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26 蟲毒の空

サブタイトルを感想で貰った『グリュプス戦役』にするか一晩悩みました。

よって推奨BGMはZガ〇ダムより【艦隊戦】もしくは【激戦の果て】で。


 アスカとレインが飛行訓練を行ったってから数日、第二次販売開始から約一週間。

 今は平日ど真ん中の午後15時であり、ゲーム内も現実世界同様晴天だ。


 しかし、平日ともなるとこの時間にゲームをプレイできる人の数は少なく、ログイン率はそれほど高くない。

 ……はずなのだが。


 ミッドガルから南に位置するバゼル港の郊外に、数十人規模の団体が発生していた。

 VRMMO『Blue Planet Online』らしく、集まっているランナー達のアバターは人、エルフ、ドワーフ、獣人、人外と様々だがある一点において皆共通項目があった。


 それは全員身に付けているエグゾアーマーがフライトアーマーTierⅡ翡翠だという事だ。


「そろそろ時間です、皆さん準備はいいですね!」


 そんなフライトアーマーを身に付けたランナー達に全体通信で声をかけたのはクラングリュプスのクランマスターファルク。

 彼の周囲にはグリュプスのクランメンバーが数名おり、周りのランナー達からの質問に答えたり、何かしらを手渡したりしている。


 ファルクはそんなクランメンバーを横目に、フレンドリストからいくつかのランナーネームをタップ。

 通信を開く。


「各員、状況報告をお願いします。首尾はどうですか?」

《西、トティス村問題ない。順調だ》

《東、ラクト村準備完了。いつでもいけるわ》

《北、ジーナ村オーケーだぜ》

「了解しました。では定刻通り行います。参加者に周知よろしく」


 各方面の村から聞こえてきた声。

 トティス村からアルバ、ラクト村からキスカ、ジーナ村からホーク。


 それぞれが準備完了を告げ、これから起こる一大イベントの開始を告げる。


「全体通信。全エリアでの準備が完了しました。全員離陸を開始してください」

「よっしゃあ、やるぜぇ!」

「グリュプス飛行部隊の枠、勝ち取ってやる!」

「みんな、恨みっこなしだからね!」


 ファルクの号令にフライトアーマーを装備したランナー達が次々に離陸してゆく。


 そう、今から始まるのはファルクが創設したクラングリュプスの加入に伴う選抜試験だ。

 合格条件は至って簡単。


 これからミッドガル上空で行われる空戦で一定以上の戦果を挙げ、かつ生存する事。


 だが、この空戦に伴うルールがまたえげつないのだ。


 一つ、使用するエグゾアーマーはフライトアーマーTierⅡ翡翠(カスタム可)のみとし、600以上のMPを有する事(増槽、スキル含む)。

 一つ、試験は残機制とし、三回まで復帰可能。

 一つ、リスポーン地点は東西南北の村から自由に設定可能。

 一つ、使用武器弾薬、アイテム類は各自で用意する事。MPポーション不足分は各村で販売予定。

 一つ、スキル【支援AI】を必ず取得し、使用する事。それ以外のスキルは自由。

 一つ、希望人数が多い為数回に分けて開催。再挑戦不可。

 一つ、合格基準、通算撃墜10機以上、与ダメージ3000以上かつ生存。

 一つ、参加者は一開催につき200名上限。合格者は最後まで生き残った4名。時間制限なし。

 一つ、非戦闘行為、八百長、チーミング、悪質なキルスティール等は違反行為とし、支援AIで裁定。違反者は失格とする。


 これがファルク達が考えたクラングリュプス加入者選抜試験の概要。

 アスカがグリュプスに加入表明を行ってから爆発的に増えた希望者から選りすぐりのエースを選抜するために考え出された試験がこれだ。


 早い話、フライトアーマーによる空戦バトルロイヤルである。

 

 使用するフライトアーマーを指定することでハード面での平等性を維持。

 エグゾアーマーカスタムに関してはそれも選抜試験対策であるため許可している。

 武器弾薬類も同様。

 ある程度の公平性は保つが、定められたルールの中で如何に自分に有利な武器、アイテム類をそろえられるかと言うのも試験のうちの一つという判断。


 また一回の参加人数が200人と膨大な為、試験監督者として全員にスキル【支援AI】を持たせ、AIによる試験管理と不正防止を行う。

 これによりグリュプス側の人間は最小人数で済む。


 この条件はアスカのグリュプス入り数日後に公開され、試験日の割り当ても順次行われた。

 元々の開催回数が多い上に200人上限という事もあり特に混雑もなく登録終了。

 余裕をもって試験日を迎えたのである。


 ……が、それはイベント主催者であるファルク達の話。


 受験者達は『バトルロイヤルだあぁぁ!』『200人による大規模空戦!? F**K!』『一開催の合格者枠4つしかないの!?』『フライトアーマーは翡翠固定……だがカスタマイズが許されている!?』『再挑戦不可……一発勝負だと?』『こんなんクソゲー間違いなしじゃねぇか!』『運要素強すぎない?』『MP600以上って事もハードル高いんだけど……』などなどなど。


