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1 MVP授賞式

お待たせ致しました。更新再開です。

本日二話更新。

本話は一話目になります。


 大盛況のうちに幕を下ろした『Blue Planet Online』ファーストイベント『オペレーションスキップショット』。

 イベント終了後に行われたMVP授賞式や大型アップデートが終了してから数日。


 暦が九月となり、『Blue Planet Online』の世界も現実同様草木が赤みを増してゆく中。

 天高くひつじ雲が織りなす秋空に、複雑な螺旋機動を空に描く二つの影があった。


「くっ、早い!」


 二つのうち一つは先のイベントでリコリス1として地上を支援、友軍を勝利に導いた天上の花、アスカだ。


「見失った!? アイビス、アイツはどこ!?」

『…………』

「アイビス!? そうだった、今アイビスは……きゃあっ!」


 アスカを多方面からサポートする支援AIアイビス。

 そんな彼女にサポートを頼むが、なぜか返事がない。

 代わりにとばかりに降り注ぐは大量の銃弾。


 射撃音と曳光弾の大きさから口径の大きなものではないと推測されるが、装甲の薄いフライトアーマーではこれですら致命傷となる。


「上かぁっ!」


 銃撃された方向には当然射撃主がいる。

 アスカは顔面に弾丸が降り注ぐ恐怖も厭わず180度ロール。

 背面飛行へ移ると同時に両の手で持っていた愛銃、エルジアエを構え上空からの射撃主へ向け反撃を行った。


 チュチュチュチュンという軽快な連射音が響き、上空からの敵対者へ向け放たれる光弾。

 それは上からの銃弾と交差しながらアスカの敵へと襲い掛かる。


 だが、敵対者はアスカの放った光弾が到達するよりも早く射撃を終了。

 回避行動をとると、あちらこちらで浮かんでいるひつじ雲の中の一つへ身を隠す。


「にゃろう、なんて奴……」


 今はレーダー類を装備していないため敵がアイコン表示されない。

 有視界での空戦を余儀なくされているアスカは、逃げた敵対者を再度捉えるべく逃げ込んだ雲へと加速しながら近づいて行く。


 それが失敗だった。


「ッ!?」


 敵対者が逃げ込んだ雲へ入ろうとした瞬間、雲の中から光の塊が襲い掛かって来たのだ。


 アスカはエルジアエを盾代わりに防御。

 その甲斐あってか光の玉、弾丸はエルジアエに命中する。

 しかし、防いだと思った弾丸がエルジアエにヒットしたことで爆発が発生。


 それがグレネードランチャーの弾だったと悟った時にはすでに時遅し。

 至近距離での爆発から来る衝撃でメインウェポンのエルジアエは弾け飛び、はるか下の大地へと落下。

 フライトアーマーは無視できないダメージを負ってしまう。


 体勢を立て直そうとするアスカを次に襲ったのは上部からの衝撃。

 それは銃撃や近接戦闘武器の物よりも比較にならず、重量感を持ったものだった。


 そう、まるで体当たりをされたかのような……。


 状況を理解するよりも早く落下を始めるアスカとフライトアーマー。

 いくらダメージを負ったとは言え、飛行不可になるような深刻なダメージは負っていない。


 あわてて衝撃が襲ってきた背後を見る。

 そこには……。


「……っ!」

『……貴女の、負けです』


 TierⅣのフライトアーマーに身を包み、アスカのフライトアーマーを足場にピエリスと同じPDWの銃口と追加されたグレネードランチャーをこちらに向ける一人のランナーの姿。

 それはモデルと見紛う美しいスレンダーボディを全身タイツのようなスーツで包み、エグゾアーマーを無視しながらなびかせるのは腰を超えるほどに長い緑髪を頭の後ろで結ったポニーテール。

