すんだ!》

《今回ばかりは兄さんの言う通りだね、集中しないと僕たちでも危ない》


 後続の飛行隊よりも高度を下げて飛行するヴァイパー、ヘイローの両チーム。

 峡谷は渓谷よりも深く、俗にいうV字谷になっている。

 その為高度を下げれば下げるほど両岸が迫り、飛行できるエリアが狭まってくるのだ。


 選び抜かれた飛行隊の面々が次々と岩壁にキスをし、脱落して行く中、しっかりと四人で飛び続けるヴァイパー、ヘイローの両チーム。

 さすがはコールサイン持ちの飛行隊、クラングリュプスの選抜試験を免除されただけのことはある、のだが。

 この状況に悦に入るどころか明らかに険しい表情をしていた。


 それもそのはず、全力で峡谷を飛び続ける彼らのさらに先。

 同時に峡谷に突入したのにも関わらず、姿すら見えないほどに離されレーダーにだけわずかに映る味方の影があったのだ。


《リコリス1、もうあんなところに……》

《さすがとしか言いようがないわね》

《飛行隊の連中はまだしも、俺達と同じTierⅣトゥプクスアラだろ? こうまで違うのか》

《僕たちの三倍は早く飛んでるんじゃないのかな?》


 彼らのさらに先を飛ぶフライトアーマー。

 それは先のイベントで一躍時の人となり、他のランナー達から天上の花と謳われたエースオブエースリコリス1。


「うわぁ、この岩壁を縫うように飛ぶ感覚、さいっこうだよアイビス!」

『はい。この速度でこの高度を飛行できるのはアスカだけでしょう』

「テンション上がってきちゃうね! まだまだいくよっ!」


 はるか後方となったヴァイパーチームや飛行隊のことなど完全に忘れ、誰よりも低く、誰よりも速く峡谷を飛行するリコリス1ことアスカ。

 数百回に及ぶアイビスとのトレーニングにより完全に習熟したフライトアーマーTierⅣトゥプクスアラを駆り、ジェットエンジン特有の轟音を響かせながら峡谷を飛行する。


 通常であれば飛行するだけでもやっとであろう高度と速度の中、バレルロールやエルロンロールをも繰り出しながら底面スレスレを飛行する。

 当然、道中には敵モンスターの姿も見えるが、アスカはこれを完全に無視。


 峡谷の奥、さらに奥へと飛行する。


『注意、まもなくエリア限界領域です』

「え~、もう?」

『エグゾアーマー装備での移動を前提としていますが、フライトアーマーでの高速飛行までは考慮しておりませんので』

「了解。本部へ、こちらリコリス1。目標地点に到達、上空へ離脱します」

《本部了解。お疲れさまでした》

《もうエリア限界域!?》

《嘘だろ、俺達まだ半分ちょいなのに!》

《これがリコリス1の実力……》


 ゲームの世界は視覚的にはどこまででも続いているが、作られた世界であるため境界が存在する。

 レーダーには赤い線で表示され、一定距離まで近づくと半透明で虹色の壁が出現。

 手で触れることも出来るが、壁の向こう側へ入ることはできない。


 高速でこの壁に正面から突っ込んだ場合も同様で、壁に阻まれ強制停止させられる。

 アサルトやソルジャーなど陸上用のエグゾアーマーがスラスターで突っ込んだ場合特に問題ないが、フライトアーマーでこれに突っ込むと大問題が発生する。


 壁に接触、強制停止までは同じであり、衝撃によるノックバックやダメージも発生しない。

 が、数百キロあった速度が一瞬にしてゼロになり失速してしまうのだ。


 姿勢を立て直そうにも主翼などが壁に引っ掛かり上手くいかない上、壁方向への復帰が出来ない為高確率で墜落してしまう。

 もちろん、アスカはゲーム開始直後から何度も経験済みである。


《ヴァイパーチーム、目標地点に到達、離脱する》

《ヘイローチーム、目標地点に到達した、これより離脱するぞ》


 峡谷上空で滑空飛行に移行したアスカに続き、ヴァイパー、ヘイローの両チームが境界まで到達。

 先ほどのアスカ同様上空へ離脱してゆく。

 

