117 DAY7激戦を越えて
本日二話更新。
本話は一話目になります。
エピローグその1。
ランナー達がユニフォームの攻略に成功、アスカがブービーとの対決に勝利した翌日。
消化試合となったオペレーションスキップショット最終日。
天候は昨日までの雷雨が嘘のような夏空。
まさに台風一過の天気だった。
全ての重要拠点を制圧したランナー達は、ナインステイツの全拠点を落そうと今日もイベントマップで戦闘を続けていた。
「せいっ……やぁ! カルブ、ラゴ、任せたばい!」
「おう!」
「カルブに後れは取らないよ!」
「カルブ、横から……あぁもう、【フォースバインド】っ!」
カルブ、ラゴ、ホロ、メラーナの四人は、今日も小隊を組み、イベント攻略に参加。
……と言っても、重要拠点はすべて制圧済みの為、マップ端の人気の少ない地方拠点だ。
出現する敵はホブゴブリンにアームドウルフといったおなじみの敵がほとんどで、重要拠点攻略で猛威を振るったアダンソンや鬼武人などはいなかった。
すでに歴戦のランナーとなった彼らにとって、この戦力はもはやお遊びも同然。
ピンチらしいピンチもなく、ポータル近辺の防御地点を攻略してゆく。
「あれっ、これで終わりかよ。手ごたえねぇな」
「そうやね。もうちょっと手応えがほしか!」
「油断は禁物だよ、二人とも」
「そうよ。これくらいがちょうどいいわ」
「んなこと言ったって……アダンソンの一匹くらいいてもいいじゃん」
「カルブ、君……」
「えぇ……」
「カルブ、知っとお? そう言うんはね『フラグ』って言うっちゃん!」
少しは張り合いが欲しいというカルブの一言。
だが、それがフラグだという事は、カルブ以外の全員が察していた。
その発言が稀代のリアル不運スキル持ちというカルブなら、尚の事。
そして。
「あ? んなわけ……」
『敵、増援を確認。アームドウルフとアダンソンの混成部隊です』
「パッセル、本当!?」
「ほら、やっぱり」
「俺は悪くねぇ!」
カルブのフラグに答えるかのように出現するアダンソン。
メラーナの支援AI、パッセルが注意を促すと、視界隅にあるレーダーに新たな敵性反応が表示された。
「いいから行くよカルブ。メラーナ、お願い!」
「カルブの馬鹿、阿保! ほら、バフかけてあげるから、さっさと行く!」
「そうだ、ねーちゃんに支援してもらおうぜ。ねーちゃんが居ればアダンソンなんか楽勝だろ!」
「……カルブ、あんた今日の話ちゃんと聞いてた?」
「アスカお姉さんなら、今頃……」
「あ、そうだった、わりぃ!」
「三人ともなにしよっとね。来ないなら置いてくばい!」
「今行くよ、ホロ!」
「ごめん、この馬鹿が変な事言い出すから……」
「馬鹿言うな! さっさと倒すぞ!」
大鎚に電撃を纏いながらアダンソンへ向け駆けだすホロ。
その後ろをカルブ、ラゴ、メラーナの三人がスラスターを吹かせつつ追いかけていった。
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《Bポイント、制圧完了》
《Dポイントにアダンソンじゃ。増援を頼む》
「了解しました。アルバ、頼みます」
「うむ。キスカを連れて行くぞ」
「ふふっ、アルバのご指名とあれば断れないわね」
メラーナ達同様、マップ端の今だ攻略されていないエリア。
そこにはファルクの小隊他、クロムら上位陣の顔もあった。
今攻め込んでいる大半は前日の攻略戦時、司令部施設であまり戦闘に参加しなかった者達だ。
司令部で通信、連絡員、指揮としてしっかりと働いてはいたのだが、運営の定めたポイントに通信や指揮などの項目はなかったため、最終日にこうして戦場に赴きポイントを稼いでいるのだ。
《こちらヘイロー1だ。赤とんぼの掃討は完了したぞ》
《ヘイロー2、航空支援を開始するよ》
そんな地上を空から航空支援するのがヘイローチーム他多数のフライトアーマーだ。
昨日の最終決戦で消化不良だった者、フライトアーマーが飛ぶ姿に心打たれた者などがこうして航空支援に当たっている。
「なあ、ファルク。この拠点ポータルにこの布陣は過剰戦力じゃねぇか?」
