5 魔導石とフライトアーマー発注
当初の予定よりはだいぶ遠回りしてしまったが、アスカは魔導石の使い方のレクチャーをフランにお願いする。
フランも魔導石を使うことはないだろうと思っていたアスカが自分に教えを乞うとあってフルテンション。
ニコニコの笑顔で対応してくれた。
「ふふふ~、アスカの最初の魔導石は何かな何かな~ってわお! 【デコイ】ときたもんだぁ!」
ニコニコ顔だったフランの笑顔がアスカの持つ魔導石を見た瞬間驚愕へと変わる。
それほどまでに【デコイ】を使うランナーと言うのは少ないのだ。
「アスカ、よりにもよってなんでコレなんだぃ?」
「ちょっと試してみたいことがあって」
「ふむふむ、アスカらしいねぃ。アイビスちゃんも大変だぁ」
『まったくもって』
「い、いいじゃない! 出来なかったらそこまでなんだからさ」
フラン、アイビスの両名から揶揄われ、腕を組んで不貞腐れるアスカ。
そんなアスカをなだめながら、フランは表情を切り替えて説明に入る。
「うん、じゃあ魔導石なんだけど、エグゾアーマーに魔導石スロットがあるんだぁ。そこにこれをはめれば使用可能になるよぉ」
「魔導石スロット? そんなのあったかな……」
『フライトアーマーでは魔導石スロットがあるのはTierⅣからになります』
「そうなの!?」
フライトアーマーは製作者古田管轄のため、他のエグゾアーマーとはツリー発展の仕方が他と大きく異なる。
その為他エグゾアーマーではTierⅠ、Ⅱから存在する魔導石スロットが、ツリー本番となるTierⅣ以降にしか存在しないのだ。
「うん、魔導石スロットは分かった。で、肝心の魔導石は?」
「魔導石をジーッと見つめているとアイコンが出るから、ちょっとタップしてみ?」
「んー……あ、出た。で、これをタップして……え?」
フランに言われるまま、魔導石を見つめる事数秒。
魔導石に【デコイ】と書かれたテロップが出現し、タップする。
すると『育成方針を設定してください』と書かれたテロップが表示され、文字の下に『オート』『セミオート』『マニュアル』とどこかで見聞きした事がある三つの単語が浮かび上がっていた。
「フラン、もしかしなくてもこれって……」
「ふふふ~、その顔は説明不要だねぃ。その通りさぁ。もちろん、マニュアルがオススメだよぉ」
相変わらず満面の笑みを返すフランに、アスカは思わずアイビスに相談。
この問いに対する回答は……。
『育成方針は後から変更可能です。アスカが【デコイ】の魔導石で何がしたいのかはわかりませんが、とりあえずマニュアルにしてみたらどうでしょうか?』
との事だ。
ふむ、とアスカは考え込む。
少なくともこれからやろうとしている事は、正規の使い方でないだろうことは想像がついている。
出来る、出来ないは置いておくとしても、細かくいろいろと設定できるであろうマニュアルのほうが都合がいい。
分からない部分はアイビスとフランを頼り、それでもだめならばオートやセミオートにすればよい。
そう判断したアスカは『マニュアル』をタップ。
すると画面が変化し、MP消費、効果時間、耐久など多岐に渡る項目が記載され、文字の隣にレベルゲージのようなものが付いているではないか。
さすがにこれだけでは訳が分からす、アスカは慌ててフランを見る。
「ふふふ、その顔が見たかったのさぁ」
いつも笑顔の絶えないフランだが、アスカが思惑通りの顔をしてくれたとより一層明るい笑顔を向けてくれる。
そして。
「じゃあ、アイビスちゃんと一緒に教えて進ぜよう!」
「うん。二人とも、お願いね」
『了解しました』
そこから始まる、フランとアイビスのなぜなに魔導石。
実は『Blue Planet Online』における魔法、魔導石にはレベルがある。
アイテムは品質、武器とエグゾアーマーはTier、スキルはレベルだが上限はⅩと言われている中、魔法を放つ魔導石だけはレベル1~999と言う概念で育つのだ。
そしてアスカの目の前に表示された多岐に渡る項目。
このレベルゲージに魔導石がレベルアップ時に蓄えたポイントをそれぞれ振り分け、該当項目の能力を伸ばし育ててゆく。
マニュアルで育てた魔導石は文字通り、育て上げたランナーだけのユニーク魔法となるのだ。
「……つまり?」
「同じ【ファイアーボール】でも、低威力長射程低燃費型と、高威力短射程高燃費型みたいに育て分けられるのさぁ」
