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14 アイビスの困惑

アイビスは怒って良い。


 ミッドガル上空でトゥプクスアラによる曲技飛行を心行くまで堪能したアスカ。

 いつの間にか出来た地上の人だかりを気にしつつ、適当な平地で着陸を行った。


 彩光よりも角度のついているトゥプクスアラであれば、着陸姿勢もお手の物。

 翡翠や飛雲と同じ要領で着陸態勢を取り、着陸アプローチ。

 主翼形状が後退翼、かつ重量のあるジェットエンジン搭載の為速度は速いが、やり方は変わらない。


 エグゾアーマーと体そのものをエアブレーキとして使い、エンジンの出力を落しつつ、足から着陸。

 不整地の地面を耕しながらも、減速しながら走り、エンジンを完全に停止させる。

 そして、駆け足だった足の動きも速度に合わせ速足となり、ついには徒歩、そして足をそろえての停止となった。


『ナイスリーダン、アスカ』

「トゥプクスアラは本当に優等生だね! 使い心地がすごくいいよ」


 カマンや彩光では着陸に失敗したが、トゥプクスアラでは満点の着陸だ。

 気を良くしたアスカはインベントリを操作。

 TierⅣにならなければ試せなかった唯一の事柄を行うべく、アイビスに助言を求めた。


「さて、今日の最後はこれだよ! アイビス、これはどうやってセットするの?」

『メニュー画面からエグゾアーマーガレージ、装備するエグゾアーマーを選択し、魔導石スロットに装備させてください』

「了解!」


 そう、最後に試すのはイベントのポイントで交換した魔導石【デコイ】だ。

 フランにもアドバイスをもらい後は試すだけとなっていたが、フライトアーマーの魔導石スロットがTierⅣからしか存在しないため先送りになっていた。

 ようやく入手したTierⅣフライトアーマー達の中で一番使い勝手の良いものが分かった今、ついにこれを試す時が来たのだ。


 アイビスの指示通りメニュー画面を操作し、フライトアーマートゥプクスアラの魔導石スロットに【デコイ】の魔導石をセットする。

 すると画面端に魔法を示すアイコンが表示され、その下にあるゲージがすこしづつ上昇してゆく。


「アイビス、これがリキャスト?」

『はい。このゲージが溜まると待機状態となり、何時でも発動可能になります』


 魔法攻撃の場合はそこから攻撃方向の指定や射出角度、誘導攻撃なものはターゲット指定などがあるが、かく乱を主とした支援魔法である【デコイ】にはそう言った細かい設定は不要となる。

 魔法の発動はフランに代表されるよう音声認識であり、設定した魔法名を叫べば発動される。

 逆に言うと言葉にしなければ発動せず、マジックに至っては発動時エグゾアーマーが光るため隠蔽には不向き。

 これが『Blue Planet Online』における魔法だ。


 そう言った解説と説明を受けているうちにゲージが溜まり、デコイが発動可能になる。


「よし、じゃあいくよ【デコイ】!」


 初めての魔法にテンションが高まり、正面に両手を伸ばし手を広げて叫ぶアスカ。

 いかにも『魔法を放ちます』ムード漂うアクションだが、残念ながらまったく意味はない。


 アスカが魔法名を叫ぶと同時にMPがごっそり減るとともに光の球体が出現した。

 球体はすぐさま大きさを増し、人型に。

 そしてどころどころに機械的なシルエットを表示させる。


 造形が終わったところで光が消ると、目の前にフライトアーマートゥプクスアラを装備した緑髪ポニーテール、ホットパンツスタイルのランナーアスカが佇んでいた。

 