「私も同意見ですよホーク。ですがまぁ、他に攻める場所もありませんし、良いんじゃないですかねぇ」
《アダンソン撃破。Fチーム、前進》
《ほらほら、とっとと行きなさい。グズグズしてる奴はケツに鉛弾ぶち込むわよ!》
「うへぇ、うちの鬼っ子は恐ろしいなぁ」
キスカの威勢の良い通信にホークがボソッと放った一言。
すると、大きな発砲音と共にホークの足元が吹き飛んだ。
「どうわぁっ、あぶねぇ! おいキスカ、何しやがる!」
《聞こえてるわよ、ホーク。次が来てるわ、貴方も行く!》
「チッ、わーったよ。すまねぇファルク、行ってくる」
「ええ、お気を付けて」
インベントリから愛用の剣を取り出し、歩き始めるホーク。
すると、ふと何かを思い出したかのように歩みを止め、振り返ってファルクを見る。
「そういえば、リコリス1はどうしたんだ。あの空大好き嬢ちゃんは?」
「あぁ、リコリス1ですか。彼女なら……」
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ほぼ攻略を終えたナインステイツ。
残り少なくなった南部の拠点ポータル攻略以外で最も人を集めていたのがここ、重要拠点ビクターだ。
すでに制圧完了した場所であり、周囲も攻略済み。
特殊素材が取れるわけでもなく、ポータルが湖に囲まれているだけと言うビクターに何故ここまで人が集まったかと言うと……。
《さぁ、第四コーナーを回って先頭はユーイチとオウノニチリン、続いてノリとブルースカイ。間を割ってカタユケタとゾンダーボッホが伸びてきた! シューサクとフリッケライラメントは大きく膨らんでゆく!》
「いけええぇぇぇぇ!」
「させええぇぇぇぇ!」
「フリッケライイィィィィ!」
「曲がれええぇぇぇぇ!」
大賑わいの湖周辺。
イベントでの役目を終えたアームドビースト所有のランナー達が、ビクターの湖外周一周で競うレースを始めていたのだ。
そうなると当然他のランナー達が俺もやると参加し出す。
すると当然見物人が集まり、どこからか解説者が現れ、商機を見出した者が露店を始める。
気が付けば暇を持て余したランナー達が大集結。
ビクター周辺はお祭り騒ぎとなっていた。
「はいはーい、串焼き、串揚げ、焼きそばにお好み焼きだよー!」
「お酒に各種ドリンク類はこっち、タピオカもあるよぉ!」
いつの間にか現れた露店で声を張り上げ集客しているのはスコップとフランだ。
スコップはもうサプライで稼げることはないからと言う理由で。
フランはポイントはもう十分稼いだという理由で、イベント最終日のお祭りに参加しているのだ。
「にゃははははは、入れ食いだわさ!」
「みんなずっと気を張りつめていたからね。今日くらいはパーっと行きたい気分なんだよ、きっと」
その気持ちはよくわかる、と二人は次の客に商品を提供する。
「よう、盛況だな」
そこのに顔を出したのは昨日の勝利の立役者、イグ達だった。
「あれ、イグじゃないかぁ」
「今日は攻略に行かないんですか?」
「あぁ。もう攻めるところも残ってないし、ポイントも十分稼いだからな、息抜きだ」
フランがちらっとイグの後ろを見る。
そこにいるのは当然彼の無口で愉快な仲間達だ。
周りのランナー達が戦闘はもうないとエグゾアーマーなしでのんびりしているのに対し、彼らはフルフェイスのエグゾアーマーを身に纏っている。
まるで、それこそが自らのアイデンティティーだといわんばかりに。
《次の競争、出場ランナーです。一番……》
解説者が次走出走予定のランナーとアームドビーストの名前を読み上げる。
すると一際大きな声援が上がった。
今イベントで機動部隊の隊長を務めたマルゼスとその相棒、タービュランスが紹介されたのだ。
沸き立つ観客、戦績では負けてもレースでは負けないと意気込む競争相手。
野良競争の為ゲートなどはなく、地面にラインを引いただけのスタート地点。そこに並ぶのは馬型だけではなく、ロバや虎、牛、鳥果ては恐竜など多種多様のアームドビースト達だ。
スタートライン傍に立ったランナーのハンドガンが開始の合図である乾いた音を立て、一斉にアームドビースト達が駆け出してゆく。
