114 DAY6レイドボスⅧ
本日二話更新。
本話は二話目になります。
《魔法陣を破壊してくれ、あれを消さないと砲弾が届かない》
《くそっ、ここまで来て!》
「リコリス1、行きます!」
《まった、ここは私達に任せてもらおうかぁ!》
「フラン!?」
聞こえてきたのはリスポーンから前線まで舞い戻ったフランの声。
見れば、彼女の周辺には魔導特科小隊を組む彼女の仲間の他、大勢のマジックアーマー達が魔法を待機状態にしアラクネへと狙いを定めていた。
《皆ー、準備はいいねぇ!》
《はい!》
《いつでも行けます!》
《魔法攻撃ならアラクネにも負けないわよ!》
《女郎、ぶっ殺してやる!》
《せーの……撃てーーー!》
フランの号令に合わせ一斉に放たれる魔法攻撃。
地水火風、雷氷光闇。『Blue Planet Online』に存在するありとあらゆる魔法攻撃がアラクネへ……否、その正面の魔法陣に集中する。
マジックアーマー達が放った渾身の一撃は魔法陣の光が収縮し、アラクネが【ペネトレイション・レイ】を放つよりも早く魔法陣を破壊してゆく。
パリンパリン、と音を立てて破壊された魔法陣の奥に居座るのは、鬼の形相でこちらを睨みつけるアラクネだ。
その様子を上空から見つめていると、四機のフライトアーマーがアスカへ向け迫って来た。
《仕上げだ、行くぞ皆!》
《了解! ヘイローチーム、ヴァイパー1に続いて!》
《よっしゃあ!》
《陣形を維持してよ、兄さん!》
「みんな!」
それは四人でダイアモンド編隊を組んだヴァイパーチームとヘイローチーム。
アスカの頭上をエンジン全開の爆音を響かせながら通過し、アラクネへ向け軟降下爆撃のアプローチを開始。
すれ違いざまに大量のグレネードを投下する。
脚をやられ満足に防御態勢も取れないアラクネに直撃する大量のグレネード。
それらは爆発と同時に強烈な閃光を放つ。
彼らが投下したのは通常のグレネードに加えスタングレネード。
爆発によるダメージを警戒していたアラクネは予想外の目つぶし攻撃に目を抑え悶え始める。
《ここまでお膳立てされたら、外す方が難しいな》
《…………!》
《……。…………!!》
《…………!! ……!!》
脚を挫き機動力を奪い、飛来する砲弾を見定める眼も潰し、攻撃魔法は撃たせず射線も通した。
ようやく作り上げた最高の状況に、イグはほくそ笑む。
《アラクネ、これで終わりだ。……撃て》
低く、重い声で言い放つイグ。
その声に応じ無口で愉快な仲間達が八八ミリ野戦砲を撃ち放つ。
噴煙をあげ放たれた砲弾は雷雨の闇を駆け抜け、砲撃された事すら気付いていないアラクネの胸に直撃し、炸裂。
大樹の上に美しいオレンジ色の花を咲かせた。
《どうだ!?》
《やったか!》
《決まれ……決まってくれ!》
全ランナーが見つめる中、急激に減少して行くアラクネのHPバー。
ゲージはみるみるうちに二割を切り、一割を切り……遂にはゼロになり砕け散る。
同時に、アラクネの体が白くまばゆい光に包まれ、弾けた。
弾けた光は大量の光の粒となりユニフォーム一帯を包みこむ。
すると異様な雰囲気を醸し出していた赤い光も、大樹上空にぽっかりと開いた穴も塞がり、荒れ狂っていた雷雨すらもピタリと止んだのだ。
まるで夜のように暗かった空は分厚い雲が薄らいでゆき、合間合間から太陽の光が見える光芒も現れていた。
いまだゆらゆらと舞うアラクネから弾けた光の粒子も合わさりなんとも幻想的な風景にアスカは戦闘中だという事も忘れ見とれていた。
――そして。
<Congratulations レイドボス・アラクネを撃破しました>
――オオオオオオオオオォォォォォォ!
