12 新型フライトアーマー性能試験Ⅱ
新型フライトアーマー、どんどん行きます。
あとがきに用語解説を追加。
「アイビス、次行くよ、次!」
『はい』
「つぎは……よしC-75にしよう!」
カマンの試験飛行で墜落死、ミッドガルのポータルで復活したアスカは再度街の外までやってきていた。
遠目でこちらを見ているランナー達など御構い無しに、たくさんある新フライトアーマーの試験飛行を再開する。
次に試すのはTierⅡC-75。
頭文字の『C』cargoの示す通り輸送型。
エグゾアーマーツリーの解説にも『機動力を落とし輸送能力に特化させた機体』という解説が入っている。
「じゃあいくよ、装着!」
アスカの声に反応し、足元に魔法陣が出現。
勝手知ったるエグゾアーマーの装着シークエンスが開始される。
体が僅かに浮き上がり、半透明のエグゾアーマーシルエットが表示され、実体化。
再度地面に降り立った時にはフライトアーマーTierⅡ、C-75を装着した状態で立っていた。
「これは……確かに大型だね」
今までフライトアーマーは素早く飛ぶ事を目的とし、エグゾアーマーのフォルムもスリムな物がほとんどだった。
それに対しこのC-75。
まず一目でわかる違いは脚部。
同Tierである翡翠の倍はあろうかという太さを誇り、腰部、胸部の物も大型。
腕も明らかにに太くなっている。
全体のイメージとしてはソルジャーアーマーとアサルトアーマーの中間か。
これだけでも大きく違うが、背部のフライトユニットはさらに変貌を遂げていた。
主翼形状はテーパーだが、長さは同格翡翠、フルカスタムアーマー飛雲のそれよりもさらに長く、大型。
その大きな翼の下にレシプロエンジンが左右に一機ずつ、計二機が懸架されている。
翡翠、飛雲であればフライトユニットは速度域、状況により高速、巡行、攻撃と姿勢を変更できるようになっていた。
が、C-75の主翼の根元はウェポンコンテナのようなバックパックに直付けされており、ボディフレームに直結。完全に固定されている。
取り付け角は体に対し80°となる攻撃姿勢。
一番飛びやすく、かつ一番安定性の高い姿勢だ。
「うん、やっぱり輸送型とだけあってずっしり来るね」
『アスカ、インベントリを確認してください。枠が広がっているはずです』
「枠? ……あ、すごい! スロットが20もあるよ!」
機動力を全て削ぎ落し得られたのが通常フライトアーマーの倍に当たる20というインベントリ枠数だ。
大型化した各部に加え、背部ウェポンコンテナにもアイテムを搭載できるようにし、大型の主翼とエンジンで積載荷重を大幅に向上させているのだ。
「さすが輸送型だね! じゃあ、飛ぶよ!」
搭載能力は分かった。ならば次は飛行能力だと、エンジンをスタートさせ走り出す。
「想像はしてたけど、やっぱり上がらない!」
『大型輸送機ですので、滑走距離は翡翠などよりは伸びます。注意してください』
「なんの! レイバードに比べたら!」
回転数を最大に上げてもなおなかなか離陸しないC-75。
飛雲や翡翠しか知らない頃のアスカであれば動揺しただろうが、今ではそれ以上に離陸に難をもつレイバードを知っている。
アレに比べれば、程よい速度で攻撃という走りやすい姿勢のC-75は優等生。
足がもつれることなく走り続け、大空へと舞い上がる。
「離陸成功!」
『お見事です、アスカ』
エンジンは最大にしながら、そのまま上昇。
高度を稼いだところで体を傾け、旋回飛行。
「うわ、反応が鈍い! やっぱり輸送機だね」
『戦闘機動が取れる機体ではありません。安定飛行を心がけてください』
「了解。でも、これくらい……ならっ!」
水平飛行に戻し、急上昇。
体が真上を向くとそのまま後ろへ倒れ込むように回り、再度水平飛行へ。
リアルでは航空ショーでもなかなか見られない貨物機によるループ機動だ。
「なんだ、出来るじゃない!」