《飛雲の時は機体の差もあると思ってたんだけどな》

《明確にプレイヤースキルの差を開けられてるわね》

《俺達だってイベントからこっち飛び続けてるんだぞ?》

《リコリス1、一体どんなトレーニングしてるんだろう?》


 誰一人欠けることなくガイルド峡谷を抜け、編隊を組んでアスカへと近づいてくる両チームの面々。

 エース部隊である彼らもさすがに峡谷抜けはこたえたようで、皆疲れた顔をしている。

 ……約一名リザードマンアバターのため表情が読めないが。


《本部、抜けたぞ!》

《上空へ離脱します!》

《何とか生き残った……》

《何機残った?》

《峡谷はもうこりごりだよ!》


 ヴァイパー、ヘイローチームに遅れて、飛行隊の面々も境界まで到達。

 若干ふらふらしながら上空へと離脱してくる。


 今回、アスカとヴァイパー、ヘイローらはTierⅣトゥプクスアラを装備しているが、飛行隊の面々は翡翠を装備している。

 それというのも……。


《全機の離脱を確認。能力試験を終了。帰投してください》

「了解しました!」

《墜ちた奴は再訓練だな。これ位の峡谷、翡翠なら抜けてもらわないと》

《そのあたりもこの後みんなで話さないとね》

《峡谷は確かにきついが、ここを操作性の良い翡翠で墜ちてたらジェットなんて扱えねーしな》

《それでもこれだけ残ったのなら上出来じゃないかな、兄さん》


 この集団飛行は飛行隊結成に際する能力試験だったのだ。

 バトルロイヤルを勝ち抜いた面々ではあるがそれでも飛行能力には個人差が出る。

 クランとしてもある程度個々の能力を把握しておく必要があったため、アスカを含めた全員での試験と相成った。


《峡谷突破テスト終了。対地攻撃テスト、航空機動テストも終わったからあとは?》

《分隊を組んでの空戦テストね》

《いままでの成績はどうなってる?》

《リコリス1がダントツだよ兄さん。それに僕たち4人が続いて、その後ろは団子状態》

《こちら本部。最後の空戦テストを30分後行います。海上で行いますので、各員は時間になったらバゼル港に集まるように》

「了解しました!」


 本部からの指示を受け、進行方向を南に取るアスカ達。

 飛行隊もそれに続き、皆滑空で飛行を続けている。


「すごいね、皆滑空をマスターしてる」

『イベント終了から時間がありましたし、彼らも選抜試験に向け特訓していたのでしょう』

「うん、これだけ飛べたら問題ないよ!」


 実際、イベント開始前までのアスカなら、この峡谷抜けは苦戦していただろう。

 今飛行隊に大差をつけて峡谷を抜けられるのはイベントでの空戦、そしてアイビスとのトレーニングによるところが大きい。

 それだけに、訓練だけでここまで飛べるようになった彼らに敬意を表するのだ。


 そのまましばらく飛行すると、正面に港町が見えてきた。

 アスカ達は高度を下げ、手ごろな平地に着陸。街へと入っていく。


「あっ、皆きたきた!」

「やっほー、まってたぞー」

「壁に激突して墜ちた連中じゃねぇか」

「練度が足りないんだよ、練度が」

「分かってるよ。試験の後鍛えなおす」

「この後の空戦テストでは挽回してやるって」


 街中に入って待っていたのは、先の峡谷突破テストで激突死した飛行隊メンバー達だった。

 ファルク達が作った飛行隊の定員は一個師団となる108名。

 この108名の中にはヴァイパー、ヘイローチームも含まれるが、アスカだけは人数に入っていない。

 もちろん、まだ飛行がおぼつかないレインも同様だ。


「お疲れ様アスカ」

「レイン!」

「次のテストまでまだ時間がある……んだけど、アスカは次のテストにも参加するの?」

「うん、出るよ!」


 今までずっと一人で飛んできたアスカなのだ。

 こんな風に大勢で飛んで騒ぐのが楽しくてしょうがない。


 そして、アスカの空戦テスト参加を聞いて、飛行隊メンバー達の顔色が変わる


「リコリス1も参加する……だと?」

「彼女に挑むチャンスがこうも早く訪れるとは!?」

「私の腕で彼女にかなうの? でも、やってみないと分からない……」


 ここまでのテストでトップの成績、イベントでは敵ネームドにタイマンで勝つほどの技量を持つアスカと戦う。

 通常であれば恐怖し、尻込みしてしまいかねない状況だが、飛行隊のメンバー達は怖気づくどころかみな不敵な笑みを浮かべていた。


 蟲毒の空とまで言われたバトルロイヤルを勝ち抜いた精鋭なのだ。

 どうやら絶対的エースと戦うプレッシャーから来る恐怖という名のネジはとうの昔に抜け落ちているらしい。


「やめとけやめとけ。お前らじゃ力不足だよ」

「そうね。ここは私達にやらせてもらうわ」

「えっ?」


 静かに闘志を燃やしていた飛行隊を割って出て来たのは、なんとヴァイパーチームの二人。


