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115 DAY6死神Ⅰ

本日二話更新。

本話は一話目になります。

宿敵との決闘。

ぜひライバル決戦用BGMを流しながらお楽しみください。


 アラクネを撃破し、掃討戦と言う場面になってからようやく姿を現したブービー。

 雲の切れ間、光芒に導かれるように現れた漆黒の姿に、ヴァイパーチームやヘイロー2は動揺を隠せなかった。


《ブービーだと?》

《今さら何しに来たのよ》

《もう戦いは決したんだよ、どうして……》

《まるでこのイベントの最後を見届けに来たようだな》

「アイツの相手は……私がやります!」


 そう言うと、アスカはヴァイパー1達との編隊を離脱。

 加速しつつブービーへと向かってゆく。


《了解した、リコリス1》

《約束だものね、頑張って!》

《兄さんの仇は頼んだよ!》


 見送るように反転離脱してゆくヴァイパーチームとヘイロー2。

 アスカのブービーの因縁は彼らどころかイベントに参加したもの誰もが知るところ。

 いまさら彼女達の決闘に口出しする者は誰もいないのだ。


「増槽、センサーブレードパージ! アイビス、メラーラマーク35の残量は?」

『メラーラマーク35、残存魔力85%です』

「さっき補給に行ってたおかげだね。これなら!」


 空戦では空気抵抗と重量で機動力低下の要因となる全ての増槽とセンサーブレードを切り離す。

 同時にインベントリからピエリスとエルジアエを取り出し、メラーラマーク35使用。ブースターノズルから噴射炎が放たれ、増速する。

 正面にブービーを捉え、ヘッドオン状態に。


 だが、アスカはヘッドオンをはなから拒否。

 大きくバレルロールをして正面からブービーを外す。

 これがアスカ、蒼空の弟である翼が出したアドバイスのうちの一つ。


 『ブービーとのヘッドオンは避ける事』


 主兵装火器の射程で大きく負けている上、ブービーは火力もギンヤンマとは比較にならないほどに高い。

 そんな相手とヘッドオンで戦うのは悪手でしかない。故に、ブービーとは絶対にヘッドオンをしない様念押しされている。


 大きくバレルロールをしながらブービーに接近してゆくアスカ。

 そろそろブービーの連結重機関銃の射程に入ろうかと言う時、一際大きな音が響いてきた。


 慌てて音のする方向を見れば、ブービーの上部、背面に噴射炎が見え、赤々とした大きな弾丸がこちらへ向け迫ってくるではないか。


「えっ、なにこれ!?」

 

 ブービーにこんな兵装はなかったよ! と驚くアスカのはるか横を弾丸が通り過ぎ、空の彼方へと消えて行く。

 が、アスカにはブービーが何を放ったのかしっかりと理解できた。


「今の……加農砲!」


 そう、それはアサルトアーマー達が使用している三七ミリ加農砲と同じサイズの砲弾だったのだ。


 ブービーの砲撃を躱したアスカはバレルロールを続け、そのまま交差する。

 アスカはピエリスを、ブービーは連結重機関銃をお互いに連射するも、効力射なしで通り過ぎ、離れて行く。


 メラーラマーク35を使い、旋回。

 だが、そこでもアスカは違和感を覚えた。


「こいつ……どうなってるの!?」


 今のアスカはメラーラマーク35を使用した高機動が可能となっている。

 その旋回半径は飛雲と比べても小さく、加速、最高速、上昇能力全てでブービーを凌駕している……はずだった。


 ところがどうだ。

 今のブービーはアスカに劣るどころか、完全に追従しているではないか。


 当初の目論見ではこの機動力を生かし、短期決戦で終わらせる予定だった。

 しかし、今のブービーの能力はアスカと互角。あの見るからに重そうな加農砲を搭載して尚、だ。


 一体どういうことなのかと困惑するアスカ。

 忌々し気にブービーを見ると、漆黒の胴体後部、尻尾の付け根の左右に今まで身に付けていなかった噴射ノズルのようなものを発見した。


 ――まさか。


「アイビス教えて! ブービー……あいつは!」

『はい。黒い死神スーパーブービー。特殊条件を満たした場合にのみ出現する強力なネームドエネミーです』


 曰く、黒い死神スーパーブービーはブービーの僚機をすべて撃墜した後、ブービーを撤退させた場合にのみ出現する特殊エネミーだという。

 その能力はブービーを大幅に向上させたもの。

 

