116 DAY6死神Ⅱ
本日二話更新。
本話は二話目になります。
引き続きライバル決戦用BGMを流しながらお楽しみください。
翼が編み出した、ブービー対策は三つ。
一つ、ブービーとはヘッドオンを行わない事。
一つ、ブービーが失速機動を使う前兆を捉える事。
そしてもう一つが、レイサーベルを使って攻撃する事。
アスカのメインウェポンであるピエリスとエルジアエは取り回しこそ優れているが、火力と言う意味ではどうしてもブービーの持つ連結重機関銃に劣る。
そこで目を付けたのがアスカが持つ武器の中で最も攻撃力の高いエルジアエのレイサーベルだ。
しかし、これを当てるためには当然超近距離まで接近しなければいけない。
通常の空戦であればそんな距離になることはないが、ブービーが失速機動を行った時は例外。
『相手をオーバーシュートさせる』事を目的としている以上、どこかで必ず交差するポイントがあるのだ。
失速機動の前兆さえ見逃さなければ、事前にレイサーベルを用意し致命の一撃を見舞うことが出来る。
動画で見ただけ。ぶっつけ本番だったが、アスカは見事見極めやってのけた。
「手ごたえ十分! やったの!?」
ブービーへ一撃を放ったアスカは、若干姿勢を崩したが、すぐに立て直すと横目で落ちて行くブービーの様子を見る。
『Blue Planet Online』で飛行する者は主翼が折れるなどして飛行不可になったとしてもHPさえ残っていれば死亡扱いにはならない。
揚力を失い、錐揉み回転しながら落下。地上激突の落下ダメージでHP全損、ここでようやく死亡判定となる。
ブービーもそのまま地上に激突するかと思われたが、四枚の翅と胴体後部推力偏向スラスターを用い錐揉み回転から復帰、上昇してゆく。
「浅かった!?」
『背部炸裂砲が盾代わりになったようです』
ブービーへの一撃は間違いなく会心だったが、防御力強化もされていたファストパックのおかげか一撃死とはいかなかった。
翅やスラスターに損傷ダメージが入っていればよかったが、それも無い様で何事もなかったかのように再度アスカに追従。
銃撃を行ってくる。
ブービーの銃撃を躱す様にアスカもメラーラマーク35を用い加速する。
「第二ラウンドって訳だね」
『メラーラマーク35、残存魔力48%』
「了解、それまでに決めるよ!」
ブービーとアスカ。
お互いがお互いに背後を取ろうとするドッグファイトが再開される。
ハイヨーヨー、ローヨーヨー、シザース、ループ、ダイブアンドズーム。
基本的な空戦軌道に加え、ハイGターン、クイックループなどの推力偏向ノズル特有の機動。
ブービーにはさらにコブラ、フックと言った失速機動が加わる。
度重なる急旋回に高機動で両者の翼は幾多の雲を引き、光芒差す曇天に複雑な模様を作り出す。
美しくも幻想的なその光景に、モンスター達との戦闘を忘れ、見とれてしまうランナー達も多かった。
『ブービー、十二時方向。正面』
「ヘッドオンはしない! でりゃあっ!」
「よし、後ろに……いけない、フック!」
『直上にブービー。回避してください』
「こなくそっ!」
残りHPが三割を切っているブービー。
失速機動の前兆さえ見極めれば楽勝と考えていたが、HP一定以下の能力向上により前兆、水平飛行をする時間が大幅に減ってしまっていた。
さらに能力向上で有利であった速度面で互角。その他では一歩劣るという劣勢に立たされてしまったのだ。
先ほどから何とか前兆を見極めレイサーベルを使おうとするも、ブービーも警戒しているのかおいそれとは仕掛けてこない。
状況は完全に膠着。しかし、そこにも優劣が存在している。
『メラーラマーク35、残存魔力12%』
「もうそんなに……勝負を決めないと……!」
ファストパックの増槽で戦闘継続時間が伸びているブービーに対し、アスカはメラーラマーク35の内蔵魔力分のみと言う制約がある。
この膠着状態が続きメラーラマーク35が魔力切れを起こした瞬間、勝負が決まってしまう。
焦りの色を隠せないアスカ。
何とかブービーの背後を取り、一撃を入れるチャンスを狙う。
すると狙い通り、ブービーが失速機動の前兆を見せたのだ。
最後のチャンスとばかりにエルジアエのレイサーベルを展開させ、振りかぶり、横一閃。
「もらったっ! ……えぇっ!?」
ブービーの失速機動、コブラを見事に捉えたかと思った一撃。