「おぉ~、すごい! 私そっくり!」

『そっくりではなく、完全に同じものとなります』


 MPを割合50%も消費する魔法とあって、かく乱能力だけは極めて高い。

 持っている武器、エグゾアーマー、被弾痕、ペイント、パーソナルマークまで完全に再現し、レーダー上での表記もまったく同じ。

 誘導兵器はおろか、目視による判別すらも完全に惑わせる。


 問題はこの模倣能力が極端に高すぎるため、耐久性が皆無、コピーされた銃火器もすべてハリボテという事だ。


 特に戦闘中という訳でもないため、その場で微動だにしないデコイアスカ。

 そんなデコイアスカをオリジナルアスカは隅々まで観察。

 物珍しそうに見て回る。


 そして一通り見渡した後、デコイアスカの正面まで戻って来た。


「うんうん、いいねいいね」

『アスカ、このデコイを使って一体何を考えているのですか?』

「ふふふ……お答えしましょう!」


 アイビスすら知らない、アスカの壮大な計画。

 フランやアイビスからアドバイスをもらいつつ、結局誰にも話すことなくここまで温めてきた最高機密の作戦。

 それが今、ついに明かされる。


「アイビス!」

『はい』

「このデコイ、操作して!」

『………………はい?』


 AIとは思えないほどに間を開けて返答したアイビス。

 もし彼女に体があれば、間違いなく呆然として立ち尽くしていただろう。

 

