11 新型フライトアーマー性能試験Ⅰ
お待たせいたしました、アスカの所属クラン判明とTierⅣフライトアーマーです!
アスカがクラン加入を決めてから数日。
もはや街より居心地がよくなった薬草畑の一角に設けたラウンジに、アスカとファルク他数名の姿があった。
「ではリコリス1、いえアスカ。以上が私のクラン『グリュプス』の概要です。ご理解いただけましたか?」
「うん、わかったよファルク」
「ようこそ私達のクランへ。歓迎するわアスカ」
「……うむ」
先日、アスカが加入を決め連絡を入れたのはファルクだった。
アスカなりにいろいろ考えはしたのだが、クロムのクランであれば知り合いはクロム一人だけ。
フランやスコップの商会系クランも同様、メラーナ達やホロのクランはリアル友達の仲良しクランであり自分はどう考えてもよそ者。場違い感がぬぐえない。
見ず知らずの人物が立てたクランなどもってのほか。
自分でクランを立ち上げるなど考えもしない。
消去法に近い形ではあるが、ファルクのクランであればプレイ開始初期からのフレンドであるアルバや同性のキスカが居てくれるうえ、ファルクを筆頭にイグや愉快な仲間たちなど顔見知りが最も多いなど、アスカにとってはこれが最適解だったのだ。
「先日は騒動を抑えるためすぐに告知、運営にも連絡を入れる仮加入としましたが、今この時点で貴女を加入とします」
「はい、よろしくお願いします」
まだクランシステムは実装されていない為、ここでの話は口約束になる。
無論、ここので約束を反故にすることもできるが、当然アスカにそんな気はない。
「ふぅ、これでひと段落尽きましたね」
「迷惑かけてごめんね、ファルク」
「いえ、気にしないでください。大事な事ですから」
「そうそう。この後のもろもろはこっちでやっておくから、アスカは自由にしてていいよ」
「何かあれば……アイビス、頼むぞ」
『了解しました』
ファルクの言葉に続いたのはキスカとアルバ。
アスカとファルクの友人であり、クラン加入の保証人として立ち会ってくれていたのだ。
そんな中、キスカが言い放った『この後のもろもろ』という言葉に引っ掛かりを覚えるアスカ。
私がクラン入りしたらそれで終わりじゃないの?
と首を傾げるが、その問いに答えるものはなく、ファルク達はアスカへの挨拶を済ませると薬草畑を後にした。
そんな薬草畑から村への帰り道。
ファルクは大問題が一つ片付いたと安堵していた。
「これで彼女への勧誘はほぼなくなるでしょう」
「代わりに俺達……クラマスのファルクに矛先が向くが、大丈夫か?」
「えぇ。この程度問題ありませんよ」
「加入申請も殺到してるし、何とかしなきゃね」
先日のアスカの加入告知以後、ファルクのもとには大量の加入申請が舞い込んでいる。
その数はアスカの加入決定以前に加入予定だった人員をはるかに上回り、正規のクラン定員を軽々と超え、運営が告知していた『クラン定員人数増加枠』を使用しても遠く及ばない。
中にはアルディドのほかヴァイパー2、ヘイロー1、ヘイロー2の名前まである。
おそらくはアスカを慕う掲示板のフライトアーマースレの住人、アスカと共に空を飛びたいと願う層が大多数を占めるのだろうが、これを全員受け入れることは不可能。
他にも『縁故採用』『不正引き抜き』『リコリス1と知り合うのがちょっと早かっただけで全てを持っていったクソ野郎』『リコリス1を寄越せ』など暴言、脅迫に近い事を言われている。
だが、そこは他ゲームでもクランマスターを歴任してきたファルク。
あまりにひどい物は通報し、それ以外には聞く耳を持たず、冷静に対処していった。
「覚悟はしてましたが、あの加入申請の多さは驚きましたね」
「何か策はあるのか?」
「くじなんてふざけた真似じゃあみんな納得しないわよ?」
こういった加入申請は先着順だったりもするが、ファルク達のクラン『グリュプス』が目指すのはトップクラン。
ある程度実力を見極め、能力があるものを採用したいのが本音だ。
「それについてはアルディドと詰めますよ」
「こちらから声をかけた者たちは?」
「アスカ、リコリス1加入の報を聞いて前向きになりました」
「うーん、これどう考えても罵詈雑言のデメリットより加入するアスカのネームバリューから来るメリットの方がデカいわね」
「ふふふ、これまでで最大のクランになりそうな予感がしますよ。私としたことが、つい笑みがこぼれてしまいます」
そう笑うファルクの声は低く、どこぞのデスマーチ運営開発室の面々同様、悪魔の笑顔の様相を呈していた。
なお、その後フライトアーマーの使用をメインとするクラングリュプス加入希望者達へ提示された条件に、フライトアーマースレに衝撃が走ったという。
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ファルク達との会合を終えた翌日。
学校が休みだったアスカは朝の家事を終えるとゲーム内時間が夕方になる前にログイン。
ミッドガルにあるダイクのエグゾアーマーショップに来ていた。
その目的はもちろん……。
「ダイクさん、フライトアーマー受け取りに来ました!」
「おっ、来たな嬢ちゃん」
そう、ダイクに頼んだ大量のフライトアーマーの受領である。
「カマンを筆頭に五つ、全部できてるぜ」
「わぁ、ありがとうございます!」
満面の笑顔を咲かせるアスカに、ニコニコのダイク。
新たなフライトアーマーが五つも手に入ったアスカに、利益率の高いエグゾアーマー製造が五つも一気に来たダイク。
どちらにとっても美味しい話であり、まさにウィン・ウィンだ。