だが、ブービーは上を向いた状態で止まらずそのまま一回転。アスカの一撃をやり過ごしたのだ。
「しまった……クルビットだ!」
ブービーが行ったのはコブラと同じく失速機動であるクルビット。
機首をあげ、直立で止まるコブラに対し、クルビットはそのままバク転するように後方一回転する機動だ。
狙いはもちろんオーバーシュート。
ブービーの誘いにまんまと乗ってしまったアスカは空振りの勢いそのままブービーの真下を通過、前に出てしまう。
『警告、敵重機関銃射程内』
「分かってる、分って……きゃあっ!」
無防備に前に出てしまったアスカを、見逃すブービーではない。
クルビットから復帰後、推力偏向スラスターをブースター代わりに加速。
アスカとの距離を一気に詰め、回避不可能な近距離から連結重機関銃を撃ち放つ。
『左主翼被弾。ダメージ312。主翼の構造材をやられました。剛性低下、推力偏向機動不可能です』
「そんな……ここまでやったのに!」
メラーラマーク35への被弾は避けられたが、代わりに主翼に致命的なダメージを負ってしまった。
被弾による主翼の折損こそ免れたが、これ以上翼に負荷をかければそこで主翼は真っ二つに折れてしまうだろう。
しかし、メラーラマーク35の推力偏向無しではブービーの機動に追従することは出来ない。
もはや万事休す。
被弾した主翼から煙を上げながらシザースで何とかブービーの銃撃を躱すも、残された手段はないに等しい。
エンジンを撃たれ空中分解か、主翼が折れ墜落か、メラーラマーク35に被弾し爆死するか……。
いったいどれで死んでしまうのかと考えたとき、ロビンが言っていた言葉を思い出す。
『いい、アスカちゃん。メラーラマーク35の欠陥はさっき伝えた通りだけど、敵じゃなく味方からの被弾にも気を付けるのよ』
『味方からの被弾も、ですか?』
『そうよ。フレンドリーファイア扱いだからダメージはないのだけど、被弾の衝撃で……』
『やっぱり大爆発になっちゃうんですか?』
『そうよ。それも、燃料をほぼ使い切って切り離した後もなの。だから下手に味方上空で切り離したりしたらだめよ? 落下の衝撃で大惨事になっちゃうから』
『分かりました!』
ロビンをしてそこまでの言わせる欠陥を持つメラーラマーク35。ならば……。
「これしかない……いくよブービー、付いてこい!」
覚悟を決めたアスカはエレボンを操作し、機首を上に。
メラーラマーク35を使用し一気に上昇する。
当然ブービーは追ってくる。
アスカは後方のブービーの機関銃を躱しながらさらに上昇。
先ほどまで雷雨を降らせていた雲の中へ突っ込むと、そのまま雲の上へと抜ける。
眼下には雲海が広がり、上空は見渡す限り青一色の美しい世界。
翼を持つ者しか来ることのできない碧天のステージの中、アスカはひたすら上昇する。
『メラーラマーク35、残存魔力3%』
「よし、エンジン、メラーラマーク35、作動停止!」
周囲が青で染まった空間でいきなりエンジンを停止させたアスカ。
みるみるうちに速度が下がり、ついには失速。
空中で力なく停止する。
直下から迫ってくるブービーとの距離が一気に縮まるも、アスカの体は横にずれ、反転。急降下してゆく。
ハンマーヘッドターン。
垂直上昇から減速し、真横に失速反転する飛行機動だ。
真横にズレた事でブービーからの射線を躱し、距離を開けつつエンジンを再始動。
「耐えてね、レイバード!」
急上昇から一転、今度は真下へ向け垂直降下。
エンジン出力に重力加速が加わり、一気に雲海の中へ突っ込んで行く。
もちろん、ブービーはこれを追う。
失速機動を用い真上を向いていた体を瞬時に180度ターン、真下を向くとアスカに続いて雲海に突入する。
多少距離が開き、雲でアスカを視認できなくとも銃撃を続けるブービー。
おそらくは眼に搭載された高感度センサーでこちらを捉えているのだろう。
ダメージを受けた左主翼がメキメキと言う音を立てる中、アスカはブービーの銃撃を左右に躱す。
そして、分厚い雲が薄くなり、目の前に地上がうっすらと姿を表してくる。
真っ白だった世界が終わり、現れてきたは一面の緑。
アスカが急降下していったその先は、ユニフォームにそびえる大樹の直上だったのだ。
「よし、いくよアイビス、メラーラマーク35、切り離し!」
『了解。メラーラマーク35、切り離します』