『無理しすぎです、アスカ。危うく失速するところでした』
「その時はその時! よし、じゃあ着陸して次を試そうか!」
鈍足のC-75はお気に召さなかったのか、ループ機動を行ったアスカは地上へのアプローチを開始。
いつものようにミッドガル周辺の空き地に着陸し、エグゾアーマーを解除した。
心なしかギャラリーが増えているような気がするが、もちろんアスカは気が付かない。
「よし、じゃあ次だ!」
『どれにしますか?』
「ターボプロップって言うのを試してみよう!」
『ポラリスですね。了解しました』
「いくよ、アイビス。エグゾアーマー、装着!」
C-75のエグゾアーマー解除から時間を置かず、すぐさまTierⅣターボプロップ機ポラリスを装着する。
足元に魔法陣が出現、わずかに浮き上がり、ポラリスがシルエット表示。
実体化し、アスカは再度地面に立つ。
「ふおぉ……これは……いいね!」
ポラリスは乙式三型から続くプロペラ機の系統だ。
プロペラを回す動力源がレシプロエンジンからターボプロップ、ガスタービンエンジンへと変更されているのが最大の特徴。
乙式三型、翡翠と続く推進式のエンジン、プロペラ配置は継続。
代わりに主翼形状がガル翼となり、垂直尾翼が左右の主翼に一枚ずつ配置されている。
そしてボディーアーマーはそれまでの戦闘的なものから一新。
乙式三型の試作のようなゴテゴテ感、翡翠の洗練された戦闘的なスタイルとは打って変わり、流線を基調としたスポーティなフォルムになっていたのだ。
ボディーカラーも白一色。
清楚感を打ち出し、頭部には整流を意識したのかヘルメット装備。
角の一切ない流線エグゾアーマーはぱっと見では軽量ソルジャーアーマーとも見て取れる。
傷一つなく、鏡のように風景をも反射する綺麗なエグゾアーマーに、アスカは重わず心を震わせる。
勝手知ったる推進式プロペラ機。これを期待せずして一体何に期待しろと言うのか?
「これは最高だよアイビス!」
『お褒めいただき、ありがとうございます』
「よし、それじゃあいくよ!」
ポラリスもC-75やレイバード同様主翼の角度変更機構はオミットされ、ボディアーマー直付けになっている。
角度は体に対し45°ほどの巡行。
滑走に難を抱えるレイバードと同じ角度ではあるが、軽量スマートなポラリスに不便はない。
腰を屈め、エンジンスタート。
そこでアスカは今までの乙式三型、翡翠、飛雲との違いを実感する。
今までは車のエンジンをかけるかのようだったエンジン始動が、レイバードのジェットエンジンと同じく「ヒュウゥゥン」という低い回転音が甲高くなっていくものに変化していたのだ。
そして回り始めるプロペラ。
ポラリスのプロペラは四枚羽の物が一枚。
これがエンジン音と共に回転数を上げ、アスカの体を押し出してゆく。
「お? お、おぉ!?」
滑走数歩で分る、ポラリス、ターボプロップのパワー。
翡翠はおろか、フルカスタムフライトアーマー飛雲よりも力強い加速を一身に受け、離陸へ向けて走り続ける。
するとすぐさま足が感じる自重の重さが減ってゆき、アスカは大空へと舞い上がった。
「す、すごい! もう離陸できたよ!」
『ターボプロップになり短距離離陸能力が大きく向上しています』
「なるほど! よし、これなら!」
C-75とは比べ物にならないパワーに心を震わせながらさらに上昇。
十分に高度を取ったところで機動飛行を開始する。
まず基本のエルロンロール、続けてバレルロール、加速してスナップロール。
続けてループ機動からのキューバンエイト。
どれも素直な応答性を誇り、洗練された機動性はアスカを持ってして深く頷かせる。
「すごいね……何もつけてない飛雲と同等かそれ以上だよ」
『これに関しては飛雲の性能が良すぎます。TierⅣに近い機動性をもつTierⅡエグゾアーマーはオーバースペックと言わざるを得ません』
「さすがロビンさんだね。よし、もういっちょ!」