「一度リコリス1とは戦ってみたかったんだ」

「私達はヘイローチームと戦う予定だけど、その前にエキシビションマッチも悪くないでしょ?」

「ヴァイパーチーム、私と空戦してくれるの?」

「もちろん」

「むしろ私達の方からお願いするわ」


 イベントではアスカの僚機として共に戦ったヴァイパーチーム。

 その二人が今やる気に満ち満ちた目でこちらを見ているではないか。


 周りの飛行隊メンバー達も「リコリス1とヴァイパーチーム!?」「これはヤバい空戦になるぞ……」「くそう、俺にもヴァイパーチームほどの腕があれば……!」と興味津々。


「リコリス1、俺達ヘイローチームから一人選べ」

「さすがにヴァイパーチーム相手に二対一は不利だからね。微力ながらサポートするよ」

「二人から?」


 ヴァイパーチームは小隊である二人で戦闘を行う。

 それに対し、アスカは一人だけ。

 空戦において数的不利は致命的であり、公平とするためにもヘイローチームから一人サポートに出すという提案だ。


 これに対し、アスカは少し考えた後……。


「ううん、私一人でやる」

「は?」

「リコリス1、ヴァイパーチーム相手にそれは無謀じゃない?」


 アスカは不敵な笑みを浮かべながらヘイローチームに答えた。

 彼らの提案はありがたいが、チームでの戦闘訓練をしたことがなく、ソロでの戦闘ばかりを行ってきたアスカは動きやすさを重要視し、申し出を断るとともにヴァイパーチームへ視線を向ける。


「いくらリコリス1でも、私達二人相手は厳しいわよ?」

「ヴァイパーの名前は伊達じゃないぜ?」

「うん、分ってる。全力で行きたいから、私一人なの」


 すでにアスカ、ヴァイパーチームとも気合十分。

 お互いを見据え、見えない火花をバチバチと散らす。


 このエキシビションマッチはバゼル港にいるファルクやアルバら首脳陣に伝えられ、飛行隊メンバーがフライトアーマースレに記載したことで一気に拡散。

 バゼル港はあっという間に人で埋め尽くされたのであった。


実績を達成【峡谷すり抜け】

これを達成しなければ真のフライトアーマー使いとは呼べない。


用語解説

【エルロンロール】

 機体の前後を軸として左右に回転させる『エルロン(補助翼』、ないしは『エレボン』を操作し、機体を横一回転させる航空機動。

 この時進行方向に対する位置(高度、左右)は変わらない。

 ロール角を0°90°180°270°0°と小刻みに止める事で航空自衛隊曲技飛行隊『ブルーインパルス』の課目、『4ポイント・ロール』になる。


【バレルロール】

 『エレベーター(昇降舵)』と『エルロン(補助翼)』、ないしは『エレボン』を同時に操作し行う航空機動の一つ。バレルの内側をなぞるように螺旋機動を取ることからこの名が付いたとされる。

 エルロンロールと違い、進行方向と高度はそのままに、機体位置が左右にズレる。航空機が行う側転のようなもの。

 ブルーインパルスの曲技『コーク・スクリュー』で真っすぐ飛行する機体の横で螺旋機動を行っている機体の動きがこれに当たる。


第二部二章開始です!

休載期間中も感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告に加え、ツイッターでのご声援、本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりラングレーから発艦しておりました!


二章は全31話構成となっておりますので、どうぞよろしくお願い致します!


更新再開を記念し、茜はる狼様にPVコミックを描いていただきました!

今度の敵は……まさか!

https://twitter.com/fio_alnado/status/1496327705599840256

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― 新着の感想 ―
[一言] あー。 かのエースでコンバットなゲームだと必ずあるやつか。 ある程度の速度に高い機動性あるやつまで開放した後だと比較的楽にS取れるけど、ミッションが出た時の開発段階だと速度に対しての機動性足…
[良い点] 再開してる!? 待ってたぜぇぇこの瞬間をy(略 [気になる点] こちらで申し上げる事でないことは重々承知しているのですが…… ツイッターイラストのアスカのフライトアーマースタイル、 と…
[良い点] 仕事終わって帰宅したら更新再開で、疲れが吹き飛びました! ありがとうございます! [一言] 負けず嫌いで向上心あるから、アスカの技術がすごい事になってますね。
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