左右の腰から切り離され、空気抵抗でくるくると回りながら離れて行くメラーラマーク35。
アスカはそんなメラーラマーク35から距離を開けるようにさらに降下する。
十分に距離を取ったところでアスカは降下姿勢はそのままで、体に対し下方、空を見上げピエリスとエルジアエを連射した。
狙いはアスカを追って雲を抜けたブービーではなく、たった今切り離したメラーラマーク35だ。
アスカの狙いが定まっていないと見たのか、ブービーはアスカの射撃を気にすることなく降下し追従。
迫りくるブービーがメラーラマーク35に接近し、アスカが放つピエリスの銃弾がわずかに掠めた、瞬間。
メラーラマーク35が大爆発を起こした。
爆発の規模は手榴弾などとは比較にならず、フランの十八番【ボルカニックバレット】クラスの大規模なもの。
アスカが狙ったのは切り離した二つのメラーラマーク35のうち片方だけだったが、爆発の衝撃でもう片方も誘爆。
ユニフォームの大樹上空に二つの巨大なオレンジ色の花を作り出した。
味方からの誤射や衝突の衝撃でさえもあっさりと爆発、誘爆するという味方からも恐れられるメラーラマーク35の欠陥。
アスカはこれを咄嗟の機転で対ブービー用の切り札として利用したのだ。
急降下中、いきなり目の間で発生した大爆発。
さしものブービーもこの爆発を躱すことは出来ず、そのまま爆煙へと飲み込まれる。
複眼のセンサーが焼かれ、四枚の翅にもダメージを負いながらメラーラマーク35の爆発から抜けるブービー。
さらに次の瞬間、ブービーは急上昇を余儀なくされる。
ブービーが抜けた爆炎の先。
それはアスカの背後ではなく、ユニフォームの大樹直上。
周囲に広がるのはホクトベイの海と大地。
大樹と地面への激突を回避すべく、推力偏向スラスターも使用し慌てて機首上げするブービー。
勢いが付きすぎ、土埃を上げるほどまで高度を下げながらもなんとか立て直しながら上昇する。
代償として速度を大きく失いながら。
安全圏まで上がろうと上昇するブービー。
それはここまで全ての空戦において彼が見せた、唯一の緩慢飛行。
「ここだああぁぁぁっ!」
その隙を、アスカは狙っていた。
メラーラマーク35の爆発に巻き込ませ視界を奪い墜落の危険を誘発。
緊急回避と高度確保の為上昇するというアクションを強制させる。
如何にブービーと言えども動きさえ分かればアスカがその上を取ることなど造作もない事。
「……私の!」
速度を失い、上昇するしかないブービーに向け、ピエリスを連射する。
「……私たちの!」
アスカからの銃撃でブービーも危険を感じ逃げようとするも、翅にダメージを負い速度も失った身では満足な回避機動も取れなかった。
ブービーがまともに飛行できない事を察したアスカは、連射していたピエリスを投げ捨て、エルジアエを両手持ちで持ち変えると腰に構えレイサーベルを発生させる。
「勝ちだああぁぁぁ!」
「!?!?!?」
上昇回避しようとしているブービーの背中に、一閃。
先ほどは炸裂砲に防がれた一撃だが、今度はアスカの攻撃を遮るものは何もない。
ループ機動からの勢いも上乗せした辻斬りの一撃は、まさにクリティカル。
ブービーの体は真っ二つに引き裂かれ、爆発炎上。
残り三割はあったHPバーも、一気にゼロまで減少し、光の粒子となって弾け、消えて行く。
「どう、今度こそ……!」
<ネームドエネミー『黒い死神スーパーブービー』を倒しました>
「……っ!!」
体を燃やし、粉々になりがら地上へと落下して行くブービーを上空から見ていたアスカの目の前に表示されたのは、撃破を告げるログ。
この瞬間、アスカの勝利が確定した。
「やった……やったああぁぁぁ!」
『おめでとうございます、アスカ』
《リコリス1、見たぞ、やったな!》
《見事ね、リコリス1。貴女の機動、素晴らしかったわ!》
《仇を取ってくれたな!》
《殺された人が言う言葉じゃないと思うよ、兄さん!》
「みんな……みんな、本当にありがとう! 勝てた……私、勝てたよ!」
この勝利は私ひとりでは無理だった。
ヴァイパーチームやヘイローチーム、フライトアーマーの皆がブービーとの一対一を用意してくれて、ダイクさんがレイバードを作ってくれて、ロビンさんがメラーラマーク35を用意してくれて、翼が攻略法を用意してくれた。
それだけじゃない。
いろんな人が、皆が助けてくれたから。
皆のおかげで、私は勝てた!