『……申し訳ありませんアスカ。もう一度お願いします』

「だから、このデコイ、アイビスが操作してよ!」

『………………はい?』


 何か聞き違えたのかなと考え、アスカに再度指示を要求するアイビス。

 だが、返ってきた答えは同じ。

 まったくもって意味が分からない。


『……申し訳ありませんアスカ。指示の意味が分かりません』

「このデコイってAI操作なんだよね?」

『はい』

「で、アイビスは支援AIだよね?」

『はい』

「なら、このデコイはアイビスでも操作できるって事だよね!」

『………………はい?』


 いや、その理屈はおかしい。

 なにをどう考えたらその発想に至るのか、どれだけ考えても、何度聞きなおしてもアスカの考えが分からないアイビス。

 彼女にその身があれば、頭を抱えてうずくまり、目を回しながら頭から煙が立ち上っていたことだろう。


『……申し訳ありませんアスカ。詳しく説明していただけますか?』

「うん、いいよ」


 そこから語られる内容は、支援AIのアイビスをもってして頭が痛くなる内容だった。


 アスカが最初に思いついたのが、このデコイを利用しての戦闘訓練だったという。

 この時点からして何かがおかしいが、先のイベントで感じた空戦経験の少なさを補うため通常マップでも空戦出来る方法をと考え、思いついてしまったのがこの方法だという。

 そもそもゲームを開始してからここまで、イベントマップ以外では空を飛ぶ敵はおろか、対空攻撃してくる敵すらほとんどいない。

 イベントで共に空を飛んだヴァイパーチームやヘイローチームと行うにしても、それぞれに用事はあるだろうから、いつでもどこでもというのは無理だろう。


 そこで目を付けたのがこのデコイだ。

 アイビスの解説にあった『デコイの操作はAIが行う』という項目。

 AIの出来が悪いという事ではあるが、もしこの操作をアイビスが行えれば動きが改善され、一人ででも空戦飛行訓練が出来るのではないかと考えた。

 故に、先日フランに魔導石を使い方を聞いた時に、能力の振り分けを効果時間に大きく振ったのだ。


「という訳なんだけど、どう、出来る?」

『申し訳ありませんアスカ。デコイのAIと私は違いますので操作することは出来ません』

「でも、同じAIだよね」

『はい』

「じゃあ、運営さんに聞いてみようよ!」

『………………はい?』

「支援AIでデコイを操作できませんかって。聞いてみるだけならタダだし、やってみようよ!」

『ですが……』

「一回だけ、一回だけお願い! 無理なら諦めるから! ね、アイビス」


 目の前のデコイアスカがアイビスであるかのように手を合わせて頭を下げるアスカ。

 ここまでお願いされては、アイビスと言えど断るのも忍びない。


『分かりました。問い合わせてみます』

「本当!? ありがとう、アイビス!」

『ですが、可能性はほぼないと思ってください』

「いいのいいの、私の勝手な思い付きだから! それに、ほぼないって言ってもゼロじゃないわけだし、とりあえずやってみないと!」


 この数か月、アスカに付き合ってみて感じたが、彼女はどうも理論よりも行動が先行するタイプのようだ。

 出来る、出来ないは置いておいて『まずはやってみる』。

 まずは試して、出来なければ何度も試す。

 出来るようになれば、また次の事柄を試す。

 これがアスカが僅かな期間のうちにフライトアーマートップクラスの飛行技術を身に付けた一因なのだろう。


『問い合わせを行いました。返答があるまでしばらくかかると思いますので、しばらくお待ちください』

「しばらくって、どのくらい?」

『最短でも数時間。時間がかかった場合明日になると思われます』

「そっか。じゃあ今日はこのままフライトをして、明日確認しよう!」

『了解しました』


 すぐにも返答が欲しかったところだが、来ないのであれば仕方ない。

 アスカはフライトアーマートゥプクスアラを装備したまま、千近くまで増えたギャラリーの視線の中再度離陸を行った。



 そして翌日。

 学校を終え帰宅すると、制服から部屋着に着替えすぐさまログイン。


 いつものように畑でハルと共に魔力草の採取などを行いながら、昨日の問い合わせの回答があったのかをアイビスに問いかけた。

 すると。


「えっ、返信来てるの!?」

『……はい』

「あ、あれ? アイビス、なんか元気ない?」

『私はAIです。機嫌と言う物を持ち合わせていません』

「で、でも」

『持ち合わせていません』

「あ、はい……」


 明らかに機嫌が悪そうなアイビスを他所にハルと畑仕事を進めることしばらく。

 運営からの回答について話があるという事なので、畑をハルに任せミッドガルへ移動し、街の外へと出る。


 一番使い勝手の良いトゥプクスアラを身に付け回答を聞こうとするも、今度は『人気のないところに移動してください』というアイビスの希望でさらに移動。

 離陸し、周囲にランナーの影がないところまで移動した。


「ねぇアイビス、どうして人気のないところまで移動を?」

『アスカ以外に聞かれると問題が発生する恐れがあります』

「え、それって……」

『昨日のデコイの支援AIについての問い合わせですが、可能という返事が返ってきました』

「本当!?」

『……なんという事でしょう』

「ア、アイビス?」


 運営曰く、デコイを操作するAIは発生時決められた行動パターンをランダム構築する物であり、構築前にアイビスがデコイにアクセスすれば問題なく操作できるようになるという。


「あれ、じゃあ意外と簡単……?」

『難しいか否かと問われますと、そこまで難しい物ではありません。ですが、これはゲームバランスが崩壊する恐れがあります』

「どういう事?」


 いわば、これはシステムの穴を突くような事であり、本来ならばグレーゾーンの行いなのだ。

 むしろ黒の方が近いだろう。

 何よりの問題は知能の低いAIのデコイを高度な思考判断が出来る支援AIが行えてしまうという事。

 それはもはやただのカカシであるデコイではなく、分身に近い。

 耐久が極めて低いという欠点は持つが、レーダーの反応や姿かたちが瓜二つなデコイが、ランナーと同じ動きで機敏に動き回る。

 どちらがデコイなのかなど、もはや発動した本人しかわからないのだ。


『ですので、この手法は飛行訓練、ないしはモンスターを相手にするときのみ使用してください』

「うん、了解だよ!」


 これをPlayer VS Player、PVPで使用すると使われた相手が一方的に不利になってしまう。

 一対一だと思っていたらいきなり相手が分身して襲ってくる事と同意なのだから。


 無論、アスカはそんなことをする気はさらさらなく。

 出来ると知って笑顔満開。

 にこにこ顔でアイビスの使用条件を受け入れたのであった。



 なおこのグレーゾーンのデコイ操作法。

 アイビスが出した問い合わせをたまたま居合わせたどこかのチートオブチートが発見。

 メサイアを鼻歌で歌いながら確認したところシステムに穴があるのを見つけ、GOサインを出したのである。


 その後、室長ら運営開発スタッフが知った時にはすでに時遅し。

 頭を抱え机に突っ伏していたいうのは、また別の話。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまり千代田から発艦してしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] 画面全体が見える二次元の対戦ゲーで直進するデコイが2秒程度出るだけでも普通に強かったりするから、3次元機動できるフライトでそれすると、死角作れて強そう
[気になる点] このような方法でデコイを使うために支援AIが必要な訳で、なら訓練以外のときこの方法を使うとAIから警告を出して、協力しなければ良いでは
[一言] フライト狂いの開発とフライト狂いのプレイヤーの板挟みで、支援AIから順調にルートを外れていくアイビスは怒っていい
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