 複数のコンフォーマルフューエルタンクを搭載し戦闘継続時間と防御力を向上。

 眼部に高感度戦術センサーを搭載し索敵能力を強化。

 胴体後部に推力偏向スラスターを搭載。姿勢制御と共に失速機動や小半径旋回を行うなど機動力の大幅な向上。

 極めつけは胴体上部背面に搭載された三七ミリ炸裂砲。

 砲弾が敵に命中しなくとも一定の範囲内に到達すれば起爆する近接信管を用い、空戦、対地ともに攻撃力を強化している。


 ブービーはこれらをワンセットとしたファストパックを装備。

 故に『スーパー』ブービーなのだ。


「近接信管……ヘイロー1を墜としたのはこいつか……!」


 いくら隙を突かれたとはいえ、精度の低い加農砲の長距離射撃で墜とされるほどヘイロー1の腕は悪くない。

 にもかかわらず、ブービーはたったの一発でヘイロー1を撃墜に至らせている。その答えが三七ミリ炸裂弾と近接信管なのだろう。


『炸裂砲は近距離で躱すと反応して炸裂します。大きく避けてください』

「了解……うわっ!」


 お互いに円を描くようにスパイラル機動を取っていた矢先。

 ブービーが空中で滑るように回り、こちらへ炸裂砲の銃口を向けてきたのだ。


 アスカは瞬時にメラーラマーク35を使い急降下。

 ブービーが炸裂砲を放つと少し前までアスカがいた空間を炸裂弾が通過する。


「炸裂砲、厄介すぎるよ!」


 炸裂砲は攻撃力もさることながら、大きな回避行動を強制される。

 つまり、こちらの次の機動が予測できるという事であり、回避機動中は攻撃も出来ないという不利も合わせると相手が苦労なく射撃位置に付けてしまう。


 アスカは背後に付こうとするブービーに牽制射撃を行い、有利ポジションに就かれないよう徹底。

 ジグザグに飛行するシザーズの回避機動も合わせ、ブービーに狙いを絞らせない。


『アスカ、主翼負荷が剛性の限界値です。これ以上は危険です』

「無理だよ、アイビス! 速度を落として急旋回を止めたら撃ち墜とされちゃう!」


 メラーラマーク35を使用しての限界飛行。

 遠心力から来る強烈なGに耐えきれず、レイバードの主翼がいつ折れても可怪しくないほどにミシミシと言う嫌な音を立てている。 


 ランナーであるアスカ自身にはGは掛からないが、エグゾアーマーには遠心力などによるGの計算が成されている。

 メラーラマーク35はすさまじい機動力を与えてくれるが、特殊素材などを用いていないレイバードでは負荷に耐えられないのだ。


 HP上はまったく変化を見せないが、マスクデータでの計算で限界を超えた瞬間に主翼が折れる。

 それは昨日、初めてメラーラマーク35をレイバードに付けた後に行ったテスト飛行でも発生していた事案だ。


 だからこそ、アスカはここまで剛性限界だけは超えないように飛行してきた。

 しかし、ブービー相手ともなるとそうはいかない。


 ファストパックを装備したブービーはレイバードに追従するだけの機動力を持ち、背には一撃必殺となる強力な炸裂砲を搭載しているのだ。

 気を抜いた瞬間撃ち落とされる。それを避けるためアスカは限界寸前で飛行を続ける。


 後方から連結重機関銃の銃撃を受けながらのローリングシザーズ。

 アスカはそこから脱するため最大推力でレイバードのエンジンとメラーラマーク35を吹かし続ける。


 すると。


「あれ……離れてく?」


 射線を合わせた瞬間撃ち落とされそうなほどに接近していたブービーとの距離が開き始めたのだ。


「アイビス、これって……」

『スーパーブービーの追加スラスターは機動力強化が主で、推力に関してはそれほど強化されていません』

