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31 青木家の食卓


 クラングリュプスのメンバーが本居地となる洋館で結成祝賀会を行った日の夜。

 ゲームを終えた蒼空は足早に母親奈々が夕飯の支度をしているダイニングへと駆けていた。


「ごめんお母さん、遅れちゃった!」

「もう、蒼空ったらゲームのしすぎじゃない?」

「遅いぞ姉ちゃん。何してたんだよ」

「ちょっとクランの集まりでさ。パーティやってたんだ」

「姉ちゃんのクランって言うと、グリュプス」

「あれ、翼知ってるの?」


 学校が始まり忙しくなったこともあり、弟の翼とは話す機会が減りゲームの進行状況もあまり伝えていなかった。

 だが、どういう訳か翼は蒼空がクラングリュプス入りすることを知っている。


 何故知っているのか問おうとした時。

 玄関の鍵が開き、誰かが家の中へ入ってくる音が聞こえてきた。


 リビングダイニングの扉を開け、サラリーマンらしいスーツに身を包みながら帰宅したのは蒼空と翼の父、翔馬だ。


「おかえり、お父さん」

「おかえり~」

「おかえりなさいあなた。おそかったのね」

「うん、ただいま。風の流れが悪くてね、デブリーフィングも時間がかかってしまったよ」


 父翔馬は有名航空会社のパイロット。

 今回は国際線の乗務だった為家に帰ってくるのは数日振りになる。


「お風呂も出来てるけど、どうする?」

「先にご飯を頂くよ。久しぶりに子供たちと一緒に食べたい」

「分かりました。今準備するわね」


 翔馬から背広と鞄を受け取り、食事の支度をする奈々。

 翔馬もネクタイと襟のボタンを外し楽にすると、そのまま夕飯の支度を手伝いだす。


「お父さんは座っててよ。疲れてるんでしょう?」

「そうだよ。夕飯の支度なんて俺達だけでちゃちゃっと終わらせるから」

「ははは、その申し出は嬉しいが、これくらいはさせてくれ。これも家族の団欒だよ」


 蒼空と翼が翔馬に座るよう促すも、翔馬は妻と子供たちに任せることを良しとせず食事の準備を手伝う。

 4人がかりであれば食事の用意などすぐ終わる。


 奈々の手料理がテーブルに並ぶと、翔馬は明日から休みと言う事でビールを開け、全員で「いただきます」をしてから食事が始まった。


 そこから先は何処にでもあるごく普通の家族の会話だ。

 蒼空と翼には最近学校ではどうか、勉強はどうか。

 奈々と翔馬には最近のフライトはどうか、行ってきた国ではどうだったか、そして航空機のフライト内容は、といったもの。


 食事も進み、アルコールが翔馬に良い感じで効いてきた時。

 そう言えば、といった表情で視線を蒼空へと向けた。


「蒼空、この間話していたゲームはどうなったんだ?」

「Blue Planet Onlineのこと?」

「それだ、それ。同僚やその子供達もやっているようだし、海外でも話題になってたぞ」

「海外でも?」

「海外はメカ好きとVRFPS好きが多いからね。動画サイトは海外からでも見れるからかなり話題になってるっぽいよ」

「そうなんだ」


 なんでも、海外のパイロット仲間からBlue Planet Onlineを調達できないかと相談されたそうだ。

 ゲーム技術の進んだ現在では、ゲームをプレイしながらの自動翻訳はデフォルトで装備され、母国語しか話せなくても世界中のプレイヤーと会話することが可能になっている。


 そして、最近公式が動画サイトにアップロードしたBlue Planet OnlineのPV映像のすさまじさが海外のゲーマー魂を激しく揺さぶったのだという。


「Blue Planet OnlineのPV?」

「ほら、姉ちゃんが大活躍したイベントを映像を利用した公式PVだよ」

「イベントの……あぁ!」


 初めは何のことか分からなかったが、翼の助言で思い出し、手をポンと鳴らす。


「そういえばあったね、そんなもの!」

「……もしかして姉ちゃん、見てないの?」

「うん」

「うわ、マジかよ!? もったいない! ちょっと待ってて、父さんもね!」


 そう言って翼は残っていた夕飯をかきこみ、食器を流しへ入れると足早に自分の部屋へ。

 そしてすぐに愛用のタブレット端末を持って戻って来た。


「せっかくだからみんなで見ようよ。母さんだって姉ちゃんが映ったPV、興味がないわけじゃないだろ」

「それはまぁ……そうだけど」

「ふむ、翼がそこまで言うのなら、期待してよさそうだね」


 手際よくテレビにタブレット端末をつないでゆく翼。

 蒼空と奈々はPVがどんなものなのか興味津々。

 翔馬に至っては2缶目のビールを開け、どこからともなく酒のつまみを用意している。


「結構いっぱいあるんだけど、人気の高いやつを出すよ」

「へぇ、たくさんあるんだ。人気が高いのってどんな奴なの?」

「何言ってんのさ姉ちゃん。全イベント期間で姉ちゃんにスポットを当てた特別PVだよ」

「は!?」


