16 【強運】スキルの本領発揮
本日二話目の投稿です。
オークキングにより守られていた山岳の薬草採取ポイント。
数は全部で一二ヵ所もあり、三人はせっせと採取していく。
品質はEやDがほとんどで、たまにFや薬草が混じる。
アスカのインベントリにはもう空き枠がないのでアイビスに薬草を入手次第即廃棄してもらう。
少し離れた場所で採取しながらアルバとフランが何やら独占で大金持ちとか、ほかのプレイヤーも来られればと話しているが、アスカにはあまり関係なさそうだった。
そうして淡々と採取を続け最後のポイントで採取をしている時、採取した魔力草にふと違和感を覚えた。
今まで採取してきた品質EやDの魔力草はパッと見少し萎びており、雑草といわれても納得してしまいそうなものだった。
だが、今採取したこの魔力草は今までのそれより二回りは大きく、青々としているのだ。
「……これ、魔力草?」
ログには<魔力草を採取しました>とだけ表示されている。
魔力草には違いない。違うとすれば……品質。
アスカはおそるおそる手に持った魔力草を確認。
[アイテム] 魔力草 品質A
葉に魔力を豊富に含んだ薬草。
MPを二〇回復する
「あ~フラン、ちょっといいかな」
「んん、どうしたのぉ?」
呼ばれたフランはアスカのもとへ足早に駈け寄ってきた。
見ればアスカの顔は引きつっており、手には大株で青々とした魔力草が握られている。
フランはアスカがなぜそんな表情をしているのか気になったが、アスカが手にした魔力草を確認すると「げっ」と一言発し、理解した。
そのあと少し考えた後アルバを呼んだが、アルバもアスカが手にした魔力草を確認すると同じように硬直した。
「これ、どうしよう……」
「いや~まさか品質Aとはねぇ。アルバ、採取した魔力草の品質いくつ?」
「Dが最高だ」
アルバやフランでさえ採取した魔力草の品質はDどまりであり、品質Aなど今のスキルレベルでは入手できるはずがないものだ。
おそらくスキル【強運】のおかげだと思われるが、問題はその取扱い。
フランに買取できるか聞いてみたが、フランの表情はさえず否定的だった。
フラン曰く買い取ってMPポーションにする事は出来るけど、それだとその一回だけで終わってしまう。
せっかく入手できた高品質の魔力草だから、もっと有効活用したい、とのこと。
一個だけの高品質魔力草の有効活用方法。
「……増やすか」
「増やす?」
しばらく考え込んでいたアルバがボソッとつぶやいた。
確かに、品質Aの魔力草を増やせればそれに越したことはない。
だが、そんな都合のいい方法があるのだろうか?
「畑で増やせばいい」
アルバの話では、このBlue Planet Onlineでは自分の畑を持つことが出来、現実世界ではマンション住まいで場所がない人が草花を育てたり、料理をする人が野菜を育てたりするとのこと。
そういったスローライフな生活を楽しめるのもこのゲームの魅力の一つだという。
「じゃあ、すでに畑を持ってる人にお願いする?」
「いや、今この品質Aを人に預けるのはまずい。余計な騒動になるかもしれん」
アイテムには明確な所有者は記載されない。
その為、預けた先で「これは俺が見つけた」と言い出されると証明が難しい上に返してもらえない可能性まである。
栽培してくれたとしても、量を偽ることも考えられる。
現状での品質Aの魔力草はそれだけ貴重品なのだ。
「発見者であるアスカが育てるのが一番いいだろう」
「私、畑のやり方なんて知らないよ?」
「アイビスに教えてもらったらいいんじゃない? その為の支援AIなんだしさぁ」
「でも、畑をするくらいならその時間で空を飛びたい……」
畑で魔力草を育てることに興味がないわけではないが、土いじりをする時間があるなら飛行時間に充てたいと考えるのがアスカだ。
あまり乗り気でないアスカ。
そんな彼女を乗り気にさせたのはやはり支援AIアイビスの一言だった。
『品質Aの魔力草を量産すれば、飛行可能時間が伸びますよ?』