「ってことは……」

『加速と最高速で見れば、こちらが上です』

「そっか……そっか! ならっ!」


 昨日までブービーが圧倒的優位としていた加速と速度で今はこちらが勝る。

 機動力が互角、かつ火力で大きく負けているアスカにとって唯一と言っていい程の勝機。


 アスカは優位性を生かすべく、最大推力でのシザースを止め、バレルロールへと移行する。

 同時にレイバードのエンジンとメラーラマーク35の推力を弱め、少しづつブービーとの距離を縮めて行く。


 再びアスカが接近したことで胴体下部の連結重機関銃を連射するブービー。

 だが、アスカは身を翻しての後方射撃を加えつつ回避する。


 さらに距離が接近し、ブービーが炸裂砲を放ってくるも、当然アスカは織り込み済み。

 上昇するかのようなフェイントをかけてからの急降下で炸裂砲の砲弾を難なく躱す。

 

 しかし、回避機動を強要されたことで距離がさらにつまり、ブービーに背後を取られてしまう。


『注意、六時方向、ブービー』

「これでっ……」


 背後に就いたブービーが連結重機関銃を放とうとした、まさにその瞬間。


「どおだああぁぁぁっ!」


 アスカは急上昇からのラダー操作、スナップロールを行いブービーをオーバーシュートさせる。

 通常、この機動は後方に就いた敵機をオーバーシュートできる代わりに速度が犠牲となり、そのまま敵の背後に付くことは難しい。

 それでもアスカがこの機動を使用した理由はもちろん、加速と速度で勝っているからだ。


 スナップロールでブービーをオーバーシュートさせた直後にメラーラマーク35を最大推力で吹かし、一気に距離を縮めブービーをピエリスとエルジアエの射程に捉える。


 突如背後に回られたアスカを振り払おうと、推力偏向スラスターを使用し全力で逃げるブービー。

 が、同じく推力偏向ブースターを使用するアスカはブービーから全く離れない。


 アスカの放つ弾丸がブービーに突き刺さり、HPバーを削って行く。

 すると、ブービーが急に回避機動を止め、一瞬だけ水平飛行に移ったのだ。


 その様子を背後から見ていたアスカ。

 今までであれば気にも留めなかったこの挙動に、眼を鋭く光らせていた。


「作戦……通りっ!」


 すぐさまピエリスをレイバードのウェポンラックに掛けると、エルジアエを両手持ちにレイサーベルを発生させ、振りかぶる。


 同時に跳ね上がるブービーの機首。

 背後に付かれたアスカをオーバーシュートさせようと、ブービーがコブラを行ったのだ。


 一気に迫ってくるブービーの背面。

 急激なアクションに、これまでのアスカは衝突回避しかとる手段がなかった。

 だが、今その手に持っているのはエルジアエと銃口から発生させた強力な近接武器、レイサーベル。


「おりゃああぁぁぁ!」

 

 横一閃。

 ブービーの無防備な背面を、アスカの強力なレイサーベルが切り裂いた。


「ギギ……ギッ!?!?」


 やり過ごすはずの相手からまさかの一撃。

 クリティカルヒットとなった一撃は、ブービーが背面に装備していた炸裂砲を真っ二つにし、ブービー本体も衝撃で体勢を崩し失速。

 木の葉のように舞いながら落下してゆく。


「どうだ、見たかっ!」



 『失速機動には、前兆がある』

 これこそ翼が見つけた対ブービーの秘策。


 アスカから貰った空戦動画を何度も何度も見直した翼が見つけた失速機動の前兆。

 それは失速機動に移る前には一瞬だけ必ず水平飛行になる、という物だった。

 