 リコリス1というエースオブエースと同じクランに参加するための極めて高いハードルに絶句し、辞退者も続出。

 それでも、彼女との空を諦めない猛者がこうして集い、第一回選抜試験の日を迎えたのである。


《フライトアーマー全機試験エリアに進入。各AI、カウントスタート》

《開催者からの指示了解。カウントスタート》


 各村から飛び立った面々が正面にミッドガルの街を捉えた時、通信から再度聞こえてきたファルクの声。

 受験者たちのAIがその声に応え、それぞれの視界に10秒のカウントが表示される。


《よし、やってやる……やってやるぞ》

《絶対に生き残ってやる》

《勝つのは私、勝つのは私、勝つのは私……》


 全員の顔に緊張が現れ、武器を持つ手に力が入る。


 緊張を紛らわそうと同じ村から飛び立った他のランナー達に目を向ければ、ランナーネームとHPバーの他に40という数字が緑色で表示され、カウントダウンされている。


 これは同じ村から飛び立ったランナー達が試験開始直後に撃ち合いや背後からの奇襲を防止する措置だ。

 このカウントがゼロになるまでは攻撃を禁止。

 カウントを無視して攻撃を行った場合即失格となる。

 ただし、これは故意に照準を定め攻撃を行った時のペナルティであり、流れ弾によるダメージ、操縦不能に陥った際の激突などにペナルティは発生しない。

 俗にいうコラテラルダメージという奴である。


《カウントゼロ! オープンファイア!》

《長距離武器を使うタイミングは今しかねぇ!》

《ターゲットロックオン!》

《各エリアの連中も同時かよ!》

《当たり前だよなぁ!》

《落ちろカトンボ!》

《はあぁぁ、滅殺!》

《ウラアァァァ……!》

《ヘッ、てめぇらうぜェ!》


 減っていたカウントがついにゼロとなり、空戦が開始された。


 受験者たちはこの受験者同士でつぶし合うこのバトルロイヤルをなんとか勝ち残ろうと、それぞれに考え抜き対策を施している者が多い。

 フライトアーマーでの戦闘方法は先のイベントでリコリス1が身をもって伝えてくれているのだ。


 そのうちの一つが主翼下に長距離狙撃銃を装備する事。

 相手の射程外から一方的な銃撃を行う。


 無論、その考えに至るのは一人ではない。

 四方からお互いの正面へ向け長射程による銃撃が行われ、早くも銃弾が飛び交いだす。


《何だ!?》

《光が見えた?》

《ロングレンジだと!?》

《ハッ、そんなへなちょこ弾当たるかよ!》

《だめだ、散開しろ! 回避行動でぶつかる!》

《駄目、下がって!》

《撃ち合いもしてないのに落ちるなんて御免だわ!》


 選抜試験はチーミング禁止の為、受験者たちは編隊飛行は取らず高度、位置などは自由に飛んでいる。

 だが、試験場所が『ミッドガル上空』の為どうしてもある程度は密集してしまう。


 そこへ襲い掛かった長距離狙撃。

 曳光弾で弾道もよくわかる銃弾を躱す事など造作もないが、回避行動をとった先に他のフライトアーマーがいないとも限らない。

 耐久性が低く、損傷しやすいフライトアーマーなのだ。

 激突すれば当たった方はおろか当てられた方も飛行不可となり墜落。

 貴重な残機を一つ失ってしまう。


 皆そんなことは御免だと一気に散開。

 高度を取るもの、高度を下げるもの、左右に展開する者など様々だ。

 そんな中。


《いやっほぅ! 俺の時代が来たぜ!》

《なんだ、一人飛び出したぞ!?》

《ブースター!? なんて加速だ!》

《ちょっとまってよ、ブースターって、まさか!》

《は!? いやいやいや、マジかよ!?》


 部隊が大きく開き、本格的に空戦が始まろうかという時、四方の軍団の中から数名のフライトアーマーが大きな噴煙を上げ飛び出したのだ。

 空に二筋の噴煙を残し、爆音をあげ突き進むフライトアーマー。


 その挙動に、他の受験者たちは思い当たる節があった。


《赤いブースター!? 赤い悪魔か!》

《メラーラマーク35!? ふざけるな!》

《僕たちを巻き添えにしないでください!》

《リコリス1だって使いこなしたんだ、俺だって!》

《一発の被弾で吹き飛ぶぞ!》

《当たらなければどうと言うことはない!》

《粋がってんじゃねぇ! 墜ちろ!》

《無能が。爆ぜちまえ!》

《全員メラーラマーク35装備の奴を狙え、爆発に巻き込まれるぞ!》