「えっ、そうなの?」
その言葉にアスカの目の色が変わった。
アイビスによると、品質Aの魔力草からはかなりの回復量をもつMPポーションが製作できる。
これを使用すれば、MP切れで墜落する前にMPを回復させて飛行時間を延ばせるとのこと。
ほかの品質のMPポーションでも同じことはできるが、回復量の少ないMPポーションではポーション自体がすぐに底をつく。
さらに、そのMPポーションの購入費用がとんでもない金額になってしまう。
ならば、品質Aの魔力草を量産して売却することで資金を稼ぎ、高品質のMPポーションを安く仕入れる。
これで今の数倍の飛行時間を稼げるだろう。
『という事ですので、畑をオススメしますが、どうしますか?』
「やる」
即答だった。
あまりの返事の速さにアルバとフランは苦笑いを浮かべている。
その後、品質Aの魔力草をインベントリにしまったアスカは採取を再開。
他二人も採取に戻り、全員で採取限界まで魔力草を採取した。
採取をすべて終えた後、採集した魔力草をフランに渡そうとしたが「今はお金持ってないから、街に戻ったら買い取るね」といわれてしまった。
露店とは言え自前の店を持っているフランはそこそこのお金を持っているのだろう。
しかし、採取に出かけるのにそんな大金を持って行くわけにもいかないので、ホームの金庫に入れてあるのだそうだ。
アスカが採取した魔力草、これをアスカではポーションに出来ないので全てフランに売却することになる。
これだけでもかなりの金額になるだろう。
「よし、採取も全部終わったし、帰ろっか」
「そうだな。アスカ、あのハルバードは持って帰らないのか?」
「あれ? 重くて持てないんだけど……」
「装備しないでインベントリにいれれば大丈夫だよん」
「え、そうなの?」
アルバが指さしたのは先ほどアルバが試しに装備した後、地面に突き刺したオークキングが持っていたハルバード。
重すぎて持つことが精一杯。持って帰ることなどできそうもないと思っていたのだが、装備しないでアイテムとしてインベントリに仕舞えるらしい。
少し疑いながらも物は試しとインベントリに入れると、重量過多の警告もなく素直に収まってしまった。
アルバ曰く、「アイテムで重量過多になってたら荷物運びなんてできないからな」という事らしい。
持って帰ることを諦めていたアスカからしたらありがたいが、持って帰っても使い道があるのだろうか?
ハルバードを前にそんなことを考えていると、フランが声をかけてきた。
「装備できないけど、売却したり、一回分解して作り直してもらったりできるから、持って帰った方が良いよぉ」
どうやらアスカの表情から何を考えていたのか読み取ったらしい。
分かりやすいほどに顔に出ていたのかと気になったが、それ以上にフランのアドバイスが気になった。
「作り直してもらえるの?」
「正しくは分解してインゴットや魔石に戻してそこからまた別の武器に作り直すって感じかな。今のアスカ、火力が低いから丁度いいんじゃない?」
フランはニコニコしながら答えてくれた。
アスカも「なるほど」と頷く。
確かに、先ほどのオークキングとの戦闘を振り返っても火力不足は顕著だった。
オークキングに致命の一撃を与えたこのハルバードからなら、より強い武器が作れるはずだ。
「でも、私がもらっちゃっていいのかな?」
「そこは気にするな。アスカがそれを使わなければ俺たちはオークキングに勝てなかっただろう。戦利品と思って持っていってくれ」
そう言う事なら、とアスカは遠慮なくハルバードを貰う事に。
そこでまたインベントリがいっぱいになってしまったので、途中でドロップした狼肉を廃棄したがこれも仕方のないことだろう。
最後にアルバがアスカの設置したフックを外し、別の場所により強固に取りつける。
次に来る時まで残っているかは分からないが、残っているならこれを使ってここまで登ってこられるそうだ。
なくなっていたらまたアスカに頼む、と笑っていたが、あの顔は冗談ではなく本気だ。