 一度くり出されてしまえば対処が難しい失速機動だが、来ると分かっていれば話は変わる。


 そこに目を付けた翼は、アスカにこうアドバイスした。

 『失速機動の前兆を見極めて、レイサーベルでブービーを攻撃するんだ』


 射程、火力でも大きく負けるアスカでは、わずかに訪れた射撃チャンスを生かしたとしても数発の被弾で逆転されかねない。

 だからこそ、アスカの持つ武器の中で最大の攻撃力をもつエルジアエのレイサーベルを失速機動でブービーと交差する瞬間に使い、必殺の一撃としたのだ。



 旋回しながら様子を伺うアスカに対し、ファストパックのパーツをボロボロと落としながら落下してゆくブービー。

 だが、その目は赤く、怒りに満ちていた。


ヘッドオン

 お互いに正面から迎え撃つ状態の事。


バレルロール

 バレルの内側をなぞるように飛行する螺旋機動。


ファストパック

 『燃料、および戦術センサー』を意味する英語 『 Fuel And Sensor Tactical』 の頭文字を合わせた略語。。

 ブービーはさらに37㎜炸裂砲を装備し火力を大幅に向上。スーパーパックとも呼ばれる。

 男女関係が泥沼になりやすい可変戦闘機が出てくるアニメで有名。


シザーズ

 左右に機体を振ってジグザグに飛行する回避機動。


ローリングシザーズ

 二機の航空機が旋回による蛇行を行い、捩じれあった飛行軌跡を指す。


スナップロール

 水平状態から急激なピッチアップを起こすと同時に『ラダー(方向舵)』を操作。片翼を故意失速させ急速度のバレルロールのような機動を行う戦闘機動。

 急機動な上に速度が大きく落ちるため、背後に着いた敵機を追い越させる『オーバーシュート』を狙う。

 ジェット戦闘機でも可能とされるが、発生する強烈なG(負荷)に人間が耐えきれず、また速度を犠牲にするデメリットが大きいことから一般的には使用されない。


コブラ

 水平飛行中に進路と高度を変えず急激にピッチアップ、仰角を90度近く取り、そこから前へ倒れ込むように水平飛行に戻す戦闘機動。

 その様子が鎌首をもたげて頚部を広げるコブラのように見える事からこの名が付いた。

 機体や体そのものをエアブレーキと使用するため急制動がかかり、後方の敵機が『オーバーシュート』してしまう事を狙う攻守逆転の大技。

 現実世界の空戦では「実践的ではない」とされるが、フィクションの世界では「そんなの関係ねぇ!」と大人気。


当話、ブービーとの一騎打ちが漫画になりました!

作画は飛雲の発艦、アラクネの一撃を描いていただいた茜はる狼様。

雌雄を決する決闘の様子を是非確かめてください!

https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1373638378118279170

あわせてリツイート、いいね、フォローなど貰えますと作者が嬉しさのあまりボストチヌイ宇宙基地から打ち上げられます。


たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!

嬉しさのあまりシューネフェルド空港から飛び立ってしまいそうです!

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― 新着の感想 ―
[一言] クソ熱い。 格好良い。 最高です。
[一言] 更新お疲れ様です! お~!そういう感じになったのですか、、 うん、でも、勝機は十分にある 、、弟君、いいオペレーターになれるのでは 置き攻撃!確かに軌道が読めてればいける! さて、どう立て直…
[一言] >そう、それはアサルトアーマー達が使用している三七ミリ加農砲と同じサイズの砲弾だったのだ。  死神って言うか魔王? >旋回しながら様子を伺うアスカに対し、ファストパックのパーツをボロボロ…
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