118 DAY7空を夢見た少女はゲームの世界で空を飛ぶ
本日二話更新。
本話は二話目になります。
第一部本編最終話。
タイトル回収。
「……で、お前さんは今日もここでいいのか?」
「今日も、とは大層な言い分ね、ダイク」
エグゾアーマーショップを営むダイクが声をかけたのは、店内にある工作室で黙々とイベント支給用弾薬を製造するロビンだった。
戦闘が苦手な者の為にイベント期間中だけ製造リストに現れる各種支給用アイテム。
これらを製造、提供するだけで通常マップでもサプライポイントを稼ぐことが出来る。
イベントの攻略はほぼ終了。
本日が最終日という事を考えると、ロビンが製造した弾薬類は使用される可能性はゼロだ。
が、それでも支給品として仲介してくれるダイクに渡せばポイントは入る。
特にすることもないロビンは鼻歌を歌いながら弾薬を製造していたのだ。
「他の連中みたいにイベントマップで稼がなくていいのか? こんな辛気臭い場所で一人黙々と作業していてもつまらないだろう?」
「辛気臭い場所……って。ここ、あなたの店なのだけど?」
「へっ、普段から客がすくねぇのに、ここ数日はさらにさっぱりだ。別に間違っちゃいねぇさ」
よほどのことが無い限り弾薬類は支給品で十二分。
エグゾアーマーの武器、武装もイベント前に揃えている事がほとんどで、エグゾアーマーショップはどこもダイク同様閑古鳥が鳴き、支給用弾薬類を作るという内職に勤しんでいた。
だが、これはNPCでそれが仕事である彼らだから行ったことで、自由に動けるロビンが日陰染みた内職をわざわざ選ぶ理由にはならない。
不思議そうに見つめてくるダイクに、ふっと笑みをこぼすロビン。
「ま、私の出来る事は全部終わったし、こうしてる方が本当の私には性に合ってるのよ」
「ふーん……。ま、ランナーにはいろんなヤツがいるからな。別に止めはしねぇが」
そう言ってダイクがポリポリと頭を掻く。
どうやら周りがお祭り騒ぎの中引きこもるロビンを心配していたようだ。
「そう言えばよ、あの嬢ちゃんは今日はどこに行ったんだ。また戦場か?」
思いついたように出たダイクの問いに、ロビンは手を止めて答える。
「戦場? そんなわけないじゃない。あの娘が本当に行きたい場所は……いつだって一つだけよ」
優しい目をしながらそう話し弾薬製造を再開するロビン。
ダイクはその答えに満足したように笑うと、そのまま店内の購入カウンターへと歩いて行った。
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地上で拠点攻略の戦闘やお祭り、空では飛行訓練が行われているそのさらに上。
見渡す限りどこまでも青い碧天。
眼下にはぽつりぽつりと点在する雲。
データとして存在はするが、誰一人来たことのない未知の空。
どこまでも続く深い青空の中、一筋の雲を引きながら飛行する影があった。
「みてみてアイビス! どこまでも青いよ! すっごい綺麗だよ!」
『はい。美しいですね』
「うん、うん、うん! すごいよ、美しいよ!」
それは今イベントで大躍進を遂げたランナー、アスカだ。
アスカがこの場所に来たのは他でもない。
昨日のブービーとの空戦中、一度だけ来たこの場所を覚えていたからだ。
主翼にダメージを受け、メラーラマーク35の爆発にブービーを巻き込むための前段階として行った急上昇。
その時到達したのがこの雲を眼下に見る碧天だったのだ。
てっきり雷雨をもたらした雲が上空のどこまでも続いていると思っていただけに、この空はアスカの印象に強く残っていた。
ブービーとの戦闘に勝利し、攻略を手伝う必要がなくなったアスカは、今日一日イベントマップに滞在できる時間は全て飛行することを決めていた。
そして真っ先に向かったのがこの誰も来た事のない碧天。
MP総量と燃費の関係で使用しているのは飛雲だが、両腰は増槽ではなく補助ブースターのメラーラマーク35。
これでレシプロ機である飛雲の出力不足を補い一気に上空へ。
アスカは音がなくどこまでも広がる虚空をただ一人堪能していた。
「……うん、アイビス。私、このゲームに会えてよかったよ」
『気に入ってもらえましたでしょうか?』
「すごく。……実はね、私今までどうして自分には空を飛ぶ翼がないんだろうってずっと不満だったんだ」
『はい』
「鳥みたいに空を飛びたいって、蝶のように風と一緒に舞いたいって……でも、それはできる事じゃなくって……」
『はい』
「だから、このゲームのCMを見たときにこれだって思ったんだ。これなら私も空を飛べるって」
――まぁ、機械の翼だったってのはちょっとあれだったけど。
そう言って笑みをこぼすアスカ。
アイビスはそんなアスカの言葉を、ただ聴いてくれていた。
「最初は上手く飛べなくて落っこちてばかりだったけど、アイビスがいろいろ教えてくれて、フランやアルバみたいな仲間が出来て……」
『フランやアルバ、メラーナ達ともアスカは仲が良いですものね』
「うん! で、イベントが始まって、辛い時もあったけどアルディドやヴァイパー2、ヘイローチームが一緒に飛んでくれて……」
『彼らの空に対する情熱はアスカに劣らないものがありました』
「そうなの! 話をするとやっぱりみんな空が好きなんだなって。私一人だけじゃなかったんだって実感できたんだ!」
アスカの、蒼空の周囲には彼女の様に空にあこがれを持つものは少なかった。
男子生徒は戦闘機等の乗り物には興味を示すが、空となると食いつきが悪くなり、女子生徒に至ってはまったくの無関心だったのだ。
結局、空好きの友達を見つけられなかった蒼空は一人空を見上げるだけの日々が続いた。
あの空を自由に飛びたい。
あの青と白の世界で風の様に舞いたい。
――なのに、なんで私にはその為の翼がないのかな?
「空の事ばっかり考えてたから、空を飛ぶ夢を見ることも多かったんだよ」
『アスカは空が本当に好きなのですね』
「うん、だから、いまは大満足なんだ!」
アイビス見てよ、この青空! 私だけの空なんだよ!
と手を広げて大空を堪能するアスカ。
その表情はこの大空同様、晴れ晴れとしている。
すると、『ピピピ』と言う電子音が耳に聞こえてきた。
『アスカ、地上より支援要請です』
「えっ? あぁそうか、センサーブレード付けてるから……」
両腰の増槽は外したままだが、そのほかの兵装は変えていない。
特に、センサーブレードと対になっている膝のブレード型増槽は魔力備蓄量も多く、長距離飛行には外せない兵装となっていたのだ。
不意に送られてきた地上からの支援要請。
はるか地上の方を見れば、戦闘の火とランナーと敵モンスターを示すアイコンが点在していた。
今までならすぐにも応援に向かっていた場面だが、アスカは考え込み、そして……。
「うん、今日は支援はお休み! このまま空を堪能するよ!」
『了解しました。支援要請をキャンセル。センサーブレード、作動を停止します』
「ありがとう、アイビス。さて、今日はこのまま無着陸で夕方まで行くよ!」
『お付き合いいたします、アスカ。……貴女の赴くまま、どこまでも』
空を夢見た少女は、ゲームの世界で空を飛んでいた。
長らくのご愛読、本当にありがとうございました!
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このときのアスカのようすがブービー戦漫画の四枚、アスカのカラーイラストになります。
大空を飛ぶアスカ、とてもたのしそうですよ。
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1373638378118279170
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嬉しさのあまりオルリー空港から飛び立ってしまいそうです!