全体アナウンスと共にテロップが表示され、アラクネ撃破が告知された。
ユニフォームのエリア一帯から沸き立つ鬨の声。
誰もかれもが激戦の勝利に歓喜していた。
《やったああぁぁぁ!》
《ヒャッハー、ざまぁ見やがれクソ蜘蛛が!》
《私達の勝利よ!》
《うわ、アラクネへのアシストとアタックポイントすげぇ!》
《勝利の夜明けぜよ!》
《この世界は……こんなに奇麗だったんだな……》
《こちら作戦司令本部。レイドボス、アラクネ撃破を確認。これより掃討戦に移行する》
《よし、後は残党狩りだ!》
《ここまで来て死ぬんじゃないぞ》
《当然でしょう!》
《空の穴は塞がった、もう敵の増援はないぞ!》
《残党程度、残った戦力で十分だ!》
《いくぞ、最後のポイント稼ぎだ!》
アラクネは倒したが、大樹周辺には依然大量のモンスター達が残っている。
だが、空の穴もアラクネと共に消滅したため、増援は打ち止め。今残っているのが敵の戦力全てだ。
その程度なら残った戦力でも十分対処可能と、ランナー達は戦意高らかに敵モンスターへ向け攻撃を再開した。
《リコリス1、リコリス1、聞こえる?》
「えっ……あっ、はい、聞こえます!」
《ははは、何ボーッとしてるんだ》
《あんまりふらふらしてると落っこちちまうぞ》
《リコリス1に限ってそれはないよ、兄さん》
《飛びながら現を抜かすなんて貴女らしくないけど、どうしたの》
「空が……」
《空?》
「空が……あまりにも綺麗で……」
アスカはそんな地上の動きを一切気に留めず、目の前の風景に没頭していた。
あまりの見とれっぷりに緩慢飛行になっていたところに、一体どうしたのかと心配したヴァイパー、ヘイローの両チームが駈け寄ってくる。
アラクネ撃破のテロップも、掃討戦移行の通信も忘れ光芒さす曇天を高度数百メートルの特等席で眺めるアスカ。
その風景は、アスカが今日までプレイした中で一番の美しさを誇っていた。
《……そうね。この空は素晴らしいわね》
《同感だ。この空ならいつまででも飛んでいられる》
《だな、こんな空をみんなで飛べるなんざぁ、リコリス1に感謝してもしきれないぜ》
《その通りだね、兄さん》
アスカ他四人も、元々はβ時代からフライトアーマーを使っていた猛者達なのだ。
当然、空への思い入れは人一倍高い。
《これでイベントも終わりだな。そうだ、この戦いが終わたらみんなで祝勝会しようぜ!》
「えっ?」
《気が早すぎない、兄さん》
《いいんだよこう言うのは、早い方が。そうだろ、ヴァイパー1、ヴァイパー2!》
《まぁ……そうだな》
《確かに気が早いとは思うけど……悪くはないわね》
《決まりだな。ミッドガル中央広場裏手にサラダの美味い店があるんだ。大人数でも行けるし、今作戦でフライトアーマーを使った連中みんな連れて一杯やろうぜ!》
《いくらなんでも人数が多すぎるよ、兄さん!》
すでに皆終戦気分。
もちろんまだギンヤンマも赤とんぼもたくさん残っているが、これらは他のフライトアーマーや地上のランナー達でも十分対処可能なもの。
敵の総大将を仕留め、増援もないと言う状況はここまで張り詰めていたものが緩むのも仕方のない話。
アスカもヘイロー1の様に「この後みんなでご飯も悪くないな」と、この状況に気を抜いてしまっていた。
――その時だった。
『警告、敵性反応急速接近』
「アイビス!?」
『回避してください』
「いけない! みんな、回避して!」
《何!?》
《この状況で新手!?》
《うああぁぁぁぁっ!?》
《兄さん!!!》
光芒が差す雲の切れ間から現れた空を飛ぶ敵。
急に現れたそれはアスカ達が視認するよりも早く攻撃を仕掛ると、たった一発の砲弾でヘイロー1を撃墜した。
《ヘイロー1が墜ちた!》
《敵はどこ!?》
訳も分からず撃墜されたヘイロー1。
残ったヴァイパーチームにヘイロー2も、どこからどんな攻撃を受けたのかもわからず混乱していた。
だが、アスカには何が起きたのかを瞬時に理解した。
こちらの気が緩んだ隙をつき、対処不可能なロングレンジから強烈な一撃。
そんなことが出来るのは、アイツしかいない。
分厚い雲を抜け、光芒が照らし出すのは漆黒の体。敵性アイコンと共に表示された名は……。
『黒い死神・スーパーブービー』
それはアスカに復讐することだけに全てを賭した、黒い死神の姿だった。
明日はブービー戦二話を更新いたします。
たくさんの感想、評価、ブックマーク、誤字脱字報告本当にありがとうございます!
嬉しさのあまりラナイ空港から飛び立ってしまいそうです!
第105話のアラクネ攻撃シーンが漫画になりました!
作画は飛雲の発艦を描いていただいた茜はる狼様。
強力なラスボスの一撃を是非ご堪能ください!
https://mobile.twitter.com/fio_alnado/status/1370322480498237440
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