勢いに乗ったアスカはピッチアップ、急上昇しながら右ロールを行う。
これはブルーインパルスの曲技飛行でもある『バーティカル・クライム・ロール』。
この機動によりみるみるうちに速度が減少。
ブルーインパルスの曲技では失速する前に機首を下げ離脱するが、アスカはそのままループを続ける。
そしてさすがのターボプロップも翼が揚力を維持できるだけの速度を出せなくなり、失速。
ここで単純に急降下しないのがアスカだ。
完全に失速、速度も失った状態で空中静止。
姿勢そのままで後ろ向きに落下する。
これも『テールスライド』と呼ばれるれっきとした曲技飛行であり、しばらく後ろ向きで降下した後エレボンを操作。
体を下へ向け主翼に落下による風を当てる。
ターボプロップの推力も合わさり、翼が揚力を生み出し失速状態から回復。
操作を取り戻したアスカは再度ロール機動を開始。
地上へ向け一直線に降下しながら行う回避機動『ダイブアンドズーム』を行う。
地上が限界まで近づいたところでピッチアップ。
アスカの航空ショーを観覧していたランナー達の頭上を掠め、加速しながら離脱する。
「うん、応答性もバッチリ! この子は翡翠の正統進化型だよ」
『ジェット戦闘機型は速度ではポラリスを圧倒しますが、低速域での運動性はポラリスでも十分勝負になります』
「やっぱり軽いってのは有利なんだね」
アイビスとポラリスの感想を言い合った後、平地を見つけて着陸のアプローチを開始。
着陸姿勢を取りながら減速、両の足を地面に付け、軽く土埃りを上げながら滑走、停止する。
「着陸成功!」
『ナイスランディング』
「へへっ、このくらいならなんてことないよ。エグゾアーマー、解除!」
ポラリスを十二分に堪能したアスカはエグゾアーマーを解除。
足元に魔法陣が出現し、装着とは逆の手順でエグゾアーマーは外れて行く。
「よし、これで残るは二つだね」
『TierⅣ制空フライトアーマーは速度重視型の彩光、機動重視型のトゥプクスアラになります』
「ならまずは速度型を試そうか!」
『了解しました』
「じゃあ、行くよ。エグゾアーマー装着!」
度重なるエグゾアーマー装着もなんのその。
本日五個目の魔法陣が出現し、アスカの周囲にエグゾアーマーのシルエットが現れ、実体化してゆく。
そして魔法陣が消え大地に降り立った時には、フライトアーマーTierⅣ彩光を装備したアスカの姿があった。
「こ、これが彩光……」
『機動力を削り、速度、加速力に力を入れたフライトアーマーになります』
このエグゾアーマーを装着したアスカの印象は『異様』。
同じジェット戦闘機モデルであったレイバードからは様変わりしていたのだ。
試作型の雰囲気を隠そうともしなかったアーマーから一新。
度重なる試験と検討を繰り返したのであろうデザインは、レシプロとして完成されていた翡翠同様洗練されている。
細いながらもしっかりとした脚部に、無駄を徹底的に省いた腰と胸部アーマー。
徹底的に軽量化を行ったこれらに相反し、腕部アーマーは翡翠やレイバードよりもがっしりした造りになっている。
アイビスによればこれまで不足していた射撃反動制御機能と剛性を強化した結果だという。
純正彩光では肩部アーマーがあるが、アスカはこれを視界確保の為オミット。
飛雲同様二の腕部分のサークレット状の増槽にカスタムしている。
そして、目玉となる背部のフライトユニット。
速度重視の名のもと、大型単発のエンジンが翡翠同様フライトユニット中央に座し、エンジンフレームカバーの左右から後方へ角度を付けたやや短めの後退翼。
垂直尾翼は翡翠同様、中央のエンジン上部から伸びている。
このフライトユニットを体に対し10度ほどの角度を付けて取り付ける、飛雲で言う『高速姿勢』で固定し取り付けられていた。
「すごいね、レイバードより実戦向きって言う感じがする」