 リコリス1を目標にしているからこそ、彼女のやり方を真似ることは当然と言いえる。

 だが、誘爆性が劣悪の補助ブースターメラーラマーク35となると話が変わる。


 被弾イコール爆発となる装備を使うのは勝手だが、その爆発に巻き込まれるのは御免被るのだ。

 空中を高速で動き回るフライトアーマー。

 目の前で爆発が起きれば躱すことは難しく、至近距離で爆発されればこちらのフライトユニットにもダメージが入ること必至。

 一発勝負のこの大事な選抜試験に、自分の腕と関係ないところでの爆発巻き添えで失格など納得できるものではない。


 故に、受験者達はメラーラマーク35使用者を最優先で狙う。


《このっ……ちょこまかと!》

《なんだありゃ、バッタか?》

《チッ、練習はしてるってわけか!》

《俺の愛馬は凶暴だぜ!》


 参加者は誰も勝ち抜きたいという思いは同じ。

 メラーラマーク35を使用している者も、リコリス1がイベントで見せた超機動を選抜試験で再現出来れば勝ち抜けると考え、特訓してきているのだ。


 しかし、それは彼だけではない。


《動きが甘いわ!》

《はぁ!? うわっ……》

《ヘッ、汚ねェ花火だ》

《もっと離れていれば、撃たれなかったのに!》

《赤い悪魔使用者は最優先よ!》


 高速で移動しながらの空戦。

 射撃位置と弾速、相手の速度によるタイムラグを調整する偏差射撃が出来ないようでは、このバトルロイヤルでは勝ち残れない。


 複数、多方面から集中射撃を受けたメラーラマーク35使用者はこれを躱しきることが出来ずに被弾。

 大爆発を起こし一つ目の残機を喪失する。


《邪魔者はこれでいなくなった、正々堂々……うわっ!》

《くそっ、被弾した!》

《フライトユニットが……!》

《一機撃破! 次はどいつだ!》

《ちくしょう、墜ちる!》

《まだ戦果も挙げてないのに!》

《生き残るのは私、私なの!》

《トレンチガン!? 条約違反だぞ、野蛮人め!》

《空が! 空が落ちる……あぁ!》

《墜ちて逝った奴が上げた噴煙が残ったままだ! スモークになってやがる!》

《お前もリスポーン地点に送ってやるよ!》

《お、俺もあんな風に墜ちるのか? 火を噴き上げて……!?》

《俺がこの手で墜としてやる。そしたら戦わずに済むだろ!》

《俗物が私に!》

《僕に……戦果を寄越せえぇぇ!》

《遊びでやってるんじゃないんだよ!》

《主翼が!? だが、まだ飛べる!》


 四方からの受験者達が互いに機関銃の射程に入り、本格的なドッグファイトが開始された。

 だが、それはリコリス1とブービーが繰り広げた技と技の競い合いではなく、お互いに泥だらけになりながら噛みつきあう血みどろのサバイバルレース。


 残機制のため一度撃墜された受験者達がリスポーンから戦線に復帰。

 戦況は混迷の様相を呈してゆく。


《ここから巻き返す!》

《ブースタードロップ! 戦線復帰だ!》

《ダメージがヤバいが、まだ粘れる!》

《まだだ、まだ終わらんよ!》

《くそっ、この程度!》

《お前はもう死んでいい!》


 機関銃、ライフル銃、ミサイル、はてはカスタムで魔導石スロットを追加した魔法攻撃まで。

 ありとあらゆる攻撃が秋空の中で乱れ飛ぶ。

 墜とし、墜とされ、また一人また一人と爆炎と噴煙を上げ墜落してゆく。


 クラングリュプス航空部隊のわずかな椅子をかけ、ミッドガル上空では生き残りをかけた壮絶な空戦が繰り広げられていた。


後に蠱毒の空、グリュプス戦役と呼ばれる選抜試験。

合格倍率は50を超えていたという。


明日は掲示板回。

この試験におけるスレ民の反応をお楽しみください。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!

嬉しさのあまりアーガマより発艦してしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] いつ見てもガンダムとか戦争系の色々混ざってて笑う
[一言] 参加者のセリフがネタまみれwwwガンダム系のセリフが主かな?www
[一言] Ntや強化人間がいる中にしれっとラインの悪魔がいますね(笑)
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