 無表情の光のない瞳でPDWのサイト越しにこちらを見つめているランナーは、間違いなく『アスカ』であった。



―――――――――――――――――――――――


 さかのぼる事、数週間前。


「イベントMVP授賞式?」

『はい。公式運営から招待状が届いています』

「にゃ~せっかくだし出席したら良いじゃないかにゃ?」


 場所は最初の街であるミッドガル。

 露店市が並ぶ大通りで、アスカとピンクヘアーケモミミ猫獣人娘のフランが談笑していた。


 アスカは何か掘り出し物でもないかと散策、フランはいつも通り露店を開いていたわけだが、お互い見知ったゲーム仲間。

 顔を合わせればついつい話し込んでしまうのは仕方のない事だろう。


 そんな中届いたのが公式運営チームからのイベントMVP授賞式招待状。


 聞けば、これは先の大型レイドイベント『オペレーションスキップショット』で好成績を収めた者に配られる特別な招待状だという。

 参加すれば特設会場での記念品授与式が執り行われる。


「でも、中継されるんでしょ?」

『はい。公式サイト他、複数のストリーミングチャンネルで生放送されます』

「まぁ、最近じゃ珍しくもない話だねぃ」


 イベントでは一人空で飛ぶという極めて目立つ行為を堂々と行っていたアスカではあるが、授賞式で招待客や撮影カメラからの視線を集める事は忌避感を覚える。

 今イベントで一躍名を上げた時の人ではあるが、中身はごくごく普通の女子高生なのだ。

 緊張感あふれる授賞式の壇上で皆からの視線に耐えられるほど、彼女の精神は成熟していない。


「……不参加で」

「えぇ~……」

『……この招待は一度決定すると訂正できません。本当によろしいのですか?』


 本気で言ってるのかい? と面白くなさそうな表情のフランに、明らかに声のテンションが低いアイビス。

 両者ともイベント最大の貢献者であるアスカが授賞式に参加しないなど夢にも思っていなかったのだ。


「うん。そんな狭い所よりも空が飛びたいもの!」

「う~ん、さすがアスカ。ブレないねぃ」

『……了解しました。招待状を不参加で返信……完了しました』

「ありがとう、アイビス」


 その後もしばらくフランとの会話をつづけ、露店にお客さんが来たことで終了。

 アスカは同じ露店市でお店を出すアスカ専属補給兵、小柄なハーフリングスコップのお店に顔を出した後いつものように大空の散歩へと繰り出していった。




 数日後行われたMVP授賞式。

 アスカが受賞したのはアシストポイントランキング一位だけだったのだが、上空から地上を支援してくれた彼女を一目見ようと大勢のランナーが有料チケットを使って会場入り。

 生中継も優先回線確保の有料チケットがかなり売れていた。


 無論、運営もアスカが目玉であることは認識しており、授賞式での飛雲や戦闘スタイルなどについてのインタビューや記念撮影会まで計画していた。

 そこへ降って沸いた彼女の不参加表明。


 運営、開発室が蜂の巣をつついたような大騒ぎとなったことは想像に難しくないだろう。

 なんとか彼女と連絡を取り、例外を認めてでも授賞式への参加を取り付けようとしたが、優秀過ぎる支援AIアイビスにことごとく却下された。


 曰く『当初の規定を無視した例外を作るべきではないと考えます』『彼女は不参加を表明しています。強要は彼女の意欲を削ぐ恐れがあり危険です』『アポイントメントは許可できません。彼女は不参加を表明しています』などなど。


 このあまりの冷徹対応に「支援AIってこんなに融通の利かない奴だったっけ!?」「このプログラム組んだ奴、誰だ!」「本当に支援AIなの、これ?」と天を仰ぐ運営、開発室の面々。