 翼から思いもよらぬ回答が返ってきたことで一瞬思考が停止する蒼空。

 そんな蒼空を他所に、翼はタブレットと連動したテレビにPVを映し出す。


 最初の画面は真っ黒。

 そこに白文字で『Swallow』『Blue Planet Online』と映し出され続けて『Operation Skip Shot』の文字が浮かび上がる。


 黒かった画面が明転。

 そこに現れたのは――忘れもしないナインステイツの美しい夏空だった。


「これ……ゲームなの?」

「これは……」


 この空の映像だけで奈々と翔馬の興味を引き付けるのには十分だった。

 元々発売時のPVに映し出された青空で蒼空の心が奪われたのだ。

 蒼空の両親である奈々と翔馬が気にしないわけないのである。


 奈々は片づけをしていた手を止め、翔馬はビールを注いだグラスを握ったまま画面に釘付けになる。


 そして次に映し出されたのは激戦となった海岸線。

 映像だけで膠着しているのが分かり、プレイヤーたちが攻めきれずじり貧になっている。


 カメラはそんな膠着戦を繰り広げる海岸線から離れ、奥にいる揚陸艦、そのさらに後部にある射出機に捕まっているランナーへと焦点を合わせた。


 海風で緑髪をたなびかせ、フルカスタムしたフライトアーマーを身に纏い、垂直尾翼にリコリスと朱鷺のパーソナルマークを描いている女性ランナー。

 アスカである。


 そこから先の映像に言葉は不要。

 カタパルトから射出され、膠着していた味方を支援。

 玉砕してゆく味方を地上に見つつ、敵ネームドと一騎打ち。


 難攻不落の要塞をヘリボーンで攻略し、渓谷を進む友軍を味方フライトアーマーと共に支援。

 仇敵であるネームド飛行隊に一矢報いる。


 最終決戦では嵐の中で大勢のフライトアーマー、味方地上部隊と協力しレイドボスアラクネを攻略。

 そして光芒差す中繰り広げられたネームドエネミーとのリベンジマッチ。


 美しくも迫力あるその映像に翔馬はおろか奈々すらも見入ってしまっていた。


「こんな感じなんだけど、どう?」

「うぅ……自分のプレイをこんな風に見るのは恥ずかしいよぅ……」

「えっ、まさか今の緑髪の子って……」

「うん、姉ちゃんだよ」

「これは……すごいな。海外の連中が欲しがるわけだ」


 翔馬はそれまで回っていた酒が一気に抜けたようで、腕を組んで何事か考え込む。


「PVは他にもあるんだけど、やっぱり姉ちゃんのこれが頭一つ抜けてるよ」

「それはそうだろう。これをみて魂が震えない奴が居たらそれは人間じゃない」

「お父さん、それはさすがに言い過ぎ……」

「そんなことはないさ。奈々だって今のPVを見たら居ても立っても居られなくなってるからな」

「えっ?」

「そ、そんなことはないわ……よ?」

「お母さん、落ち着きなさすぎ……」


 奈々もフライトアテンダントの仕事をし、祝日には家族で航空祭や空のイベントに出かける一家の母なのだ。

 空好きでない訳がないのである。


 翔馬の指摘で蒼空と翼から視線を受けるも、PV視聴前と比べれば明らかにそわそわし落ち着きが無くなっている。


「翼、以前このゲームは完売していると言っていたが、追加生産はどうなったんんだ?」

「第二次生産分が出たよ。即日完売したけど」

「ぐっ、駄目だったか……」

「ほ、ほらお父さん、ゲームなんだから、そのうちまた発売されるって!」


 またしても売り切れと聞いて明らかに肩を落とす翔馬。


 そんな翔馬を慰める蒼空。

 が、イベント報酬で『二次生産優先購入権』をポイントで交換しておきながら友人である日奈に使ってしまった蒼空の内心が冷や汗ダラダラだったことは言うまでもないだろう。


日頃より当作品をご愛読頂き誠にありがとうございます。

今話にて第二部一章が終了。

次は第二部二章ミニイベント編を予定しておりますが、まだたったの2話しか出来ておりません。

一章と同じく30話ほど書き溜め出来次第また順次投稿していこうと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

それでは、また次の空で。

RTB。


『解体新書』の人物名鑑にレインの項目を追加、新規にフライトアーマーツリーとクランリストを投稿しています。

キャラごとの設定、各フライトアーマーの性能、各クランの概要が見てみたいという方は是非どうぞ。


NEXT CHAPTER

Completed


更新中

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― 新着の感想 ―
[一言] リアル側の人間関係が強くなり過ぎると色々と制限やしがらみが増えちゃうから普通は無いんだけど、空狂い一家による編隊飛行とかちょっと見てみたさはある……w
[一言] ステンバーイステンバーイLady (**´ >ω<)゛;クシュン
[一言] あと3つ!あと3つ!
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