『乙式三型、翡翠、レイバードの飛行データを元に、速度を重視し再設計したものになります』
「ふふっ、あの子たちの発展系って考えると嬉しくなっちゃうね、よし、じゃあ飛ぶよ!」
彩光の造形を堪能したアスカは路面の凹凸が少ない場所に移動、腰をかがめて陸上のクラウチングスタートのような姿勢を取った。
久しぶりの用語解説
ループ
空中に縦の円を描く宙返り機動。
ターボプロップ
基本的な構造はターボジェットエンジンと同じ。
が、ジェットエンジンが燃料を燃やした後の燃焼ガスの噴出が推進力なのに対し、ターボプロップはエンジンに取り付けられたプロペラが主な推進力となる。
考え方としてはレシプロの4サイクルガソリン(ジーゼル)エンジンがそのままターボジェットエンジンに置き換わったと考えてよい。
現在航空旅客、軍用機としてプロペラが付いている物は全てターボプロップであり、レシプロエンジンを使用しているのは小型セスナ、エアレースなどの競技用、そして大戦時からの残存機くらいである。
ガル翼
ガルウイング、カモメの翼という意味。
機体に対し斜め上向きに取りつけられた主翼を途中で曲げると言う特徴的な形状をしている。
自動車でドアが上に向かって開くタイプをガルウイングと呼ぶが、それと同じ意味。
これに対し主翼が機体に対し斜め下に向けて取り付けられた物を逆ガル翼と呼ぶ。
主に大戦時の攻撃機、雷撃機に採用され、胴体下に出来たスペースに爆弾や増槽を積んだ。
代表例として魔王が愛したJu 87 シュトゥーカ、艦これでおなじみ流星が逆ガル翼の機体である。
エルロンロール
機体の前後を軸として左右に回転させる『エルロン(補助翼』、ないしは『エレボン』を操作し、機体を横一回転させる航空機動。
この時進行方向に対する位置(高度、左右)は変わらない。
バレルロール
『エレベーター(昇降舵)』と『エルロン(補助翼)』、ないしは『エレボン』を同時に操作し行う航空機動の一つ。樽の内側をなぞるように螺旋機動を取ることからこの名が付いたとされる。
エルロンロールと違い、進行方向と高度はそのままに、機体位置が左右にズレる。航空機が行う側転のようなもの。
スナップロール
水平状態から『エレベーター(昇降舵)』、ないしは『エレボン』を操作し急激なピッチアップを起こすと同時に『ラダー(方向舵)』を操作。片翼を故意失速させ急速度のバレルロールのような機動を行う戦闘機動。
急機動な上に速度が大きく落ちるため、背後に着いた敵機を追い越させる『オーバーシュート』を狙う。
ジェット戦闘機でも可能とされるが、発生する強烈なG(負荷)に人間が耐えきれず、また速度を犠牲にするデメリットが大きいことから一般的には使用されない。
動画がyoutubeなどにあるので、この解説では分からないという方は是非。
バーティカル・クライム・ロール
本編にある通り、垂直上昇しながら右ロールを行う曲技飛行。
上昇しながらのロールは速度の逸失が激しく、失速の危険を伴う。
航空自衛隊曲技飛行隊ブルーインパルスの課目の一つ。
youtubeに動画が大量にある。
テールスライド
ハンマーヘッドターン同様、上昇から空中で一時静止するまでは同じだが、ヘッドターンが180度反転して落下するのに対し、テールスライドは上を向いたまま失速、空中でバックするような形で落下する。
ダイブアンドズーム
背後に付かれた敵機を振り切る為急降下。
降下中にロール機動などで敵の攻撃を躱し、相手が上昇するのと合わせてこちらも高度を上げ、敵機を背後から引きはがす回避機動。
言わば急降下で行うバレルロール。
急降下するという関係上一定以上の高度が必要、かつ機体も強烈なGに耐えきれないといけないなど制約が多い。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
うれしさのあまり瑞鳳より発艦してしまいそうです!