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16 ミラーマッチ


 ついに開始されたアスカとアイビス操作によるデコイアスカの模擬空戦。

 しかし、使用する弾薬は実弾であり設定変更した今の状態ではデコイアスカの銃撃で本体であるアスカにもダメージが入る。

 現実世界では絶対に行えない危険極まる模擬空戦だが、当のアスカは物事がすべてうまくいったと満面の笑みで正面に捉えたデコイアスカへ向けエルジアエを構えた。


「射程ならこっちが上だからね! いくよ、アイビスっ!」


 デコイアスカが持つピエリスはPDW、取り回し、連射能力重視の近接火器だ。

 それに対し今アスカが持つエルジアエは遠距離で使用する単発、中距離で使用する連射、近接格闘のレイサーベルと状況に合わせ三つの使い分けができるマルチウェポン。

 

 射程に関してはどちらが有利かなど考えるまでもなく、アスカはエルジアエを単発モードで構えると照準をデコイアスカに合わせ、躊躇なく引き金を引いた。

 レイウェポン特有の「チュン」という射撃音が響き、光弾がエルジアエの銃口から放たれる。


 アスカの先制攻撃に対し、デコイアスカは射程の不利から応射はせずバレルロールで射撃を回避、エンジンを吹かし増速しつつさらに接近。

 

「まだまだいっくよぉ!」


 エルジアエを数発撃ったところで単発モードから連射モードに切り替え、射撃を開始。

 「チュチュチュチュチュン」という軽快な連射音と共に大量の光弾がデコイアスカを襲う。


 デコイアスカはこれを急降下で回避、さらに速度を稼ぎつつ接近。

 アスカに対しピエリスの射程まで迫ると速度そのままに急上昇、ピエリスの「タタタタタタタタタタ」という射撃音を響かせ射撃を行ってきた。

 急降下しつつの加速、そこから急上昇による攻撃。

 アスカはこの機動に覚えがあった。


「ロー・ヨーヨー! やるね、アイビス!」


 ロー・ヨーヨーとはデコイアスカが行ったように急降下からの増速で速度を稼ぐ空戦機動。

 どうやらデコイアスカを操作しているアイビスも空戦機動の覚えはあるようで、簡単には墜とさせてはくれないようだ。


 デコイアスカとの空戦に手ごたえを感じるアスカ。

 咲いていた満面の笑顔がさらに大輪を咲かせてゆく。


「そうこなくっちゃ! 私も負けてられないね!」


 下からの銃撃を急旋回で躱し、デコイアスカの位置を確認してから上昇、ループ機動に入る。


 対するデコイアスカは急旋回したアスカの横を抜けそのまま上昇、十分に高度を取った後宙返りを行い、正面にアスカを捉える。

 