《スタートしました。先頭を奪ったのはシロマと飛べない鳥型アームドビーストチョビビ、その姿は著作権的に大丈夫なのか!? 間差がなくサンコンとタテジマ、これはどう見てもシマウマだ! その後少し間が空いて……》
この日一番の競争に、ビクター周辺にはランナー達の大歓声が木霊していた。
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ロビンがアスカの為にカタパルトを移設した拠点ロミオの上空。
台風一過の夏空の中に、雲を引くように飛ぶ複数の影があった。
「ほらほら、そんなこっちゃリコリス1に追いつけないぞ!」
《ヴァイパー1、ほどほどにしてあげなさい。皆まだ慣れてないのよ》
それは昨日のユニフォーム上陸作戦でこれまでの評価を覆したフライトアーマーの一団だった。
先頭をヴァイパーチームリーダーであるヴァイパー1が勤め、後方に複数のフライトアーマー、そのさらに後ろにヴァイパー2が付いている。
「教導してくれって言ったのはあいつ等だぜ?」
《い、いや……俺達はリコリス1に……》
「お前らの腕ごときでリコリス1の教えを乞うなんざ100年早い。俺らで十分だ!」
《ま、それは一理あるし、仕方ないわね》
《そ、そんなぁ……》
《あなた達鬼ですわ!》
「鬼で結構、ほら次、インメルマンターンからスプリットSだ!」
《ひいぃーーー!》
《お、お、墜ちるーーー!》
《地面が、地面が近づいてきますわ!》
彼らは元々リコリス1、アスカに飛行技術を教えてもらいたかったのだが、彼女に直接アポイントを取ることが出来なかった為ヴァイパー1、アルディドに仲介を頼んだのだ。
だが、その理由を聞いたアルディドは憤怒し、アスカに取り次ぐ事はせず「俺が教導してやる」と半ば強引にこうして指導に当たっている。
「本当は今日俺達はリコリス1と一緒に飛ぶ予定だったんだ。それをこうして指導してもらえるだけありがたいと思え!」
《そんなこと言って、正確には翡翠の性能だとリコリス1と一緒に飛べないだけじゃない》
《マジかよ!》
《つまり、これって教導と言う名の憂さ晴らしじゃないですか!》
《私達をストレス発散に使わないでくださいまし!》
「うるせぇ! そんなに言うなら飛行訓練じゃなくて戦闘訓練にすっぞ!?」
《そ、それだけは!》
《俺達がヴァイパーチーム相手に空戦出来るわけないだるるお!?》
訓練を受けているフライトアーマー達が真似できない機動で急旋回、アサルトライフルを連射しながら軍団の中に突っ込むヴァイパー1。
訓練生たちは丸腰であり、エースクラスの飛行技術を持つアルディドとの差もあって文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。
《ほらほらヴァイパー1、そのくらいに》
「あーあ、リコリス1は今頃……」
《……そうね。今頃は話に聞いたあそこかしらね》
「ほら、全機隊列を戻せ。今度は旋回機動、その後はお待ちかねカタパルト発進訓練だ! ターンヘディング090、ナウ! しっかりついて来いよ」
《ひえぇーーー》
《勘弁してくださいませ!》
まともに飛行するのもおぼつかない訓練生たちと、教導に当たるヴァイパーチーム。
同じタイミングで一斉に旋回機動に入る中、ヴァイパー1とヴァイパー2の二人だけが、空に鋭い飛行機雲を引いていた。
第115話、ブービーとの一騎打ちが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦、アラクネの一撃を描いていただいた茜はる狼様。
雌雄を決する決闘の様子を是非確かめてください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1373638378118279170
あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまりボストチヌイ宇宙基地から打ち上げられます。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりテンペンホフ空港から飛び立ってしまいそうです!