「す、すごい!」
『魔導石は三つまでパターンを登録できます。これにより戦術に幅を持たせることが可能です』
「えっと……?」
「つまりだねぃ……」
アスカの問いに、フランが答える。
【ファイアーボール】魔導石の威力、射程、リキャストタイム、MP消費を育てていた場合。
一つ目は高威力、短射程、リキャスト中、MP消費大の近距離型。
二つ目を中威力、中射程、リキャスト短、MP消費小の中距離型。
三つ目が低威力、長射程、リキャスト長、MP消費中の遠距離型。
と言うように一つの魔導石で三つのバリエーションが持てるのだという。
当然これは魔導石に割り振ったポイントの中での話。
もちろん制約はある。
威力と射程の上昇に比例してリキャストタイムとMP消費は悪化。
逆にリキャストタイムとMP消費を下げると威力と射程が犠牲になる。
【ファイアーボール】を例にすれば、威力や射程の他は弾速、爆発範囲、火球直径、重量、貫通力などの項目がある。
これらはそれぞれが複雑にリンクし、どこかを上げればどこかが下がり、逆にどこかを下げればどこかが上がる相互関係。
あらかたの項目で共通するのは、高性能化すればするほどMP消費が増えて行く事だろう。
高威力高性能の魔法攻撃を低燃費では撃てないのである。
「……という事だぜぃ。ドゥーユーアンダスタン?」
「うん、だいたい分ったよ!」
なお、育成オートは運営が用意したテンプレートに沿って勝手に育成ポイントが振り分けられ、セミオートなら威力重視、射程重視などの大まかな方向性を決められる。
「じゃあ、改めてアスカの魔導石を見ようかぁ」
「うん。えっと……あれ、レベルが既に20だよ?」
『イベント報酬ですので、すぐに使える様ボーナスが入っています』
「なるほど……じゃあ」
視線を目の前にある【デコイ】のステータスが表示されている画面に戻す。
すると……。
「えーっと、効果時間。これだね。えいえいえいえいえいえいえいえいえい」
「ちょちょちょちょちょちょ、アスカさん、アスカさん!?」
『……アスカ、何をしているのですか?』
「何って……ポイント振り分けだけど?」
「まさかの効果時間極振りぃ!!!」
予想だにしないアスカのこの所業に、フランは作っていたキャラも忘れてツッコミを入れる。
「アスカ、効果時間を延ばすのは良いんだけどさぁ、【デコイ】の耐久は知ってるよねぇ?」
「うん、アイビスから聞いてるよ。ハンドガン一発で消えちゃうんでしょう?」
「にゃ、にゃら、効果時間はその……あんまり意味ないんじゃないかにゃあ?」
「いいのいいの。これも計画だから」
『了解しました。さすがに効果時間極振りではMP消費が大きすぎるので、そちらにもポイントを振ってください』
「アイビスちゃん、良いのかにゃあ……?」
『こうなるとアスカは止められません。方向性だけは尊重し、それを補助するのが最善です』
「アイビスちゃん……さすがアスカのパートナーだわぁ」
何とか止めさせようとするフランに対し、アイビスはアスカの行為を肯定。
効果時間を延ばす方向に舵を取る。
結局、ポイントのほとんどを『効果時間』の項目に振り分け、代償として激増した『MP消費』を『効果時間』に影響が出ないレベルで消費を下げる。
もともと補助魔法である【デコイ】にはポイントを振り分けられる項目が少ない事もあり、魔導石のカスタム作業を終了。
その後はフランと他愛のない話を交わし、魔導石スロットのあるTierⅣのエグゾアーマーを製造するべく、ダイクの店へ向かうのであった。
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「ダイクさん、こんにちは!」
「おう、嬢ちゃんじゃねぇか」
店の扉を開て放ったアスカの声に応じたのは奥の売り買いカウンターで頬杖をついていたの店主であるダイク。
褐色肌に筋肉質、スキンヘッドに顎髭と言う、パッと思いつく職人のイメージそのままの人物だ。
いつものようにカウンターで暇そうにしているダイクへ挨拶を飛ばすアスカ。
当然ダイクもこれに応じ、アスカがカウンターまで近づいてくるのを待ってニヤリと笑う。
「嬢ちゃん、聞いたぜ。大活躍だったらしいじゃねぇか」
「えっ、何のこと?」
『イベントの成績です。ランナー達のランキングは上陸作戦の貢献度としてNPC達に共有されています』