 アスカは再度エルジアエでの連射攻撃。

 デコイアスカはこれをバレルロールで躱しつつ接近、ピエリスの射程圏まで迫ると銃撃を行ってくる。


 これもアスカは旋回で躱そうとするが、予想以上に機体の動きが悪く、数発被弾。

 幸いエンジンなどの重要部位にはダメージがなかったが、視界上部に表示されているHPケージは二割ほど減っている。


「躱せなかった! なんで!? ……しまった、速度を稼がれた!」


 デコイアスカがロー・ヨーヨーからの急上昇、さらに降下でのすれ違い攻撃を行ったのに対し、アスカは高度そのままでの急旋回、そしてループ機動。

 エンジンは常に吹かしていたが度重なる戦闘機動で増速には至らず、むしろ先ほどの上昇により速度は失ってしまっている。

 対するデコイアスカは『降下による増速』を行い、再度の上昇からの降下で大きく速度を稼いでいる。


 それは同じフライトアーマートゥプクスアラを身に付けているはずのアスカとデコイアスカに速度差として顕著に現れていた。


「アイビスは……もうあんなところに!」


 十分な速度を稼いだデコイアスカに近接格闘であるドッグファイトをする気はないらしく、降下した速度を維持したままインメルマンターンを行い、再度アスカを正面に捉える。

 これは先のイベントでネームドエネミー黒い悪魔ブービーが得意としていたヒットエンドラン戦法だ。


「こっちに真っすぐ向かってくる……ならその速度、利用させてもらうよ!」


 こちらへ機首を向けるデコイアスカにアスカも正面を向け増速。

 再度ヘッドオン状態へと持ち込む。


 先ほど同様にエルジアエを単発、連射へと切り替えてデコイアスカへ向け射撃。

 デコイアスカはこれを先ほど同様バレルロールで回避し、さらに接近。

 ピエリスによる射撃を行う。


 先ほどは急旋回で回避した攻撃だが、アスカは今回は旋回ではなくデコイアスカ同様バレルロールで回避、位置を調整しつつデコイアスカへ急接近する。

 同時にそれまで連射していたエルジアエの射撃を中止。

 持ち手を変え操作レバーをサーベルに切り替え、銃口からレイサーベルを発生させると、腰だめに振りかぶる。


「この速度なら躱せないでしょう!」


 速度で大きく負けたアスカが放つ、起死回生の一撃。

 武器積載量の少ないフライトアーマーの中で最も高威力な武器であるレイサーベルがデコイアスカの進路上に置かれた瞬間。

 デコイアスカが持つピエリスの下部に取り付けられたグレードランチャーから「ポンッ」という発射音と共にグレネード弾が放たれた。


 発射後眼前までグレネード弾が接近するのは一瞬。

 アスカはすぐさま状況を理解したが、すでに時遅し。

 高速で接近し、レイサーベルを振り抜かんとしているこの距離での回避など出来る訳もなく。


 咄嗟に顔を庇った腕にグレネード弾が命中。

 炸裂音と共にアスカの視界は暗転した。



―――――――――――――――――――――――


「ふにゃあ! やられたぁ!」


 デコイアスカが放ったグレネードの直撃に軽装甲のフライトアーマートゥプクスアラは耐えきれず即死。

 システム上はアスカの自爆、自滅扱いだが、アスカは墜落した時同様ミッドガルのポータルで復帰していた。


『お疲れさまでした』

「うん、お疲れ様アイビス! 凄いよ、全然かなわなかった! アイビスは腕がいいね!」

『いえ、私が操作するデコイの性能はアスカと同じになります』

「えっ、どういう事?」


 実は、アイビスが操作するデコイにはある程度の制約、規定が存在する。

 そのうちの一つがデコイアスカの性能はデコイを発動させたランナーのプレイスキルと同等になる、と言う物だ。


「つまり……どういう事?」

『私が操作するデコイの能力はアスカと同じになるよう調整しています』

「姿かたちだけじゃなくて、能力まで同じなの?」

『はい。完全に私が操作しますと、能力が高くなりすぎますので』


 これが人操作とAI操作の差を補うための制約だ。

 ゲームと言えども人が操作する以上ある程度の癖、ブレ、誤差は発生する。

 しかし、AIが完全に操作した場合はこれらの癖はおろか、偏差射撃や反動制御、精密射撃、はては急所狙いなどAIらしい緻密な制御で行われてしまう。

 こうなるとプレイングやゲームバランスに深刻な問題をきたしてしまうため、AIが操作するデコイの性能はデコイを発生させたランナーのプレイヤースキルと同じにするという制約が盛り込まれているのだ。

 もちろん、このプログラムを組んだのは、どこかのチートオブチートである。

 一晩でやってのけた。


「という事は、今さっき私は私自身に落とされたって事?」

『はい。アスカも先ほどのデコイと同じ動きが可能です。私はアスカが出来る動きの範囲内でデコイを操作しています』

「なるほど……なんか、くやしい!」


 アイビス操作のデコイアスカと記念すべき初対戦。

 全力でなかったわけではないが、対戦できると気を抜いていた感は否めない。


 だが、結果としてアスカの姿かたち、能力まで見事にコピーした『ミラー』に完敗。

 自分自身にしてやられたとあっては、アスカとしても面白くはない。


「よし、アイビス、もう一戦やろう!」

『私は構いませんがアイテムロストに気を付けてください』

「持っていくポーションはデコイの回復分だけだし、弾薬類もアイビスに渡す分だけにするね」


 デコイアスカにやられるという事は死に戻りするという事と同義であり、当然デスペナルティも発生する。

 イベントではデスペナルティはなかったが、今いるのはイベントマップではなく通常マップ。

 ゲーム内通貨ジルや弾薬、MPポーションを満載した状態で死亡した場合のロストは顔を青ざめさせるのには十二分。


 アスカはメニューからホームのアイテムBOXにアクセス。

 デコイ消失と同時にロストした弾薬類と【デコイ】使用後回復分のMPポーションという、最低限のアイテム類だけをインベントリに移し、補充を完了した。


 デコイアスカに渡したピエリスはアスカの装備品で、戦闘中に投げ捨てるなどしたのと同じ判定であるため死亡しても勝手に戻ってくる。

 が、弾薬類はそのまま捨て置いた判定となるためデコイ消滅と同時に地上へ落下。

 しばらくの間は実体化して残っているが、時間経過で消滅する。

 もちろん、アスカは弾薬回収など考えていないため、デコイアスカに渡した弾薬はロストが前提。


 もっとも、ピエリスの弾薬類は汎用品であるため安価。

 イベント報酬などで潤いに潤っているアスカの懐事情には全く影響がないのだが。


 インベントリ内のアイテム整理を終えたアスカは復活地点であるミッドガルのポータル広場から移動を開始。

 周囲には大勢のランナーの姿があり、光の中から現れたアスカへと視線を向けていた。

 数日前であればアスカを自らのクランに引き込もうと勧誘合戦が発生していたが、今は既に参加するクランを決め、運営からも強引な勧誘は控えるよう通知が出ている。

 未だアスカを欲するランナーは数多いが、アスカが参加するトップクラスのクランと運営を敵に回すという愚は犯せず、傍観するしかないというのが現状だ。


 アスカはそんなランナー達を気にも留めず広場を後にし、そのまま町の外へ。

 エグゾアーマーを身に付けると大空へと飛びあがり、再度アイビス操るデコイアスカとの戦闘訓練を再開。



 その後大規模アップデートまでの数日。

 アスカは時間の許す限りアイビスとの訓練を繰り返し、ミッドガルではたびたび死に戻りするアスカの姿が目撃されたのであった。


次回は掲示板回です。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまり隼鷹から飛び立ってしてしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう訓練を重ねて強くなっていく描写があるとなんか地に足がついてるというか、話が地続きになってる感じがしていいですね。 [気になる点] この支援AIとデコイの合わせ技、本人のレベルに合わ…
[一言] デコイ戦時のBGMは『流星、夜を切り裂いて』で脳内再生しています。 アイビス繋がりで
[一言] つまりアイビスが自重を捨てるとTASさんが降臨すると…… 運営はアスカの戦闘データが取れて次のイベント徹夜回避に役立ちそうで万々歳なんじゃないですかね? これ実はデコイの上位魔法扱いで、僚…
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