帰還準備をすべて終えたアスカ達一行は下山を開始する。
アスカは時間経過で回復したMPでフライトユニットを起動させて崖下へ。
フランは来た時と同じようにアーマーを外し、アルバの背中にしがみ付いて崖下へ降りた。
「ふぅ、私はもう来れないかなぁ。さすがにここまでして崖上までは厳しいよぉ」
フランはやれやれといった感じで再びアーマーを装着しながら呟いた。
空を飛べるアスカやワイヤーアンカーで登れるアルバなら上までいけるだろうが、それが出来ないフランがまた上まで登るのは確かに難しい。
フランはにっこり笑いながら「アスカ、一杯取ってきてね」とアスカの肩を叩く。
どうやら魔力草の仕入れはすべてアスカに任せる算段のようだ。
その後は山岳入り口にあるラクト村まで街道を使って下山。
道中、何回か現れたロックリザードは回収した魔力草でMPを回復させたフランとアルバにより、もれなく崖下へご招待されていった。
アスカもグレネードでいくらかアシストしていたが途中からグレネードの弾薬が尽き、見ているだけしかできなくなったのはご愛敬。
さしたる被害もなく三人は村まで戻ってこられた。
「はぁ~、ようやく帰ってこれたぁ」
両手を組んで空に向かって突き上げ、伸びをするフラン。
周りはまだ明るいが、リアル時間ではすでに二〇時を回っている。
「二人はこれからどうする?」
「私はそろそろ落ちます」
「私はポーション作るよぉ。アルバは?」
「俺は仕入れた魔力草を分けてくる」
「じゃあ、小隊もここで解散だねぇ」
フランがウインドウを操作し、組んでいた小隊を解散した。
分かれる前にアルバがフレンド登録したいと言ってきたので、アスカとフランの二人はアルバとフレンドコードを交換。「またな」と一言言うと人の多い広場へと消えていった。
フランはアスカがログアウトする前に魔力草を買い取りたいらしく、アスカを広場で少し待たせるとすぐさまお金を持って戻ってきた。
「アスカが持ってる魔力草を買い取るよぉ。ちょっと待っててねぃ」
アスカの持っている魔力草の数を確認すると、フランは慣れた手つきでメニュー画面を指で操作していく。
最後の決定アイコンを指で勢いよくターンとはじくと、アスカの前にトレード交渉の画面が表示された。
が、その金額を目にしたアスカはおもむろに眉間にしわを寄せ、驚愕の表情でフランを見返す。
「フラン、これ金額間違ってない?」
「ううん、合ってるよぉ。言ったでしょ? 今はMPポーションが品薄で、高値で売買されてるって。だから、原料になる魔力草もそれ相応の金額になってるんだよぉ」
いわば魔力草バブル。アスカの目の前に表示されたトレード画面には、アスカが持つ品質F、E、Dの魔力草と引き換えに二二〇〇〇ジルと出ているのだ。昨日、ランナー協会で行った薬草五つで一〇〇ジルとは大違いのとんでもない金額。
「ちょっと色も付けておいたからさ、これからも魔力草の採取、お願い!」
フランは両手を合わせ、拝む形でアスカを見る。
さすがにそこまでされたら断れず、確認アイコンをタップし、トレードを成立させた。
「採取ポイントってどのくらいで回復するのかな?」
『採取ポイントはゲーム内時間が朝を迎えると復活します。正確には深夜二時と昼十四時になります』
「できれば二回とも採取して持ってきてほしいなぁ」
「そんなに採取してきて、お金は大丈夫なの?」
「もちのろんろんさぁ。今はアスカにお金払ってスッカラカンだけど、今はMPポーション飛ぶように売れるからすぐ回収できるからねぇ」
「なら、二回採取した分を明日の午後でいいかな?」
「オッケー。今日と同じ露天市場で待ってるよぉ」
「うん、じゃあ、私はもう落ちるね」
そうしてアスカはフランと別れ、村のポータルからログアウトし、この日のプレイを終了した。
【強運】「影が薄いなんて言わせねぇぞ!」
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