「おうよ。見たらわかるぜ嬢ちゃんプレミアムランナーじゃねぇか」
「あー……そう言うのもありましたねぇ」
アスカに自覚はないが、イベントの上位報酬としてプレミアムランナー日数が加算されている。
これによりダイクを含めたNPCでの売り買いにボーナスが入るようになったのだ。
贔屓の客であるアスカがプレミアムランナーになったことが嬉しいのか、はたまた上位成績を収めたのが嬉しいのか、ダイクはいつも以上に愛想のいい顔でアスカに対応する。
「で、今日は何の用だ?」
「はい。フライトアーマーを作ってもらいに来ました」
「お、ついに来たか。次はどれにするんだ?」
「えっと、C-75にカマン、ポラリス、彩光、トゥプクスアラ……」
「おいおいおいちょっと待て!」
アスカが次々に述べるフライトアーマーの名前に、ダイクが慌てて待ったをかける。
通常、エグゾアーマーを一気に大量発注などありえず、それをフライトアーマー一種のみでなどまさに狂気の沙汰だ。
それまでの笑顔は何処へやら。
ダイクの表情には焦りと困惑が見て取れる。
もっとも、当のアスカはそんなことなど気にする様子もなく、先ほどのフランの慌てた様子を思い出していたのだが。
「嬢ちゃん、今言ったやつ全部フライトアーマーだぞ!? しかもそんな大量に……素材と金、設計図はあんのか?」
「もちろん! 私を誰だと思ってるんですか!」
待ってました、と言わんばかりに胸を張り、インベントリに収納していた各素材を一気に取り出し、カウンターの上へ。
同時にエグゾアーマーツリーから開発終了したフライトアーマーの設計図全種を実体化、ドヤ顔でダイクへと見せ付けた。
「どうですか! 勿論お金も用意してありますよ!」
「こ、こいつぁすげぇ……さすが上陸作戦MVPなだけはあるな、嬢ちゃん」
アスカが取り出した大量の素材に目をぱちくりさせるダイク。
普段から素材や設計図を扱っている彼だがこれだけの量をたった一人から、それも一種類のエグゾアーマー系統のみで使うなど異例中の異例である。
「それで、エグゾアーマーは作ってもらえますか?」
「おうよ。ダイク工房久々の大仕事にならぁな。しかし、良いのかい?」
「何がですか?」
「カスタマイズだ。素材と予算がありゃあそれぞれにいくつか改造を施せるぜ」
分かりやすいところで行けばやはり燃料タンクだ。
これらもすべて翡翠同様、主翼内部が空洞。
ここに燃料タンクを増設するだけでもかなりのMP上昇が見込まれる。
他にも飛雲のような偵察観測仕様、対地攻撃仕様など多岐に渡る。
「燃料! まずはMPを載せられるだけ載せてください!」
「がはは、そう来なくちゃなぁ。カスタマイズにはさらに追加で金と素材がいるが、大丈夫か?」
「あっ! そう言えば、ポイント全部使っちゃった……」
ダイクの問いにハッとするアスカ。
ロビンが翡翠を飛雲にフルカスタマイズしてくれたことはあったが、まさかダイクでもカスタマイズが出来るとは思っていなかったのだ。
そして、そんなことを気にも留めていなかった為イベントで得られたポイントは、素材、もしくは花々に変換させほとんど全て使い切っている。
また素材集めをしなくてはいけないのかとがっくり項垂れるアスカに、女神が舞い降りた。
『問題ありません。カスタマイズしても大丈夫なように、素材は多めに変換しています』
「そうなの!?」
さすがアイビス。
こうなることを事前に予測し、ポイントを素材に変換する際多めに発注していたのだ。
そうと決まれば、やることは決まっている。
その後アスカとダイクは時間の許す限りフライトアーマーのカスタマイズ談義を行った。
燃料タンクの位置はどうするのか?
主翼形状はどうするのか?
増槽は? 姿勢変化機構は? 補助ブースターは?
気付いた時には西日が出入り口と店内の窓から差し込み、他店が営業終了の準備をする時間になっていた。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告ありがとうございます!
嬉しさのあまり翔鶴から発艦してしまいそうです!
第二部開始がコミックになりました!
作画 茜はる狼様
大空に飛び立つアスカの笑顔、ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1414064463934750724