見れば、地上はユニフォームのポータルまで味方ランナーが攻め込んでおり、空にはギンヤンマも赤とんぼの姿もなく、フライトアーマーの皆がこちらを見てくれていた。
――私も、皆のところに帰ろう!
ブービーに勝利した高揚感のまま、皆と合流しようと『急』旋回するアスカ。
『注意、左主翼剛性限界です。この速度での旋回は……』
「えっ?」
――ボギッ!
「はえっ!?」
『……主翼が折れます』
アイビスの警告、間に合わず。
最後の急降下からのループ機動に耐えたレイバードの主翼だったが、そこで限界だったのだろう。
アスカが皆と合流しようと急旋回したところでついに力尽き、真っ二つに折れたのだ。
「ふにゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………………!」
《リコリス1が墜ちたぞ!》
《なんてこと!》
《ここでお前が墜ちるのかよ!》
《そんな事言ってる場合じゃないよ、兄さん!》
錐揉み回転しながら落下してゆくアスカ。
地上に激突する寸前に彼女が見たのは……。
<最重要拠点ユニフォームの拠点ポータルを奪取しました>
オペレーションスキップショット、ナインステイツ上陸作戦成功を告げる、勝利のログだった。
ロー・ヨーヨー
速度に勝る相手に追いつくため、降下して速度を稼ぐ機動飛行。
ハイ・ヨーヨー
速度で相手に勝っており、追い越してしまいそうなときに上昇。
速度を高度に変換し、そこから降下することで再度速度を稼ぐ戦闘機動
ループ
空中で行う縦の一回転。いわゆる宙返り。
ダイブアンドズーム
背後に付かれた敵機を振り切る為急降下。
ロール機動などで敵の攻撃を躱し、相手が上昇するのと合わせてこちらも高度を上げ、敵機を背後から引きはがす回避機動。
言わば急降下で行うバレルロール。
急降下するという関係上一定以上の高度が必要、かつ機体も強烈なGに耐えきれないといけないなど制約が多い。
ハイGターン
高速域や急旋回など行列なGがかかる状況での旋回機動。
現実世界には存在しないが、通常の旋回と書き分けの為に使用。
フライトシューティングゲームなどで使われる。
クイックループ
推力偏向ノズルを使用した半径の小さいループ機動。
ハイGターンと同じく現実世界には存在しないが、通常のループとの書き分けの為に使用。
フック
旋回中(ロール角90度)で行うコブラ機動。
簡単に言えば空中で行うドリフトである。
コブラ同様実際の空戦では実戦的ではないとされ、使用されることはまずない。
クルビット
コブラ機動の様に機首を持ち上げ、真上を向いた場所で止まらず後ろへ倒れ込み、勢いそのまま一回転を行う空戦機動。
クイックループよりもさらに小さい半径で回るため、その場でバク転するような形となる。もちろん、機体は前に進み続ける。
コブラやフック同様、相手のオーバーシュートを誘発させる技であり、現実世界での有効性はほぼない。
コブラとフックは繊細なコンピュータなど制御があれば水平尾翼機でも可能とされるが、クルビットに関しては推力偏向ノズルがないと無理と言われている。
ハンマーヘッドターン
別名ストールターン。真っすぐ立てた金づちの頭が真下にクルッと回る様子に似ている事からこの名が付いた。
敵機を追撃をかわす技と思われがちだが、垂直上昇状態で一旦空中で静止するため隙が大きく実際に使用されることはないらしい。
漫画やアニメ、小説ではもちろん例外。見栄えが良いからガンガン使う。
ブービー戦、ついに決着。
明日はエピローグとなるDAY7二話を更新致します。
第115話、ブービーとの一騎打ちが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦、アラクネの一撃を描いていただいた茜はる狼様。
雌雄を決する決闘の様子を是非確かめてください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1373638378118279170
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