「使用方法は嬢ちゃん相手にゃ無粋だな。大事に使ってくれよ」
「はい、ありがとうございます!」
エグゾアーマー一式を受け取り、収納。
ダイクへ頭を下げてショップを後にすると、一目散に町の外まで駆けだした。
道中、すれ違うランナー達からイベントで一躍時の人となったリコリス1がいる、と物珍し気な視線を集めながらいつものように門から外のフィールドへ。
人気の少ない場所まで走り、メニューからエグゾアーマーガレージへ。
「ふふふ、より取り見取り!」
『楽しそうですね、アスカ』
「うん! ようやく新しいエグゾアーマーが試せるんだから、こんなに楽しい事はないよ!」
カマン、ポラリス、彩光、トゥプクスアラ、C-75。
C-75こそTierⅡだが、ほかは全てTierⅣのフライトアーマーだ。
苦行とも言えるレイバードを乗り越えた先にある新しい翼たちに、アスカのテンションはメガマックス。
「よし、セット完了! エグゾアーマー、装着!」
真剣な笑顔のままガレージに三つのニューフライトアーマーをセットし、装着を叫ぶ。
同時に今まで同様足元に魔法陣が出現、体が僅かに浮き上がりエグゾアーマーの装着シークエンスが開始される。
その間、僅か数秒。
アスカが再び地面に脚を付けた時には、機械の鎧であるエグゾアーマーと空を飛ぶための力、フライトユニットが装着されていた。
「ふむふむ、体の部分はあまり変わらないね」
フライトアーマーの骨格となるのは、やはり背部のフライトユニットだ。
故に、ボディアーマーとなる部分にはそこまで大きく手が入ることはない。
「そして背中の……うん、やっぱり主翼がないんだね」
フライトアーマーをフライトアーマーたらしめる背面のフライトユニット。
今までの乙式三型、翡翠、レイバードと全て主翼とエンジンを搭載する純粋な飛行機としての形状をしていた。
しかし、今アスカが装着した『カマン』は方向性が大きく変わっている。
揚力を生み出すはずの主翼が無くなり、代わりにと言わんばかりに配置されているのが地面に対し水平になるように取り付けられた二枚の大きなローターだ。
体のラインに対し左右に取り付けられ、ローターの縁は巻き込み防止のためか円形の安全板により保護されている。
メインエンジンは以前アイビスが言っていたようにガスタービンエンジン
「とりあえず飛んでみないとだね。ローターブレード、回転開始!」
アスカの言葉に呼応し、大きな二枚のローターが相互に回転を開始。
回転方向は同じではなく逆回転。大きなローターが生み出す反トルクを相殺する。
「おぉ、浮いた、浮いた!」
ローターが回転し、揚力を発生、アスカの体が地面から浮き上がる。
それは今までの滑走離陸となるフライトアーマー達とは違い、その場で浮き上がる垂直飛行。
地面から数十センチの位置で上昇を止め、その場で静止、ホバリングへと移行する。
その様子はまさに……。
「うん、やっぱりヘリコプターだよこれ!」
そう、フライトアーマーTierⅣカマンは二枚の大きな回転翼を持ったヘリコプターなのだ。
ヘリコプター最大の特徴はアスカが今行っているホバリング。
乙式三型や翡翠でも可能ではあるが、かなりの技術を要し、レイバードに至っては補助ブースターを使わなければ不可能なほどの高難易度の機動であるホバリング。
だが、回転翼により真下へ向け揚力を発生させるヘリコプターは労することなくホバリングが可能であり、滑走路を必要とせず閉所でも離着陸が可能なのだ。
そのまま垂直上昇を行い、体を少し倒して前後左右へふらふらと。
飛ぶ感覚が今までの物とは大きく違うため、さすがのアスカも慎重だ。
「これで……えぇっと……きゃっ!」
前へ倒れ込み、増速しようとしたところで姿勢を崩し、墜落。
幸い高度はそれほど高くなかった為墜落死は免れた形だ。
『墜落ダメージ甚大。残りHP13%。大丈夫ですか、アスカ』
「なんっっっのこれしき! もう一回!」
正面から墜落したため、ボディアーマーは損傷しているが背面のフライトユニットにはダメージがなかった。
Blue Planet Onlineをプレイし始めてからと言うのも、墜落を繰り返しながら空を飛んできたアスカなのだ。
この程度の墜落は墜落のうちに入らない。
「よっ、ほっ……っと」
二枚のローターをバランスよく回転させ、垂直離陸。
先ほどと同じような高さまで上昇し、前傾姿勢。
ローターが生み出す揚力の一部を推力とし、前へと進み始める。
「うん、いいね。次は……よっ!」
前傾姿勢を止め再度ホバリングによる静止状態に。
そこから今度は体を左へ倒してスライド移動、続いて右、最後に後ろへ倒して後退。
「オーケーオーケー。じゃあ次は……」
前後左右への移動を試し終えたアスカは、ホバリングに戻り二つのローターのうち片方の回転を弱める。
すると機体位置はそのままに、回転を弱めた方向へその場で回り始めた。
「やった、予想通り!」
『カマンは今までのフライトアーマーとは特性が大きく変わっていますが、さすがですねアスカ』
「ふふん、これくらいお手のも、にょおおぉぉぉぉぉ!?」
調子に乗り、右回転から左回転にしようとしたところでローターの出力バランスを崩し、墜落。
背中から衝突音を響かせると同時に土埃を巻き上げる。
瞬間、先ほどの墜落で減っていたHPが一瞬にしてゼロとなり、アスカは光の粒子となって消滅したのだった。
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うれしさのあまり祥鳳から発艦してしまいそうです!