 結局彼らはアイビスを説得することが出来ず、アスカと言う本丸にたどり着く前、アイビスと言う名の堀で全滅したのだった。


 そして始まったMVP授賞式。

 各ポイントランキングトップ10に総合ポイントトップ10など数十名が招待され、その内九割近いランナーが参加。


 他にも特別賞として各重要拠点攻略時指揮官を務めた者や最終決戦での方面部隊長を行ったものにも粗品と共に特別ポイントが授与された。

 そこには老齢感を漂わせるドワーフのクロムや金髪碧眼のイケメンエルフのファルク。

 どこぞの特殊工作員かとツッコミを入れたくなる風貌をもつイグと、アスカと面識のある面々の姿も数多かった。


 そんな彼らだが、辺りを見渡しアスカがいない事を悟ると、アタックポイントでランキング入りしていたフランを見つけ声をかけた。


「フラン。アスカは参加していないのですか?」

「あやつはアシストポイントで二位に大差を付けての一位じゃろう? 招待されておらぬはずがないが……」

「おや、ファルクにクロムじゃないかぁ。ん~まぁお察しだとは思うけど、来てないよぉ」

「む……ではやはり?」

「お、アルバ。君も来てたんだねぃ。うん、今頃はいつものように空を飛んでるんじゃないかなぁ」

「「「あー……」」」


 フランの言葉で皆が察する。

 彼女の空好きは彼女と親しい者であれば周知の事実。

 その気の入り様は全ての事象よりも優先されるほどであり、一度そうなると何人であろうとも止めることは出来ない。


 アルバらのアスカに関する会話はそこで終了し、歓声響く表彰台へと脚を進めていった。


 その後、アスカがいない事に観客からブーイングが起き、一部返金騒ぎが発生する一幕もあったが『Blue Planet Online』では珍しい公式のお祭りとあって大盛況のうちにMVP授賞式は幕を下ろしかけた……のだが。


『ここで重大発表があります』


 これで締めかと思われた矢先に落とされた爆弾。

 長かったイベントもこれで終わりかと弛緩していたランナー達の気が、一気に張り詰めた。


 そこで公開されたのが今後の運営方針、アップデート情報だったのだ。


 来月の中頃に行われる大型アップデート。

 同時に『Blue Planet Online』第二次生産分販売開始。つまるところ第二陣の参入。

 ランナー総人口大幅拡大に対する『四方深部エリア解放』。

 全エグゾアーマーの『上位Tier実装』。

 やり込み要素を上げる『ミニイベント実施要項』。

 有効化する戦闘スキルの上限を設ける『スキルスロット導入』


 『Blue Planet Online』の面白さと魅力をより一層引き立てるアップデート内容に心躍らせるランナー達だが、最後に示された情報で騒然となる。


 『クランシステムの実装』


 これの意味するところを知らぬものはこの会場におらず、観覧席からは早速誰かと連絡を取ったり話し込む様子が見て取れる。


 そして、それは檀上の上位ランナー達も同じ。


「クランですか……そのうち来るとは思ってましたが」

「このタイミングか……どう思う?」

「正直、悪いのぅ……ほれ見てみよ。皆の血走った眼光を」

「ありゃあ~、何考えてるのか丸わかりだわねぃ」


 ある意味台風の目にいるファルク達とは違い、周囲の動きは激しい。

 壇上ではまだ運営のスタッフがアップデートの詳細を説明しているが、ほとんどのランナー達の心は既にこの場にはない。

 観覧席でも足早にその場を離れるものが続出。

 果ては壇上の表彰者も隙を伺いそそくさと退場して行くのだ。


「イベントが終わったばかりなのに、また騒がしくなりますね」

「前もって言っておくがのう、どうなっても恨みっこなしじゃからな?」

「アップデートは半月以上先だが、まぁ、静かにはいかんだろうな」

「ふふっ、我らが空神様を射止めるのは一体だれかにぃ」


 先ほどまでの祝勝会雰囲気の授賞式は何処へやら。

 いまや会場はイベント直前のようなピリピリとした空気が充満。


 その緊張感は司会を務めているGMも感じているようで、業務事項的にアップデート内容を足早に語り終えると授賞式の閉幕を宣言。


 こうしてオペレーションスキップショットMVP授賞式は異様な雰囲気の中、閉幕したのであった。



休載中もたくさんの感想、応援のお言葉、本当にありがとうございます!

『再開待ってます』『何度も読み直しました』のメッセージをたくさん頂き、この作者、嬉しさのあまり赤城から発艦してしまいました。


書き溜めが尽きるまでの約一月、毎日更新していきますので、どうぞよろしくお願い致します。


第二部開始がコミックになりました!

作画 茜はる狼様

大空に飛び立つアスカの笑顔、ご堪能ください!

https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1414064463934750724

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― 新着の感想 ―
[一言] ついに空港のネタが無くなって空母から発艦し始めた…
[気になる点] 前話でイベントの難易度が上がりすぎてクレーム多数レベルとあったのでここで運営からなにかしらの声明と掲示板回でその反応があった方がいいと思いました。 [一言] 応援してます!!!!
[一言] きた、待ってた、ありがとう
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